アパレル散歩道

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第56回 : ケーススタディ⑫機能性の低下

2023/09/01

品質事故を分析して原因と対策を考えようアパレル散歩道 品質事故を分析して原因と対策を考えよう

2023.9.1

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 昨年10月の「アパレル散歩道45回」から、ケーススタディとしてアパレル製品の品質事故を現象別に勉強してきました。アパレル製品には、物性や染色、また素材特性や縫製に起因する多様な品質事故もあることがお判りいただけたかと思います。
 一方、最近のアパレル製品では、付加価値を高めるために製品への機能性付与が商品企画の流れになっています。今回の第56回アパレル散歩道では「機能低下」を取り上げ、その課題と対策について説明します。



表1 アパレル製品の品質事故の現象別分類
大分類中分類アパレル散歩道
1損傷生地の損傷第45回
縫い目の損傷第46回
副資材の損傷第47回
2外観変化外観変化第48回
3形態変化形態変化第49回
4風合い変化風合い変化第50回
5色の変化変退色第51.52回
汚染・色なき第53回
白化第54回
黄変第55回
6機能低下第56回
7安全性不適切第57回 予定
8表示不適正第58回 予定
今回のテーマは機能低下です


  1. 機能性と消費者の期待
     多くのアパレルメーカーでは、広告媒体や下げ札、店頭POPなどを通じて、その商品の機能性を消費者にアピールして購買に繋げています。一方、消費者はその商品の機能に対する期待があり、購買後着用時に機能性の実力が期待を下回ると、消費者からの苦情や問い合わせとして課題が顕在化します。ただし、消費者の期待値には個人差があり、この点をしっかり分析する必要があります。
     これらの消費者からの問い合わせは、発生時期別に表2のパターンがあります。

    表2 機能性に関する消費者からの苦情や問い合わせ
    発生時期原因のパターン
    1着用初期に発生
    1. もともと所定の機能性基準に未達の商品であった。
    2. 設計時には機能性基準に合格していたが、生産時に品質がばらついた。
    3. 消費者の機能性に対する期待が過度に大きかった。
    2繰り返しの着用・洗濯後に発生
    1. 染色加工時に機能加工(後加工)されていたが、その洗濯などの耐久性が劣っていた。


    ~グッドマンの法則~
    マーケティング会社創業者のJohn A・Goodman(米国)は、苦情処理と再購入決定率の間に一定の相関があると提唱しました。これはグッドマンの法則と呼ばれています。法則の概要は以下の通りです。
    法則① 商品に不満を持った消費者のうち、苦情を申し立て、その解決に満足した消費者の当該商品サービスの再購買率は、不満を持ちながら苦情を申し立てない顧客のそれに比べて高い。
    法則② 苦情対応に不満を抱いた顧客の非好意的な口コミは、満足した顧客の好意的な口コミに比較して、2倍も強く影響を与える。

    ~皆さんは、どのように思われますか?~



  2. アパレル製品の機能性
     アパレル製品には、製品に快適性を付与するために、色々な機能性が施されています。機能性は、主に5つに分類され、具体的な機能性を表3に紹介します。また、アパレル製品の機能性は、「アパレル散歩道」第16回 及び第28, 29, 30回でも紹介していますので、改めてご覧ください。

    表3 機能性の分類
    分類機能の例
    ①生理的快適性吸水速乾性、遮熱性、保温性、クーリング性、吸湿発熱性 など
    ②運動機能性ストレッチ性、軽量性 など
    ③清潔、デオドラントなど抗菌防臭性、制菌性、消臭性 など
    ④安全安心はっ水性、耐水性、紫外線カット性、帯電防止性、花粉対策、難燃性 など
    ⑤イージーケア性など形態安定性、防縮性、防汚性 など


  3. 機能性の実現方法について
     表3で紹介した各種機能性をアパレル製品に付与するためには、表4の分類に示した①から④の手法が考えられます。ここでのポイントは、ある機能性を付与するために、繊維、糸での工夫織編での工夫染色仕上げでの工夫カッティングや設計での工夫などがあります。今回は、表4に「保温性」と「吸汗速乾性」の2つの機能性を例として挙げ、機能性実現のための具体的な手法を紹介します。

    表4 機能性の工夫~「保温性」・「吸汗速乾性」の例
    分類保温性吸汗速乾性
    基本的な考え方
    • 放熱のメカニズムである「伝導」、「放射」、「対流」の対策を考慮する
    • 外部熱エネルギーを取り込む
    • 肌面から速やかに吸汗すること
    • 汗は生地裏面から表面へ速やかに拡散されること
    ①繊維、糸での工夫
    • 光吸収熱変換繊維(合繊糸練り込み)を使用する
    • 吸湿発熱繊維を使用する
    • 毛糸や綿糸など、空気を多く含む短繊維糸を使用する(合繊短繊維糸を含む)
    • 速乾性に優れたポリエステルなどを採用する(混用を含む)
    • 異形断面糸による毛細管現象で吸水を促進させる
    ②織編での工夫
    • 高密度な組織によって放熱を軽減する
    • 熱伝導率の小さい空気を多く含有できる織編組織にする
    • 裏組織から表組織へ汗が拡散しやすい生地組織にする
    • 肌面と裏組織の接触面積を小さくする
    • 気化熱放散を促進するため、通気性の大きい生地組織にする
    ③染色仕上げでの工夫
    • 染色加工で赤外線反射加工を施す
    • 表地裏面に膜加工をして、防風性を高める
    • 表地にはっ水加工を施し、濡れによる体温低下を軽減する
    • 起毛加工を施す
    • 染色後加工で、吸水促進剤を付与する
    • 吸水促進剤は耐久性のあるものとする
    ④カッティングや設計での工夫
    • 襟部、手口、裾など開口部は小さく設計する(コード紐仕様含む)
    • 中わた(羽毛を含む)、キルト仕様などを採用する
    • 発熱ヒーターとバッテリーを製品内部に取り付ける
    • 気化熱放散を促進するため、開口部を大きくするなど、空気を取り込みやすいデザイン、仕様を採用する
    • 外部から空気を取り入れるファンとバッテリーを取り付ける

     このように、アパレルメーカーではある機能を商品に付与するため、上記表のように①繊維、糸、②織編、③染色仕上げ、④カッティングや設計などの工夫を検討して、実用的効果、耐久性、またコストの面から、総合的に商品企画がおこなわれています。

      機能性付与には、
      ①機能材を繊維内部に練り込む
      ②染色加工時に生地表面に加工する
       などの方法がある。
      特に、②の後加工の手法では、機能材が繊維表面に固着しているため、洗濯耐久性などが大きなポイントになる。


  4. 機能性試験について
     前掲表2で、着用初期に機能性のトラブルが発生する原因のひとつとして機能性基準未達を紹介しました。 では、この機能性基準はどのように設定されるのでしょうか。機能性基準は試験方法と基準値で構成されます。

    機能性基準
    =
    試験方法
    +
    基準値


     多くの機能性はJIS(日本産業規格)などで試験方法は決まっていますが、基準値は決まっていません。ただし、一部の試験項目では規格の付属書に評価の目安が補足されているものもあります。
     表5に、代表的な機能性試験規格を紹介しています。試験方法などの詳細は、一般財団法人ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください

    表5 代表的な機能性試験
    JIS規格等試験項目
    JIS L 1096保温性 通気性 ドレープ性
    JIS L 1099透湿性
    JIS L 1092防水性(はっ水を含む)
    JIS L 1907吸汗(水)速乾性
    JIS L 1919防汚性
    JIS L 1925紫外線遮蔽性
    JIS L 1926光吸収発熱性
    JIS L 1951遮熱性
    JIS L 1927接触冷感性
    JIS L 1952吸湿発熱性
    JIS L 1954吸放湿性
    JIS L 1091難燃性、防炎性
    JIS L 1094帯電性
    JIS L 1902抗菌性、制菌性
    繊維評価技術協議会法消臭性


  5. 機能性の基準値について
     これまで機能性の基準値は、JIS規格などでは規定されていないと申し上げました。一般的には、機能性基準は、業界などが長年の経験や実績から提案された数値が、基準の目安として運用されているものが多いと言えます。また、アパレルメーカーが独自に機能性基準を設定しているケースもあります。以下にいくつかの機能性について、基準値の運用例を紹介します。


    1. はっ水性
       はっ水性の試験方法はJIS L 1092に規定されたスプレー法ですが、レインコート等で「はっ水」を表示する時は、家庭用品品質表示法・繊維製品品質表示規程によると、はっ水度が2級以上と規定されています。
       しかし、この基準値は最低基準であり、スポーツやアウトドア用衣料では、はっ水度は3級~4級が求められるケースが多いと思われます。実用性や消費者ニーズを考慮すると、基準値は高くなっているのが現状です。


    2. 接触冷感性
       接触冷感性の試験はJIS L 1927繊維製品の接触冷感性評価方法で規定されています。皮膚に生地が接した時に感じる冷感が接触冷感であり、生地より10℃高い熱源を生地に接触させた時の初期熱流束の極大値Qmax(W/cm²)の値で評価され、Qmaxが0.100 W/cm²以上が基準とされています。


    3. 透湿性
       透湿性とは、ブルゾンやレインコートなどの衣服内で生じた汗などの水蒸気を外部に放出する性質のことで、要は「蒸れにくさ」の目安として理解されています。JIS L 1099 繊維製品の透湿度試験方法で規定され、A-1法「塩化カルシウム法」、B-1法「酢酸カリウム法」の2つの方法が一般に採用されています。A-1法とB-1法は試験方法が異なるため、基準値の目安も異なります。一般に、B-1法はA-1法より大きな数値が出るため、基準値は大きくなります。
       透湿度(A-1法)の基準値としては、一般に3000g~4000g/m²・24hが目安です。


    4. 耐水性
       耐水性とは、外部から衣服内へ雨滴などの侵入を防ぐ性質のことで、アウトドアの防水ジャケットなどで主に樹脂コーティングやラミネートされた素材などに求められる機能性です。一般には透湿機能との組み合わせで、「透湿防水性」と呼ばれています。JIS L 1092の耐水性試験には、A法(低水圧法)、B法(高水圧法)があります。両者は試験法が異なり、A法による試験結果の単位はmm、またB法による試験結果の単位はkPaで示されます。1kPa=101.972mmの換算式があり、一般的な基準値として、ブルゾンなどの軽衣料で500mm~600mm、レインコートやスキーウエアなどの重衣料では2000mm以上などが運用されていますが、商品の用途や素材を考慮し、合理的な基準値を運用することをおすすめします。


    5. 吸汗速乾性
       吸水速乾性は、シャツなどが汗などを速やかに吸い取り、すばやく外部に蒸発放散させる機能のことです。このように「吸水機能」と「速乾機能」の2つの機能が複合しているため、試験方法も2つ設定され、基準値も2つ設定されることになります。JIS L 1907「繊維製品の吸水性試験」には、 滴下法バイレック法が多用されています。(表6参照)

      表6 吸水性試験
      試験法試験概要 (JIS L 1907)
      滴下法水1滴を10mmの高さから生地に滴下して、水滴が完全に生地に吸収されるまでの時間(秒)を計測する
      バイレック法たてに長い生地片の端を水に浸漬し、浸漬10分後に毛細管現象で水面から上昇した水の高さ(mm)を測定する


       一般的な基準値として、「滴下法では3~5秒など」が運用されていますが、特に後加工で吸水促進加工を施している場合は、初期値だけでなく、洗濯後の基準値の設定も必要となります。

      表7 速乾性試験
      試験法試験概要 (JIS L 1907)
      拡散性残留
      水分率測定
      同規格の「拡散性残留水分率」を測定する。生地試料の中央に所定の水滴を滴下し、専用の乾燥速度測定器を用いて、水分の拡散乾燥による生地重量変化を経時的に測定し、拡散性残留水分率が10%になるまでの時間を計測する。


       速乾性の一般的な基準値は、素材の種類や生地組織(織物かニットか)によって異なります。生地が合繊100%品、混紡品、天然繊維品によって乾燥速度は大きく異なり、単一基準での運用は難しく、それぞれ組み合わせて個別の基準値で運用されることが多いようです。また、吸水性と同様に、初期だけでなく、洗濯後の基準値の設定も必要となります。
       これらの試験方法や基準値の目安などについては、一般財団法人ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください


    6. 紫外線遮蔽性
       紫外線遮蔽性は、衣料品が太陽からの紫外線を遮蔽する性質のことです。特に、春夏衣料の白物、淡色品でその機能の付与が望まれています。JIS L 1925「紫外線遮蔽性試験方法」では、紫外線遮蔽率とUPF(紫外線防護係数)が規定されていますが、本稿では、UPF(紫外線防護係数)の数値について説明します。
       例えば UPF20の生地では、素肌と同程度の紫外線の影響を受けるのに約20倍の時間がかかり、それだけ紫外線の影響を受けにくいことを示しています。UPF値は、表8のように15から5刻みに50+まで設定されています。
       このことは、UPF値表記による紫外線遮蔽性では、UPF値15が最低基準となります。

      表8 UPF値について
      遮蔽部類UPF評価
      Good protection15, 20
      Very Good protection25, 30, 35
      Excellent protection40, 45, 50, 50+


  6. 機能性不良の対策
    1. 機能性不良の原因と対策
       機能性不良の原因と対策を表9に示しています。機能性不良が発生した場合、当該商品に機能性表示が付いていると、景品表示法の「優良誤認」に抵触するリスクもありますのでご注意ください。

      表9 機能性不良の原因と対策
      原因責任の所在対策
      1設計時に機能性基準に未達の生地が使用された企画設計部門
      • 試作時に機能性試験を実施して、機能未達の生地は採用しない
      2設計時には機能性基準に合格していたが、生産時に機能性に劣る生地が混入した生産管理部門
      素材メーカー
      • 本生産時に機能性試験を適時実施する
      3洗濯前の機能性は問題なかったが、洗濯後に機能性が低下した企画設計部門
      生産管理部門
      素材メーカー
      • 試作時に洗濯後の機能性試験を実施する
      • 本生産時、場合により洗濯後の試験を実施する
      4消費者の機能性に対する期待が過度に大きかった企画設計部門
      消費者
      • 当該機能について、長所と注意点を消費者に情報提供する
      • 過度な機能表現をしない


    2. 機能性表示と法的規制
       機能性を商品に表記する場合、法令や社内ガイドラインにしたがって表示することが必須です。機能性表示の根拠になるデータが、合理的・客観的な試験に基づいているか、その試験結果が合理的な基準値に達しているかが問われます。第16回アパレル散歩道でも、関連法令の景品表示法について説明しましたが、改めてその概要を述べます。

      1. 景品表示法について
         正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」で、「景品表示法」「景表法」等と略して呼ばれることもあります。メーカーや販売業者は、売上げ増大のため、各種広告や表示で、その商品が魅力的であることを積極的に訴えることがあります。その過程で、その表示が虚偽表示や誇大表示であると、公正な競争が阻害され、消費者の商品選択に悪影響を及ぼすことがあります。景品表示法では、不当な表示を規制し、公正な競争を確保することにより、消費者が適正に商品を選択できる環境を守ることを目的としています。同法で規定されている「優良誤認」と「不実証広告規制」を紹介します。


      2. 優良誤認
         優良誤認は、商品が事実と相違して、①実際よりも優良であると誤認させる、 ②他社の商品よりも優良であると誤認させるものです。例えば、はっ水加工されていない商品に「はっ水加工」と表示したり、UPF値15の紫外線遮蔽商品に「50+」と表示することなどが該当します。


      3. 不実証広告規制
         不実証広告規制によると、表示内容が優良誤認にあたらないことを事業者(メーカーや販売業者)が立証しなければなりません。具体的には、消費者庁は事業者に対し、表示の「合理的な根拠」となる資料の提出を求めることができ、事業者は資料を15日以内に提出しなければなりません。合理的な根拠の判断基準は次の2点です。
        1. 提出資料が客観的に実証された内容のものであること。
          不実証例:その機能性の試験方法が、一般的に認知されているJIS法ではなく、独自の試験法であった。
        2. 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること。
          不実証例A:UPF15の結果に対して、商品にUPF25と表示した。
          不実証例B:試験データが抗菌防臭試験であったのに、制菌と表示した。


        機能性表示は、景品表示法の優良誤認と関連する ため、試作時のデータ確認はもちろん、先発時の試験データの検証も大切となります。




(次回のアパレル散歩道 / 10月1日発行)

次回は、「ケーススタディ⑬安全性不適切」を取り上げます。

コラム : アパレル散歩道57
~品質事故を分析して原因と対策を考えよう~
テーマ : ケーススタディ ⑬安全性不適切


発行元:
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail:
pr-contact@nissenken.or.jp     URL:
https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。



社外経歴
(一社)日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
(一社)日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
(一社)日本繊維製品消費科学会 元副会長

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