アパレル散歩道

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第48回 : ケーススタディ④外観変化

2023/01/01

品質事故を分析して原因と対策を考えようアパレル散歩道 品質事故を分析して原因と対策を考えよう

2023.1.1

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 明けましておめでとうございます。本年も「アパレル散歩道」をよろしくお願いいたします。
前回までの第454647回では、品質事故の大分類「損傷」から、①生地の損傷、②縫い目の損傷、③副資材の損傷を取り上げました。今回の第48回「アパレル散歩道」では、アパレル製品の④外観変化を取り上げます(表1参照)。

表1 品質事故の分類
大分類中分類
1損傷① 生地の損傷
② 縫い目の損傷
③ 副資材の損傷
2外観変化④ 外観変化
3形態変化⑤ 形態変化
4風合い変化⑥ 風合い変化
5色の変化⑦ 変退色
⑧ 汚染・色泣き
⑨ 白化
⑩ 黄変
6機能低下⑪ 機能性低下
7安全性不適切⑫ 安全性不適切
8表示不適正⑬ 表示不適正

《はじめに》
 アパレル製品は、使用中や着用時、洗濯時に強い力がかかる、繰り返し強く擦られる、突起物に引っ掛かる、湿潤に曝されるなどによって、生地表面の外観が大きく変化することがあります。具体的には、しわ発生、プリーツ消失、ピリング、スナッグ、バブリング、目寄れ、中わたの吹き出しなどです。今号では、これらの現象や発生原因、対策などについて考えていきます。



表2 代表的な外観変化
現象
1しわ発生
2プリーツ消失
3ピリング
4スナッグ
5バブリング
6目寄れ
7中わたの吹き出し


  1. しわ発生
     「しわ」は着用中の変形や洗濯・乾燥時のからみ、保管中の折り畳みなどによって発生します。合成繊維よりも吸水性に優れた綿や麻などの天然繊維の方が、より発生しやすいと言われています。
    表3にしわ発生の例を紹介します。

    表3 しわ発生の例
    発生の事例
    1綿100%のドレスシャツを洗濯したら、多くのしわが発生した。
    2夏用麻100%婦人スーツを数日着用していたら、鋭角なしわが多く発生した。

    図1 綿ジャケットの着用しわ
    図1 綿ジャケットの着用しわ

    1. しわ発生の特徴
       しわ発生については、次のような特徴が挙げられます。
      (1)
      布地に外力が加わり変形すると、その部分の繊維には伸長や曲げなど種々の変化が生じます。そして、外力が除かれた時、完全に回復できない場合にしわが発生します。
      (2)
      綿や麻などのセルロース系繊維、レーヨンなどの再生繊維、毛などのたんぱく質繊維は、ポリエステルなどの合成繊維より吸水性が大きく、しわがより発生しやすい特徴があります。これは、天然繊維は合繊に比べて熱固定(ヒートセット)されにくいのが原因です。
      (3)
      パイル組織や表面に毛羽のある織物は、しわはできにくく、また目立ちません。一般に、編物(ニット)は織物よりしわになりにくいと言えます。
      (4)
      同じ繊維を用いた布では、糸や布の構造が緻密で密度が大きい布や、より薄い布のほうがしわが発生しやすい傾向があります。


    2. しわ発生の対策
       しわ発生は、繊維の素材によっては技術的な限界と言えます。綿・麻やレーヨンなどは基本的にはしわが発生しやすい素材ですが、これを改善するためには次のような対策があります。
      (1)
      綿やレーヨン100%から、ポリエステルなど合繊素材を混用(混紡、混繊)させる。
      (2)
      生地の染色加工時に樹脂加工を施して、樹脂によるセット効果を期待する。
      (3)
      消費者に対して素材特性やアイロン仕上げ方法などを、取扱い表示や注意表示などにより適切に情報発信する。


    3. 防しわ性試験法
       このように、しわ発生と素材特性は大きく関係していることが分かります。企画段階で生地選定を行うときは、このことに留意し、アパレル製品の用途によってはJIS L 1059の防しわ試験を実施して素材の特性を確認しておくことも大切です。試験方法の詳細はニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。

      表4 防しわ性試験法 (JIS L 1059)
      試験法説明
      モンサント法
      針金法
      たて・よこ方向にしわ付けした試験片の開角度から防しわ率を求める方法である。実用時の不規則な多方向のしわの評価とはやや異なる。
      リンクル法
      サンレイ法
      多方向のしわを評価する方法である。リンクル法は判定用標準と比較して等級を判定する方法で、サンレイ法は面積の変化から防しわ率を求める方法。主に毛織物、絹織物の防しわ性を評価する方法である。


  2. プリーツの消失
     加工によって布に付けた「ひだ」または「折り目」をプリーツと言います。プリーツ加工は、一般にはスカート、ブラウスなどに用いられ、我が国でも古くから袴や女学生スカートに使用されていました。第二次大戦後、プリーツ加工はポリエステルなど合成繊維の発達とともにさらに進展し、現在に至っています。
     プリーツセット性(プリーツのつきやすさ)は、ほぼその衣料品を構成する繊維の特性に支配されます。従って、プリーツの消失事故は、プリーツセット性の耐久性に起因するものといえるでしょう。表5にプリーツ消失の事例を紹介します。

    図2 プリーツ加工製品の例
    図2 プリーツ加工製品の例



    表5 プリーツ消失の発生例
    発生の事例
    1毛100%のスラックスのクリーズライン(折り目)が数回の着用で消えてしまった。
    2ナイロン100%のスカートのプリーツのシャープさが、洗濯でなくなった。


    1. 天然繊維素材のプリーツ
       天然繊維素材はアイロンやプレス(熱、水分、圧力)などで容易にプリーツを付けることができますが、残念ながらプリーツ保持性(付けられたプリーツの耐久性)は低くなります。
       このため、天然繊維素材のプリーツ加工では、化学的処理が併用されています。毛織物の化学的処理による方法には「シロセット加工」があり、半永久的なプリーツ保持性を得ることができます。その他、セルロース系繊維素材では、樹脂加工(パーマネントプレス加工)も併用されています。


    2. 合成繊維や半合成繊維素材のプリーツ
       ポリエステルなどの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維素材は、その熱可塑性によってプリーツ加工が可能となります。すなわち熱や蒸気を当てることで形態を固定・安定化させることができます。水に濡れてもプリーツは消えず、耐久性も発現します。
       ただし、ナイロン素材はポリエステル素材に比べると融点(注1)やガラス転移温度(注2)が低いため、その耐久性は劣ることがあります。
      注1)融点 : 繊維の高分子鎖が熱により流動し、溶ける温度
      注2)ガラス転移温度 : 高分子鎖を構成する各部位が振動し、軟化し始める温度


      ~プリーツと立体化技法~
      プリーツは衣料品のデザインパターンにおいて、装飾効果の高い立体化技法のひとつです。立体化技法は他にもギャザー、シャーリング、タック、フレアなどがあります。装飾性の向上だけでなく、運動機能性も高めています。


      ~プリーツの形状~
      プリーツは、外観や特性によって、いくつかの形状があります1)
      プリーツの形状
      スラックス折り目
      平型
      アコーディオン型
      箱型


    3. プリーツ性試験法
       プリーツ性の評価試験はJISで規定されています。JIS L 1060では、開角度法(A-1法)、糸開角度法(A-2法)、伸長法(B法)、外観判定法(C法)の4種類の試験方法が規定されています。詳細はニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。


  3. ピリング
     ピリングや後述のスナッグは、衣料品の外観変化の代表的な現象と言えます。また、その発生は生地を構成している繊維、糸、生地組織、染色加工とも密接に関係しています。

    図3 ピリング現象の例
    図3 ピリング現象の例



    1. ピリングとは
       ピリングとは擦れにより毛玉ができることで、その毛玉はピルとも呼ばれます。織物やニット(編物)の表面繊維が摩擦などによって毛羽立ち、この毛羽が絡み合い小さな球状のかたまり(毛玉)が生じる現象です。
       ピリングは着用や洗濯時などの摩擦によって進行し、衣料の外観、風合いを著しく損ねます。ピルの生じやすさは①毛羽立ち、②毛羽の絡みつきやすさ、③ピルの脱落しやすさのバランスによって決まります。
       一般に、合成繊維のように繊維の強さが大きいほどピルは脱落しにくく、ピリングが問題になります。また、織物よりもニット製品にピリングが生じやすいといわれていますが、これはニット生地の布構造がルーズで、一般に使用される紡績糸の撚りが甘く、毛羽立ちしやすいためといわれています。表6にピリングの発生事例を示しています。

      表6 ピリングの発生例
      発生の事例
      1毛/ナイロン90%/10%のジャケットで、身頃の袖と擦れる部分(脇下)に毛玉が多数できた。
      2綿/ポリエステル85%/15%のニットパンツで、ポケット周りに毛玉ができた。


    2. 繊維とピリング
       繊維の種類により、ピリングの増加の程度に差が生じます。図4は摩擦回数によるピル数の発生を示したものですが、もともと強度の弱い羊毛などはピルがある程度発生してもやがて脱落して減少しています。これに対して、ポリエステルやナイロンなどは強度が強いため脱落せず、ますますピルが増加しています。

      図4 各種繊維の布へのピル生成曲線
      図4 各種繊維の布へのピル生成曲線2)



    3. ピリング試験と品質管理
       ピリング試験法はJIS L 1076で規定されています。ピリング試験には下記の種類がありますが、現状A法が最も多用されています。A法は図5のようなICI型試験機を使用し、試験生地を巻いたゴム管を試験機の箱にセットして、織物は10時間、ニットは5時間、試験機の箱を回転させ試料に摩擦作用を与えたのち、図6の判定写真を用いて級数で評価しています。
       アパレル製品の品質管理では、事前にピリング試験を実施して、用途と品質のバランスを考慮した材料選択が必要になるものと考えます。

      • A法(ICI形試験機を用いる方法)
      • B法(TO形試験機を用いる方法)
      • C法(アピアランス、リテンション形試験機を用いる方法)
      • D法(ランダム・タンブル形試験機を用いる方法)


      図5 A法(ICI形試験機)
      図5 A法(ICI形試験機)2)

      図6 A法による級数判定写真
      図6 A法による級数判定写真3)



      1. ピリングは、紡績糸(短繊維)使いの生地(特にニット)で発生しやすい。
      2. 特に合繊混の紡績糸で発生しやすい。合繊は強度が大きいため、毛玉が絡まって脱落しにくい。毛100%生地などでは、毛玉は脱落しやすい。
      3. 長繊維もフィラメント切れから、ピリング(毛玉)が発生することがある。
      4. 着用中、よく擦れるポケット口、脇の下、尻部、内股などに発生しやすい。


  4. スナッグ
    1. スナッグ発生のメカニズム
       スナッグは、外部との接触による組織糸の飛び出し、ループの突出など、ひきつれ現象の総称です。スナッグ発生のイメージは図7の通りで、スナッグ発生には以下の3要素があります。
      1. 突起物や粗硬物が接触する
      2. 生地が引っ掛かりやすい
      3. 引き出されやすい

       このため、スナッグの発生には糸種、生地の組織、染色仕上げ加工、そして消費者の取扱いが関係しています。
      突起物が近づく

      ①突起物が近づく

      突起物が生地糸に引っ掛かる

      ②突起物が生地糸に引っ掛かる

      突起物が生地糸を引き出す

      ③突起物が生地糸を引き出す

      図7 スナッグ発生のメカニズム



    2. スナッグとピリングの違い
       図8では、スナッグとピリング発生のメカニズムの違いを示しています。
       糸には大別すると短繊維(紡績糸)と長繊維(フィラメント糸)があります。伸縮性に優れた合繊フィラメント加工糸を使用した生地では、加工糸の捲縮によって、ある程度引っ掛かりやすいと言えます。また、合繊フィラメント糸は強度も大きく摩擦係数も低いことから、引っかかると切れずにⒶのように引き出されることになります。フィラメント素材が繰り返し粗硬物体と摩擦されると、フィラメント切れを起こし毛羽立ち、その毛羽がⒷのようにピリング(毛玉)になることがあります。ピリングは、Ⓒのように通常短繊維の素材で発生します。

      図8 スナッグとピリング発生のメカニズムの違い
      図8 スナッグとピリング発生のメカニズムの違い



      図9 長繊維ニットのスナッグⒶ
      図9 長繊維ニットのスナッグⒶ

      図10 長繊維ニットのスナッグⒷ
      図10 長繊維ニットのスナッグⒷ



    3. スナッグ発生の事例
      スナッグの身近な発生例を表7に紹介します。

      表7 スナッグの発生例
      発生の事例
      1ゴルフ場でゴルフボールを探しに灌木に入ったら、ポリエステルパンツに枝が引っ掛かり、ひきつれが発生した。
      2粗い床面のプールサイドに座ってバタ足の練習をしていたら、水着の尻部がフィラメント切れして毛羽立った。
      3家庭洗濯時に面ファスナーのフック面とニット製品がひっかかり、生地からループ状に糸が飛び出した。
      4ショルダーバッグの金具と着ていたニットセーターが引っ掛かり、ニットからループが飛び出した。


      1. スナッグは合繊ニット素材で発生しやすい。特に伸縮性に富む合繊加工糸使い素材で発生しやすい。
      2. 編み密度や針密度(ゲージ)が粗かったり、柔軟加工されていたりすると発生しやすい。
      3. 捺染品(プリント)は裏面が染まっておらず、裏面の白糸が引き出されるため、スナッグが比較的目立ちやすい。
      4. スナッグの発生は消費者の着用状況にもよる。特殊なスポーツ競技や作業にも影響されることがある。


    4. スナッグ試験方法と品質管理
       スナッグ試験はJIS L 1058に規定されていますが、A法(ICI形メース試験機法 図11参照)が最も利用されています。同法は、針の付いた金属ボールを試験布に接触させ、スナッグ発生の程度を評価しています。ただ、同法は比較的フィラメント切れをイメージした用途には適さないと言われています。粗硬物体と繰り返し擦られてフィラメント切れが発生する用途が想定される場合は、D-1法 (ICI形ピリング試験機のダメージ棒法 図12参照)などが望ましいでしょう。アパレル製品の品質管理では、事前に衣料品の用途を踏まえてスナッグ試験を実施し、一定基準以上の耐スナッグ性を有する素材を採用することが大切です。

      図11 A法(ICI形メース試験機法)
      図11 A法(ICI形メース試験機法)

      図12 D-1法(ICI形ピリング試験機のダメージ棒法)
      図12 D-1法
      (ICI形ピリング試験機のダメージ棒法)



  5. バブリング
    1. バブリングとは
       バブリングは、水分などによる膨潤や収縮などの影響を受けて伸縮し、生地表面が波打ったり、凹凸状の外観になる現象のことです。特に、湿度変化や濡れによって生地が伸縮するハイグラルエキスパンションと呼ばれる性質のあるウール織物素材に発生しやすい品質苦情です。
       織物を構成する糸が甘撚糸や、地糸と柄糸が甘撚糸と強撚糸で構成されている先染め織物生地では、そのリスクが高くなります。

      表8 バブリングの発生例
      バブリング発生の事例
      1ストライプ柄の毛100%スーツで、雨に濡れた後乾いたら波打ちが発生していた。
      2梅雨時に毛100%スーツを着用していたら、前身頃で一部生地が波打ち、浮き上がったようになった。


    2. バブリング試験方法と品質管理
       バブリングの評価には専用の試験機はありません。例えば、JIS L 1096寸法変化率試験のC法(浸透浸漬法)などを活用し、生地の表面変化を評価するのが一般に活用されています。
       特に毛織物を扱うアパレルメーカーでは、糸の撚りや密度を考慮して、事前に当該生地がバブリングの発生しやすい素材か否かの判断をし、場合により消費者に情報提供することが大切です。中でもストライプ柄やチェック柄の素材では、柄糸と無地糸の物性の違いによるバブリングの発生リスクが考えられますので、ご注意ください。


  6. 目寄れ
     
    1. 目寄れとは
       目寄れとは、織物を構成するたて糸やよこ糸が、摩擦などの物理的作用によって部分的にずれる現象のことで、織り密度の粗い生地に生じやすい現象です。目寄れは通常、生地部分で発生しますが、縫目部分でも発生することがあり、この場合は組織糸のずれによって縫い目滑脱が生じることがあります。

      表9 目寄れの発生例
      発生の事例
      1ポリエステル100%のジョーゼットブラウスを着用していたところ、ブラウスの袖などに織糸のずれが発生していた。


      図13 目寄れ現象のイメージ
      図13 目寄れ現象のイメージ4)

      図14 目寄れの例(綿織物)
      図14 目寄れの例(綿織物)



    2. 目寄れが発生しやすい素材など
       目寄れの発生には表10のような要素が考えられます。これらが複合すると目寄れのリスクは高まります。

      表10 目寄れが発生する要素
      発生要素
      1たて糸とよこ糸の交絡の少ない朱子織などの生地組織 (朱子組織のサテンなど)
      2たて糸とよこ糸の織密度が小さい織物
      3合繊フィラメント織物 (糸表面の摩擦抵抗が小さい)
      4ポリエステル織物で、過度に減量加工がされた織物
      5染色仕上げ工程で過度に柔軟加工がされた織物
      6シルエットが細目の衣料品やサイズが不適合の場合
      7洗濯時に過度に柔軟剤が使用された場合


    3. 目寄れ試験方法と品質管理
       目寄れ試験には、JIS L 1062「織物の目寄れ試験方法」A法(糸ゆがみ法)があります。同法は、支持枠に固定した試験生地を上下2個の摩擦ゴムドラムで挟み、一定の荷重で試験片に摩擦作用を与え、組織糸がどの程度ずれるかを評価するものです。また、縫い目部の滑脱(スリップ)を評価するJIS L 1096「滑脱抵抗力試験」も、目寄れの評価には有効です。以上2つの試験法を事前に活用し、商品設計や品質管理に反映していただきたいと思います。


  7. 中わたの吹き出し
     中わたとして羽毛やポリエステルわたを使用した防寒ウエアで、中わたが生地目や縫い目から吹き出して外観品位を損なうことがあります。事故発生の例を表11に示しています。

    表11 中わたの吹き出し事故の例
    発生要素
    1表地がスムース地のわた入りブルゾンで、着用洗濯を繰り返していたら中わたのポリエステル繊維が生地目から吹き出してきた。
    2ダウンジャケットを着用していたら、裏地側から羽毛(ファイバー)が吹き出し、下に着ていたニットシャツに多く付着した。


    1. ポリエステルわたの場合
       ポリエステルわたはその内部に多くの空気を含み、保温性や断熱性を高めています。一口に「ポリエステルわた」と言っても、繊維の太さ、厚み、樹脂量などの違いで、中わたの性能は様々です。例えば、樹脂でしっかり固められた「わた」は風合いが硬くなりますが、着用洗濯によるわた切れやわたの吹き出しはあまり発生しないでしょう。しかし、樹脂量が少なく風合いを優先した「わた」では、中わた切れや吹き出しのリスクが高まることは否定できません。ということは、「ポリエステル中わた」の性能は、これらの消費性能のバランスの上に成り立っていると言えます。商品設計ではこれらの点に配慮して、中わたの選定と事前試験を進めなければなりません。

      (1) ポリエステルわたの吹き出し試験
       企画設定時に実績のある「生地」と「わた」を組み合わせても、吹き出し事故が発生しない保証はありません。吹き出し事故はあくまでも「生地」と「わた」の組み合わせで発生する事象であり、この組み合わせに問題がないことを事前に試験で確認することが大切となります。試験法には「バイリーン法」と呼ばれる実用試験などが用いられます。試験の詳細は、ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。

      ~吹き出し試験(バイリーン法)とは~
      実際の製品を想定して表地・中わた・裏地で袋状の試料を作り、その中にダメージを与えるスーパーボールを入れて、ICI形ピリング試験機で一定時間ダメージを与え、試料表面ヘのわたの吹き出しの程度を評価します。芯地やわた材のメーカーである日本バイリーン社が考案したシミュレーション試験方法です。


      (2) ポリエステルわたの吹き出しの対策
      生地と中わたの両面からの対策が考えられますが、前述のように手触りや風合いと消費性能とのバランスを考慮することが大切です。

      表12 ポリエステルわたの吹き出しの対策
      具体的な対策
      生地
      • ①できるだけ高密度な素材を採用
      • ②コーティング素材を検討
      • ③表地裏面に不織布を併用する
      中わた
      • ①樹脂量の多いタイプを採用


    2. 羽毛わたの場合
      ダウンジャケットについては、「第32回アパレル散歩道」でも紹介していますので、併せてご参照ください。

      (1)羽毛製品とダウンプルーフ性
       ダウンプルーフ性は羽毛が生地目から吹き出さない性質のことを言い、羽毛が抜け出さないように特殊な目詰め加工が施されています。ダウンプルーフ加工は、織り目をつぶすことにより羽毛の吹き出しを防止する効果があります。染色仕上げ後に高温高圧カレンダー装置で表面を目つぶしして通気性(cm3/cm2・sec)を抑えていますが、完全に通気性をゼロにすると製品のコンパクト性が損なわれるため、通気性は一定の範囲内になるように管理されます(合成繊維製素材の通気性基準:1.0 cm3以下/cm2・secが目安)。

      (2)羽毛の吹き出しの対策と品質管理
       羽毛の吹き出しの対策には、生地、羽毛、設計・縫製仕様、製品の4段階が考えられます。いずれにしても、羽毛吹き出しの品質管理では、各段階で想定される対策を検討し、最終試作品あるいは先発商品で製品羽毛吹き出し試験を実施する社内品質管理ルール設定があれば安心です。

      表13 羽毛の吹き出しの対策例
      具体的な対策
      1.生地
      • 所定のダウンプルーフ性を有する素材を選定する。
      2.羽毛
      • ダウンファイバーの混合率が少ない羽毛を選定する。
        (図15参照)
      3.設計・縫製仕様
      • 縫い目からの吹き出しも想定されるため、細番手の針、適正運針数などを検討する。
      • 各パーツの縫製ではかがり縫いなどを施し、縫い目からの吹き出しを低減させる。
      4.製品
      • 製品での羽毛吹き出し試験を実施する。

      図15 ダウンファイバー
      図15 ダウンファイバー





(参考資料)
1) 上海井上プリーツ(株)作成資料より参照
2)「繊維製品の基礎知識(第1部)」:一般社団法人日本衣料管理協会、P79参照
3)「日本産業規格」:JIS L 1076 「織物及び編物のピリング試験方法」参照
4)「繊維製品の品質問題究明ガイド(Part2)」:一般社団法人日本衣料管理協会、P87参照

(次回のアパレル散歩道 / 2月1日発行)

次回は、「ケーススタディ⑤形態変化」を取り上げます。

コラム : アパレル散歩道49
~品質事故を分析して原因と対策を考えよう~
テーマ : ケーススタディ⑤ ~形態変化~


発行元:一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp     URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。



社外経歴
日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
京都女子大学・大阪樟蔭女子大学 非常勤講師
日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部元代表幹事
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長

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