アパレル散歩道

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第28回 : アパレル製品の機能性 : 運動機能性について

2021/10/15

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2021.10.15

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 近年、アパレル製品と機能性は、とても密接な関係になっています。 魅力ある商品を開発するために、消費者のニーズを掘り起こして、このニーズに基づく機能を商品に搭載することにより、商品の付加価値が向上することは、消費者やメーカーも、非常に喜ばしいことです。 では、今回は、どのような機能性をどのように開発すればよいか、考えていきましょう。

  1. アパレル製品の機能性とは
    1. アパレル製品の機能性の定義
       まず、「機能性」とは何か、その定義を考えてみましょう。
      アパレル製品の機能性とは、「一般生活はもちろん、スポーツや作業シーンなどで、快適かつ安全な衣料品に備わった性能」と理解されています。アパレル製品には、紳士服、婦人服、インナー、子供服、作業服、スポーツウエアなど多くの服種がありますが、それぞれの衣料の使用目的に、機能や品質が過不足なく適合していることが求められます。例えば、シワにならないコットンシャツには防しわ性が付与されたり、防寒衣料には保温性を高める材料や仕様の工夫がされたり、レインウエアでは雨を通さない機能が施されています。

      1. 機能性とは、一般生活のシーンなどで、快適かつ安全な衣料品に備わった性能のこと。
      2. 衣料品には、その衣料の目的に機能性や品質が適合していることが大切です。

      2 アパレル製品の機能の分類
        アパレル製品の機能性には、次の5 つの機能性が考えられます。

      表1.アパレル製品の機能性
      機能性
      運動機能性
      生理的快適性
      耐久性、取扱いやすさ
      心理的快適性
      安全安心性


    2.  以下に、これらの概要を紹介します。
      ① 運動機能性
       人間は衣服を着用して日常生活で、歩く、走る、かがむ、座るなどの動作をするため、衣服がその運動や行動パフォーマンスを妨げてはなりません。また、スポーツウエアなどでは、着用によって、逆に運動パフォーマンスが向上する商品も開発されています。

      ② 生理的快適性
       人間は、快適な環境で健康に過ごしたいと考えていますが、生活環境には寒冷から酷暑、大雨や雪、強風もあり、これらに対する快適性、また健康や清潔に 関する快適性も望まれています。一方、人間は恒温動物であり、安静状態だけでなく、発汗を伴うハードな動作も日常的におこなっており、環境変化や行動変化などで生じる生理的な要求を満足させる機能も必要となっています。

      ③ 耐久性・取扱いやすさ
       初めての着用で衣服が破れたり、初めての洗濯で大きく縮んだり、着用して短期間でレインウエアが水を弾かなくなったなどが想定されます。消費者の満足度と商品の耐久性やイージーケア性に、ミスマッチがあってはなりません。

      ④ 心理的快適性
       この性能は「審美性」ともいわれます。消費者が商品購入にあたり、最初に、色、柄、デザイン、形状、風合い、光沢などを考慮するのは当然のことです。また、集団で着用するユニフォームなどでは、秩序や権威付け、集団行動の美しさや結束力などを表現する機能が求められます。

      ⑤ 安全安心性
       衣服の安全では、衣服が着用者を守るプロテクター機能と、衣服が着用者を傷つけない仕様や対策が求められます。後者には、化学的作用や物理的作用があります。

      近年、ナノテクノロジーやウエアラブルの視点で新しい機能提案がなされていますが、本コラムでは上記①から⑤の機能性について話をすすめます。表 2 に、各機能性のイメージを列記しました。

      表2.機能性の種類
      機能性機能のイメージ
      ① 運動機能性ストレッチ性  軽量  整体  低抵抗(空気・水流)など
      体の動きを妨げない
      ② 生理的快適性保温  クーリング  蒸し暑さ  紫外線遮蔽  汗の処理
      透湿防水  健康  清潔  抗菌防臭  消臭  など
      ③ 耐久性破れ  縮み  型くずれ  色あせ  色移り
      ピリング  スナッグ  はっ水  ウォッシャブルなど
      ④ 心理的快適性カラー  デザイン  風合い  ユニフォームや制服など
      権威化  ファッション  透け感  光沢  審美性
      ⑤ 安全安心性製品安全  PL(製造物責任)  防炎
      衝撃吸収(プロテクター)  子供服ひも仕様  花粉遮断
      紫外線遮蔽  有害物質  静電気防止 など


  2. 運動機能性
     ここから表2にしたがって、主な機能性について説明します。運動機能性は、「ストレッチ性」、「軽量」、「整体」、「低抵抗」の4つの性能に分けることができます。

    1. ストレッチ性
      衣料品のストレッチ性を考えるとき、まず身体の構造と特徴を知ることが大切です。
      (1) 関節の稼働による皮膚の伸び
       人間の身体は、図1のように骨格と関節と筋肉(筋繊維)、そして表面の皮膚で構成されています。
      関節は、図2のように部位により色々なタイプがあり、その構造によって特徴ある動きをしています。例えば、図3のように、肩と腕との球関節で、腕を前方から上げるとほぼ180°真上に上がりますが、後方から上げると50°程度しか上がりません。我々は、このことを経験的に当然と認識しているのですが、これは肩関節の構造に起因しています。
       人間は運動や作業で身体を動かすと、体幹や四肢の関節が稼動し、筋肉の伸縮によって皮膚も伸縮します。このため、衣服が関節の稼動や皮膚の伸縮に影響を与えて、運動時に衣服が突っ張って本来の動きができずに、「腕があがらない」、「前方に屈みづらい」「スムーズな歩行ができない」など、運動や作業パフォーマンスが低下することがあり、このようなことのない工夫が必要になります。

      図1.骨格と関節と筋肉(筋繊維)の関係
      図1.骨格と関節と筋肉(筋繊維)の関係 1)

      図2.関節の種類
      図2.関節の種類

      図3.腕の前後の可動範囲
      図3.腕の前後の可動範囲



       表3は、各部位別の皮膚の最大伸びを水平方向と垂直方向で示しています。部位によっては、50%ほどの皮膚の伸びがあります。皆さんも、伸縮性のないスリムな衣服を着用して、「しゃがむとスラックスがずれて背中でシャツが出た」、「階段の昇降でスラックスが突っ張ってつらい」、「内股の縫い糸がプチっと切れた」、「ひじが突っ張る」、「座るとウエストが苦しい」などの経験があるのではないでしょうか。
       これらの経験は、消費者にとっては不快な体験であり、商品企画・設計にあたっては、 運動時の関節や筋肉の変化によって生じるウエアと皮膚間の圧迫や、摩擦抵抗に起因する運動パフォーマンスの低下を生じさせないパターン、素材、重ね着の工夫をしなければなりません。

      表3.主な部位の皮膚の伸び
      部位動作水平方向(%)垂直方向(%)
      ひざ腰を掛ける
      曲げるⒶ
      2141
      2949
      ひじ曲げるⒷ2450
      臀部腰を掛けるⒸ
      曲げる
      4239
      4145


      1. 人体は、骨格関節筋肉 、そして皮膚で構成されています。
      2. 関節の稼働で、筋肉が伸縮し、その結果皮膚も伸縮します。
      3. 関節は、その構造によって、動きが制限されます。


      (2) 「皮膚の伸び」に対する具体的対策
       運動や作業によって皮膚が伸びて、服種によっては、色々不都合が生じるということを申し上げました。では、それらの対策を考えましょう。対策には、表4のように「ストレッチ素材」、「ウエアのゆとり」、「ウエアの滑り」などが考えられます。商品化するにあたり、運動や作業の動きの特性を考慮し、この3つの要素を単独または、複合して設計することが望まれます。

      表4.「皮膚の伸び」に対する対策
      対策の要素具体的対策
      1.ストレッチ素材糸種・生地組織・後加工
      1. 加工糸、ポリウレタン混用糸
      2. PTT糸など伸縮糸
      3. ニット素材、柔軟加工、接着縫製仕様
      2.ウエアのゆとり量パターン 型紙
      1. 立体裁断
      2. 立体手法 ダーツ、スリット、プリーツなど
      3.生地の滑り表面摩擦抵抗
      1. ウエアと皮膚の滑り摩擦抵抗
      2. 外衣と中衣、中衣と下着の滑り摩擦抵抗


      1. 皮膚の伸び対策ストレッチ素材ゆとりや立体裁断生地の滑りが基本的な考えです。


      ① ストレッチ素材
       合成繊維がまだ登場していなかった戦前(1945年以前は、外衣用ニット生地もなく、ストレッチ性のない天然繊維から作られた綿や麻や毛の織物が主流でした。このため、その当時から服飾の世界でも皮膚の伸びを吸収するため、図4のような立体化技法が採用されていました。近年では、それらに加えて、
      1. ストレッチ性が良好なニット素材の登場(図5)
      2. 伸縮性に優れた合繊加工糸の採用(図6)
      3. ポリウレタン糸、PTT糸を用いたCSY(コアスパンヤーン)を混用したストレッチ織物素材の登場(図7)
      などが登場し、衣料品の皮膚伸び対策が取られています。また、生地染色加工時に柔軟加工を施し、よりストレッチ性を高める加工も実施されていますが、過度に加工されますと、糸間の滑り摩擦抵抗が大きく低下し、スナッグやピリング、縫い目滑脱(織物)、目寄れなど物性低下のリスクが生じますので、注意が必要です。

      図4.立体化技法の例
      図4.立体化技法の例

      図5.織物とニット
      図5.織物とニット
      (ニットはループで編成されるため伸縮性に優れる)


      図6.フィラメント糸(上)と合繊加工糸(下)
      図6.フィラメント糸(上)と合繊加工糸(下)

      図7.コアスパンヤーン
      図7.コアスパンヤーン



      ② ウエアのゆとり量、立体パターンについて
       これまでの説明のように、関節の稼働によって皮膚が伸びるのですが、ストレッチ素材を使用しなくとも、皮膚の伸びが大きい部位は、パターン(型紙)を大きくすることで解決できるケースもあります。やや大きめのサイズ設定することによって、運動パフォーマンスを低下させない工夫も可能です。ただし、最近は、比較的タイトなシルエットが流行っていますが、この場合の対策としては、ストレッチ素材単独あるいは併用などが考えられます。また、外衣、中衣、インナーの重ね着を考えると、ゆとりなどの対策は、インナーのように肌に密着する衣料では、難しいでしょう。

      戦前S10頃の野球ユニフォーム
      ~野球ユニフォームの歴史~
      右の写真は、戦前S10頃の野球ユニフォームです。
      腰から下や脇下がぶかぶかですね。この当時は、まだ合成繊維もなく、外衣用ニットもなく、素材は伸びのない綿や毛織物でした。ピッチャーの大きな動作が制限されないように、ゆとりを持たせた「だぶだぶ」設計になっていました。
      今日では、ちょっと考えられないシルエットですね。

       また、立体パターンについて、人間は三次元の立体構造であり、衣服を作る生地は平面であるため、いかに身体に沿う立体の服を作ることが求められます。図8は成人女性の体表平面展開図の一例です。これらを基本に、ダーツなどを加えて、図9のようなパターン原型が作成されます。また、関節の可動域を考慮した立体パターンの工夫も大切になります。

      図8.成人女性の体表平面展開図
      図8.成人女性の体表平面展開図 2)

      図9.成人女性のパターン原型の例
      図9.成人女性のパターン原型の例 3)



      ③ 生地の滑り

       ここでは、生地と生地の滑りやすさ、生地と皮膚の滑りやすさを取り上げます。皆さんも、ジャケットに袖を通す時、袖裏がサテン地であればさらっと滑るように腕を通せますが、袖裏地に綿ニットなどが使用されているとどうでしょうか。裏地が伸びて裏地の抵抗も大きく腕が通りにくい経験をされたことがあると思います。
       この滑り作用は、重ね着をして運動や作業した時の皮膚の伸びを吸収する効果が期待されます。もちろん、運動や作業をするとき、内容によって日々衣服の組み合わせ(着こなし)を変えることは難しいのですが、このような効果もあることを意識して、重ね着を前提とした商品開発にも応用されたら良いと思います。
       思い起こせば、私のスポーツウエアメーカー現役時代も、野球ユニフォームとアンダーシャツとの滑りやすさについて、生地間の表面摩擦抵抗を測定して、ウエアの構造設計に取り組んだことがありました。



    2. 軽量
       衣服が重いほうが良いのか、軽い方がよいのか、一概には言えません。一般論でいえば、開発したいアパレル製品に重厚感、高級感、丈夫さを表現したい場合は、しっかりした目付のついた材料を使い、芯地なども要所要所に使用した商品のほうがその性能を実現しやすいでしょう。逆に、アパレル製品にカジュアル感、運動のしやすさ感、軽量感、イージーケア感を表現したい場合は、目付の小さい素材で、場合により芯地などは省略した商品設計が適しているでしょう。また、裏地の省略や部分使い(半裏など)も想定の範囲となります。
       スポーツや作業などでの運動エネルギーと質量には、図10のような関係式があります。この場合、運動エネルギーは「疲れ」をイメージすると理解しやすいでしょう。この関係式では、疲れは質量に比例し、運動速度の2乗に比例するとあります。長時間の作業や運動をされる場合は、ウエアもシューズもバッグなどもできるだけ軽量であることが望ましいといえます。ただし、極端に軽量を追求すると、生地の強度不足や形態変化が生じやすい製品になる可能性もあり、この点はご注意ください。

      運動エネルギー=1/2×mV2
      m:質量 V:速度

      図10 運動エネルギーの式


      1. 軽量を追求すると、生地の強度不足や形態変化が生じやすい可能性もあり、着用試験で確認してください。


    3. 整体
       整体は、文字通り体の形状を整えたり補正する機能のことです。
      女性のファンデーションウェアなどでは、身体の脂肪などの揺れなどを抑え、姿勢改善、肩こりを軽減、お腹を押さえる、ヒップアップさせるなどの機能が期待されます。スポーツジムなどで使用するコンプレッションウエアやスポーツインナーでは、身体を適度に圧迫することで、運動パフォーマンスの向上や身体への負担対策やケガ防止などで、体幹や姿勢のサポートをする商品、スポーツウエアや作業服に採用されています。

      図11.ファンデーションの例(ブラジャーとガードル)
      図11.ファンデーションの例(ブラジャーとガードル)

      図12.コンプレッションパンツ
      図12.コンプレッションパンツ



    4. 低抵抗
       これは、スポーツウエアの特殊な例ですが、高速で競技をするスキー競技、自転車競技では空気抵抗が課題になります。また、競泳競技でも、空気よりもはるかに大きい水流抵抗が課題となります。
       図13.は、流体抵抗の関係式です。これによると、抵抗は、水や空気の密度、物体の形状、投影面積、速度の2乗に比例します。特に、Sの正面投影面積が大きく影響するため、身体をウエアのパワーで強く締めて、投影面積を軽減し抵抗を軽減することが求められるため、特殊素材や立体裁断による設計が求められています。
      抵抗R=1/2×ρCSV2

      ρ : 水や空気の密度
      C : 抵抗係数(物体の形状で決まる)
      S : 正面から見た投影面積
      V : 速度

      図13.流体抵抗の式

      図14.スキーダウンヒルスーツ
      図14.スキーダウンヒルスーツ

      図15.競泳水着の一例
      図15.競泳水着の一例


(参考文献)
1) 藤田恒太郎 人体解剖学、南江堂(1980)
2) 富田明美 アパレル構成学、朝倉書店、 P69(2004)
3) アパレル設計論・アパレル生産論、日本衣料管理協会、P47

(次回のコラムについて)

次回は、アパレル製品の機能性の続きとして、生理的快適性について説明します。

コラム : アパレル散歩道29
~魅力ある商品を開発するために~
テーマ : アパレル製品の機能性 : 生理的快適性①
      透湿防水性、はっ水性、耐水性、吸汗速乾性、紫外線カット性


発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。


Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。 社外経歴 (一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長 日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維) 文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員 日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部代表幹事

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