アパレル散歩道

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第16回 : アパレル製品の機能性の考え方

2021/04/01

アパレル散歩道 繊維製品の品質事故はなぜなくならないのか

2021.4.1

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 今回は、「アパレル製品の機能性の考え方」をテーマに、お話をしたいと思います。
近年、アパレル製品をはじめ多くの日用品に、商品の優位性を示すために各種の機能性表現が付記されていますね。今回のコラムでは、「アパレル製品の機能性にはどのようなものがあるか」、「機能性表示に法的な規制はあるか」、「適正な機能性表示をおこなうために」などを中心に、適正な機能商品のものつくりと機能表示について、皆さんと勉強しましょう。

                     
1.アパレル製品の機能性

1.1 アパレル製品の機能とは
 アパレル製品に備わった機能性とは、「一般生活、スポーツや作業などで、快適かつ安全な衣料品に備わった性能のこと」と理解されています。アパレル製品といっても、色々な服種があり、それぞれの衣料品の求められる目的に、商品の機能や品質が適合していることが大切です。

図1 アパレル製品の服種

                    
1.2 機能性表示
 一般に、アパレル製品には、機能下げ札が取り付けられています。そのイメージを図2に示します。アパレルメーカーは、商品を店頭に並べるにあたり、できるだけ商品の優位性を消費者にアピールしたい目的でこれらの機能下げ札をつけていますね。逆に消費者もこれらの機能下げ札を参考に購入されている実態があります。

図2 機能下げ札の例

         

1.3 機能性の分類

 アパレル製品の機能性は、その時代や社会環境の変化で大きく異なっています。しかし、大別すると、表1のように、5つに分類することができます。次の1.4では、これらの機能性うち、1.運動機能性と2.生理的快適性について、簡単に説明します。
                          

表1 アパレル製品の機能の分類

1.4 機能性について(1)運動機能性
運動機能性には、①ストレッチ性、②整体、③低抵抗の3つが考えられます。
① ストレッチ性

図3 動作と皮膚の伸びのイメージ

 人間の体は、骨格+筋肉+皮膚で構成されています。日常生活で座ったり立ったり、また作業やスポーツで身体を大きく動かすと、肘部、膝部、背中や尻部の皮膚が大きく伸びたり、関節も大きく稼働するため、ウェアによって体が突っ張るなど、運動パフォーマンスが低下することがあります。これらを防ぐために、衣料品には表2にある対応が求められています。

                      

表2 衣料品に求められる皮膚の伸び対策

② 整体
 下着、特にファンデーションでは、身体の脂肪などの揺れなどを抑え、姿勢改善、お腹を押さえる、ヒップアップさせる機能が求められます。また、身体を適度に圧迫することで、運動パフォーマンスの向上や身体への負荷低減、体幹や姿勢のサポートをする機能が、スポーツウエアや作業服に採用されています。


③ 抵抗軽減
 競技スポーツの競泳やアルペンスキー競技で、特殊素材・特殊パターン・立体裁断技術を用いて、ウエアの空気抵抗や水流抵抗を軽減させます。

          

(2)生理的快適性
①保温性

 保温性は、衣服内を暖かく保つ機能で、特に冬物衣料に求められる機能です。人間は恒温動物で、年中深部体温は約36℃ 皮膚温は約32℃で維持されています。その体温調節は、産熱と放熱のバランスで維持されています。保温性を高めるためには、放熱をいかに少なくするかが重要で、放熱を少なくするための素材(中わたを含む)、カッティング、縫製仕様が求められます。また、最近では、吸湿発熱保温素材、太陽光蓄熱保温素材、小型バッテリーを使用したヒーター内蔵商品など、外部エネルギーを利用した商品も開発されています。

                       
②クーリング
 クーリング機能は、保温性とは逆に、衣服内を涼しく保つ機能で、特に夏物衣料に求められる機能です。
近年、我が国の夏期の気温上昇は社会問題にもなっています。高温下での作業や運動によって体温が上昇した時、どのようにして放熱を促進させつつ、太陽の赤外線(熱線)をいかに遮蔽させるかが大きな課題になります。
人体放熱メカニズムでは、血管からの放熱が約1/4、発汗による気化熱放散が約3/4といわれています。気化熱放散を進めながら、赤外線を遮蔽する素材や製品仕様の開発が喫緊の対策になっています。

                

③ 紫外線遮蔽
 皮膚に太陽の紫外線が長時間あたると日焼けが生じます。紫外線遮蔽は、紫外線カットともいわれ、紫外線をウェアで防ぐ機能です。一般に、濃色製品は従来から紫外線がカットされやすいのですが、ここでいう機能は、淡色や白物で優位性を持たせた機能のことです。合繊に紫外線を乱反射させるセラミックスを練り込んだり、後加工で紫外線吸収剤を加工する方法があります。試験法のJIS L 1925には、紫外線遮蔽率測定とオーストラリア/ニュージーランド規格から引用されたUPF値(紫外線保護係数)があります。


④ 吸水速乾性
 液体状の汗をウェアに速やかに吸い上げ、表面から速やかに放出する機能のことです。綿素材は吸水に優れた素材ですが、大量に吸水すると、ぐっしょり皮膚に張り付き、うごきにくく不快になることがあります。このため、ニットの編み構造を多層構造にして、合成繊維を混用することによって、速やかな吸汗と生地表面への拡散、蒸発が促進されることが求められています。

               

⑤ 透湿防水
 レイン、スキー、アウトドアウエアなどで、耐水性を維持しつつ、身体から気体の汗を体外へ放出する機能のことです。雨滴の直径が100~3000㎛程度、また汗の水蒸気の直径が0.0004㎛であるのに対して、生地裏面にその中間程度(0.1~10㎛)の微多孔をもつ樹脂膜を加工することによって、防水と透湿の相反する機能が実現できる考え方で、かなり以前から商業化されています。ゴアテックス®やエントラント®などが代表的な素材となります。

                  

⑥ はっ水

図4 セーターへのはっ水加工

 はっ水とは、水を弾く性質のことです。基本的には糸表面に加工されるため、セーターなど通常のニット素材にも加工できるわけです。よく似た意味で、防水、耐水、漏水などの言葉がありますが、JIS規格によれば、防水は「はっ水、耐水、漏水の総称」とされています。したがって、セーターへの加工は、耐水性はないことになります。


⑦ 抗菌防臭
 抗菌防臭は、繊維上で黄色ブドウ球菌の増殖を抑え、汗や汚れから発生する悪臭を軽減する機能のことです。特殊な抗菌剤を生地に加工する後加工や無機金属系抗菌剤を合成繊維に練り込む方法があります。主に、下着、スポーツシャツ、ソックスなどで採用されています。


⑧ 消臭
 悪臭には、アンモニア(糞尿臭)、メルカブタン(生ごみ臭)、硫化水素(腐卵臭)、トリメチルアミン(魚臭)などが知られています。消臭加工とは、繊維が臭気成分に触れることによって不快感を減少させる効果を持たせる加工で、ソックスや下着などに付着した汗分解物、体臭などの不快な臭気、バッグ内部の異臭を消す機能などがあります。消臭には、悪臭を活性炭で吸着させる方法と、悪臭物質を化学変化で分解する方法があります。


⑨ 制菌
 制菌加工は、繊維上の菌の増殖を抑制することを目標とし、ナース衣料や病院シーツに適用されています。肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌、MRSAの増殖が抑制される加工です。

       

2.機能性表示と法的規制
 機能性を商品に表記するにあたり、一定の法令やガイドラインにしたがって表示することが必須です。消臭機能のない商品に「消臭」のタグを付けたり、紫外線カット商品で、実力以上の標記をすることは許されません。また、機能性表示の根拠になるデータが、合理的・客観的な試験に基づいているか、また機能表示と機能データに矛盾がないかが問われることになります。本コラム「アパレル散歩道12回」の表示不適正の事例P.5-6でも一部紹介していますので、併せてご覧ください。関係法令やガイドラインを次に紹介します。


2.1 景品表示法  
 正しくは、不当景品類及び不当表示防止法で、昭和37年5月に制定されました。「景表法」とも略して呼ばれています。以前は、公正取引委員会が所管していましたが、2009年9月に消費者庁に全面移管されています。
メーカーや販売業者は、売上や利益の増大のために、各種広告や各種表示で、その商品が消費者にとって魅力的であることを積極的にアピールしようと考えたり、販売にあたって景品類(賞金や賞品など)をつけることもあります。その過程で、その表示が虚偽表示や誇大表示であったり、景品類が過大だったりすると、公正な競争が阻害され、消費者の商品選択に悪影響を及ぼすことがあります。景品表示法は、不当な表示や過大な景品類を規制し、公正な競争を確保することにより、消費者が適正に商品を選択できる環境を守ることを目的としています。同法例のポイントとして、「優良誤認」「有利誤認」「不実証広告規制」を紹介します。


(1) 優良誤認 
 優良誤認とは、商品が事実と相違して、①実際よりも優良であると誤認させる、 ②他社の商品よりも優良であると誤認させるものです。はっ水加工されていない商品で、「はっ水加工」と表示したり、紫外線カット商品で、UPF値が15しかない商品を50+と表示することなどが該当します。また、組成表示でも、カシミヤの混用率を不当に大きくすることも優良誤認とみなされます。

         
(2) 有利誤認
 有利誤認とは、商品・サービスの価格が、事実と相違して、①実際よりも安いと誤認させる、②他社の商品よりも安いと誤認させるものです。定価や小売希望価格のない商品の広告で「通常価格10000円を5000円」と表示していたが、過去に10000円で販売したことがなかったり、通販商品で「会員になるとお得」と表示していたが、2つ以上購入の場合という条件を表示していなかったなどが挙げられます。

             
(3) 不実証広告規制
 不実証広告規制によると、表示内容が優良誤認にあたらないことを事業者(メーカーや販売業者)が立証しなければなりません。具体的には、消費者庁は事業者に対し、表示の「合理的な根拠」となる資料の提出を求めることができ、事業者は資料を15日以内に提出しなければなりません。15日以内に提出しない場合、または提出された資料に合理的な根拠がないとされた場合は、不当表示と見なされることになります。 合理的な根拠の判断基準は次の2点となっています。

             
 ① 提出資料が客観的に実証された内容のものであること。
  例:その機能性の試験方法が、一般的に知られているJIS規格試験や業界試験法などでなく、
  独自の試験法であった。

 ② 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること。
  例: 紫外線遮蔽のUPF値が15の結果に対して、商品に50+と表示した。
  例:試験データが抗菌防臭試験であったのに、制菌と表示した。

                        

2.2 医薬品医療機器等法(旧薬事法)
 医薬品などの製造・取り扱いに関する法律です。医機法や薬機法などと略称で呼ばれています。
医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療用具に関することが規制されており、厚生労働省への認可・承認を取得されていない繊維製品(いわゆる雑品)では、機能性繊維を用いたものや設計で効果が考慮されたものであっても、身体や病名への効果効能をうたうことは基本できません。抵触する表現例を以下に紹介します。

図5 医薬品医療機器等法による不適正表現


また、文章の適否については、当該文章と前後文章との関係、活字の大きさ、表示場所などで変わることもあり、微妙な表現は、各都道府県の薬務課で事前アポイントの上相談されることをお勧めします。
(参考) 「医薬品医療機器法等に関する適切表示ガイドライン」一般社団法人 日本スポーツ用品工業協会 
https://jaspo.org/download/%e8%96%ac%e4%ba%8b/

                          

3.機能性表示の適正な運用
 機能性表示をトラブルなく運用するために、次のような対策が求められます。
① 商品企画段階で、商品別に機能性表示の有無を明確化すること
② 試作段階、サンプル段階で、当該機能性データを試験方法とともに確認する。スペックアウトの場合、機能性表示を断念するか、そうでない場合は、仕入先にその改善方策を文書で確認すること
③ 本生産段階で、改めて機能性データを確認すること
④ 万が一、本生産で機能性データがスペックアウトである場合は、
 ・生地や製品を再加工できるとしたら、再加工後に機能性を再チェックして合格であれば出荷する
 ・機能性下げ札などの取り付けを中止し、納入先や客先の了解を得る

             

<次回のコラムについて> 

 次回は、アパレル製品と関連方法について勉強しましょう。

コラム : アパレル散歩道⑰
~繊維製品の品質苦情はなぜなくならないのか~
テーマ : アパレル製品と関連法令など

                               

◎お詫びと訂正
前回の第15回「アパレル散歩道」で 以下の誤りがございました。謹んでお詫びさせていただくとともに
訂正させていただきます。
P1. (1)法令の順守、および P2. ティータイム 注1)
       (誤)消費者保護法 ⇒ (正)消費者基本法

             

発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ

E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

                  

Profile:清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)  

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。

社外経歴
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長
日本繊維技術士センター執行役員 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会常任委員 TES会西日本支部代表幹事

               

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