アパレル散歩道

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第29回 : アパレル製品の機能性 : 生理的快適性①(透湿防水性、はっ水性、耐水性、吸汗速乾性、紫外線カット性、抗菌防臭、制菌)

2021/11/01

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2021.11.1

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 前回の28回アパレル散歩道では、アパレル製品の運動機能性について説明しました。  今回は、アパレル製品を着用する人間と環境との関連を考えてみましょう。今回は、透湿防水性、はっ水性、耐水性、吸汗速乾性、紫外線カット性を取り上げます。

  1. 生理的快適性
     人間は、生物学的には恒温動物です。炭水化物などの食物を取って、筋肉で熱エネルギーに変換して、深部体温がほぼ36°Cになるよう維持しています。皮膚温度は31~32°C程度でしょうか。また、激しい運動や作業をすると、体温が上昇するため、これを抑えるために脳からの指示で発汗作用が促されます。
     前回も書きましたが、人間には、常にどのような環境でも快適に過ごしたい欲求があり、ウエアには寒冷から酷暑、強い紫外線、大雨や雪、強風などに対する防御機能、また近年ではヘルスケア、清潔に対する快適性が望まれています。生理的快適性は、表1のように、大きく2つにわけることができます。

    表1.生理的快適性の分類
    機能具体的機能の名称
    Ⅰ.環境適合性主に
    温熱機能や紫外線、
    風雨に対する機能
    ・透湿防水性
    ・はっ水性 耐水性
    ・吸水速乾性
    ・紫外線カット性(UV ケア)
    ・保温性、クーリング性
    光吸収発熱性
    吸湿発熱性
    接触温冷感
    遮熱性
    通気性

    など

    Ⅱ.清潔性主に
    臭気、ウイルス、カビ
    などに対する機能
    ・抗菌防臭性
    ・制菌(特定用途、一般用途)
    ・消臭性
    ・抗菌 抗ウイルス
    ・抗カビ性
    ・防ダニ性
    ・防汚性

    など



    1. 透湿防水性
       この機能は、屋外で使用するジャケットやコートなどに求められる機能で、蒸気の透過性と耐水性を同時に持つ機能です。
       透湿防水性は、一般に0.1〜10µm程度の 微多孔被膜を生地に設けることで、透湿と防水の相反する性能を得ることができます。被膜にはポリウレタンが多用されますが、ゴアテックス®のように PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を使用しているものもあります。また、親水性無孔質樹脂を使用したタイプも一部にあります。素材はポリエステルやナイロンが中心ですが、図1の③の高密度織物では、綿素材も使用されています。この高密度綿織物では、綿繊維は濡れると繊維が膨潤して太くなり、より糸間隔が詰まり水を通しにくくなるというメカニズムを利用しています。
       防水性は、雨や雪などでウエア表面が濡れても、衣服内が濡れない機能であり、透湿性とは、衣服内の発汗などによる水蒸気が外部に放散される機能のことです。屋外作業用、スキー用、アウトドア用などに求められる機能で、この加工技術はかなり以前から確立され、現在も活用されています。

      図1.透湿防水素材の種類
      透湿防水素材の種類商品例
      微多孔フィルムや微多孔質の樹脂を生地に加工する
      ゴアテックス社(ゴアテックス®)
      エントラント®(東レ)

      など

      微多孔被膜の断面微多孔被膜の断面

      微多孔被膜の断面

      親水性無孔質の樹脂を生地に加工する
      ネオゾイック®(帝人フロンティア)
      ポリエステル 100%

      など

      緻密な高密度織物にはっ水加工する
      タフレックス®(ユニチカトレーディング)
      ポリエステル 100%

      ベンタイル®(大和紡績)
      綿 100%

      など



      ~ベンタイル®とイギリスについて~
      ベンタイル®は、もともとイギリス陸軍が開発した生地で、細番手の綿糸を高密度に打ち込むことで、耐水性と防風性を再現したものといわれています。繊維や織物の歴史を勉強すると、必ずイギリスがオリジナルという話がたくさんあります。近代繊維工業発祥のイギリスを勉強すると、また新しい素材開発のきっかけが見つかるかもしれません。


       次に、もう少し詳しく透湿防水のメカニズムを紹介します。微多孔被膜とは、0.1〜10µm程度の多くの孔が被膜に存在しているものです。雨滴は100〜3000µmと大きく、人体からの汗の蒸気は0.0004µmと微小であるため、図2のように、人体から放出された水蒸気は生地を通過し外部に放出されますが、雨滴は水蒸気よりはるかに大きい直径であるため、微多孔から衣服内に侵入できないというものです。

      図2 透湿防水素材のメカニズム

      図2 透湿防水素材のメカニズム



      透湿防水素材では、ポリウレタン樹脂が多用されるが、次の課題がある。
      高湿度環境では、逆に外部の湿気が侵入することがある。
      透湿能力以上の発汗があると、衣服内が結露することがある。
      ポリウレタン樹脂のため、経年劣化が基本的に避けられない。


      ~コーティングやラミネートのタイプ~
      コーティングやラミネート被膜も、タイプによって、右の図のように、耐水性と透湿性の性能に大きな違いがあります。
      また、もちろん、コストにも差異があるため、私たちは、用途と性能をしっかり理解して、過不足のない商品開発を進める必要があります。ちなみに、アクリルコーティングはイベント用ブレーカーや雨傘などの裏面加工に使用され、耐水性も透湿性も低い加工です。
      透湿性と耐水性のイメージ


    2. はっ水性
       はっ水性は、生地が水を弾く性質のことです。
      レインウエア、作業用やスポーツ用のブレーカーなど、幅広い用途で使用されています。最近では、競泳水着にも疎水性を維持するために、はっ水加工が施されています。
       JIS(日本産業規格)によれば、防水は、はっ水、耐水、漏水の総称として定義されており、はっ水はその一部の機能を果たしています。図3のように、私たちは、ジャケットが雨をよく弾いているか見ることで、はっ水性の良否を判断していますし、また図4のように、水滴がより球状になることが望ましいと考えています。
      図3.ジャケットのはっ水加工

      図3.ジャケットのはっ水加工

      図4.はっ水のイメージ

      図4.はっ水のイメージ


      図5.はっ水のメカニズム

      図5.はっ水のメカニズム



       図5.は、はっ水のメカニズムを示しています。はっ水加工剤は、染色仕上げ加工で、糸の表面に塗布されます。ということは、セーターなどニット製品でもはっ水加工は可能ですが、図5のように水圧で水は通過してしまいます。これは、ニット製品には、耐水性がないからです。ニット製品で耐水性が必要なら、フィルムラミネートなどを生地の表面か裏面に施すとよいでしょう。
       はっ水剤は、長い歴史の中で、パラフィン系、シリコン系、フッ素系などが使用されてきましたが、フッ素系については、 2015年にフッ素系はっ水剤でも環境負荷低減によりC8タイプが生産中止になり、現在はC6タイプに移行していますが、さらにC6タイプから非フッ素系へ転換する流れが生じています。
       ただ、非フッ素系はっ水剤は、はつ油性に乏しく、油性汚れが付着しやすい弱点があり、はっ水性が低下しやすい傾向がありますので、今後消費者の理解が必要になると考えます。
      ~はっ水低下の品質クレーム~
      80年代から90年にかけてバブル景気があり、高価なスキーウエアが売れたのもこの時代でした。当時、数回のスキーで、はっ水がなくなったなどのお申し出がありました。
      はっ水加工は、はっ水剤による後加工のため、洗濯や摩擦によって、はっ水剤が脱落してはっ水性が低下したり、はっ水剤は残っているが、汚れが付着して、結果としてはっ水性が低下しているケースもありました。このようなときは、水洗いではっ水を復元したり、市販のはっ水剤スプレーを薦めるなどのお願いをしたものでした。
    3. 耐水性
       生地に雨などの水圧がかかった時、水滴が生地を通過しにくい性質を耐水性といいます。先に申し上げましたように、JIS規格は、耐水性・はっ水性・漏水性などの総称を「防水性」としています。
       通常、レインウエア、スキーウエアなどは、生地裏面の樹脂(コーティングやラミネート)による耐水性と表地のはっ水性で、生地の耐水性が維持されています。しかし、実際の縫製品では、縫い目から水が浸入したり、襟や袖口など開口部から水が浸入することがあります。それらの対策をいくつか紹介しましょう。
      1. 縫い目の裏面から、耐水フィルムを熱接着し 、シーリングする。(図6参照)
      2. 接着縫製仕様を採用し、縫製による針穴をなくす。
      3. 生地のはっ水の耐久性を高め、縫い目から水が浸入しないようにする。
      4. 縫製糸にはっ水加工糸を採用し、縫い目から水が浸入しないようにする。
      5. 縫製品の開口部は、雨が入りにくい構造にする。(図7.8参照)
        (例 タブ仕様やフード仕様で、開口部を締めるなど)

      図6.縫い目のシーリング

      図6.縫い目のシーリング

      図7.袖口のタブ

      図7.袖口のタブ

      図8.襟部フード仕様

      図8.襟部フード仕様
      (開口部の絞り)



    4. 吸汗速乾性
       吸汗速乾性とは、液体状の汗をウエアに速やかに吸い上げ、衣料表面から速やかに気化放出する機能のことです。夏期の暑い季節に屋外で作業や運動をしていると、シャツや下着が汗まみれになり、ぐっしょり濡れてしまうことがあります。特に、綿や綿混素材のシャツでは、肌に張り付いて不快となるでしょう。

      (1)運動による発汗量
       人間はじっと安静にしていても知らぬ間に発汗しています。これを不感蒸泄といい、1日0.8~1も 発汗するといわれています。また、時速7.7kmでランニングを2時間続けると2.1の大量の汗をかくという報告もあります。発汗は体温を低下させるための大切な生理作用であり、汗をかくこと自体は人体にとっては重要なことです。

      (2)流れ落ちる汗の処理
       3.4の冒頭に、「綿素材がぐっしょり濡れる」というお話をしました。綿素材は、公定水分率が約8%と優れた吸水性を示す素材である一方、吸水すると水をいつまでも保持して乾きにくいという弱点があります。これらを改善するために、最近の作業服やスポーツ衣料では、ポリエステルニット素材が多用されています。ポリエステル繊維はもともと公定水分率が0.4%と非常に水を吸いにくい疎水性の繊維です。ポリエステル繊維の吸水化対策として、

      • 肌面から生地表面に吸い上げが促進される編み組織(図9参照)
      • 異形断面糸使用による毛細管現象による水の吸い上げ効果(図10参照)
      • 染色加工時の吸水加工によるポリエステル繊維の吸水化

      などが実用化されています。皮膚にたまった液体の汗は、シャツ裏面と接触後ただちにシャツに吸い上げられ、シャツ表面に拡散されます。拡散面積が多いほど、より早く汗が気化放散され、肌面はいつも液体の汗が滞留せず、比較的乾いた快適な状態になるというものです。図9は、綿100%素材と吸汗速乾素材について、汗水分の移動をイメージで比較しています。図10では、異形断面糸特有の繊維間の隙間により、毛細管現象による水の吸い上げが期待できることを示しています。

      図9.綿素材と吸汗速乾素材の吸汗速乾機能の比較

      図9.綿素材と吸汗速乾素材の吸汗速乾機能の比較

      図10.代表的な吸汗速乾用異形断面糸

      図10.代表的な吸汗速乾用異形断面糸
      左:ルミエース®(ユニチカトレーディング)
      右:テクノファイン®(旭化成せんい)



       冬期に、作業やスポーツなどで激しい汗をかくシーンでは、皮膚に残った液体状の汗は、皮膚に張り付いて不快であるだけでなく、汗冷えで体調を崩したりすることがあります。このような分野のウエアでは、吸汗速乾性は特別な機能ではなく、今や標準機能であるといっても過言ではないでしょう。


    5. 紫外線カット性(UVケア)
      (1)紫外線について
       屋外に長時間いると、皮膚に紫外線が照射され日焼けが生じます。紫外線は、図11のように、可視光線より波長が小さい光線で、A波、B波、C波があります。C波は大気中のオゾン層で吸収され、地上にはあまり届かないといわれています。UVとは、UltraVioletの略です。かなり以前は、「小麦色の肌」とか「日焼け大会」など日焼けを肯定する時代もありましたが、現在では過度に紫外線を照射されることは、健康にリスクがあるという傾向になっています。このため、春夏用の屋外でも着用されるアパレル製品には、紫外線カット性(UVケア)が求められています。

      図11.紫外線の波長について

      図11.紫外線の波長について



      (2)紫外線カット対策
       以前から、黒や紺など濃色の衣料は、もともと光を吸収する性質があり、今回の紫外線カットの性能も問題ありませんでした。しかし、春夏シーズンに必要な白物や淡色製品では、光が透過する傾向がありました。これらの生地では透けやすい性質があるのはこのためです。最近では、白物や淡色生地でも、紫外線対策が施された商品が開発されていますが、その原理はつぎのようなものです。
      • 繊維内部に酸化チタンなど紫外線を散乱させる物質を配合した合成繊維を使用する。
      • 染色加工時に、紫外線吸収剤を使用する。
      図12では、紫外線カット対策糸の考え方を示しています。紫外線を散乱させる物質(酸化チタンなど)を溶融紡糸時に練りこみ、紫外線の透過を軽減しています。

      図12.紫外線カット対策糸の考え方

      図12.紫外線カット対策糸の考え方



      (3)紫外線カットの基準
       繊維製品の紫外線カット性は、JIS規格(JIS L 1925)で、紫外線遮蔽率測定とUPF(紫外線防護係数)測定の2つが規定されています。
       後者は、オーストラリア・ニュージーランド規格を基本にしており、UPF格付け値は10段階(UPF50+、UPF40 など)で表されます。表示するにあたり、業界では15以上が望ましいとされています。UPFは、Ultraviolet Protection Factorの略で、紫外線が素肌に及ぼす影響に対して、UPF40のウエアなら、素肌と同程度の日焼けなどの影響を受けるのに、約40倍の時間を要するというイメージです。数字が大きいほど、紫外線カット性が大きいといえます。試験に関する詳細は、(一財)ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせて頂くとよいでしょう。春夏用の屋外用アパレル製品では、今後よりいっそう、この機能が 重視されるものと考えます。


    6. 抗菌防臭、制菌
       抗菌防臭性は、黄色ぶどう球菌などの菌が、繊維上で増殖することを抑えることで防臭効果を得る性質のことです。抗菌効果のある薬剤を繊維内部に混入させたり、染色仕上げ時に布地に加工する方法などがあります。汗をかきやすいスポーツ衣料、婦人服、タオルやシーツなど幅広い用途で活用されています。最近では、男女変わりのない清潔志向の高まりもあり、衣料品には必須機能のひとつとなっています。
       抗菌防臭性は、黄色ぶどう球菌が対象ですが、制菌性は、肺炎かん菌や大腸菌、緑膿菌、MRSA(メチシリン耐性黄色ぶどう球菌)を対象として、繊維上での菌の増殖を抑えるより強い抗菌性を持っており、医療用の白衣や病院シーツなどに使用されています。(図13参照)

      図13.抗菌防臭と制菌の範囲

      図13.抗菌防臭と制菌の範囲






(次回のコラムについて)

次回は、アパレル製品の生理的快適性の続きとして、保温性やクーリング性について説明します。

コラム : アパレル散歩道30
~魅力ある商品を開発するために~
テーマ : アパレル製品の機能性 : 生理的快適性② 保温性、クーリング性


発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。


Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。 社外経歴 (一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長 日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維) 文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員 日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部代表幹事

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