アパレル散歩道

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第54回 : ケーススタディ⑩色の変化~白化~

2023/07/01

品質事故を分析して原因と対策を考えようアパレル散歩道 品質事故を分析して原因と対策を考えよう

2023.7.1

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 濃色の衣料品が、着用や洗濯で部分的に白くなることがあります。今回のアパレル散歩道では、繊維製品の色の変化に関する事故のうち「白化」(表1参照)を取り上げます。第52回アパレル散歩道の5章でも、蛍光増白剤によって綿素材などが白っぽくなる現象を紹介しましたが、今回の「白化」は繊維の性質や染色方法に起因するものとご理解ください。



今回は白化
取り上げます。
表1 色の変化と汚染
大分類中分類
色の変化変退色
汚染・色泣き
白化
黄変


  1. 白化(whitening)とは
     繊維総合辞典によれば、「白化とは、染色又は捺染された繊維が、繊維表面のフィブリル化、表面染着染料の脱落、混紡品などで濃色に染色された強度の弱い側の繊維の摩擦による脱落によって、部分的に白く見える現象」とあります。言い換えると、衣料品が着用や洗濯する過程で、素材の特性・染色方法・着用や洗濯などが関係して、濃色部の一部が毛羽立ちなどにより白くなる現象を「白化」と呼んでいます。


  2. 白化の品質事故事例
     衣料品の白化事故事例を表2に紹介します。

    表2 衣料品の白化事故事例
    事例原因となる要素
    1 絹100%紺色ブラウス
    着用で脇の下などが白っぽくなった。
    • 絹繊維のフィブリル化
    • 着用による摩擦
    2 綿100%デニムパンツ
    着用と洗濯で、全体的に白っぽくなった。
    • 染料の繊維内部への浸透性
    • 着用や洗濯時の摩擦
    3 再生繊維(リヨセル)100%紺色パンツ
    家庭で洗濯したら全体に白っぽくなり、特に縫い目部分などの白化が目立った。
    • リヨセルの素材特性(フィブリル化)
    • 着用や洗濯時の摩擦
    4 毛100%青色ニットシャツ(格子柄捺染)
    着用で脇の下などが白っぽくなった。
    また、フェルト化も見られた。
    • 毛繊維の素材特性
    • 捺染による染料の裏面への浸透性
    5 ポリエステル100%黒色ブレーカー
    (昇華捺染)

    着用で部分的に白っぽくなった。
    • 昇華捺染の特性
    • 着用による摩擦


      白化のキーワードは、「繊維のフィブリル化」・「染料の浸透性」・「捺染の特性」・「着用時の摩擦」である。


  3. フィブリル化とは
     そもそもフィブリル(fibril)とは何でしょうか。フィブリルとは繊維を構成する束状の凝集体のことです。そして、フィブリル化とは、摩擦などによって繊維が軸方向に裂けることでフィブリルが細分化し毛羽立ち、その部分の表面反射が変化して白っぽく見える現象です。この現象は一般に白化と呼ばれます。
     繊維のフィブリル化は、着用や洗濯による強い摩擦や繰り返し摩擦でどの繊維にも程度の差はあれ発生しますが、湿潤摩擦で特にフィブリル化しやすい繊維には、天然繊維の絹、麻、また再生繊維のレーヨン、キュプラ、リヨセルなどがあります。これらの素材を用いた濃色衣料品は、フィブリル化による白化事故が発生しやすいと言えるでしょう。合成繊維は高分子が密に凝集しているため、フィブリル化は生じにくいと言えます。

    ~繊維のフィブリル化~
    • フィブリル化は、ちょうどカニ蒲鉾かまぼこの束が強く摩擦されて、束が崩れて毛羽状に繊維が飛び出すようなイメージです。
    • フィブリル化による白化は、天然繊維の絹、麻、また再生繊維のレーヨン、キュプラ、リヨセルなどの濃色品で発生しやすいです。
    • ポリエステルなどの合成繊維では、まずフィブリル化による白化は発生しません。


  4. デニムの白化
    1. デニムについて
       デニム(denim)生地は、たて糸にインディゴ(藍)染料で糸染した太番手の綿糸、よこ糸に晒糸(未染色)の綿糸を用いて織った厚地の綾織物です。デニムのたて糸をインディゴ染料で染める際、染料を糸の中心まで浸透させず、糸表面だけを染めています1)。デニムはもともとフランスのニーム地域の農作業衣でしたが、アメリカ大陸を経て、現在世界中でジーンズ用素材として使用されています。生地の裏側を見ると、白いよこ糸が多く目立つのが特徴です。

      組織図のは、たて糸がよこ糸の上にあることを示している。


      2/1(三つ綾)
      3/1(四つ綾)

      図1 代表的なデニム組織図



    2. デニムの白化現象
       4.1で説明したように、デニムは、①紺色のたて糸と白色のよこ糸の綾組織である、②紺色の先染糸は芯まで染まっていないという特徴があります。このため、着用や洗濯による強い摩擦作用で、図2のようによこ糸の白い糸が表面に露出し部分的に白く見えたり、たて糸内部の染色されていない白い繊維が表面に飛び出し白く見えることがあります。これらの現象は、良くも悪くもデニム素材の特徴となっています。
       さらに近年では、ジーンズのUSED感(古着感)を再現するために、これらデニムの特性を利用して、表3のようなジーンズ製品洗い工程で研磨石、漂白剤、酵素などを組み合わせた各種の洗い処理が行われ、ジーンズ製品の多様化を実現しています。
      図2 ジーンズの白化現象

      図2 ジーンズの白化現象



      表3 デニム素材のUSED加工
      洗い加工の種類概要
      ウォッシュ加工温湯による洗いで、糊成分を除去し、柔らかさを得る。
      ストーンウォッシュ加工洗い時に軽石や研磨石を入れて摩擦し、USED感を得る。
      ブリーチ加工洗濯時に漂白剤を添加し、脱色感を得る。
      ケミカルブリーチ加工塩素系漂白剤を含んだ軽石と製品をワッシャーで回転摩擦させ、表面の凸部を脱色させる。
      バイオ加工綿製品ではセルロース分解酵素(セルラーゼ)を使用し、USED感を得る。


    3. デニム素材の取扱い
       デニム素材の取扱いでは、これまで説明しました白化リスクだけでなく、インディゴ染料(注)の染色堅ろう性のリスクもあります。以上のことから、デニム素材の取扱い注意に関して、表4のような注意表示例が考えられます。

      表4 デニム素材の取扱い注意例
      1. 製品の取り扱い表示内容を確認の上、正しい方法で洗濯や取扱いをすること。
      2. 淡色の上着やバッグに、摩擦で色移りすることがあるので注意すること。(摩擦堅ろう度)
      3. 直射日光の下で干すと変色などの原因になるので、裏返して陰干しすること。(耐光堅ろう度)
      4. 直射日光の当たらない場所で保管すること。(耐光堅ろう度)
      5. 他の衣類と一緒に洗うと色移りすることがあるので、単品で洗い速やかに乾燥すること。(洗濯堅ろう度)
      6. 着用による擦れで部分的に白化することがある。また、洗濯時の擦れによって製品の一部が白化することがあるので、場合によりネットを使用すること。(白化現象)
      (注)
      インディゴ染料は数千年前から知られている天然染料です。植物の藍の葉や茎から得られ、ジーンズ用途に長年使用されていました。19世紀に合成インディゴ染料が発明され、現在はこれが主流になっています。


  5. 捺染素材の白化
     捺染は染料プリントとも呼ばれ、その加工工程はスクリーン版型を用いて染料を含んだ色糊を印捺し、スチームなどの加熱工程で染料を繊維上に固着した後、余分な色糊を水洗除去する工程のことです。近年では、版型の不要なインクジェット方式、昇華方式の捺染も増加しています。第39回アパレル散歩道で、捺染の詳細を取り上げていますので、改めてご覧ください。

      捺染素材の白化は、「染料の浸透性」、「糸や生地の安定性」、「着用時の摩擦」がキーワードになる。
    図3 捺染生地の例

    図3 捺染生地の例

    1. 捺染素材の染料浸透性
       版型を用いたスクリーン捺染では、図4の原理で色糊が版型を通して生地に印捺されます。このようにスクリーン捺染では、色糊は生地の表側から生地内部に押し込まれるので、表面に比べると裏面は色が薄くなるのが一般的で、このことが白化現象と大いに関係することになります。
       捺染で生地裏面まで強く色糊を押し込むと、裏面は濃く染まりますが、生地表面の柄自体がにじんだり、シャープな柄が発現しにくくなるため、柄(デザイン)と色糊の浸透性をほどよく調整することが必要になります。
       図5は無地染めとスクリーン捺染の染料浸透性のイメージですが、捺染生地の裏面があまり染まらず白く仕上がっていることを理解してください。また、図6と図7は、織物とニットの捺染生地の実際の外観例です。いずれも生地裏面までの色糊の浸透は浅く、生地表面に比べて白いことが分かります。

      図4 スクリーン捺染の原理

      図4 スクリーン捺染の原理



      図5 無地染めとスクリーン捺染の染料浸透性のイメージ

      図5 無地染めとスクリーン捺染の染料浸透性のイメージ



      いずれの裏面も十分に染まっておらず
      白っぽい感じになります

      図6 捺染織物の表裏外観
      図6 捺染織物の表裏外観
      スクリーン捺染 (レーヨン100%)

      図7 捺染ニットの表裏外観

      図7 捺染ニットの表裏外観
      昇華捺染 (ポリエステル100%)



    2. 捺染素材の白化メカニズム
       ここまで捺染素材の染料浸透性について説明しました。しかし、「裏面への染料浸透性が少ない」という説明だけでは白化発生の説明には不十分です。染料浸透性にプラスして、糸や生地組織の安定性、着用・洗濯による摩擦がポイントになります(図8参照)。次に、糸や生地組織の安定性について説明します。

      染料
      浸透性
      糸や生地組織
      の安定性
      着用・洗濯に
      よる摩擦
      白化の
      発生

      図8 捺染素材の白化メカニズム



    3. 糸や生地組織の安定性
       衣料品のライフサイクルは、繊維~糸~染色~縫製~着用~洗濯などがあり、その各々の過程で衣料品の白化事故に影響を及ぼす要因が考えられます。これらの要因が複合して、白化事故が発生するケースが多いと考えます。

      表5 衣料品のライフサイクルと白化事故のリスク
      分類白化事故のリスク
      繊維
      • 天然繊維(綿、麻など)・再生繊維(レーヨン、リオセルなど)はフィブリル化しやすい
      • 合成繊維(ポリエステル、ナイロンなど)はフィブリル化しにくい
      • 紡績糸はもともと毛羽立っているため、摩擦によって毛羽立ちで白化しやすい
      • フィラメント糸でも強い摩擦でフィラメント切れが発生すると毛羽立つことがある
      • 毛(ウール)は、外観のスケールなどによってフェルト化することにより、毛糸が反転し、特に捺染品では白場が目立ちやすい ⇒5.4捺染柄反転 参照
      織編
      • ニットは、織物と比較して組織がルーズで構成糸の自由度が高く反転しやすい
      染色加工
      • 染色仕上加工で柔軟剤が多用されると、毛羽立ちが発生しやすい
      着用や洗濯
      • 着用時の部分的な摩擦や揉みによって、フィブリル化や毛羽立ちが進行することがある
      • 洗濯時のもみ洗いや洗濯槽での擦れによって、フィブリル化や毛羽立ちが進行することがある


    4. 毛(ウール)製品の捺染柄反転
       ウール製品のジャケットやパンツなどで、着用中、汗や雨などの湿潤状態で揉みや摩擦を受けると、羊毛はフェルト化することがあります。洗濯でも同様の現象が発生することがあります。図9のように、水・酸・アルカリの影響を受け、表面のスケール(鱗片)が立ち、その後の摩擦で立ったスケール同士が絡み合った状態になることがフェルト化です。これらの過程で毛糸は反転することがあり、これが捺染素材であると、裏面の染まっていない部分が表面に移動し白く目立つことがあります。これを毛製品の捺染柄反転と呼んでいます。
       ウールの特性については、第35回アパレル散歩道で「フェルト化」を紹介しました。是非改めてご覧ください。

      図9 毛素材のフェルト化のメカニズム
      説明正常なウール繊維。スケールは比較的フラットの状態水・酸・アルカリの影響を受け、スケール(鱗片)が立った状態摩擦を受け、立ったスケール同士が絡み合った状態 (フェルト化)
      ウール外観
      正常な状態のウール
      水・酸・アルカリの影響を受け、スケールの立った状態
      摩擦を受け、立ったスケール同士が絡み合った状態(フェルト化)


      ウールニット捺染生地

      ◓◓◓◓◓◓◓◓◓◓◓◓◓◓◓

      着用や揉み
      (湿潤環境下)
      着用や揉み
      (湿潤環境下)
      この部分白く
      見えるね!

      ◓◓◓◐◒◒◐◒◒◒◒◓◑◓◓

      糸が反転している

      図10 毛(ウール)捺染ニット素材の捺染柄反転現象のメカニズム



      図11 ウールニットシャツ(脇部)の捺染柄反転現象
      図11 ウールニットシャツ(脇部)の捺染柄反転現象2)



        ウール捺染柄反転の発生要因は主に3つある。

        スケールの存在水分
        摩擦現象捺染柄反転
        となる。


(参考資料)
1) 竹松茂:「実用織編物の基礎知識」: (株)色染社,p.35
2) 「繊維製品の苦情処理ガイド(色に関する苦情)」:日本衣料管理協会,巻末写真P.6 3.1.1引用

(次回のアパレル散歩道 / 8月1日発行)

次回は、「ケーススタディ ⑪色の変化~黄変~」を取り上げます。

コラム : アパレル散歩道55
~品質事故を分析して原因と対策を考えよう~
テーマ : ケーススタディ ⑪色の変化~黄変~


発行元:
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail:
pr-contact@nissenken.or.jp     URL:
https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。



社外経歴
(一社)日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
(一社)日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部幹事
大学非常勤講師
(一社)日本繊維製品消費科学会 元副会長

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