アパレル散歩道

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第46回 : ケーススタディ②縫い目の損傷

2022/11/01

品質事故を分析して原因と対策を考えようアパレル散歩道 品質事故を分析して原因と対策を考えよう

2022.11.1

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 前回の第45回「アパレル散歩道」では、アパレル製品の損傷事例として、「生地の損傷」を取り上げました。今回は、縫製品に起因する「縫い目の損傷」を取り上げます(表1参照)。

《はじめに》
 アパレル製品の製造では、各縫製パーツをミシンで縫合します。縫製品である以上、縫製に関わる「縫い目の損傷」事故はどうしても発生することがあります。本稿では、「縫い目の損傷」の種類と、その原因と対策について考えてみましょう。
 「縫い目の損傷」は、表2のように、①縫い糸切れによる損傷、②地糸切れによる損傷、③縫い目滑脱による損傷(スリップ)の3つに大別されます。これからその各々について、原因と対策を検討します。


表1 損傷事故の分類
大分類中分類
1損傷生地の損傷
縫い目の損傷
副資材の損傷

表2 縫い目の損傷事故の分類
種類原因発生しやすい素材
縫い糸切れによる損傷
  • 縫い糸の強度不足
  • 縫い糸の伸度不足
  • 生地の伸びが大きかった
    (生地の伸びに縫い目が追従しない)
  • ストレッチ織物
  • ニットなど伸縮素材
  • リンキング商品
地糸切れによる損傷縫い針による地糸切れが発生した
  • 主にニット素材
縫い目滑脱による損傷
(スリップ)
織物が滑脱しやすかった
  • 主に織物素材


  1. 縫い目の損傷
    1. 縫い糸切れによる損傷
       縫い糸切れは、生地が引っ張られると縫い糸が切断する現象です。たとえば、織物のストレッチパンツの内また部で、しゃがむと縫い糸切れしたケースなどがあります。原因には、①縫い糸の強度や伸びが少ない、②生地の伸びが縫い目の伸びを大きく上回ったケースが考えられます。

      表3 縫い糸切れによる損傷の分類
      分類原因原因の所在
      縫い糸自体の強度が弱かったり、伸びが少なかったりしたため、縫い糸切れした
      • 縫い糸自体の強度が弱かった
        用途に応じた適切な糸種や番手の糸が選定されなかった
      商品設計
      • 縫製時、縫い糸張力がきつく、縫い目の伸びが少なかった
      縫製工場
      生地の伸びが縫い目の伸びを大きく上回ったため、縫い糸切れした
      • 伸縮性が大きい素材にも関わらず本縫い仕様であった。本縫いは環縫いと比べて伸びが少ない(図1参照)
      商品設計
      など

       図1に本縫いと環縫いの縫い糸の構造を示しています。左の本縫いは、表裏とも縫い目は直線的で、縫い目方向の伸びが少ないのが特徴で、主に伸びの少ない織物の縫製に用いられます。一方、右の環縫いは、表面は本縫い同様直線的ですが、裏面はループ状になっているため、縫い目自体に伸びがあります。このため、環縫いは、主に伸びのあるニット素材に用いられています。

      本縫い
       
      ≪本縫い≫
      表裏とも縫い目は直線的。伸びが少ないので主に織物用で使用される。
       
      環縫い
       
      ≪環縫い≫
      表は直線的であるが、裏はループ状になっており伸びがある。主にニット用で使用される。

      図1 本縫いと環縫い



      (1)縫い糸の種類
       適切に縫製されていても、縫い糸の強度が弱く切れやすかったことも考えられます。
       縫い糸には、「長繊維(フィラメント)糸」と「短繊維(スパン)糸」があり、製品の用途により使い分けられます。種類としては、綿糸、麻糸、絹糸などの天然繊維や、ポリエステル糸、ナイロン糸などの合成繊維糸があります。また、合繊繊維糸にもフィラメント糸やスパン糸があります。現在、世界のアパレル製品の生産では、ポリエステル糸が最も多用され、綿糸やナイロン糸が続いています。他にも、綿とポリエステルの混紡糸や、合繊フィラメントの周囲を綿などの短繊維でカバリングしたコアヤーン糸も、縫い糸として使用されています。
       縫い糸の種類と特徴を表4に示します。

      表4 縫い糸について
      種類特徴縫い糸の種類
      フィラメント糸長繊維で構成された糸のこと。
      天然繊維では絹糸が代表である。合成繊維ではポリエステル糸、ナイロン糸があり、なめらかで光沢があり、強度に優れているのが特徴である。原料の長繊維は、繊維1本では細いので、複数本束ねて撚りがかけられている。
      8番(厚地用)から80番(薄地用)などの糸があるが、一般の素材には40~60番が使用される。番手が大きいものが太い糸になる。用途と外観にマッチングした縫い糸を選定すること。 下記「ティータイム」参照
      スパン糸短繊維を紡績した糸を撚り合わせた糸のこと。
      天然繊維では綿糸が代表である。合成繊維では、フィラメントをカットした短繊維から作られる。毛羽があり、ソフトな風合いで、布とのなじみが良いのが特徴である。フィラメント糸に比べると強度は低く、用途や外観によって選定に注意を要する。
      ウーリー糸
      (ロックミシン用)
      主に、ロックミシンの振り糸として使用される。
      かさ高で伸縮性に優れ、やわらかい風合いで※ウーリー加工糸とも呼ばれる。ウーリー糸は合成繊維のフィラメントを熱処理して製造される。ニットなど伸縮性のある布地や、縁かがり縫いなどでも多用されている。
      (※ウーリーとは、羊毛のWoolが語源で、ウールのようなかさ高に優れた外観という意味である)
      ポリエステルウーリー糸外観

      ポリエステルウーリー糸外観



      ~縫い糸の太さの呼称 「呼び」について~
       JIS(日本産業規格)では、フィラメント糸とスパン糸別に、それぞれの糸のトータル繊度(原糸繊度×合糸数)により、該当する太さを「呼び」で表示しています。
       たとえば、ポリエステルフィラメント糸で「呼び」が50番とは、78dtの糸が3本合糸(三子)されている糸のことです。一方、ポリエステルスパン糸で「呼び」が50番とは、50s単糸が3本撚り合わされている糸(三子)を指しています。フィラメント糸とスパン糸とでは、表示の「呼び」が同じ数値でも、糸の太さは少し異なっており、国によっても番手表示は違うので注意が必要です。


      ~カタン糸とは?~
       ミシンが発明された1800年当時、合成繊維は存在しません。この当時の縫い糸は、綿糸が中心で、「コットン」がなまった「カタン糸」という名称で、わが国でも戦後も長らく流通していました。


      (2)ミシン用縫い糸に求められる性能
       ミシン用縫い糸には、次のaからfの性能が求められます。商品設計では、商品の用途とともに、素材特性、素材の可縫性を理解しながら縫製仕様を決定することが大切です。

      1. 安定した調子で縫製できること
      2. 十分な強度があり糸切れが生じにくいこと
      3. シームパッカリングが生じにくいこと
      4. 外観が美しいこと
      5. 染色堅ろう性に優れていること
      6. 長期間の使用で性能低下しないこと


      (3)縫い糸と素材の組み合わせ
       商品設計では、生地の物理特性(伸び、目付、生地外観など)や用途を考慮して縫い糸を決定する必要があります。婦人服で外観が細かく毛羽立った平滑な生地であれば、縫い糸はフィラメント糸よりスパン糸やコアヤーンが適しているでしょう。レインウエアなどでは、はっ水縫い糸の使用も考えられますし、作業服など汚れやすい衣料では防汚(SR)加工を施した特殊な縫い糸も考えられます。
       一方、スポーツウエアや作業服では、より耐久性のあるポリエステルフィラメント糸が適しています。また、縫い糸の伸度はシームパッカリングにも影響するため、可縫製が微妙な素材であれば、縫製工場で試し縫いなどを行いながら縫い糸を決定することも大切です。図2は、各種縫い糸の伸び率-荷重曲線です。繊維の種類や糸種によって、伸びと強度に大きな差があることが判ります。

      図2 各種縫い糸の伸び率-荷重曲線の例
      図2 各種縫い糸の伸び率-荷重曲線の例1)



      (4)素材の伸縮性について
       縫製と素材特性には密接な関係があります。特に、縫い目の縫い糸切れによる損傷では、素材の伸縮性が大きく関係します。私たちは、経験的に「織物はニットよりも伸びない」という認識を持っていますが、これは正解でもあり不正解と言わざるを得ません。最近では、伸長率40%以上のストレッチ織物素材が登場し、経編素材ではほとんど伸びない素材も登場しています。つまり、織物のニット化、ニットの織物化が進んでいるということでしょう。商品設計では、使用予定の生地をまず触って引っ張って、素材の風合いや伸縮性の程度を把握し、商品設計や仕様の決定を進めることが望まれます。表5では、伸縮素材を伸縮の程度で分類しました。

      表5 伸縮素材について
      伸縮の程度伸長率生地・構成用途
      小さい10~20%ポリエステル加工糸使い織物ブルゾン、スラックスなど
      中程度20~40%ポリエステル加工糸織物、ポリウレタン混用織物、ニット素材全般ナイロンやポリエステルスポーツ、カジュアル用ジャージ、作業服など
      大きい40%以上ポリウレタン混用ニットツーウェイトリコット製の各種タイツなど


      (5)方向性と伸縮
       図3は、通常織物の各方向の荷重-伸長曲線です。これによると、織物生地のたて方向は、よこ方向より伸びが少なく、45°のバイアス方向が最も伸びることを示しています。通常の衣料品の縫製では、縫製部位によって、タテ方向、ヨコ方向、バイアス方向に縫われるため、素材の伸縮は縫い方向で様々な伸縮性が考えられます。また場合により、ニットと織物を縫い合わせるケースやニット生地のよこ使いなども考えられ、縫製現場では、これらを踏まえた縫製条件の確認が望まれます。
      図3 通常織物の各方向の荷重-伸長曲線2)

      図3 通常織物の各方向の荷重-伸長曲線2)



      ~バイアス裁断と機能性~
       一般に、織物のバイアス方向は、「たて」や「よこ」に比べて比較的よく伸びることから、ジャケット背中上部のバックヨークにバイアス裁断された生地が使用されることがあります。これは、背中上部は関節の稼働で皮膚が横方向によく伸びるからです。


    2. 地糸切れによる損傷
       ニット生地の縫製では、針糸が編地の構成糸を傷つけたり、切断することがあります。切断が生じると、その部分はほつれやすく穴があいたりランが発生することがあり、この現象を「地糸切れ」と呼びます。地糸切れは、一般に縫製工場では湿度が低く空気が乾燥している冬期に発生することが多く、また、組織糸が柔軟性を欠いて切れやすくなった場合に発生しやすくなります。しかし、ポリエステル糸はもともと吸湿性が低いので、環境湿度にはあまり関係がないようです。

      図4 地糸切れの事例
      図4 地糸切れの事例

      図5 ランの事例
      図5 ランの事例



      (1)地糸切れの要因
       地糸切れの要因には、次のようなことが考えられます。
      • 地糸切れは、縫製時のミシン針などによって、布の構成糸が切断されることで生じる。
      • ループで構成されるニット(編み地)では、地糸切れによって穴が目立ちやすく、ほつれやすい生地ではランが生じやすい。
      • 伸びが少ない、編密度が大きい、樹脂加工されているなど、編み糸の自由度が低いものは地糸切れが発生しやすい。
      • ミシン回転数が高速であるほど地糸切れが発生しやすい。また、高速運転により針温度が過度に上昇し、合繊縫糸が溶断することもある。

      図6 縫い針の地糸へのアタックのイメージ
      図6 縫い針の地糸へのアタックのイメージ



      (2)地糸切れの対策
       地糸切れの対策には、次のようなことが考えられます。
      • 過度な高速縫いをしない。
      • 地糸切れ対策用の縫い針として、ボールポイント針など、針先が丸くできるだけ細い縫い針を使用する。

      図7 ボールポイント針と普通針の針先形状の比較
      図7 ボールポイント針と普通針の針先形状の比較



       事前にサンプル縫製などで素材の可縫性を把握し、それらの情報を縫製仕様書などに記載し、縫製工場に伝えることが大切である。
      • 本生産工程で、特定のオペレーターの技量や縫製条件設定ミスにより、地糸切れが生じる可能性があるため、中間検査も実施し、地糸切れリスクを低減させること。
      • 出荷時の全数検査の実施で、地糸切れをチェックし、不合格品は出荷しない体制づくりが必要である。


    3. 縫い目滑脱による損傷(スリップ)
       婦人服などでは、優雅な光沢や色合い、美しいドレープやシルエットが求められます。その結果、風合いがソフトでドレープ性のある織物素材が好まれますが、織糸が滑りやすく、縫目に強い力がかかると織糸がスリップ(滑脱)して縫目が開き、品位が落ちることがあります。

      (1)縫い目滑脱の事故要因と対策
       縫い目滑脱の要因と対策には、次のようなことが考えられます。
      • 織物素材では、事前にJIS L 1096(B法)の「滑脱抵抗力試験」や「縫目強さ試験」を実施し、基準に合格した素材を採用すること。一般的な衣料では、「滑脱抵抗力試験」結果が3mm以下で運用されていることが多い。また、スラックスやタイトシルエット製品などを企画する場合は、事前に試着などをするのがよいでしょう。
      • ポリエステルブラウスなどでは、減量加工を施した風合いのソフトな素材が使用される。しかし、ソフト感を追求するあまり、過度な減量加工によって滑脱抵抗力が劣ったスリップしやすい生地で商品化されないよう、テキスタイルメーカーとの情報交換をお勧めする。
      • 滑脱の懸念のある素材で商品化する場合は、特に懸念される部位を裏から接着芯地で補強し、縫製する対策 を検討すること。
      • コーティングしていない織物素材では、充分な縫い代幅を設定し、かつ、裁ち端は切りっ放しにせず、ロック仕様でほつれにくくすること。
      • タイトシルエットは、特定部位の縫い目に応力がかかり、滑脱のリスクが高くなると予想し、余裕のあるパターンを設計・検討する。


      図8 JIS L 1096(B法)滑脱抵抗力試験の概要
      図8 JIS L 1096(B法)
      滑脱抵抗力試験の概要

      図9 滑脱(スリップ)事故の一例
      図9 滑脱(スリップ)事故の一例



      ~バイアス裁断と機能性~
       減量加工とは、ポリエステル織物で風合いを柔らかくするために、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤でポリエステル表面を溶かす加工のことで、アルカリ減量加工ともいわれています。ポリエステル繊維表面を5~20%程度溶解し、繊維を細くして、生地風合いをソフトにしています。しかし、25%以上の過度な減量加工では、生地スリップが生じやすく、滑脱抵抗力の低下は注意を要することになります。(右図参照)


(参考資料)
1)「新版繊維製品消費科学ハンドブック」:光生館、P60、図Ⅰ-2-5(a)引用
2)「業界マイスターに学ぶせんいの基礎講座」:繊維社、P243、図5.1引用

(次回のアパレル散歩道 / 12月1日発行)

次回は、「ケーススタディ③ 副資材の損傷」を取り上げます。

コラム : アパレル散歩道47
~品質事故を分析して原因と対策を考えよう~
テーマ : ケーススタディ③ ~副資材の損傷~


発行元:一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp     URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。



社外経歴
日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部元代表幹事
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長

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