アパレル散歩道

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第71回 : 「テキスタイルと機能性」

2024/12/01

テキスタイルの特性を学ぼうアパレル散歩道 テキスタイルの特性を学ぼう
アパレルメーカーの商品企画では、マーケティング情報や社会を取り巻く環境を考慮して、消費者ニーズに合致した商品政策が検討されます。(図1参照) 開発商品に一定の機能を搭載するには、①材料(テキスタイル)に付与する、②製品(パターンなど)に付与する、以上の2つがあります。今回は、前者の①材料(テキスタイル)に視点を置き、「テキスタイルと機能性」を取り上げます。

2024.12.1

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  1. はじめに
     アパレルメーカーの商品企画では、マーケティング情報や社会を取り巻く環境を考慮して、消費者ニーズに合致した商品政策が検討されます。(図1参照)
     開発商品に一定の機能を搭載するには、①材料(テキスタイル)に付与する、②製品(パターンなど)に付与する、以上の2つがあります。今回は、前者の①材料(テキスタイル)に視点を置き、「テキスタイルと機能性」を取り上げます。

    社会環境
     エコ、エシカル
     リサイクル
     フェアトレード
     オーガニック
     SDGs・製品安全
    市場動向
    販売情報POS
     (Point of Sales)
    店頭情報 : JANコード
    (バーコード・FRIDタグ)
    情報の収集と分析
    企業目標の設定
    マーケティング戦略策定
    商品コンセプトの立案
    商品企画
    マーケティング情報
     商品政策(Product)
     価額政策(Price)
     流通政策(Place)
     販売促進(Promotion)
    ファッション情報
    品質設定
    製品開発(パターン開発)
    テキスタイル開発

    図1 アパレルメーカーの商品企画の流れの例



     商品企画では、商品政策(どのような目的の商品をどの程度の量を企画するか)、価額政策(上代、利益率)はどの程度か)、流通政策(専門店やネットなど、どの流通で販売するか)、販売促進(どのように広報宣伝するか)、ファッション情報(色柄、デザインはどうするか)、品質設定(品質基準はどうするか)などのマーケティング情報が検討されます。また、同時にSDGs、サステナビリティ、エシカル、フェアトレード、安全など、現代社会に求められる要素が加味されます。

      ≪機能開発について≫
      アパレルの機能開発の手法には2つあります。
      ①製品開発(パターン開発)…衣料のデザイン、シルエットなどの開発
      ②テキスタイル開発…主材料や副資材の開発

      これらをうまく組み合わせて、付加価値の大きい機能商品が実現します。

  2. テキスタイルと機能性
     テキスタイルに機能性を付与するには、主に糸製造時染色仕上げ時の2つの方法があります。表1に機能の実現方法を紹介しています。染色仕上げによる付与は後加工であり、機能自体の適正さとともに、その耐久性も求められます。
    表1 テキスタイルの機能の実現について
    種類説明特徴
    1.製糸・紡績に
     よる付与
     (機能繊維素材)
    • 溶融紡糸の段階で、機能材を繊維に練り込む(紫外線遮蔽、制電性など)
    • 溶融紡糸の段階で、異形断面構造とする
      (吸水速乾など)

    • 紡績の段階で、異繊維と組み合わせる(芯鞘構造の複重層糸など)
    • 機能剤が原糸内に取り込まれているため、機能の耐久性は期待できる
    • 機能糸のコストは高くなる
    • 機能糸の製造ロットがある
    2.染色仕上げに
     よる付与
     (機能加工)
    • 染色仕上げ時の後加工として、機能剤を生地表面に加工する
    • 後加工による機能剤は繊維上にあるため、洗濯による機能材の脱落など、耐久性は個別に確認する必要がある
    • 汎用的な使用が期待される


  3. テキスタイルの各種機能性紹介
     機能性には、衣料の目的に応じて、さまざまな機能があります。商品企画時に、その商品に必要な機能に応じて、機能材料をピックアップする必要があります。表2にその機能例を紹介しています。

    表2 テキスタイルの各種機能の分類
    機能の分類機能の種類説明
    着用快適生理的機能透湿防水 吸汗速乾性 保温性 クーリング性 保湿性 吸湿発熱性 紫外線カット はっ水性 耐水性着用して着用者が快適と感じる機能
    運動パフォーマンス機能ストレッチ性 軽量性 重ね着時の低摩擦
    清潔機能抗菌防臭 制菌 消臭 抗ウイルス 防ダニ 防虫 防カビ ノンホル PHコントロール ホルマリン吸着
    外観の快適
    (心理的快適)
    防縮 防しわ 防汚 はつ油着用や洗濯などで、外観的に快適な機能
    環境負荷低減生分解 生産プロセス リサイクル環境負荷低減効果がある
    安全性制電 防炎 視認着用者の安全を確保する
    雑貨・産業資材など高強力 耐熱 電磁波シールド 天然皮革代替
    (合成皮革、人工皮革、人工ファー)
    一般衣料以外の特殊衣料で必要な機能ほか


    以下に主な機能について、説明を加えます。

    1. 着用快適
       着用時に、着用者が着用中に快適と感じる機能で、主に生理的機能、運動機能、清潔・健康機能などがあります。

      (1) 生理的機能
       代表的な機能には、透湿防水、吸汗速乾、保温、クーリング性、保湿、吸湿発熱、はっ水、耐水などがあります。
      表3 着用快適の機能性について
      項目説明アパレル散歩道
      バックナンバー
      市販品の展開例 (注1)
      透湿防水性屋外で使用するジャケットやコートなどに求められる機能で、衣服内の蒸気の透過性と耐水性を同時に持つ機能のこと第29回
      3.1透湿防水性
      サイトス®(小松マテーレ)
      バーベル®(セーレン)
      ネオゾイック、レクタス®、デルタ®
       (帝人フロンティア)
      タフレックス®(ユニトレ)
      エントラント® (東レ)など
      吸汗速乾性シャツやインナーなどに求められる機能で、液体状の汗をウエアに速やかに吸い上げ、衣料表面に拡散して、速やかに気化放出する機能のこと第29回
      3.4吸汗速乾性
      クールマックス®(伊藤忠)
      ウォーターマジック®(クラトレ)
      アクアドライ®(帝人フロンティア)
      アルティマ®、フィラシス®(東洋紡)
      テクノファイン®(旭化成)など
      保温性保温性とは、衣服内部を暖かく保つ機能のこと。要素には、「蒸散」「空気の対流」「伝導」「輻射」等によるヒートロス低減、外部エネルギー活用などがある第30回
      3.6保温性
      サーモトロン®(ユニトレ)
      ヒートエナジー®(帝人フロンティア)
      プリマロフト®(伊藤忠)
      ウォームOS®(大阪染工)など
      クーリング性衣服内を涼しくする機能のこと。要素には、接触冷感、通気性コントロール、赤外線遮蔽などがある第30回
      3.7クーリング性
      ベンベルグ®(旭化成)
      シャダン®(セーレン)
      サラクール®(ユニトレ)
      ドライアイス®(東洋紡)など
      保湿・吸湿性空気中の湿気を吸い取る性質のこと第64回
      3.1吸湿性
      フレシール®(セーレン)
      ビキュート®(ニッケ)
      吸湿発熱性人体の不感蒸泄(注2)を利用した吸湿発熱のこと。気体の水分子の運動エネルギーを効率よく熱エネルギー(収着熱)に変換する第30回
      3.6 (5)保温素材の開発例
      ブレスサーモ®(ミズノ)
      エクス®(日本エクスラン・東洋紡)
      ヒートテック®(東レ・ユニクロ)など
      紫外線遮蔽性テキスタイルが紫外線を遮蔽する機能のこと。特に夏期衣料の白物、淡色品で遮蔽効果が求められる第29回
      3.5紫外線カット性
      ウェーブロン®(帝人フロンティア)
      シンオロール®(テックワン)
      ボディシェル®(東レ)など
      はっ水性テキスタイルが水を弾く性質のこと。最近では、フッ素フリーがキーワードとなる第29回
      3.2はっ水性
      ポールレンSF®(セーレン)
      キューダス®(東レ)
      コモガードFF®(岐セン)など
      耐水性生地に雨などで水圧がかかった時、水滴が生地を通過しにくい機能のこと。JIS規格では、耐水性・はっ水性・漏水性の総称を「防水性」としている第29回
      3.3耐水性
      • コーティング・ラミネート素材全般
      • 高密度織物全般
      など
      注1 
      各機能素材の詳細は、素材メーカーホームページなどをご覧ください
      注2 
      不感蒸泄…日常生活において、安静にしていても人体から自然に失われる水分のこと。呼吸の呼気による水分の放散、皮膚から蒸発する水分を合わせたもの


      (2) 運動パフォーマンス向上機能
       人間は衣服を着用して日常生活で、歩く、走る、かがむ、座るなどの動作をしますが、衣服がその運動パフォーマンスを妨げない機能のことです。テキスタイル材料の運動機能性には、ストレッチ性や軽量性などがあります。

      表4 運動機能性について
      項目説明アパレル散歩道
      バックナンバー
      市販品の展開例 (注1)
      ストレッチ性
      • 人間は運動により、体幹や四肢の関節が可動し、皮膚も伸縮する。このため、衣服が皮膚の伸縮に影響を与える
      • 例えば「腕が突っ張ってあがらない」、「かがみづらい」、「早く歩けない」、「屈むと背中のシャツ裾が出る」、「しゃがむと尻部の縫い糸が切れた」など、運動パフォーマンスなどが低下することがある。ストレッチ性はこれらに対応した機能の一つとなる
      第28回
      2.1ストレッチ性
      ロイカ®シリーズ(旭化成)
      ソロテックス®(帝人フロンティア)
      クリンベルハイ®(東洋紡)
      ブログレスキン®(東レ)
      ライクラ®(東レオペロンテックス)
      ウルトラツイル®(クラボウ)
      など
      軽量性
      • 長時間の作業や運動では、疲労や運動パフォーマンスの観点から、ウエアも軽量であることが望ましい
      • 極端に軽量を追求すると、生地強度不足や形態変化が生じやすいので注意を要する
      第28回
      2.2軽量
      エアロカプセル®(帝人フロンティア)
      スペースファンタジー®(東亜紡)
      極衣®(東洋紡)
      クラロンK-Ⅱ®(クラレ)
      など
      注1 
      各機能素材の詳細は、メーカーホームページなどをご覧ください


      (3) 清潔機能
       清潔な衣料品を通じて、ヘルスケアを実現する素材の機能のこと。これらの機能には、抗菌防臭、制菌、消臭、抗ウイルス、防ダニ、防虫、防カビ、花粉対策などの機能があります。主なものを紹介します。

      表5 清潔・健康機能について
      項目説明アパレル散歩道
      バックナンバー
      市販品の展開例 (注1)
      抗菌防臭性
      • 繊維上で黄色ブドウ球菌の増殖を抑え、汗や汚れから発生する悪臭を軽減する機能
      • 特殊な抗菌剤を生地に後加工したり、無機金属系抗菌剤を合成繊維に練り込む方法がある。主に、下着、スポーツシャツ、ソックスなどで採用される
      第16回
      1.4(2)⑦抗菌防臭
      バイオ・スローン®(大阪染工)
      バイオニクスAG®(小松マテーレ)
      デオファイン®(セーレン)
      サニタイズ(テックワン)
      ナウル®(東海染工)
      エピスコール®(東洋紡)など
      制菌性
      • 繊維上の菌の増殖を抑制する機能で、ナース衣料や病院シーツなどに適用される
      • 繊維上の肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌、MRSAの増殖が抑制される加工である
      フェイシ―AGプラス®(岐セン)
      ガーデッチ®(クラボウ)
      マックススペック®(東レ)
      など
      消臭性
      • 繊維が臭気成分に触れて不快感を減少させる機能のこと
      • 悪臭には、アンモニア(糞尿臭)、メルカブタン(生ごみ臭)、硫化水素(腐卵臭)、トリメチルアミン(魚臭)などがあり、ソックスや下着などに付着した汗分解物、体臭などの不快な臭気、バッグ内部の異臭を消す機能などがある。主に後加工で処理される
      第16回
      1.4(2)⑧消臭
      シャインアップ®(クラトレ)
      クリーンガード®(小松マテーレ)
      フェミュー(シキボウ)
      インドールクイック®(セーレン)
      デオフロント(帝人フロンティア)
      デオドランDX®(東洋紡)
      サニアップG®(ニッケ)など
      抗ウイルス性繊維上に付着したウイルスを減少させる機能のこと。繊維評価技術協議会の抗ウイルス性試験方法で評価されることが多いクレンゼ®(クラボウ)
      サニアップ®(テックワン)
      ナノバリア®(東洋紡)など
      防ダニ性
      • 寝装品やカーペットなどで、①ダニを寄せ付けない、②ダニを殖やさない、③ダニを通さないなどの性能のこと
      • ①②では繊維上にダニが嫌う加工薬剤が付与される。③では極細繊維使いの高密度織物により、ダニやダニの糞が通過しないようにしている。布団用生地などで多用される
      ノンバッグ®(シキボウ)
      ミラクルSH®(大和紡績)
      バイセクト®(日清紡TX)
      など
      花粉対策
      • 衣服に付着した花粉をすばやく落とし、室内に持ち込まない機能のこと
      • 表面が平滑な高密度織物や、後加工による生地の平滑化がおこなわれる。また、制電素材使用によって花粉の静電気付着を抑えることがある
      アンチポラン(東レ)
      ポランバリア(帝人フロンティア)
      など
      防汚
      • 防汚加工には、①汚れが付きにくいSG加工注2、②汚れが落ちやすい、汚れが再汚染しにくいSR加工 注3などがある
      • 商品企画する衣料品の用途により、防汚加工のタイプを検討することが望ましい。主にユニフォームやスポーツウエアで多用される
      第40回
      3.5防汚加工
      リップガード(小松マテーレ)
      スティンガード(セーレン)
      ダストップ(帝人フロンティア)
      マッドガード(東洋紡)
      ユニガード(ユニトレ)
      など
      注1 
      各機能素材の詳細は、素材メーカーホームページなどをご覧ください
      注2 
      Soil Guard(Soilは汚れのこと)
      注3 
      Soil Release


      (4) 外観快適機能
       着用や洗濯などで、外観的な変化が少なく、その結果、着用者が快適に感じる機能のことです。

      表6 外観快適機能について
      項目説明アパレル散歩道
      バックナンバー
      市販品の展開例
      防縮性
      • 天然繊維素材が、洗濯などで収縮することを防ぐ性能のこと
      • 合成繊維素材は、その熱可塑性で形状を固定することができるが、熱セット性の低い綿やウールなどの天然繊維素材では、機械的な作用や樹脂などを併用し、防縮性を高める必要がある
      第40回
      3.1防縮加工
      ≪主に天然繊維素材に適用される≫
      • セット性に優れた合繊を混用する
      • 合繊を混用した複合糸を使用する
      • マーセライズ加工により収縮性を改善する
      • 樹脂で架橋結合をさせて安定化させる
      • サンフォライズ加工により機械的な強制収縮加工をする
      • スケール除去や樹脂加工をおこなう(ウール系)など
      防しわ性主に天然素材で、しわが生じにくい性質のこと。樹脂加工が一般的である第62回
      2しわ
      ≪主にセルロース系素材に適用≫
      樹脂による架橋結合を行うなど
      はつ油性
      • 油性の物質をはじき、生地に付着しにくくする性能のこと。また容易に洗濯で除去できる性質のこと
      • エプロン、作業着、スポーツウエア、コート、ジャケット、シャツ、カーペット、テーブルクロスなどに多用される
      • はつ油剤を加工して、油をはじき、油性汚れを簡単に落とせるようにした素材
      • はつ油剤には、炭化水素系やフッ素系などがある


      (5) 環境負荷低減
       環境負荷低減は、繊維・アパレル業界に身を置く私たちによって不可欠な課題です。世界的にも、繊維・アパレル業界の物つくりが、地球環境に大きな負荷を与えているという指摘もあり、ぜひ皆さんも、商品企画や生産活動において、これから環境負荷をどのように捉え、どうすればよいか、具体的に考えてほしいと思います。

      表7 素材と環境負荷低減について
      項目説明市販品の展開例
      生分解原料
      (植物由来
      /バイオマス)
      植物由来(バイオマス)の繊維素材を使用した生分解材料のこと
      • レーヨンやリヨセル (木材パルプを原料とする再生セルロース繊維)
      • キュプラ(綿の種子毛/コットンリンターを原料とする再生セルロース繊維)
      • とうもろこし原料から作られたポリ乳酸繊維、植物由来PTT繊維など
      生産プロセス生産段階で、効率がよい材料の使用、水や熱エネルギーの削減、CO2発生削減などを考慮した生産工程のこと
      • 紡糸紡績、製織、ニッティング、染色仕上げ、縫製などの各工程で、電力やガスなどのエネルギー使用量を管理し、温室効果ガス排出量を算定し減少させている工場で生産された繊維素材が該当する。
      • また、近年カーボンフットプリントと呼ばれる「商品の原材料調達から廃棄・リサイクルに至るライフサイクルを通して排出される温室効果ガス(CO2)の排出量を、商品に表示する仕組み」も実用化されつつある。
      (参考) 経済産業省/カーボンフットプリント取りまとめ
      https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230331009/20230331009.html
      リサイクル繊維マテリアルリサイクル繊維材料の状態でリサイクルする方法で、
      • 古着などを分解して、油拭き用の布(ウエス)などで再利用するなど
      • 回収したウール製品をフェルトなどとして利用する
      ケミカルリサイクル繊維を高分子レベルで分解し、改めて繊維や化学製品を作る手法で、回収したポリエステルなどの合成繊維を分解・精製することで、リサイクルポリエステルとして再び利用される
      サーマルリサイクル回収した繊維を燃料として焼却し、発電用途などに再利用する方法で、海外では、「サーマルリサイクルは燃焼させると材料が循環しないことから、本来のリサイクルではない」という指摘もあり、サーマルリサイクルは減少する指摘もある
      ペットボトル
      カスケードリサイクル
      回収したペットボトル(PET)からポリエステル素材等、ペットボトル以外のものを新たに生産する
      (参照) PETボトルリサイクル推進協議会ホームページ
      https://www.petbottle-rec.gr.jp/basic/product.html

      図2 衣類のマテリアルフロー(2022年度)図2 衣類のマテリアルフロー(2022年度) 1)


       図2によれば、約70万トンの衣料が使用後に家庭から手放され、このうち15%がリサイクルに、19%がリユース(注1)されていますが、残りの約66%は再利用されずに、まだまだ廃棄されているのが実情のようです。
      注1 
      3Rのリデュース、リユース、リサイクルのひとつ。中古衣料や補修後再利用する考え方のこと


      (6) 安全性
       消費生活用のすべての商品では、安全性が常に求められます。アパレル製品の安全性は、①商品企画に起因する安全、②材料(テキスタイル)に起因する安全、③縫製に起因する安全があります。本項では、②材料(テキスタイル)について、いくつかの項目を挙げて紹介します。

      表8 テキスタイルと安全性について
      項目説明アパレル散歩道
      バックナンバー
      市販品の展開例
      制電性
      (静電気防止性)
      衣服の着用による生地と生地との摩擦、他の物体との接触と摩擦によって、静電気が発生しにくい性質、また発生した静電気が速やかに放電する性質のこと第68回
      テキスタイルと静電気に関する性質
      ≪静電防止剤加工≫
        後加工で、静電防止剤を生地に塗布した素材
      ≪親水性繊維の混用≫
      親水性の綿、レーヨンなどとの混紡、混繊、交織素材
      ≪制電性素材≫
      ポリエステルなどの合成繊維の内部に親水性ポリマーを練り込んだ素材
      ≪導電性素材≫
      ポリエステルなどの合成繊維に金属・カーボン・導電セラミックなどの導電微粒子を練り込んだ素材
      防炎性燃えやすい繊維素材を燃えにくくすること。カーテン、自動車用、産業資材に使用される主に繊維素材に難燃剤を加工して、防炎性を高めた素材で、綿やポリエステルなどのテキスタイルに加工されている
      ファイヤーフラッシュ防止同現象は、ガスコンロなどの炎が接触して生地表面の毛羽が瞬間的に燃え広がり、二次被害を生じる現象のことで、同現象が生じにくい素材が求められる第15回
      1.5.2ファイヤーフラッシュ
      ≪同現象の発生リスクの高い素材≫
      • 綿100%表起毛ニット素材
      • 綿100%甘撚り糸使いの織編素材(毛羽立ちやすい)
      ≪同現象の対策素材≫
      • 合成繊維混用による対策素材(要評価試験)
      視認性夜間の道路工事作業や夜間マラソン・登山時の事故や遭難防止(発見されやすい)などで、衣料の安全性を高める
      • 蛍光色を用いて周辺へ注意を引く素材
      • 夜間時、再帰性反射材を利用し、自動車のヘッドライトの光をそのまま反射させる素材
         (参考)JIS T 8127:2020 高視認性安全服
      • 帝人フロンティア「テクシャス®」
      • ユニチカトレーディング「プロテクサ®HV」
      • 東レ「ブリアンスター®」など


  4. 機能性と法令
     機能性を商品に表記するにあたり、一定の法令やガイドラインにしたがって表示することが必須です。吸汗機能のないシャツに「吸汗」のタグを付けたり、紫外線遮蔽のブラウスに実力以上のUPF表示をすることは許されません。
     また、機能性表示の根拠になるデータが、合理的・客観的な試験に基づいているか、また表示内容とデータに矛盾が無いかも問われることになります。(アパレル散歩道 第20回参照のこと)

    表9 一般的な機能素材の法令による表示規制
    法令説明
    景品表示法優良誤認商品が事実と相違して、実際よりも優良であると誤認させる、他社の商品よりも優良であると誤認させる表示
    有利誤認商品の価格が、事実と相違して、実際よりも安いと誤認させる、他社の商品よりも安いと誤認させる表示
    不実証広告規制消費者庁は事業者に対し、表示の「合理的な根拠」となる資料の提出を求めることができ、事業者は資料を15日以内に提出しなければならない。15日以内に提出しない場合、または提出された資料に合理的な根拠がない場合は不当表示と見なされる。合理的な根拠の判断基準は次の通りである
    1. 提出資料が客観的に実証された内容のものであること
    2. 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること
    医薬品医療機器法 (旧薬事法)医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療用具に関する規制で、厚生労働省への認可・承認を取得されていない繊維製品(いわゆる雑品)では、機能性繊維を用いたものや設計で効果が考慮されたものであっても、身体や病名への効果効能をうたう場合は基本表示できないとされている


(参考資料)
1)「繊維産業の現状と国内外のサステナビリティをめぐる動向等を踏まえた取組の方向性について:経済産業省 製造産業局 生活製品課、2023.11.10



(第72回 アパレル散歩道の予告 – 2025年1月1日公開予定)

 次回は、『織物の歴史と名称』と題して、新年特別企画をお届けします。新たな年のはじめに、繊維・ファッションの歴史を改めて振り返ってみます。

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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