アパレル散歩道

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第15回 :アパレル製品の安全・安心

2021/03/15

アパレル散歩道 繊維製品の品質事故はなぜなくならないのか

2021.3.15

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 今回は、アパレル製品の安全・安心のリスクマネジメントと対策について話をしたいと思います。コロナ感染後も、アパレル製品の安全・安心は大切な要素です。引き続き、皆さんと勉強しましょう。

                     
1.はじめに
 最近、アパレル企業を含む多くの企業では、コーポレートガバナンスの考え方が広まっています。これは企業経営を管理・統制する仕組みという意味で、株主の利益を最大限に実現できているかをチェックするものです。
 そして、これを実現するために、企業の社会的責任が重視され、その延長線上に製品の安全・安心があります。

                    
1.1 企業の社会的責任
 企業の社会的責任( Corporate Social Responsibility、略称:CSR)とは、企業が社会や地域に対して責任を果たしつつ、共に発展していくための企業活動です。企業は、その活動の中で、従業員、取引先、仕入先、消費者、株主、地域社会などの多くの利害関係者(ステークホルダー)と関係を持っています。その利害関係者と望ましい関係を維持しつつ経営を続けることが、CSR(企業の社会的責任)です。CSRには、各種の法令順守の義務などはもちろん、安心・安全な商品やサービスの提供、人権尊重環境配慮流通の取り組みなどが求められます。

  1. CSRとは、企業が社会に与える影響に責任を持つこと。
  2. CSRとは、環境、社会、経済へのマイナスの影響を最小化し、
     プラスの影響を最大化する企業活動のこと。
  3. その中で、あなたは、どのように行動しますか?

         

1.2 アパレルメーカーの社会的責任

アパレルメーカーの社会的責任について、5つのポイントを挙げます。
                          

(1) 法令の順守
 安全に関する法令には、消費者基本法(注1)、消費生活用製品安全法(注2)、有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律(注3)などがあります。また、その他の製品安全に関する国内外の諸法令・安全規格を遵守する行動が求められます。


(2) 安全に関する企業文化の確立
 製品安全に関する自主行動計画を策定・実行するとともに、品質保証体制・自主行動計画を適時改善しつつ、「製品安全の確保」を企業文化として、経営と従業員双方で確立することが重要とされています。


(3) 安全設計の実現
 衣料品は人間が着用するものですが、着用で生じる化学的や物理的な各種危険リスクを軽減することが大切です。製品の危害リスクを見つけ出すために、科学的かつ合理的手法を用いてリスクを徹底分析してリスクの低減に努めるとともに、材料や部品の初期品質だけでなく、寿命や耐久性などを通して安全設計の実現に努めなければなりません。


(4) 誤使用等による事故防止
 消費者にアパレル製品を安全に使用してもらうため、製品本体の下げ札や取扱説明書、ネット広告などに、誤使用や不注意による事故防止に役立つ注意喚起や警告表示を適切に実施することが求められます。


(5) 事故情報の開示
 自社の製品で事故が生じたとき、事故発生の経緯、使用頻度、メンテナンス情報などの情報を消費者から積極的に収集するとともに、消費者に対して適切な情報提供をおこなうことが大切です。

               

                 

1.3 安全と安心

 私たちは、普段から「安全・安心」の熟語を使用していますが、「安全」と「安心」は基本的に異なります。
「安全」とは、これまで「安らかで危険がないこと」や「物事が損傷したり危害を受けたりするおそれがないこと」という意味で捉えられていましたが、最近の国際標準の理解では、「安全とは受容できないリスクがないこと」と定義し、「安全とはリスクを許容可能なレベルまで低減させることで達成できるもの」としています。
 また、「安全」が、その程度は許容範囲内であると客観的や合理的に証明されている状態に対して、「安心」は、その「安全」の中身を主観的に理解し信頼している状態と定義できます。したがって、アパレル製品に「この製品は安全安心です」と安易に表示するのではなく、正しく安全リスクを分析し、客観的かつ合理的に安全性が事前に証明されていることが前提です。今後とも、このことを理解して、ものつくりと表示を進めていただきたいと思います。

 
1.4 製品の欠陥の分類
 「品質不良」に近い言葉で「欠陥商品」というものがありますね。「欠陥」とは製造物責任法(PL法)で規定され、その法律によると「欠陥とは、製造物の特性、その通常予見しうる使用状態、その製造業者がその商品を消費者に販売した時期などの事情を考慮して、商品が通常有すべき安全性を欠いていること」とされ、使用状態が通常予見されたかが大きなポイントとなります。
 アパレル製品は、電気製品などに比べて、重大事故発生の可能性は低いと言われますが、実態は、程度の差はあるものの、人体や他の商品に被害を及ぼす事例の発生は報告されています。
 また、アパレル製品や日用工業製品の欠陥は、品質不良と同様に、表1のように、①設計上の欠陥、②製造上の欠陥、③表示上の欠陥の3つに分類されます。人体に直接あるいは間接的に及ぼすハザード(リスク源)は、欠陥に値するものとして、①設計上、②製造上、③表示上の観点から、低減しなければなりません。

表1 アパレル製品の欠陥の分類

1.5 人体への危害の種類

 下の表2.は、アパレル製品が人体に危害を与えるケースのハザード(リスク源)の例を示しています。

表2 アパレル製品と人体危害ハザード

1.5.1皮膚障害
 一般に、かゆみやかぶれ、腫(は)れなど皮膚に何らかの異常を起こすことを広く皮膚障害と呼びます。また、アパレル製品による皮膚障害の要因は、物理刺激と化学刺激に分類されます。

 
(1) 物理刺激
 物理刺激とは衣類と皮膚との接触や圧迫などにより、密着した部分にちくちく感を覚え、かゆみやかぶれが生じることをいい、着用をやめれば症状は改善します。また、鋭利なものや硬いものとの摩擦による裂傷なども含まれます。その原因としては、モノフィラメント糸、衣類の構造(圧迫)、ボタンやファスナーなどの付属やネーム類の“バリ”などが挙げられます。

 
1) モノフィラメント糸

図1 モノフィラメント糸の飛び出し


 モノフィラメント糸は、透明感がある縫い糸のため、プリント生地や色の切り返しの多い製品で使用されることがあります。通常のマルチフィラメント糸は、数十本のフィラメント繊維を撚り合わせて一本の糸としています。これに対してモノフィラメント糸は、1本のフィラメント繊維からなる単一の糸です。モノフィラメント糸で繊維の直径が30μmを超えると、皮膚刺激を感じやすくなるといわれています。皮膚との接触が想定される部位には、モノフィラメント糸は避けるべきです。

 
2) 衣料による圧迫など
 ブラジャーやショーツなど締め付けの多い下着や靴下の場合、着用により持続的に皮膚に圧迫刺激が加わり、その結果かゆみや腫れが生じることがあります。また、一般に皮膚が弱いとされる乳幼児衣料で、手口などのゴムなどによる圧迫も同様の因子となります。

 
3) 付属やネーム類の「バリ」
 ボタンやファスナーなどプラスチック成型品のバリにも注意が必要です。また、合成繊維製の織ネーム類では、ほつれを防ぐためにヒートカット加工(織ネームを熱で溶断する加工)が施されていることがありますが、熱溶融でカット端が硬くなり、取り付け位置によっては、着用時にネームが皮膚を刺激することがあります。

 
(2) 化学刺激
 化学的刺激の原因となる物質には、染料、仕上げ加工剤(防縮・防しわ樹脂、蛍光増白剤、柔軟剤など)、ドライクリーニング溶剤などがあります。
1) 染料、仕上げ加工剤
 綿やレーヨンなどセルロース系の商品の洗濯縮みや着用しわを防ぐための樹脂加工剤には、遊離ホルムアルデヒドが生じるものがあります。この遊離ホルムアルデヒドが高濃度の場合、発疹などの皮膚障害やアレルギーを引き起こす可能性があり、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」により規制値が設けられています。また、蛍光増白剤や柔軟剤の成分も皮膚障害を引き起こす可能性があり、「必要最小限の加工にとどめること」「過剰加工にならないよう十分注意すること」と行政から指導が出ています。
2) ドライクリーニング溶剤
 石油系ドライクリーニング溶剤による化学やけども化学刺激のひとつです。クリーニング店でのドライクリーニング後の乾燥が不十分な場合、衣類に溶剤が残っていることがあり、長時間皮膚に接していると、肌が赤くなったり腫れや水ぶくれの症状を起こす恐れがあります。クリーニング店で石油系ドライクリーニングをしてもらい引き取るときは、ポリ袋から出して風乾で溶剤成分を十分とばすことが大切です。特に合成皮革や羽毛商品など乾きにくい重衣料品で注意が必要です。
(3) 物理的、化学的リスク低減のための対策
 物理的、化学的リスクを低減するために、以下のような対策があげられます。
1) 染料や加工剤メーカーは、法律や行政指導に対し充分に配慮した開発・設計をおこなう
2) 企画設計時に、危害リスクのある材料の使用は、十分検討する
(モノフィラメント糸は、肌に接触が想定される場合、使用禁止する)
3) サンプル段階で、製品チェックや着用試験などを実施し、不具合がある製品は、使用中止や材料の変更、仕様変更をおこなう
4) アパレルや小売りは納入業者に対して、安全性に関する方針を明示して管理の徹底を図る
5) 商品を販売する際は、下記のような注意表示で消費者に注意喚起してリスクを伝えること

図2 注意表示例

 

1.5.2 燃焼性(表面フラッシュ)
(1) 表面フラッシュとは

図3 表面フラッシュ現象

 昨年12月の第8回コラムのP.3で、安全関連の設計不良事例として、本事例は一度紹介しました。あらためて申し上げますと、以下の通りです。
・同現象は、ガスコンロなどの炎が接触して生地表面の毛羽が瞬間的に燃え広がるもので、その炎に驚いてお鍋をひっくり返して火災になったり、火傷を負うなどのPL(製造物責任)に発展しうる現象である。
・表面フラッシュが起こりやすい商品には、綿ニットの表起毛品、表パイルなどを使用したトレーナーやパジャマなどがある。要は、燃えやすい綿繊維などの周りに
起毛加工などによる十分な空気(酸素)が存在するときに、本現象は発生しやすい。

 
(2) 表面フラッシュの評価
 合繊混紡品など判断が微妙な素材は、表面フラッシュ試験「JIS L 1917 繊維製品の表面フラッシュ燃焼性試験」を実施し、基準に合格したものを採用することが大切です。試験の概略と評価基準例の詳細は、(一財)ニッセンケン品質評価センターに改めてお問い合わせください。

 
(3) リスク低減のための対策

図4 毛羽燃焼の注意表示例

表面フラッシュ現象が起こりやすいセルロース系ニット素材は、事前に同試験をおこない、試験結果に基づき、次のような対策を実施します。
1) 「表面フラッシュが著しい」素材については採用を中止する
2) 綿100%素材に代えて合繊混用品を使用する。また難燃加工を施す
3) 「注意」と判定された素材は、注意表示を付けて販売する

 

1.5.3 子ども服のひも仕様
 この項についても、昨年12月の第8回コラムP.5で紹介しましたね。子どもさんが着用していた衣料品に取り付けられていたひも、固定ループ、調整タブなどが、遊具や乗り物のドアに挟まれて、不測の事態が発生しないように仕様に配慮しなければならないものです。特に、背面、後頭部、パンツ裾など、視野に入りにくい部位のひも仕様には、万全の注意が必要です。ぜひ、読み返していただければと思います。

図5 子ども服の安全リスクの例 (経済産業省パンフレットより引用)

                   

1.5.4 針等危険物の混入
(1) 針等危険物の混入

 アパレル製品は、糸⇒生地⇒縫製と多くの工程をへて消費者の手にわたります。危険物の混入はこれらの各工程で発生する可能性があり、特に金属片は人体に危害を及ぼす可能性が高いといえます。被害者から損害賠償を請求された場合、製造物責任法に定める製造事業者として、治療費などの損害に対して金銭による賠償が求められます。

                    

(2)針等危険物の混入に対するリスクの低減策

図6 検針機の一例
 (株)ハシマHPより引用


 アパレル製品は、製造過程で縫い針の使用が必須です。加えて、原料の加工工程における起毛針の折れ、販売時の寸法直しのまち針の混入なども考えられます。製造、流通から販売までのルート全体に、総合的な管理が求められます。針管理方法としては、①出荷時の検針機による全品検査、②縫製工程の針管理があります。

①出荷時の検針機による全品検査
 縫製工程では縫い針だけではなく、工具の破片、クリップ、ホチキスの針、荷札の針金など様々な金属片の混入が考えられます。検針作業手順や検針機の点検方法をマニュアル化するとともに、日付、検査数、異常の有無、異常があった場合の内容と処置方法などを「検針日報」に記録し保管します。縫製工場に設置する検針機には色々なタイプがありますが、包装後に図6のような検針機で、全品検査することが大切です。                                          
②縫製工程での針管理
 縫製工程では、「使用針管理台帳」などによる管理方法があります。「使用針管理台帳」は縫製工場内の各工程単位に、針の在庫数、針の定期交換や針折れ交換の実績などを記録するものです。作業中に針が折れた場合は、破片は見つかるまで捜すなど徹底した管理が求められます。

図7. 「使用針管理台帳」の例

 
1.6 安全に関する法律や規制
 有害物質とは、環境中に排出されると、人の健康や生活環境に被害を生じさせるおそれのある化学物質のことです。繊維製品に使用される化学物質の安全性に関する法律には、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」(昭和48年10月制定)があります(表3参照)。平成28年に、新たにアゾ化合物(24種の特定芳香族アミンを生成するもの)が追加されました。
 特定芳香族アミンの規制では、繊維業界の各サプライチェーンで、「不使用宣言書」等で基準適合を確認するために素材メーカー・染色企業等に「不使用宣言書」に求めるという仕組みが実施されています。納入先から、不使用宣言書の提出を求められることもありますので、社内体制を構築してください。

表3 「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」 一覧表(繊維関係)

                   

1.7 今後の課題
 近年のアパレル業界の商品企画設計や本生産では、次のような傾向がみられます。
・商品企画・設計において、ファッション化、軽量化、ストレッチ化、機能化がすすめられています。これまでなかった材料の採用や組み合わせ、新しい縫製仕様や二次加工なども増えています。
・海外生産において、中国だけでなくアセアン地域の生産も増加し、現地素材の採用なども増加しています。
このような状況下に、アパレル企業やアパレル商社は、各種安全に関連するハザードを常に認識し、
企業の安全管理システムとしてアセスメント(評価)を実施し、安全リスクを低減させる具体的な対策を講じなければなりません。
・皆さんも、そのような目や意識をもって、業務に取り組んで頂きたいと思います。

                      

<次回のコラムについて> 

 次回は、「アパレル製品の機能性の考え方」についてお話します。消費者により魅力ある商品を開発するために、機能性開発は大きな要素と思います。引き続き、勉強していきましょう。

コラム : アパレル散歩道⑯
~繊維製品の品質苦情はなぜなくならないのか~
テーマ : アパレル製品の機能性の考え方

               

発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター マーケティンググループ 企画広報課

E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

                  

Profile:清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)  

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。

社外経歴
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長
日本繊維技術士センター執行役員 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会常任委員 TES会西日本支部代表幹事

               

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