アパレル散歩道

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第62回 : 「テキスタイルの外観特性」

2024/03/01

テキスタイルの特性を学ぼうアパレル散歩道 テキスタイルの特性を学ぼう
今回の「アパレル散歩道」では、テキスタイルの「外観」に影響を与える性能についてご紹介します。本稿では、代表的な外観特性として、「しわ」、「プリーツ」、「ピリング」、「スナッグ」を取り上げ、技術的背景を考えます。

2024.3.1

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  1. はじめに
     前回の「テキスタイルの機械的特性」では、テキスタイルを着用した時の破損や伸びなどの変化について説明しました。
     今回の「アパレル散歩道」では、テキスタイルの「外観」に影響を与える性能についてご紹介します。本稿では、代表的な外観特性として、「しわ」、「プリーツ」、「ピリング」、「スナッグ」を取り上げ、技術的背景を考えます。


  2. しわ
     衣料品は、その使用過程で、着用じわ・洗濯じわ・乾燥じわ・保管じわなどが発生します。また、テキスタイルの繊維組成や組織、密度などによって、しわ発生の程度は大きく異なります(図1参照)。
     さて、私たちは経験的に、しわ発生について以下の3つを理解しています。
    • 合成繊維やウールは、しわが発生しにくい
    • 綿や麻、レーヨンなどは、しわが発生しやすい
    • 織物はニットよりも、しわが発生しやすい

    図1 しわの外観例
    図1 しわの外観例

     しかし、「なぜそうなのか?」と聞かれると分からないことも多く、これらのメカニズムを知ることは、衣料品関係者としてだけでなく、一人の消費者としても、衣料品の消費性能を理解する上でも大切です。テキスタイルのどのような特性がしわ発生に関連しているか、ぜひ勉強しましょう。


    1. 繊維の伸長弾性率
       図2は、繊維の伸長弾性率と織物の防しわ度の関係を示しています。たて軸の防しわ度は、この値が大きいほどしわが発生しにくく、防しわ度と伸長弾性度は比例して、伸長弾性率の大きい織物はしわが生じにくいことを示しています。要するに、引っ張ると伸びて戻りやすいテキスタイルはしわが生じにくいと言えます。

      図2 繊維の伸長弾性と織物の防しわ性1)
      図2 繊維の伸長弾性と織物の防しわ性1)


       次に、主な繊維の伸長弾性率を表1に示します。伸長弾性率は繊維を通常3%伸ばし、除重後に復元する程度を%で示しています。そして、この値が大きいほど回復力のある繊維で、長期使用でもしわ発生が少ないことを示しています。伸長弾性率の大きいポリエステルやポリプロピレンなどの合成繊維や毛(ウール)はしわになりにくく、比較的値の小さい綿・レーヨン・麻・絹などはしわになりやすいということになります。

      表1 各種繊維の伸長弾性率2)
      繊維の種類伸長弾性率
      (3%伸長時)
      ポリエステル95-100
      ポリプロピレン90-100
      アクリル90-95
      ナイロン98-100
      ポリウレタン95-99*
      毛(ウール)90
      綿74*
      レーヨン55-80
      48*
      54-55

      *伸長率 (ポリウレタン55% 綿2% 亜麻2%) の値を示す



    2. テキスタイルの密度
       テキスタイル(特に織物)は、生地の密度によってしわ発生の程度が異なることがあります。ニットのように密度が粗いテキスタイルは組織糸が動きやすく、着用による圧縮で折り曲げられても糸が戻りやすいので、しわが回復しやすいといえます(図3参照)。
       しかし、織物は高密度になるほど糸のずれは戻りにくく、除重後もしわが回復しにくくなります(図4参照)。

      ニット
      ニット
      織物
      織物

      図3 ニットと織物の外観比較例


      密度:小
      密度:小
      密度:大
      密度:大

      図4 織物の密度の違い(イメージ)



        ~しわが発生しやすい素材傾向は?~
        • 合成繊維や半合成繊維は発生しにくい
        • 天然繊維(セルロース系・ウール・絹)、再生繊維は 発生しやすい
        • 織物はニットより発生しやすい
        • 織物でも、高密度織物は発生しやすい


    3. 繊維の水分率
       綿100%のワイシャツを家庭で洗濯すると、乾燥後はシワシワになることが多いと思います。これを防止するため、私たちは吊り干しする前にパンパンと叩いたり、引っ張るなど補正し、さらに乾燥後はスチームアイロン仕上げをします。しかし、ポリエステル100%やポリエステル/綿混シャツではどうでしょうか。しわ発生の程度は、綿100%シャツよりもはるかに少ないでしょう。この両者の違いは、綿とポリエステルの化学構造に起因しています。
       図5は、綿や麻、レーヨンなどのセルロース系繊維の化学構造です。構造の中には、複数の水酸基(-OH)があります(赤丸印参照)。この複数の水酸基の存在により水素結合が生じ、優れた吸水性や染色性が出現しますが、水素結合は弱い結合であるため、洗濯など水中でこの結合がゆるんで切れて、乾燥後に再結合します。これが洗濯乾燥後のしわ発生の原因となります。このため、私たちはスチームアイロンなどで水素結合を切断して、再セットを繰り返しているわけです。
       一方、ポリエステルの化学的組成はポリエチレンテレフタレート(PET)ですが、図6のように水酸基(-OH)を含んでいないため水素結合は発生せず、綿などのセルロース系繊維で生じるような現象は、非常に少ないと言えます。

      図5 セルロース系繊維の化学構造(赤印:水酸基を示す)
      図5 セルロース系繊維の化学構造
      (赤印:水酸基を示す)


      水酸基(-OH)がない
      図6 ポリエステル繊維の化学構造
      図6 ポリエステル繊維の化学構造



        ~しわ発生の主な要因~
        しわ発生の要因には、主に次の3つがあります
        • 繊維の伸長弾性率が小さい
        • テキスタイルの密度が小さい
        • 繊維の水分率が大きい

    4. しわ加工について
       衣料品のしわ発生は弱点として捉えられがちですが、最近ではしわを「製品のセールスポイント」と捉えて、生地や製品の染色仕上げ加工の段階で、積極的にしわを与え、独特の感性を発現する加工も実用化されています。
       合成繊維素材では、板締め、袋詰め、箱詰めなどの状態で、熱水やスチーム、乾熱処理を行うことで、生地や製品にしわを固定できます。
       綿などのセルロース素材では、アルカリ浴中で自然なしわをセットできますが、しわに耐久性を与えるため、樹脂加工を併用することもあります。また、ジーンズなどの製品洗いでは、独自なウォッシュアウト感を表現する手法も確立されています。


  3. プリーツ
    1. プリーツ、プリーツ加工について
       加工によって布に付けた「ひだ」や「折り目」をプリーツと言います。プリーツ加工は、以前からスカートやブラウスなどの生地で行われ、わが国でははかまなどにも使用されていました。第二次世界大戦後、熱可塑性のある合成繊維の登場とともにプリーツ加工はさらに進化しました。プリーツ加工衣料は、その独特の装飾的な外観だけでなく、衣料品の立体化技法の一つとして着用者の運動機能もサポートしています。また、同じプリーツ加工でも、繊維の種類によって表2のように加工メカニズムが異なります。

      図7 プリーツの外観例
      図7 プリーツの外観例



      ~プリーツと立体化技法~
      プリーツは、衣料品のデザインパターンにおいて、装飾効果の高い立体化技法のひとつです。他に、ギャザー、シャーリング、タック、フレアなどがあります。装飾性の向上だけでなく、運動機能性も高めています。


      表2 繊維別の加工メカニズム概要3)
      繊維の種類説明
      合成繊維繊維の熱可塑を利用する。ポリエステル、ナイロン、アセテート、アクリルなど
      天然繊維
      (綿、麻など)
      繊維の側鎖基(OH基)同士を反応性樹脂で架橋結合する。
      天然繊維
      (ウール)
      繊維自身の側鎖のシスチンS-S結合を活用する 。
      天然繊維
      (絹)
      繊維自身が持つ側鎖基を2官能性のある化学物質で架橋結合させる。


    2. 合成繊維や半合成繊維素材のプリーツ
       ポリエステル、ナイロン、アクリルなどの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維素材は、その熱可塑性注1によってプリーツ加工が可能となります。熱や蒸気を当てることで形態を固定・安定化させ、耐久性を保持し、水に濡れてもプリーツは消えにくい性質を示します。ただしナイロン6素材はポリエステル素材に比べると融点注2やガラス転移点注3が低いため、プリーツ保持性(プリーツの耐久性)はやや低い傾向があります。

      ~融点とガラス転移点の違い~
      注1) 熱可塑性
      合成繊維などのプラスチックが熱で軟化する性質
      注2) 融点
      繊維の高分子鎖が熱により流動し、溶ける温度
      注3) ガラス転移点
      高分子鎖を構成する鎖員(セグメント)が振動し軟化がはじまる温度


    3. 天然繊維素材のプリーツ
       綿やウールなどの天然繊維素材は、素材の特性上、アイロンやプレス(熱、水分、圧力)などで一時的に容易にプリーツを付けることができますが、残念ながら耐久性は低いと言わざるを得ません。このため、天然繊維素材のプリーツ加工では化学処理が併用されます。天然繊維には植物系(セルロース系)繊維とタンパク質繊維があり、それぞれ加工のメカニズムが異なっていますので、以下に紹介します。

      (1) 綿などのセルロース系繊維のプリーツ加工
       ≪プリーツ加工のメカニズム≫
       綿などのセルロース系繊維は、セルロース高分子が多数束状になった構造をしています。
       プリーツ加工は、図8のセルロース系繊維の側鎖の水酸基(OH基)同士を反応性樹脂で架橋結合させる方法によってプリーツ保持性を維持しています。ところで、一般に綿素材などの染色加工で「防しわ加工」と呼ばれる仕上げ加工があります。この加工は樹脂を使って生地にしわを生じにくくさせていますが、プリーツ加工はこの「防しわ加工」のメカニズムを逆に応用したものと言えます。

      セルロース高分子
      OH
      OH
      OH
      OH
      セルロース高分子

      架橋化
      セルロース高分子
      O
      O
      樹脂
      樹脂
      O
      O
      セルロース高分子

      図8 反応性樹脂によるセルロース繊維の架橋結合化



      (2) ウール繊維のプリーツ加工
       ウール繊維は、人間の頭髪と同様にタンパク質で構成され、またタンパク質高分子同士は、シスチン結合(-S-S-)で結合しています。ウール素材のプリーツ加工は、私たちが髪の毛をパーマネントセットするメカニズムとよく似ています。パーマネントとプリーツ加工のメカニズムを表3に紹介します。
       これによると、頭髪パーマネントは還元作用のある薬剤で結合をいったん切断し、髪毛を整えたのち、酸化作用のある薬剤で再結合させています。これに対して、一般のウール繊維のプリーツ加工は、還元性の薬剤で切断し、プリーツ形状を付けたのち、加圧釜の中で空気(酸素)と高温蒸気で再結合させています。図9にウール繊維のプリーツ加工(架橋結合)のメカニズムを紹介します。

      表3 パーマネントとプリーツ加工のメカニズムの比較
      加工の種類説明
      頭髪のパーマネント還元剤でシスチン結合(-S-S-)を切り、整髪後に 酸化剤(2液)で再結合させる
      ウール繊維のプリーツ加工還元剤でシスチン結合(-S-S-)を切り、折り目やプリーツ形態保持後に酸化剤は使わずに、空気酸化と熱処理で再結合させる
      なお、プリーツの保持性がより求められる学生服などでは、特殊な還元剤(シロセット液)を使用したシロセット加工注1がおこなわれる
      注1) シロセット加工 :
      CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)が開発したウール用耐久性折り目加工のこと。


      タンパク質高分子
      -S-S-
      -S-S-
      タンパク質高分子

      還元剤でS-S結合切断
      タンパク質高分子
      -SH HS-
      -SH HS-
      タンパク質高分子
      ②③
      空気酸化と熱で再結合
      タンパク質高分子
      -S-S-
      -S-S-
      タンパク質高分子
      ①もともとタンパク質高分子間にあるシスチン結合(-S-S-)を還元剤で切断し、(-SH HS-) とする
      ②所定のプリーツ形状をセットする
      ③空気酸化と熱処理でシスチン架橋結合を再生する

      図9 ウール繊維のプリーツ加工(架橋結合)のメカニズム



    4. 実際のプリーツ加工工程の例
       実際のプリーツ加工では、マシンプリーツとハンドプリーツがあります(表4参照)。
       また、主なプリーツ加工の種類を図10に示します。

      表4. マシンプリーツとハンドプリーツ
      種類説明プリーツの種類
      ①マシンプリーツ長さ方向に原反加工も、裁断後パーツ加工(着分加工)も可能サイド系プリーツ
      ウェイブプリーツ
      クリスタルプリーツ
      マジョリカプリーツ
      アコーディオンプリーツ
      ②ハンドプリーツ型紙に入れるため、裁断後、パーツでの加工が基本となる


      ウェイブプリーツ
      クリスタルプリーツ
      マジョリカプリーツ

      図10 主なマシンプリーツの例3)

      左からウェイブプリーツ、クリスタルプリーツ、マジョリカプリーツ


      (1) マシンプリーツ
       上下2枚の薄紙の間に生地を投入し、ひだ付けし、熱ロールとフェルトロール間を通して、熱セットします(図11参照)。
      図11 マシンプリーツ機の構造と流れ3)

      図11 マシンプリーツ機の構造と流れ3)



      (2) ハンドプリーツ
       上下2枚の型紙に生地を挟み込み、所定のプリーツ形状を保持したまま、熱処理などが行われます(図12参照)。
      図12 ハンドプリーツ工程3)(アコーディオンプリーツ)

      図12 ハンドプリーツ工程3)
      (アコーディオンプリーツ)

      (3) 樹脂加工によるプリーツ
       綿などのセルロース系繊維のプリーツ加工は以下の工程で行われます。基本的には、樹脂加工した生地を裁断後、所定のプリーツ形状付けをして湿熱処理したもので縫製し、最後にキュアリングし、プリーツが完成します(表5参照)。

      表5 プリーツ加工の工程(セルロース系)
      工程順工程の内容
      1反応性樹脂付け→低温乾燥
      2裁断→プリーツ形状付け(湿熱処理)→縫製
      3熱処理 (高温乾熱処理) 図13参照


      棚にプリーツ予定生地を並べ プリーツの熱処理(ボックスタイプ)

      図13 棚にプリーツ予定生地を並べ、熱処理する(ボックスタイプ) 3)



    5. プリーツ性試験法
       プリーツ性の評価試験はJIS L 1060「織物及び編物のプリーツ性試験方法」で規定されています。この試験規格では、開角度法(A-1法)、糸開角度法(A-2法)、伸長法(B法)、外観判定法(C法)の4種類の試験方法が規定されています。また、アパレル業界では、実用試験として、洗濯試験やドライクリーニング試験なども併用されています。
       詳細はニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください


  4. ピリング
     ピリングや後述のスナッグは、衣料品の外観変化の代表的な現象です。また、その発生は、生地を構成している繊維、糸、生地組織、染色加工とも密接に関係しています。ピリングについては、「アパレル散歩道 第19回」でも解説していますので、ぜひ改めてご確認ください。

    1. ピリングとは
       ピリングは、図14のように衣料の表面が着用や洗濯中に摩擦され、毛羽立って絡み合い、小さな球状の毛玉を生じる現象です。商品の機能に致命的な害はないものの、見た目に良い外観現象ではないため、アパレルの企画担当者は、どのような素材でピリングが生じやすいかの認識をぜひ持ってください。
      ピリングの例(C/E紡績生地 ニットパンツ)

      図14 ピリングの例
      (C/E紡績生地 ニットパンツ)



    2. ピリング発生のメカニズム
       図15のように、短繊維からなる紡績糸はもともと糸自身が毛羽立っており、この毛羽が擦れなど外的要因によって絡まり毛玉が成長します。また、撚りの少ない甘撚り糸には特にその傾向が強いと言えます。しかし、ピリングは短繊維素材だけに発生するのかといえばそうではなく、同図のように、もともと毛羽のない長繊維(フィラメント糸)で構成された生地でも、着用中に粗硬物体と擦れてフィラメント切れを生じて毛羽立ち、この毛羽が成長して毛玉になることもあります(「アパレル散歩道 第19回」を参照)。

      図15 ピリングとスナッグの発生メカニズム

      図15 ピリングとスナッグの発生メカニズム



    3. ピリングの発生しやすい生地とは
       ピリングの発生しやすい素材には次のようなものがあります。

      • どちらかといえば、ピリングは織物よりニットで発生しやすい。ニット用紡績糸は、一般に撚りが甘く、ピリングが発生しやすい。
      • もともと毛羽のある紡績糸で作られた織物やニットは毛羽立ちやすい。
      • 密度の甘い生地でピリングが生じやすい傾向にある。
      • 撚りが甘い糸であるほど毛羽立ちやすく、ピリングが発生しやすい。
      • 合成繊維と天然素材の混紡糸で作られた素材はピリングが発生しやすい。(例:E/C 50/50)
      • 染色仕上げ加工の柔軟加工は、毛羽が発生しやすくなり、ピリングが発生するリスクがある。また、消費者が洗濯時に柔軟剤を過度に使用すると、ピリングは発生しやすくなる。


    4. 毛玉(ピル)の成長と脱落
       ピリング発生のメカニズムが、先の図15のように、擦れなどで発生した毛羽が絡まって毛玉になることから、毛羽立ちしやすい生地でピリング発生のリスクがありますが、着用とともに毛玉が次々と成長する素材や、ウール100%素材のように、ある程度成長したら毛玉が脱落するものもあり、一般的にピリングは、①「紡績糸」、②「特に撚りが甘い紡績糸」、③「紡績糸でも合繊混などの素材」で生じやすいと言えます。
       図16は各種繊維のピリング生成曲線で、ポリエステルなどの合成繊維は、繊維の強度が大きく、毛玉からポリエステル繊維が生地に根をおろした状態になり、発生した毛羽は脱落しません。一方、綿や羊毛などの天然繊維、レーヨンの再生繊維は、繊維の強度も合繊に比べて弱いので、発生した毛玉が徐々に脱落します。
       しかし、綿/ポリエステル、レーヨン/ポリエステルなどの合繊混紡糸使いの生地では、やはり合繊のポリエステル繊維が生地に根をおろすために、毛玉は脱落せず次々と成長することになります。図16のアクリル繊維もピル数が低下していますが、このアクリル繊維は抗ピルアクリルタイプで、レギュラーアクリル繊維に比べて糸強度を低下させたものです。

      図16 各種繊維のピリング生成曲線

      図16 各種繊維のピリング生成曲線4)



      1. ピリングは、紡績糸(短繊維)使いの生地(特にニット)で発生しやすい
      2. 特に、合繊混の紡績糸で発生しやすい。合繊は強度が大きいため、毛玉が脱落しにくい。毛100%生地などでは、毛玉は脱落する
      3. 長繊維も粗硬面との接触によるフィラメント切れから毛玉が発生する
      4. 着用中、よく擦れるポケット口、脇の下、尻部、内股などに発生しやすい


    5. ピリングの評価方法
       ピリング試験は、JIS L 1076「織物及び編物のピリング試験方法」でA法からD法まで規定されていますが、A法(ICI法)が多用されています。A法は、試験片を規定のゴム管に巻いたものを4個1組として、コルク板を内張りした回転箱に入れ、毎分60±2回転の回転速度で、回転箱を編物は5時間、織物は10時間回転させたのち、4個の試験片の毛玉発生の程度を級数判定するものです。試験の詳細は、ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。汎用素材のピリング品質基準は3級が目安です。


  5. スナッグ
    1. スナッグ発生のメカニズム
       スナッグは、「外部との接触による組織糸の飛び出し、ループの突出、ひきつれ現象の総称」です(図17参照)。スナッグもピリングと同様、商品の機能には致命的な害はないものの、見た目にも決して良い外観現象でもなく、特に着用初期にスナッグが発生すると消費者からの品質クレームリスクがあります。スナッグ発生のメカニズムには、①突起物や粗硬物が接触する②生地が引っ掛かりやすいやすい③引き出されやすい、以上3つの要素があります。 このため、スナッグの発生には、糸種、生地の組織、染色仕上げ加工、そして消費者の取扱いが関係しています(「アパレル散歩道 第19回」参照)。

      図17 ニットのスナッグ現象1 図17 ニットのスナッグ現象2

      図17 ニットのスナッグ現象



      1. スナッグは、合繊ニット素材で発生しやすい。特に合繊フィラメント加工糸使い素材で発生しやすい
      2. 編み密度、針密度(ゲージ)が粗く、柔軟加工生地で発生しやすい
      3. 捺染品は裏面が染まっておらず、スナッグが比較的目立ちやすい
      4. スナッグの発生は、消費者の着用状況に大きく関係する
      5. スナッグは、尻部、ポケット周辺、手口など擦れやすい部位に生じる


    2. スナッグの評価方法
       スナッグ試験は、JIS L 1058「織物及び編物のスナッグ試験方法」で、A法(メース法)、D法などが規定されています。メース法は、針のついた金属ボールを生地に接触させる方法ですが、同法はフィラメント切れが再現できません。過酷な条件で着用されるトレーニングウエアなどのフィラメント切れによるスナッグとピルが混在する現象の再現には、D法(金のこ法、研磨布法)などが用いられています。
       用途に合った試験方法を選択することが望ましいです。試験の詳細は、ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。汎用素材のスナッグ品質基準は3級とされています。


(参考資料)
1)「繊維の基礎知識」: 株式会社繊維社、一般社団法人日本繊維技術士センター編 P248
2)「繊維便覧3版」: 一般社団法人繊維学会、丸善出版株式会社 P918~926(2004)
3) 田中厚三 : TES会西日本支部講演資料(2023.10.27)
4)「繊維の基礎知識 第1部」: 一般社団法人日本衣料管理協会 P.79
本稿「第62回アパレル散歩道」の「2.プリーツ」の章作成にあたり、株式会社マルヤテキスタイル 開発ディレクター 田中厚三氏のご助言をいただきました。御礼を申し上げます。

(第63回 アパレル散歩道の予告 – 2024年4月1日公開予定)

 次回は、『テキスタイルの特性を学ぼう』の3回目として、③寸法安定性を取り上げます。
 アパレル業界に携わる立場から、素材の特性を勉強しましょう。

発行元:
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。


社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長

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