アパレル散歩道

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第20回 : アパレル製品と関連法令など

2021/06/15

アパレル散歩道 繊維製品の品質事故はなぜなくならないのか

2021.6.15

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 昨年8月からのコラムで、品質事故、安全事故、表示不適正などの事例を中心に紹介してきましたが、その折々に法令による規制を紹介してきました。今回のコラムでは、「アパレル製品と関連法令など」のテーマを取り挙げて、関連法令を整理したいと思います。アパレル製品の商品企画・生産・広報・販売に関わる皆さんは、このような法令があることを認識し、前向きに運用していただきたいと思います。今回も皆さんと勉強しましょう。

  1. アパレル製品と関連法令など
     アパレル製品に関わる法令を図1に示しています。商品企画に関係するもの、製品などに取り付ける表示内容に関係するもの、流通販売に関するもの、消費者事故対応に関するものなど色々な性格のものがありますが、全て大切なものです。1.1からは個別に紹介していきましょう。

     

    家庭用品品質表示法
    ・繊維製品品質表示規程
    ・雑貨工業品品質表示規程
    医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
    不当景品類及び不当表示
    防止法(景品表示法)
    ・原産国表示
    ・優良誤認
    ・有利誤認
    ・不実証広告規制
    ・機能性表示
    JIS(日本産業規格)
    サイズ規格
    製造物責任法(PL法)
    消費生活用製品安全法
    容器包装リサイクル法(略称)
    ・資源有効利用促進法
    ・容器包装識別表示
    有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律
    消防法
    ・防炎表示
    特定商取引に関する法律
    消費者契約法

    図1. アパレル製品と関連法令

    1. 関連法令などについて
      (1) 家庭用品品質表示法
       この法律は、アパレル製品のものつくりや販売に関わっている人たちには、最もポピュラーなものです。この法律は、経済産業省所管で、家庭用品の品質に関する表示の適正化を図り、消費者の利益を保護することを目的としています。同法による家庭用品には、繊維製品、合成樹脂加工品、電気機械器具、雑貨工業品があり、それぞれ品質表示規程が定められています。衣料品では、繊維製品品質表示規程に従って表示されます

       

      ①繊維製品品質表示規程
       表示事項には、繊維の組成、家庭洗濯等取扱い方法、はっ水性、表示者名及び連絡先がありますが、繊維製品の品目別に表示事項が定められています。詳細は、ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。

       

      (品番) ABC-0001
      (組成) 綿      50%
          ポリエステル 50%
      (株)○○○○
      TEL △△△△
      はっ水
      (水をはじきやすい)

      (株)○○○○ 
      TEL △△△△

      図2. 繊維製品品質表示規程による表示例

       

      表1.対象品目と表示事項 (38品目から一部引用)

      品目 繊維の組成 家庭洗濯等
      取扱い方法
      はっ水性 表示者名
      及び連絡先
      シャツ
      コート 特定織物のみを表地に使用した和装用 〇レインコート等はっ水性を必要とするコート
      その他 〇裏地、及び詰物も含む 〇レインコート等はっ水性を必要とするコート
      水着
      ズボン 〇裏地を含む
      帽子
      ハンカチ

       

      ~「アセテート」と「トリアセテート」はどこが違うの?~

      繊維の指定用語の半合成繊維には、「アセテート」と「トリアセテート」があります。
      酢酸は英語でアセティックアシッド(Acetic Acid)といいます。綿などのセルロース 繊維に酢酸を反応させて、綿の縮みやすい弱点などを改善した酢酸セルロース(アセテート)が作られます。原料が天然物なのに、火を近づけると溶解するなど、少し合成繊維っぽい性質が出現するため、半合成繊維に分類されます。
      このうち、セルロースに含まれる水酸基(-OH)が92%以上、つまりほとんど酢酸化されたものをトリアセテート、それ以下のものをアセテートとしています。 トリアセテートがより合繊に近い性質を示しています。

       

      (2) 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
       この法律は、名前が長いので、一般に「医薬品医療機器等法」、「医機法」、「薬機法」などと呼ばれています。
      本項は前回のコラム(第16回)のP.6で紹介しました。詳細は前回コラムを再読お願いします。概要だけ申し上げれば、「医薬品などの製造・取り扱いに関する法律です。
      医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療用具に関する規制であり、厚生労働省への認可・承認を取得されていない繊維製品(いわゆる雑品)では、機能性繊維を用いたものや、設計で効能効果が考慮されたものであっても、身体や病名への効果効能をうたう内容は表示してはならない」というものです。

      (3) 不当景品類及び不当表示防止法
       同法令で規定されているのは、原産国表示、優良誤認、不実証広告規制、機能性表示についてです。
      本項も、前回のコラム(第16回)のP.5で言及していますので、詳細は前回コラムを再読お願いします。

      1. 景表法でいう原産国は、商品に実質的な変更があった国で、衣料品においては一般的には縫製された国です。
      2. 機能性を商品で謳うときは、合理的データが不可欠です。

       

      表2 機能性表示の適否の例

      機能項目 悪い例 良い例
      吸汗速乾 抜群の吸水速乾性
      世界一の優れた吸汗速乾性
      汗を吸い取りすばやく発散
      優れた吸水速乾性
      消臭 すべての臭いに対応します 汗臭を減少させます
      抗菌防臭 すべての菌の増殖を抑制 繊維上の細菌の増殖を抑制し、防臭効果を示す
      保湿性 肌のかさかさを解消する 保湿効果により繊維上の水分を保つ
      防縮性 縮みません 防縮性があります
      制電 静電気をシャットアウト 静電気を低減させます
      はっ水 雨を通さない はっ水性があります

       

      (4) JISサイズ規格
       このJISサイズ規格は、法令ではなく日本産業規格のひとつです。しかし、法定表示ではないものの、流通でサイズ表示がなかったり、サイズ表示が誤ったものであれば、市場が混乱し消費者に不利益を与えることから、法定表示に準じる規格と理解されています。コラム第12回P.4に「サイズ表示の不適正な例」を紹介しましたが、まず、そこで示した「基本身体寸法」と「表示順位」はまず理解していただきたいと思います。
       また、服種によって3つの区分表示(体型区分表示、単数表示、範囲表示)があります。

      ①体型区分表示
       この表示は、コート、ドレス、上衣類などで、フィット性を必要とする商品を対象としています。
       成人女子用では、この4体型とバスト記号、身長記号を組み合わせたサイズ表示がなされています。

      ②単数表示
       この表示は、成人女子用では上衣類であまりフィット性を必要としないもの、スカートやズボンでフィット性を必要とするものに適用されます。(図3参照)
      SIZE
      ウエスト 64
      ヒップ  91 
          64-91

      図3 単数表示例(タイトスカート)

      SIZE
      バスト 79~87
      身長  154~162
          M

      図4 範囲表示例(婦人セーター)

       

      ③範囲表示
       この表示は、セーターなどざっくり着るものに適用されます。範囲を示す数値(例えば79~87)で表示されます。(図4参照)

       

      表3 範囲表示の呼び方(成人女子用、身長154~162cmの場合)

      呼び方 S M L LL 3L
      基本身体寸法 (cm) バスト 72~80 79~87 86~94 93~101 100~108
      ヒップ 82~90 87~95 92~100 97~105 102~110
      身長 154~162
      ウエスト 58~64 64~70 69~77 77~85 85~93

       

       近年、アパレル製品の販売では、対面販売だけでなく、ネットなどによるECビジネスの拡大により、消費者が商品を試着できない状態が生じ、サイズ不適合による返品も増加していると聞いています。消費者が自らの体型を具体的に把握していただくことが基本大切ですが、事業者も、これまでの基本身体寸法の表示でよいのか、製品仕上がり寸法も必要ではないかなど、消費者がサイズを選択するにあたり、動画なども含めた適正なサイズ情報をどのように発信するのかが、今後の課題となっています。

       

      ~Eコマースとは?~

      「Electronic Commerce」という言葉に由来する造語で、日本語に翻訳すると「電子商取引」となります。Eコマースとは、商品やサービスをインターネット上で売買するビジネスモデルのこと。 Eコマースを短縮して「EC」と表記することもあります。
       近年、アパレルビジネスにおいても、このインターネットビジネスが急増していますね。

       

      (5) 容器包装リサイクル法
       この法律は、正式には「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」といい、家庭から出るごみの6割(容積比)を占める容器包装廃棄物を資源として有効利用することにより、ごみの減量化を図るための法律です。
       また、資源の有効な利用の促進に関する法律(資源有効の利用促進法)に基づいた識別マークの目的は、消費者がごみを出すときの分別を容易にし、市町村の分別収集を促進することにあります。資源有効利用促進法(正式名称:「資源の有効な利用の促進に関する法律」)に基づいて、飲料用のスチール缶やアルミ缶と食料品・清涼飲料・酒類のPETボトル、プラスチック製容器包装、紙製容器包装には、識別マークをつける義務があります。
       アパレル関係では、商品のポリ袋、口紙、プラスチック容器などが対象になっています。

       


      図5 容器包装識別マークの例

       

      (6) 有害物質規制に関する法律
       同法律については、コラム第15回「安全・安心」のP.4で簡単ですがコメントさせていただきました。
      我々が、日常使用している家庭用品には、いろいろな種類の化学物質が様々な目的で使用されています。
      アパレル製品にも、主に染色加工段階で、帯電防止剤、紫外線防止剤、はっ水剤など、さまざまな薬剤が使用されています。この「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」は、家庭用品に含まれる化学物質による健康被害を未然に防止するために必要な規制をおこなっている法令で、現在までに次の表5の物質が健康被害を起こすことが明らかになったために規制されています。(厚生労働省主管)
       アパレル業界の関係者は、法律の主旨を理解し製品の安全安心を確保するため、素材メーカー・商社とともに、正しく同法律が運用される社内ルールを構築することが大切と考えます。特定芳香族アミン規制も、定期的に 仕入先から不使用宣言書を入手するなど、厳格に対応しなければならないと考えます。特に海外で加工された 素材については、より綿密に取り組むことが求められます。

       

      表4 「有害物質規制に関する法律」による規制物質

      (注釈1)4,6-ジクロル-7-(2,4,5-トリクロルフェノキシ)-2-トリフルオルメチルベンズイミダゾール
      (注釈2)トリス(1-アジリジニル)ホスフィンオキシド
      (注釈3)トリス(2,3-ジブロムプロピル)ホスフェイト
      (注釈4)ビス(2,3-ジブロムプロピル)ホスフェイト化合物
      (注釈5)化学的変化により容易に特定芳香族アミン(24種類)を生成するものに限る
      有害物質 用途 主な健康被害 規制日
      ホルムアルデヒド 樹脂加工剤 粘膜刺激
      皮膚アレルギー
      昭和50年10月1日
      ディルドリン 防虫加工剤 肝臓障害
      中枢神経障害
      昭和53年10月1日
      DTTB(注釈1) 防虫加工剤 経皮、経口急性毒性
      肝臓障害、生殖器障害
      昭和57年4月1日
      有機水銀化合物 防菌防カビ剤 中枢神経障害
      皮膚障害
      昭和50年1月1日
      トリフェニル錫化合物 防菌防カビ剤 経皮、経口急性毒性
      皮膚刺激性障害、生殖機能障害
      昭和54年1月1日
      トリブチル錫化合物 防菌防カビ剤 経皮、経口急性毒性
      皮膚刺激性障害、生殖機能障害
      昭和55年4月1日
      APO(注釈2) 防炎加工剤 造血機能障害 昭和53年1月1日
      TDBPP(注釈3) 防炎加工剤 発がん性 昭和53年11月1日
      BDBPP化合物(注釈4) 防炎加工剤 発がん性 昭和56年9月1日
      塩化ビニル 噴射剤 発がん性 昭和49年10月1日
      メタノール 溶剤 視神経障害 昭和57年4月1日
      テトラクロロエチレン 溶剤 中枢神経障害 昭和58年10月1日
      トリクロロエチレン 溶剤 中枢神経障害、肝臓障害 昭和58年10月1日
      塩化水素 洗浄剤 皮膚、粘膜障害 昭和49年10月1日
      硫酸 洗浄剤 皮膚、粘膜障害 昭和49年10月1日
      水酸化ナトリウム 洗浄剤 皮膚、粘膜障害 昭和55年4月1日
      水酸化カリウム 洗浄剤 皮膚、粘膜障害 昭和55年4月1日
      ジベンゾ[a,h]アントラセン 木材防腐・防虫剤 発がん性 平成16年6月15日
      ベンゾ[a]アントラセン 木材防腐・防虫剤 発がん性 平成16年6月15日
      ベンゾ[a]ピレン 木材防腐・防虫剤 発がん性 平成16年6月15日
      アゾ化合物(注釈5) 染料 発がん性 平成28年4月1日

       

      (7) 消防法

      図6 防炎マークの一例

       消防法では昭和44年に導入された防炎規制において、燃えにくい性質のものを防炎性能といい、この基準を満たしたものを防炎物品と呼びます。旅館、ホテル、病院など不特定多数の人が出入りする建築物等で使用されるカーテン、絨毯などは防炎物品であることが義務付けられ、防炎の表示を付けることになっています。
      消防法では、防炎素材を使用したカーテンやカーペットなどの防炎物品を使用することが義務付けられています。防炎物品以外の寝具類、作業服、布張り家具などの防炎品は、火災予防上、防炎性能を有することが望ましいとの観点から防炎製品といわれています。カーテン、じゅうたん等の完成品に付けれる「物品ラベル」と、加工される直前のカーテン、じゅうたん等の材料(原反)に付けられる「材料ラベル」とがあります。防炎マークの認証は、公益財団法人日本防炎協会が実施しています。一般衣料品とは少し異なる特殊な商品ですが、今後防炎機能をもつ商品を企画される場合は、本法令を踏まえた表示対策をおこなってください。

       

      (8) 特定商取引に関する法律
       本コラムのテーマ「品質苦情はなぜなくならないのか」とは少し外れますが、事業者が適正な販売をおこなうことも、広い意味で品質に含まれるのではと考えています。近年、アパレル製品も店頭販売だけでなく、その販売方法は最近ではネット販売も含めて多岐にわたっています。
       特定商取引法は、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。 具体的には、訪問販売や通信販売等の消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフ等の消費者を守るルール等を定めています。
       規制には、行政規制と民事ルールがあり、前者には、事業者に対して、氏名等の明示の義務付け、不当な勧誘行為の禁止、広告規制、書面交付義務などがあります。後者の民事ルールには、クーリング・オフや意思表示の取消し、損害賠償等の額の制限が決められています。

       

      ~クーリング・オフとは?~

      クーリング・オフとは、申込みまたは契約の後に、法律で決められた書面を受け取ってから一定の期間(※)内に、無条件で解約することです。
      (※)訪問販売・電話勧誘販売・特定継続的役務提供・訪問購入においては8日間、連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引においては20日間が設定されています。
      なお、通信販売には、クーリング・オフに関する規定はありません。
      ご注意ください。

       (消費者庁特定商取引ガイドHPより抜粋)

       

      1. 法令や規格は、その主旨と内容をよく理解して運用すること。
      2. 同様に、業界のガイドラインや会社独自のルールもあれば、適正に運用すること。

<次回のコラムについて>

次回は、アパレル製品の二次加工である顔料プリント、熱圧着プリントを取り上げます。

コラム : アパレル散歩道21
~繊維製品の品質苦情はなぜなくならないのか~
テーマ :  アパレル製品の二次加工(顔料プリント、熱接着プリント)

                               

             

発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。


Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。 社外経歴 (一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長 日本繊維技術士センター執行役員 技術士(繊維) 文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員 日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部代表幹事

               

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