アパレル散歩道

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第70回 : 「織物とニットの比較」

2024/11/01

テキスタイルの特性を学ぼうアパレル散歩道 テキスタイルの特性を学ぼう
私たちが、日常身に着けている衣料は、テキスタイルから作られますが、そのテキスタイルには、織物とニットがあります。これまでのアパレル散歩道では、「織物」と「ニット」について、構造、生地特性、そして消費性能の視点から個別に説明を加えてきましたが、今回は少し視点を変えて、特性を集約するとともに、衣料用の織物とニットの違いを整理しましたので、皆様の商品開発や品質管理に役立てていただきたいと思います。

2024.11.1

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  1. はじめに
     私たちが、日常身に着けている衣料は、テキスタイルから作られますが、そのテキスタイルには、織物とニットがあります。これまでのアパレル散歩道では、「織物」と「ニット」について、構造、生地特性、そして消費性能の視点から個別に説明を加えてきましたが、今回は少し視点を変えて、特性を集約するとともに、衣料用の織物とニットの違いを整理しましたので、皆様の商品開発や品質管理に役立てていただきたいと思います。(アパレル散歩道 第37 回38 回参照のこと)

  2. 衣料用の織物とニットの比較
     表1では、衣料用の織物とニットの用途、生産背景、生地特性などについて比較しています。これらによると、明らかに織物とニットには違いがあることが分かります。今回はいくつかの項目について、検証を進めていきたいと思います。

    表1 衣料用の織物とニットの一般比較1)
    項目織物ニット
    製品用途紳士婦人スーツ、ブラウス、ワイシャツ、スカート、防寒着、ブルゾンなど
    (主に外衣、中衣)
    セータ、ニットシャツ全般、ジャージ、スウェット、下着、ソックスなど
    (主に中衣、肌着)
    糸使い
    • 比較的撚りの大きい糸を使用する
    • 一般に細番手から中間番手の糸が多い
    • 一般的に、比較的撚りの甘い糸を使用する
    • 一般に中番手から太番手まで、幅広い糸が 使用される。最近はハイゲージ編機の登場により細番手糸を使用することもある
    組織基本組織
    (平織、綾織、朱子織)
    基本組織
    (平編、リブ編、パール編、両面編など)
    混用方法交織交編
    密度打ち込み (経糸・緯糸ともに 本/インチ)度目 (ウェール/インチ ・ コース/インチ)
    生産背景製造機器織機 (通常織機、ドビー織機、ジャカード織機など)よこ編み機、丸編み機、経編機など
    リードタイム
    (生産準備期間)
    経糸の準備(整経)期間が必要のため、一般にニットより準備期間は必要経糸の準備などは不要のため、一般に織物に比べると短期間
    生産性ニットより動力消費多く、生産速度遅い織物より動力消費少なく、生産速度速い
    生地性能ドレープ性ニットより低い織物より高い
    手触りこし、はりがある柔らかくしなやか
    ストレッチ性一般にストレッチ性は低い一般にストレッチ性は大きい
    保形性一般に寸法安定性は高く、型くずれしにくい一般に寸法安定性は低く、型くずれしやすい
    運動機能伸縮性がなく、身体にフィットしにくく、身体を動かしにくい伸縮性に富むため、身体にフィットして、身体を動かしやすい
    しわ織物組織上、糸に自由度が少なく、しわが発生しやすい糸の自由度があり、しわが発生しにくい
    質量(目付)一般に見掛け密度は大きい一般に見掛け密度は小さい
    厚み一般にニットより薄い一般に織物より厚い
    通気性同一質量で比較すると、通気性は小さい同一質量で比較すると、通気性は大きい
    保温性通気が少なく保温性が高まるが、厚みが薄く断熱性は低い風の影響大きい。通気によって保温性は低くなるが、厚みがあることで断熱性は高まる
    吸水性一般にニットより低い一般に織物より優れている
    引張強さ同一糸使い、厚みや質量で比較すると、ニットより大きい同一糸使い、厚みや質量で比較すると、織物より小さい
    引張伸度同一厚みや質量で比較すると、ニットより 小さい同一厚みや質量で比較すると、織物より大きい
    品質事故の例引き裂け糸使い、織組織、加工により、引裂けやすいものがある基本引裂けにくい(経編で方向性により引き裂けるものがある)
    衝撃による損傷伸縮性が小さく、衝撃に耐えにくい伸縮性が大きく、衝撃に耐えやすい
    摩耗同一厚みや質量で比較すると、ニットより破損しにくい同一厚みや質量で比較すると、織物より破損しやすい
    ピリング・
    スナッグ
    同一糸使いや質量で比較すると、ピリングやスナッグは発生しにくい同一糸使いや質量で比較すると、ピリングやスナッグは発生しやすい
    シーム
    パッカリング
    発生しやすい織物より発生しにくい
    縫い目滑脱発生することがある発生しない
    縮みや伸び比較的、寸法安定している素材、組織により、縮みや伸び切りが生じる
    伝線(ラン)基本発生しない編み組織により、伝線(ラン)が発生することがある
    耳カーリングコーティングやラミネート後に、カーリングすることがある平編(天竺)生地でカーリングすることがある特に、綿素材などでその傾向は大きい
    強度物性に関する
    品質管理項目
    引裂き強さ、縫い目滑脱抵抗力など破裂強さ、摩耗強さ(素材による)など
    縫製形式主に本縫い(一部ジグザグ縫い)主に環縫い(単環縫い、二重環縫い、オーバーロック縫い、扁平縫い など)
    成型性基本できないよこ編みでは、目数の増減により成形が可能
    膜加工
    (合成皮革など)
    ラミネート、コーティング加工が可能主にラミネートが可能。コーティング加工は樹脂がしみ出す可能性あり
    表示組成表示では、「経糸」と「緯糸」などの分離表示も可能組成表示では、「表組織」や「裏組織」などの分離表示も可能
    製品配送しわ、型くずれ対策のため、ハンガー輸送されることがある基本、折りたたみ配送が多い


  3. 織物とニットの構造の違い
     織物は、経糸と緯糸で構成され、織機で上下に交絡させています。経糸と緯糸が密に直交しているため、基本的には、たて・よこ方向に伸びにくく、バイアス方向は若干伸びる特徴があります。このため、構成糸の自由度は低く、組織的に堅ろうな性質を示します。ただし、合繊加工糸やポリウレタン糸(カバードヤーン)など伸縮性のある糸を使用した場合は、この限りではありません。 ニットは、ループのつながりによって組織が構成されます。連続するループのつながりで組織が形成されるため、たて・よこ方向の伸びは織物より大きく、構成糸の自由度は大きく、これがドレープ性、防しわ、ストレッチ性などに影響を与えています。ただし、ニットの中でも、経編では伸びが少なく、織物に近い性能を持つものもありますのでご注意ください。

    表2 織物とニットの外観、組織について
    項目織物ニット
    外観写真(イメージ)

    経糸と緯糸で構成され、織機で上下に交絡している

    ループのつながりで組織が構成される
    組織の特徴経糸と緯が密に直交しているため、基本的にはたて・よこ方向に伸びにくい。バイアス方向は若干伸びる。構成糸の自由度は低い(伸縮糸使いはこの限りではない)連続するループのつながりで組織が形成されるため、たて・よこ方向の伸びは大きい。構成糸の自由度は大きい(ニットの中でも、経編は伸びが少なく、織物の性能に近い 傾向あり)


      ≪織物とニットの性能≫
      織物とニットには、それぞれ独自の性能がありますが、根本的に性能の違いは、生地の構造の違い、特に糸の自由度の差に大きく起因しています。


  4. リードタイム(生産準備期間)について
     織物の生産では、経糸と緯糸は別工程で作られます。特に経糸は、織機のおさなどや糸同士との摩擦による糸切れのリスクがあり、その対策として、糊付け工程が必要となります。特に短繊維糸では、毛羽などを少なくして、製織中の糸損傷を防いでいます。
     糊剤としては、CMC(カルボキシメチルセルロース)、ポバール(ポリビニルアルコール)などが使用されます。この糊剤が染色時に残留していると、染色不良などの原因になるため、染色前の精錬工程で十分に除去されます。以上のように、経糸の準備(整経)には手間が掛かり、一般にニットより生産準備期間は長くなります。
     私の現役時代の経験では、織物生産準備工程では、整経に約1カ月、製織に約1カ月と、ニットより生産期間が長くなっていました。アパレルメーカーで短い生産スケジュールを組まれる場合は、ぜひ生地メーカーや生地商社に納期をご確認ください。

    図1 織機(ウォータジェット)の一例
    図1 織機(ウォータジェット)の一例

    図2 編み機(丸編み)の一例
    図2 編み機(丸編み)の一例



  5. リードタイム(生産準備期間)について
     表1で、種々の生地の物性項目を紹介しましたが、特にドレープ性、手触り感、ストレッチ性、保形性、運動機能性、しわの発生などは、まさに上記の「道しるべ」に記載した生地の構造の違い、糸の自由度の差に起因しています。これらの項目について、表3でまとめています。

    表3 織物・ニットの特性と生地物性
    項目説明
    ドレープ性布が自重によって垂れ下がる性質のこと。ニットはその編み構造や糸の自由度の大きさから、織物よりドレープ性は大きい。アパレル散歩道 第69回 3.5 参照のこと
    手触り感生地構造や糸の自由度の差から、一般に、織物は「こし・はり」があり、ニットは、「柔らかくて、しなやか」となる。
    ストレッチ性
    生地のストレッチ性は、糸の伸びと生地組織の伸びで決定される。ニットは、ループのつながりによって組織が構成されるため、ストレッチ性に優れる。
    保形性織物は、経糸と緯糸が密に交絡して織られているため、構成糸の自由度は低く、着用や洗濯による型くずれや縮みは少ない。ニットは、ループ構造や糸の自由度の大きさから、着用や洗濯による型くずれや縮みは比較的大きい。
    運動機能性人間の身体は、運動や動作によって皮膚が伸びるため、ストレッチ性の大きいニットが下着や中衣などに適している。織物はストレッチ性が低いため、主に中衣や外衣に使用される。アパレル散歩道 第61回 2.4 参照のこと
    しわの発生しわとは、布に発生した不自然な細かい凹凸のこと。しわの発生は、繊維の水分率にも影響されるが、ニット素材は、ループ構造や糸の自由度が大きいことから、しわは発生しにくい。主にしわの発生は、織物製品の課題となっている。(合成繊維製は比較的発生しにくい)アパレル散歩道 第62回 1.2及び1.3 参照のこと

    表3内でとしましたストレッチ素材の例を表4に紹介します。

    表4 衣料用ストレッチ素材について
    伸縮の程度伸長率生地・構成用途
    低い10~20%ポリエステル加工糸織物
    など
    ジャケット、ブルゾン、スラックス
    (俗にメカニカルストレッチとも言う)
    など
    中程度20~40%ポリエステル加工糸織物
    ポリウレタン混用織物
    ニット素材全般
    ナイロンやポリエステルスポーツ、
    カジュアル用ジャージ、作業服
    など
    大きい40%以上ポリウレタン混用ニット
    など
    ツーウェイトリコット、丸編みの各種タイツ、水着など


  6. 織物・ニットと品質事故について
     表1で、いくつかの品質事故項目を紹介しましたが、織物とニットの物性の違いにより、発生する項目や現象も異なります。これらの項目について表5にまとめています。

    表5 織物・ニットと品質事故について
    項目説明
    引き裂け織物は、経糸と緯糸が密に直交しているため、引張りには強いが、引裂強さが低いものがある。特にコーティング加工などが併用されると、さらに引裂強さは低下するリスクがある。ニットは、基本的にループ構造であるため、引裂かれにくい(注:たて編で方向性により一部引き裂けるものがある)
    衝撃による損傷ニットは、スライディング動作や過度な引張りで、素材が伸びることにより衝撃は吸収されやすい。織物は伸びが少なく、ニットほど衝撃は吸収されない(ストレッチ織物は衝撃吸収が期待される)
    摩耗衣料が外部の物体と摩耗されると、ニットは基本的にループ構造であるため、ループが破壊されることがある。一方、織物は組織が堅ろうで、摩耗による破損は生じにくい
    ピリング・スナッグ
    • 構成糸が短繊維糸の場合、ピリングは生じやすい。一般にニット用の短繊維糸は撚りが甘いため、ピリングは生じやすい
    • スナッグは組織糸が引掛かりにより、引き出される現象であり、一般に組織が堅ろうな織物ではスナッグは生じにくい。一方、ニットはループで構成されているため、粗硬物と引掛かりやすい。特に、加工糸使いのニットはその傾向が強い
    アパレル散歩道 第19回 参照のこと
    シームパッカリング薄地織物の縫製では、生地送りで重ね合わせた生地がずれたりして、シームパッカリングが生じることがある。ニット素材は、織物よりパッカリングの発生は少ないが、縫製時にニット生地が伸びた状態で縫われたことによるシームパッカリングが生じることがある
    縫い目滑脱縫い目滑脱の現象は、織物独自の現象である。織物生地の糸種、密度、生地仕上げ加工、縫製条件、着用者のサイズ適合性などが関係する
    縮みや伸び切り衣料の縮みは、主に生地の収縮に起因する。洗濯収縮のメカニズムには、緩和収縮膨潤収縮がある。織物では、主に膨潤収縮が生じ、ニットでは緩和収縮が生じやすい。 ニットの縮みは品質事故につながるリスクもあり、事前の品質管理が求められる。また、ニットの伸び切りについても、太番手のローゲージ素材で発生しやすく、適正な洗濯取り扱い表示などが求められる
    アパレル散歩道 第49回63回 参照のこと


  7. 縫製形式
     織物とニットの縫製形式の違いについて、表6にまとめています。生地の伸度特性とステッチの伸度特性のマッチングを考慮した縫製仕様の設定が求められます。伸びの大きいニットの縫製では、伸びの大きい環縫い形式が適しています。また、織物は裁断パーツの端がほつれやすいものがあり、必要に応じてオーバーロックなどのかがり縫いを併用することも大切です。

    表6 織物・ニットの縫製形式について
    織物/ニット織物ニット
    縫製形式主に本縫い
    (一部ジグザグ縫い)
    主に環縫い(単環縫い、二重環縫い、オーバーロック縫い、扁平縫い など)
    説明

    本縫い
    本縫い

    ジグザグ縫い(千鳥縫い)
    ジグザグ縫い(千鳥縫い)


    • ステッチに伸びがなく、主に織物を縫う場合に使用される
    • ニットには基本適さない

    単環縫いの例
    単環縫いの例

    二重環縫いの例
    二重環縫いの例


    • 表面は直線状だが、裏面はループ状のため、ステッチに伸びがある
    • ニットの縫製に適している
    裁ち端のほつれあり
    (ほつれ防止のかがり縫い要)
    なし


  8. 最後に
     私たちは、テキスタイルの代表素材である「織物」や「ニット」の長所と短所を十分理解して、商品開発、企画設計、品質管理に取り組むことが大切です。生地の構造が、素材の特性に大きく関連していることをご理解ください。


(参考資料)
1)「繊維の基礎知識(第3版)」:繊維社企画出版、P270-271 表5.3より一部引用

(第71回 アパレル散歩道の予告 – 2024年12月1日公開予定)

 次回は、『テキスタイルの特性を学ぼう』の11回目として、「テキスタイルの機能性」を取り上げます。アパレル業界に携わる立場から、テキスタイル素材の特性を勉強しましょう。

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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