アパレル散歩道

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第26回 : アパレル製品のマーケティング その1

2021/09/15

アパレル散歩道 魅力ある商品を開発するためにアパレル散歩道 魅力ある商品を開発するために

2021.9.15

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 今回の第26回アパレル散歩道から、サブテーマを「なぜ品質事故はなくならないのか」から「魅力ある商品を開発するために」に模様替えして、これまでの品質テーマを踏まえた具体的なモノつくりのステージに進んでいきたいと考えます。 今回は、そのはじめとして、モノつくりの基本であるアパレル製品のマーケティングを考えます。このテーマは、繊維やアパレル製品だけでなく、他分野の製品やサービスにも基本的にあてはまる内容です。また、その中でアパレル製品の品質もどうあるべきか、このマーケティングの段階でぜひ考えていただきたいと思います。

  1. アパレル産業の歴史と変遷
    1. モノつくりの変革

      第一次世界大戦前後の衣料
      図1. 第一次世界大戦前後の衣料1)

       18世紀半ばから19世紀にイギリスで起こった産業革命は、それまでの水力や人力などを使用した手工業的モノつくりから、蒸気機関を使用した工業生産に変革するきっかけになりました。我が国でも、少し遅れますが19~20世紀にかけて、綿や絹製品、そして再生繊維であるレーヨンを中心とした繊維産業が興り、太平洋戦争による荒廃の後、合成繊維の登場とともにさらに繊維産業が復活し、現在に至っています。
       衣料品のデザインやシルエットをみると、第一次戦果対戦(1914~1918)の前後で大きな変化がみられました。多くの男性がヨーロッパの戦場へ出ていったため、女性があらゆる職場に進出し、女性が職場で働ける衣料、働きやすい動きやすい衣料が求められるようになりました。女性の社会進出がアパレル製品を変革したといってもよい時代でした。そして、わが国では、現在につながる本格的なアパレル企業が60年代に勃興しました。(表2参照)

    2. プロダクトアウトとマーケットイン
       昨年の第2回コラムにも少し述べましたが、プロダクトアウトは、会社の方針で生産したいものを作ることを指します。まずプロダクト(生産)ありきで、あとから販売を検討する考え方です。これに対して、マーケットインは、プロダクトアウトとは異なり、顧客や消費者など市場のニーズを吸い上げてモノつくりに反映する考え方です。我が国においても、70~80年代の高度成長期は、モノを作れば売れる時代であったのですが、90年代以降は、モノを作っても売れるとは限らない時代になりました。商品供給過多の昨今、その意味では、「プロダクトアウト」は現状に合致していない考え方であり、いかにマーケットインの考え方で、在庫を最小にして顧客や消費者の満足度を得る商品が提供できるかが大切になっています。
      1. プロダクトアウトからマーケットインへの転換は、少品種大量生産から多品種小量生産への変換が求められ、生産コストは上昇する可能性があります。 そのメリットをよく考慮し、生産コスト低減にも努めることが大切です。

    3. アパレル産業の進展とSPA企業
       60年代から本格的なアパレル産業が勃興したのは前述の通りですが、約60年を経た現在、国内外の多くの要因により、アパレルを取り巻く環境は大きく姿を変えました。その変遷は、表1のように、導入期⇒成長期⇒  成熟期⇒展開期⇒安定期と移行し、今日に至っています。
       表1の⑤の2000年以後の「SPA企業の進展」について説明します。SPAとは、「Speciality store retailer of Private label Apparel」の略で、製造小売業と訳されています。自社で商品企画・製造をおこないますが、卸売りではなく直営店や専門店で販売するアパレル企業の業務形態です。小売業による川上から川下までを包括した大規模なサプライチェーン・マネジメント(SCM)構築することで可能になった形態で、アメリカのGAPが持ち込んだビジネスモデルといわれています。「GAP」、「ユニクロ」、「H&M」、「良品計画」などが代表的なSPAブランドで、自社オリジナル商品の開発・生産・販売をおこなうことで、中間ロスの削減、製造コストを自社でコントロールできる大きなメリットがあります。

      表1. 我が国のアパレル産業の変遷
       区分年代備考
      導入期60年代既製服の少品種大量生産の開始
      成長期70年代ファッションビジネスの本格化
      成熟期80年代日本人デザイナーブランドの登場
      展開期90年代海外縫製の始まり
      安定期2000年代〜SPA企業の進展


      表2. 戦後我が国のアパレル企業の勃興
      西暦年アパレル業界の動向
      1946三陽商会レインコート発売  和江商事(後のワコール)設立
      1948樫山商事が樫山に社名変更
      1949三永(現サンエー・インターナショナル)設立  東京縫製(現東京スタイル)設立
      1951石津商店(後のVANジャケット)設立
      1952ゴールドウイン スポーツウェアに転業
      1953石本商店(現デサント)が野球ユニフォーム販売  島村呉服店(現シマムラ)創業
      1955佐々木営業部からレナウン商事設立  赤ちゃんの西松屋創業
      1957和江商事からワコールへ社名変更
      1958糸金商事からイトキン社名変更  ジュン創業  洋服の青木創業
      1959ワールド設立
      1962レナウン商事がレナウンルック(現ルック)設立
      1961シマムラ創業
      1965三陽商会 バーバリー販売開始
      1971レナウンニシキがダーバンに社名変更  三起商行創業(商標ミキハウス)
      1981無印良品 衣料品開始
      1991小郡商事からファーストリテイリングズへ  青山商事 業界1位へ
      2001ファーストリテイリングズ 海外進出

      ~我が国のアパレルの歴史~
       我が国のアパレル産業は、明治以降からですが、第二次大戦までは、着物(和服)が主流で、既製服製造は、警察官服や軍服など官需産業にほぼ限定され、本格的な民間アパレル産業の勃興には至りませんでした。我が国で、本格的なアパレル産業が立ち上がるのは、第二次大戦後の1960年代からで、高度成長による消費者の所得向上とファッション意識の芽生え、また合繊繊維を主体とする繊維産業の発展が、本格的なアパレル産業勃興を大いに下支えすることになりました。

  2.  

  3. アパレルメーカーのマーケティング
    1. アパレルメーカーの機能
       一般に、企業活動は製品やサービスを消費者に提供し、利益を得る形態です。このため、利益を最大にして企業実績を高めるために、効率の良い仕掛けを色々な局面で講じることは当然であり、人、資金、組織もその方針で投入されます。
       アパレル業界には、紳士服、婦人服、スポーツ、下着インナー、子ども服、ユニフォーム、カジュアルなどのいろいろな業界がありますが、それぞれの業界の会社は、売れる商品、利益率の大きい商品をめざし、業界の市場調査や消費者からの聞き取りを実施し、魅力ある商品開発をおこなっています。
       多くのアパレルメーカーは、多ブランド制をとっているところが多く、ブランドごとにブランドマーケティング部門が設置されています。そして、ブランドマーケティング単位で、MD(マーチャンダイジング)部門、設計(デザイナー・パターン)部門、SP(セールスプロモーション)部門、生産管理部門、営業部門、業務部門などが配置されています。また、全社的には、品質保証部門、消費者窓口も設定しています。(図2参照)
       表3は、アパレルメーカーの職種別の役割を紹介しています。表の「MD」はマーチャンダイザー、「D」はデザイナー、「P」はパタンナー、そして「生産」は生産管理、品質管理、仕入れ等の業務担当を示しています。
      アパレル製品を企画・生産・販売する過程で、多くの業務を各担当者が担っていることがわかります。

      ◎例:ABCアパレル(株)・・多ブランド制

      ・一つのブランドマーケティング部の中に、以下の部門がある。
      MD(マーチャンダイジング)部門
      設計(デザイナー・パターン)部門
      SP(セールスプロモーション)部門 生産管理部門、営業部門、業務部門
      ・会社全体として、品質保証部門、消費者窓口もある。

      図2. アパレルメーカーのブランド制と社内体制の一例



      表3. アパレルメーカーの業務と役割分担

      ◎主役 ○関与

      MD=マーチャンダイザー D=デザイナー P=パターンナー 生産=生産担当

      職種
      仕事の種類
      MDDP生産
      前年の結果や問題点の確認・反省
      ターゲットの設定
      情報収集・分析
      商品企画立案
      (コンセプト・数値計画)
      商品イメージの設定
      (シルエット・素材・色・価格)
      デザイン画作成
      テキスタイル仕入れ先と技術者打ち合わせ
      基本サンプル仕様・副資材検討
      素材物性試験(ボタンなど付属品も)
      サンプル検討会
      展示会・内見会(商品説明)
      生産・販売会議
      (受注予測・生産数量・日程計画・生産体制)
      工場決定(技術水準・工場適正・納期設定)
      資金計画作成・決裁
      設計技術打ち合わせ
      (品質条件・加工難易度・副資材)
      工賃設定
      (生産数・加工時間・難易度・適正利潤)
      加工発注書作成(原価の決定)
      材料類の納期確認
      (ボタンなど付属品の発注)
      工場稼働条件打ち合わせ
      (材料投入日・数量・納期・仕様)
      生産指図(材料・パターン・縫製加工仕様書・生産指図書送付)
      入荷製品品質確認


    2. 商品戦略について
       マーケティングは市場戦略ともいい、情報収集をおこない、商品企画、販売促進、販売方法に至るまでの全ての企業活動を含めた戦略のことで、その担当をマーチャンダイザー(MD)と呼びます。アパレルメーカーでは、商品化計画を進めるに当たり、会社の経営戦略をもとに、各部門のマーチャンダイザー(MD)が、市場動向、販売情報、ファッション情報などを分析し、企業目標を設定すると共に、マーケティング戦略を策定し、商品コンセプトを立案します。(図3.参照)

      図3. マーケティングから商品企画までの流れ

      図3. マーケティングから商品企画までの流れ



      1. 商品政策には、品質も含まれます。
        例えば、スポーツウエアは、ハードな取扱いや用途から品質基準を一般品より高く設定したり、特別な品質項目を設定する必要があります。 また、特殊な作業服では、その服に求められる特殊な機能を維持できる品質基準・機能性基準が求められます。


    3. 商品化と販売計画
       図4のようにアパレル製品のモノつくりは、商品企画から本生産をへて納品まで、結構長い時間がかかるのが現状です。春夏物を例に挙げると、7月前後に展示会、本生産11月開始、翌年1月納品のイメージでしょうか。材料開発、デザイン開発が5月頃に開始されるとすると、のべ8~9ヶ月もかかることになります。しかし、最近では、商品企画の精度向上や早期展開を実現するために、この開発期間が短縮化されている傾向があります。このような状況の中で、引き続き精度の高い品質管理が求められている現実を踏まえ、これらをいかに解決するかが課題になっています。

      図4. アパレルメーカーの年間企画スケジュール(例)

      図4. アパレルメーカーの年間企画スケジュール(例)



       さて、ここで、あるアパレルメーカーが自社ブランドで、清涼感に優れた春夏婦人衣料を市場に投入する企画例を表4.に挙げて、消費企画の流れを説明します。

      表4. 商品化の流れ (清涼感に優れた春夏婦人衣料を例に挙げる)

      調査検討事項具体的な内容
      市場調査いつ頃スケジュールを明確化する。
      7月展示会 11月生産開始 翌年1月市場に投入する
      商品政策どのような商品を30代女性を対象としたファッション性も考慮した商品とする。
      吸汗速乾、熱放散性に優れたニット素材を採用する。
      特殊な繊維や編み構造、生地仕上げ加工を検討する。
      通気性に優れた製品のデザインやカッティングを検討する。
      価格政策価格、生産数は従来同等品比、上代価格10%アップを検討する。直接原価は25%以下に抑える。生産は6型で計10万点とする。
      流通政策どの流通で専門店・直営店で40%、ECで60%とする。
      卸売りはしない。
      販売促進宣伝・広報の方法は媒体として雑誌、インターネット、店頭POPを検討する。
      特にモバイルマーケティングに集中する。


    4. 原価計算について
      原価には、表5のように直接原価と間接原価があります。直接原価とは、製品の製造費用を固定費と変動費に分類し、材料費や工賃などの変動費を中心に原価計算する方式で、間接原価は固定費も含めた原価計算になります。多くのマーチャンダイザーは適正商品量と利益を算出するにあたり、この直接原価を利用しています。

      表5. 直接原価と間接原価
      原価の種類原価の構成
      ①直接原価 (変動費中心)材料費+縫製工賃+二次加工賃 など
      ②間接原価 (変動費+固定費)①+輸送費+人件費+倉庫代+水道高熱・通信費 +消耗品+設備費 など


~マーケティングにおけるコスト検証~
・アパレル製品の上代価格の決定には、①原価積み上げ方式、②先に上代価格があって、後で材料コストを当てはめる方式の2つがあります。
・ここで、「裏地付きジャケット」のコストシュミレーションをしてみましょう。
目標上代が20.000円、目標原価率25%を想定します。
上代×25%で、5.000円が材料費、縫製工賃などです。今、材料が3000円(表地1500円+裏地1000円、副資材500円)、縫製工賃が2000円と仮設定します。
・一方、設計のCADマーキング情報から、表地と裏地の要尺がともに1.8m、生地単価が表地1000円/m、裏地600円/mとすると、表地のコストが1.800円、裏地も1.080円となり、表地裏地の生地合計が2.880円となり、表地と裏地の目標コストより380円高くなっています。
・上代価格と利益率を固定するなら、この380円を副資材や縫製工賃のコストダウンで吸収できるか、また、吸収できないなら、生地単価値下げ交渉や低価格生地への変更が必要になります。
(参考文献)

1)改訂2版「ファッション商品論」P.3 図1-1 (一社)日本衣料管理協会

<次回の第27回アパレル散歩道>

次回「アパレル散歩道」では、今回の続きとして、「マーケティング政策に影響を与える要素」について考えていきます。
引き続きよろしくお願いします。

コラム : アパレル散歩道27
~魅力ある商品を開発しよう~
テーマ : アパレル製品のマーケティング その2


◎お詫びと修正のお願い

7/15公開の第22回アパレル散歩道で、アパレル製品の用語(繊維・糸・織編関連)の3.糸の項で、「単糸使い」と「三子糸」の図が入れ替わっていました。謹んでお詫びと訂正をさせて頂きます。

発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。


Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。 社外経歴 (一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長 日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維) 文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員 日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部代表幹事

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