第37回 : ものつくり原点回帰シリーズ ~織物~
2022/03/01



2022.3.1
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衣料品は生地を裁断して作られます。今回の第37回アパレル散歩道からは、その生地について説明します。今回は、織物を取り上げます。織物は人類数千年の歴史の中で形成された歴史ある繊維素材です。最近では、繊維・糸のバリエーション化とともに織物も多様化していますので しっかり勉強しましょう。
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生地の種類について
アパレル生産に使用される生地(素材)には、どのようなものがあるでしょうか。われわれは、経験的に、まず「織物」と「編み物(ニット)」があるのを承知しています。また、特殊な用途ですが、芯地などの副資材や産業資材には、「不織布」があります。不織布は、繊維を一定方向やランダムに並べて、接着樹脂の使用、機械的作用や水圧による絡み、熱溶融繊維の使用などによって、布状にしたものです。これらを分類すると図1.のようになります。今回のアパレル散歩道では、「織物」を取り上げます。

図1.生地の分類

図2.編物(ニット)と織物の拡大写真

図3.不織布の例
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織物とは

ピンクがたて糸
ブルーがよこ糸
図4.織物のイメージ
織物は、図4のように、たて糸とよこ糸で構成され、織機で上下に交絡した素材のことです。 柄のない無地のものから、紋模様を表現するドビー織物やジャカード織物などの柄組織のものもありますが、基本的には、たて糸とよこ糸の交絡(絡み)により作られます。ジャカード織物はドビー織物より、より複雑な柄が可能な織物です。
一般に、織物はニットほど伸びないイメージがあります。確かに、たて糸とよこ糸に通常伸びない糸を使用すると、その織物は伸びません。しかし、
- たて糸に伸縮糸を使用すると、たて伸びワンウェイストレッチ織物になる。
- よこ糸に伸縮糸を使用すると、よこ伸びワンウェイストレッチ織物になる。
- たて糸にもよこ糸にも伸縮糸を用いると、ツーウェイストレッチ織物になる。
ということになります。
同じ織物組織でも、糸のタイプが異なれば、全く異なる物性を示す織物が生まれます。商品開発、素材開発の担当者は、糸の特性を十分把握して、織物設計することが大切になります。
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織物の歴史
中国では紀元前3500年頃には、既に絹織物の生産が行なわれていました。紀元前2700年頃の墳墓から精巧な染織品が発掘されています。養蚕は紀元前200年頃までに、朝鮮半島や日本列島等に伝わったと考えられています。また、古代エジプトでも、紀元前5000年前の壁画にも、麻織物の機織りの絵が描かれています。しかし、たて糸の間によこ糸を打ち込むメカニズムは、現在の最新織機でも同様であることは、非常に興味深いですね。

図5.機織り作業が描かれるエジプト壁画(紀元前5000年前)
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織物の規格
アパレルに係る担当者が理解すべき織物の規格には、「糸種」「密度(打ち込み)」「全幅、有効幅」「総長」などがあります。これらの織物の規格は、コスト、生産管理、品質管理にとても重要な情報になります。
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糸種
たて糸、よこ糸に使用している糸のタイプのことで、これにより糸自体の規格をしっかり把握することができます。前回、前々回の「アパレル散歩道」糸編を改めてご確認ください。
表1.織物の糸使いの表示例
例 | 糸使いの表記例 | 組織例 | 意味 |
1 | たて糸 綿/ポリエステル 60/40 40s/2 よこ糸 ポリエステル 100 30/- | 綾織 | たて糸に綿60%・ポリエステル40%の40番双糸、よこ糸にポリエステル100%の30番単糸を用いた綾織の生地 |
2 | たて糸 ポリエステル 83dt /72 / 2 よこ糸 ナイロン 78dt/36 | 平織 | たて糸にポリエステル100%で太さが83デシテックス(※フィラメントカウント 72)の糸を2本合糸した糸、よこ糸にナイロン100%で78デシテックス(フィラメントカウント36)の糸を用いた平織生地 |
※フィラメントカウント:フィラメント糸を構成するフィラメントの本数
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密度(打ち込み)
織物の物性を考える時、糸密度は大きい要素になります。
図6のように、経緯とも同じ糸使いでも、密度の粗いもの(左)と密度の細かいもの(右)を比較すると、左の生地はガーゼのように柔らかく不安定な感があります。これに対して右の密度の大きい生地では、組織に安定感はありますが風合いは硬くなります。 また、糸量も多くなり、コストは上昇するでしょう。

図6.織物の密度の違い(イメージ)
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密度の表記
織物の密度は、1インチ(2.54cm)間当たりの糸本数で示されます。
また、密度は「打ち込み本数」とも呼ばれています。
図7では、黒色のたて糸が1インチ間当たり何本あるかが、たて糸密度に相当します。表2に表記例を示しています。俗にポリエステル裏地などで、「210本タフタ」や「190本タフタ」などと呼ばれているものがありますが、これはたて糸とよこ糸の本数を足した数字をそのように標記したものです。

図7.織物の密度
表2.織物の密度の表記例
密度(打ち込み本数)の表記例 | 意味 |
例: 110×80 | 当該素材は、たて糸が110本/インチ、よこ糸が80本/インチで構成される。 |
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幅と総長について
製織後に染色加工され、でき上がった生地は、通常巻かれた原反の状態で縫製工場に出荷されます。
生地の幅には、「全幅」と「有効幅」があります。有効幅は、全巾でなく、耳内巾で裁断のマーキングがおよぶ幅のことで、直接原価計算に関係する大切なものです。ちなみに、「総長」とは各原反の長さで、通常少数点第一位まででメートル(m)で原反ごとに示されています。また、「幅」は「巾」とも記載されることもあります。
表3.織物の幅の種類
生地幅の種類 | 意味 |
全幅 | 生地全体の幅で、耳を含む。 |
有効幅 | 耳を除いたマーキング可能な耳打ち幅で、この数値が重要となる。 |
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織物の種類
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原料別分類
繊維や糸には数々の繊維の種類があるため、織物も「綿織物」「麻織物」「毛織物」「絹織物」「化学繊維織物」などがあります。特に、天然系の織物は、長い歴史もあり、特有の名称がついています。しかし、もともと天然繊維特有の名称も、合繊などに置き換えられて今日に至っています。例えば、「タフタ」はもともと絹織物の名称でしたが、現在では、「ナイロンタフタ」や「ポリエステルタフタ」などと置き換えられています。しかし、時々「コットンタフタ」などの表記をみますが、綿は紡績糸であり、「コットンタフタ」はいかがなものかと思います。ぜひ繊維の特性や歴史を踏まえて、適正な表記で扱ってほしいと思います。
表4.原料別織物の分類
原料別 | 分類 | 例 |
1.綿織物 | 綿布 | シーティング 金巾(かなきん) など |
2.麻織物 | 苧麻織物 亜麻織物 | ラミークロス リネンクロス など |
3.毛織物 | 梳毛織物 紡毛織物 | サージ カルゼ など フラノ メルトン ツイード など |
4.絹織物 | 生絹(きぎぬ) 練り絹 | 羽二重 縮緬 ジョーゼット シフォン 緞子 タフタ シルクサテン など |
5.化学繊維織物 | 原料別 形状別 その他 | レーヨン織物 ポリエステル織物 など フィラメント織物 スパン織物 混紡織物 交織織物 など |
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原料別分類
織物を組織的に分類すると、平織、綾織、朱子織の3つに分類されます。組織図の■は、たて糸がよこ糸の上にあることを示しています。ここでは、糸の交絡数が多い順に、平織>綾織>朱子織となり、一般的に、糸の交絡数が多くなると、滑脱抵抗力が大きくなり滑脱しにくくなりますが、ペーパーライクになり、引き裂き強さが低下する傾向がありますので、ご注意ください。
表5.織物の組織別分類
組織名 | 平織(ひらおり) | 綾織(あやおり) | 朱子織(しゅすおり) |
組織図 (一例) |
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拡大写真 |
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代表的な 生地名 |
ポプリン、ブロード、ギンガム、タフタ、シャンブレー、トロピカル、オーガンジー等 |
デニム、ギャバジン、スレーキ、サージ、ビエラ、ツイル、バーバリ 等 |
サテン、ドスキン 等 |
特徴 |
たて糸とよこ糸の交絡が多く、織組織が丈夫であるが、引き裂き強さ要注意 |
綾目があることが特徴 |
たて糸とよこ糸の交絡がすくない。光沢があるが、滑脱の可能性あり |
≪織物組織と強さの関係≫
一般的に、糸の交絡数と引き裂き強さや滑脱抵抗力の関係は次の通りとなる。
- 引裂き強さ
平織 < 綾織 < 朱子織
- 滑脱抵抗力
平織 > 綾織 > 朱子織 (縫製での工夫が必要)
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織機について
織物は、織機で生産されます。①の整経工程では、まず、たて糸を準備し、織機に必要本数をセットします。②では、所定の織機で、よこ糸を打ち込み、③の生機(きばた)ができ上ります。そして、この生機が染色工程に送られます。
図8. 織物生産の流れ
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織機の原理
製織の原理は、並び合うたて糸を組織に合わせて上下に開口し、よこ糸を挿入します。図9は織機を真横からみたものですが、「たて糸」を上下に広げた開口部に「よこ糸●」を打ち込み、櫛状の「おさ」でよこ糸をしっかり巻き取り方向に詰めています。これをおさ打ちといいます。

図9.製織の原理
図10.自動織機の例
≪整経工程と生産スケジュール≫
たて糸を準備することを整経と呼びます。私の経験では、生産準備工程では、整経に約1ヶ月、製織に約1ヶ月など、織物はニットより準備時間がかかるため、短納期な生産スケジュールを組む場合はご注意ください。
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織機の種類
長い繊維産業の歴史の中で、織機は、生産性や品質の面から、よこ糸の打ち込み方式で色々なタイプが開発されてきました。以下に、その織機の種類を紹介します。現在、汎用織物は、エアージェット織機とウォータージェット織機が主流になっています。
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ドビー織物とジャカード織物
私たちは、柄織の生地を「ドビー」や「ジャカード」と呼んでいますが、どこが違うのか明確に説明できないことがあります。なんとなく、ジャカードの方が、柄が複雑というイメージしか知らないかもしれません。図12で比較していますので、ご確認ください。
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高密度織物について
高密度織物は、文字通り、たて糸とよこ糸を高密度に打ち込んだ織物のことです。図13は、通常密度の織物と高密度織物を比較しています。ひと言でいうと、糸と糸の間の隙間の有無がまず違います。この違いによって、風合い、耐水性、通気性などが異なり、衣料品の用途によって、使い分けられています。
一般に、織物に耐水性を付与するには、裏面に樹脂コーティング加工やラミネート加工をすることが多いのですが、風合いがペーパーライクになるなどの弱点があります。一方、高密度織物では非コーティングでもある程度の耐水性などが確保されます。しかし残念ながら、高密度織物のほうが糸量も多く、コストは高くなることをご承知ください。

図13.一般織物(左)と高密度織物(右)の外観例
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織物の物性試験
織物の試験は、日本産業規格JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」などに規定されています。詳細は、同規格をご確認ください。一般的なアパレルメーカーでは、用途に応じた品質基準を運用していますが、代表的な織物の強度基準は、「引張強さ」「引裂強さ」「滑脱抵抗力」を管理しているアパレルメーカーが多いようです。
この「引張強さ」「引裂強さ」「滑脱抵抗力」の3項目をしっかり押さえていれば、衣料品の強さ関連の品質事故は、まず大丈夫だったという印象があります。この点を充分考慮して、品質管理をお願いします。
≪≪引張強さと引裂強さ≫
- 引張強さが大丈夫でも、引裂強さが大丈夫とは限らない。引張強さは、繊維方向の強さで、引裂強さは繊維に対してせん断方向の強さである。特にカレンダー加工を施した生地は、ペーパーライクになり、引裂強さが要注意となる。
(次回のアパレル散歩道)
次回は、ものつくり原点回帰シリーズ~編物(ニット)について~を予定しています。
コラム : アパレル散歩道38
~魅力ある商品を開発するために~
テーマ : ものつくり原点回帰シリーズ ~編物(ニット)について~
発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。
社外経歴
日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部代表幹事
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長