アパレル散歩道

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第57回 : ケーススタディ⑬安全性不適切

2023/10/01

品質事故を分析して原因と対策を考えようアパレル散歩道 品質事故を分析して原因と対策を考えよう

2023.10.1

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 今回は、アパレル製品の安全性に関連する事例を紹介します。
 アパレル製品や電気製品などの消費生活用品の安全性は確実に守られるべきであり、アパレル製品に関わる私たちは、安全性に関連する法令や事故例を理解したうえで、企画開発、生産管理、販売に取り組む必要があります。アパレル製品の安全については、2021年3月15日付の「アパレル散歩道 第15回」で「アパレル製品の安全・安心」というテーマでリスクマネジメント等について取り上げていますので是非ご覧ください。



  1. 安全である権利について
    1. ケネディの「消費者の4つの権利」
       さて、現在では各種生活用品の安全性が社会的に大きく取り上げられていますが、消費者の安全性に関する権利は、もともと1962年に当時のアメリカ大統領ケネディによる「消費者の4つの権利」提唱(表1参照)に始まります。この中の権利のひとつが「安全である権利」であり、これ以降、消費者が安全に消費生活をおくる権利が国際的にも明確になり、法制化も進んで現在に至っています。

      表1 ケネディの「消費者の4つの権利」
      内容
      1安全である権利
      2知らされる権利
      3選ぶ権利
      4意見が反映される権利


    2. 企業の社会的責任
       企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility、略称:CSR)とは、企業が社会や地域に対して責任を果たしつつ、共に発展していくための企業活動です。CSRには、各種の法令順守の義務などはもちろん、安全・安心な商品やサービスの提供人権尊重環境配慮流通の適正化などの取り組みが求められます。アパレルメーカーにとっても、製品の安全性確保は最も重要なミッションの一つになっています。


  2. 安全・安心の定義
     さて、「アパレル散歩道 第15回」でも安全・安心の定義を示していますが、改めて以下に紹介します。
     私たちは、普段から「安全安心」という4文字熟語を使用していますが、「安全」と「安心」は基本的に異なります。「安全」は、これまで「安らかで危険がないこと」や「製品が損傷や危害を受ける恐れがないこと」の意味で捉えられていましたが、最近の国際標準の理解では、以下のように定義されています。

    • 「安全」とは、その程度は許容範囲内であると客観的かつ合理的に証明されている状態
    • 「安心」とは、その「安全」の中身を主観的に理解し信頼している状態


     したがって、アパレル製品などでは「この商品は安全安心です」と安易に表示したり説明するのではなく、正しく安全に対するリスクを分析し、客観的かつ合理的に安全性が事前に証明されていることが前提であり、今後もこれらを理解して、材料選択、ものつくり、そして表示作業を進めていただきたいと思います。


  3. アパレル製品と安全性
    1. アパレル製品の安全関連の事故例
       アパレル製品は、電気製品などに比べて重大な事故発生の可能性は低いと言われますが、実態は、程度の差はあれ、人体や他の商品に被害を及ぼす事例が報告されています。また、アパレル製品の安全関連事故は、一般の品質不良と同様、表2のように、①設計上、②製造上、③表示上の3つに分類されます。
       安全関連事故が発生すると、当該消費者への適切な対応はもちろんですが、発生原因と責任の所在を明確にして、関連部門に確実にフィードバックし、具体的に改善されたかの確認や記録も大切になります。

      表2 アパレル製品の安全関連の分類と事例
      不良の分類内容事例
      設計上の不良
      • アパレル製品の設計自体に問題があった
      • 首回りが小さく、着脱時に耳が擦れた
      • 面ファスナーが擦れて痛い。また、他の商品を傷めた
      • 織ネーム溶断端が擦れて痛い
      • スキーウェアに過度に平滑な表地が使用され、スキー場で滑落した
      • 子ども服のパンツの裾ひもが長く、自転車に絡まった
      • 靴下の口ゴムのパワーが過度に強く皮膚が赤くなった
      • 水着やタイツなどで、裏面の縫い目が擦れて痛い
      など
      製造上の不良
      • 当初の仕様書や設計通りに製造されなかった
      • 製造にばらつきが発生し、不良ロットが発生したり、不良品が混入した
      • 縫製現場の判断で、肌に当たる部分をモノフィラメント糸で誤って縫った
      • ミシンの折れ針が混入していた
      • 樹脂ボタンなどに、成形バリが残っていた
      • 染色加工場で、使用不可の薬剤が使用された
      など
      表示上の不良
      • 商品の危険性について、適切な警告が表示などで実施されていなかった
      • 雨天でのシューズ底の滑りに関する警告表示がない
      • 綿ニット起毛品で表面フラッシュに関する表示がない
      • 寝袋で、適正な使用気温表示がない
      など


    2. 主なアパレル製品の安全事故ハザード
       ここからはアパレル製品が人体に危害を与える場合の、ハザード(リスクとなる源)を紹介します。

      1. 皮膚障害
         一般に、着用によるかゆみやかぶれ、腫れなど皮膚に何らかの異常を起こすことを広く皮膚障害と呼びます。また、アパレル製品による皮膚障害の要因は(1)物理刺激と(2)化学刺激に分類されます。ハザードを以下に紹介します。

        (1) 物理刺激
        ①モノフィラメント

         モノフィラメント糸は、透明感がある縫い糸で、捺染生地や色切替の製品で使用されることがあります。通常のマルチフィラメント糸は、数十本のフィラメント繊維を合わせて1本の糸としていますが、モノフィラメント糸は、1本の太いフィラメント繊維からなる単一のフィラメント糸です。モノフィラメント糸で繊維の直径が30 ミクロン(μm)を超えると硬くなり、フィラメント糸の先端との擦れによって皮膚刺激を感じやすくなると言われています。皮膚との接触が想定される部位には、モノフィラメント糸は避けるべきです。使用する場合は、太さを事前に確認し、事前に製品洗濯試験や着用試験を経て採用の可否を決定してください。
        ②衣料による圧迫など
         ファンデーションなど締め付けのきつい下着や靴下では、着用時の圧迫により持続的に皮膚に圧迫刺激が加わり、その結果かゆみや腫れが生じることがあります。また、皮膚が弱いとされる乳幼児の衣料では、手口などで強いゴムなどによる圧迫も同様の因子となります。対策では、衣服圧を考慮した商品設計やパターンの工夫が求められます。
        ③付属やネーム類の「バリ」
         ボタンやファスナーなどプラスチック成型品のバリにも注意が必要です。バリとは成型時の樹脂注入口の跡で本来はきれいに除去されるものですが、プラスチック成型の加工不良によって注入口が凸状に残り、着用で人体や他の製品を傷つけることがあります。副資材メーカーのさらなる品質管理・出荷検査に期待したいと考えます。
        ④面ファスナーによる擦れ、引っ掛け
         面ファスナーは、基本ループ面とフック面で構成され、ループとフックの引っ掛かりにより固定させるものです。ポケットや前立てフラップなどの固定、手口のタブによる調整、裏地の着脱など、衣料品には幅広く使用されています。しかし、フック面を取り付ける位置や仕様によっては、手の甲が擦れたり、着用中に他の衣料を傷めたり、洗濯時に他の被洗物を引っ掛けることがあります。
         対策では、実際の着用を想定してループ面とフック面の適正な配置や、ループ・フックの混在タイプテープの採用などが考えられます。ただし結合強さは、タイプにより異なりますのでご注意ください。また、洗濯時の消費者へのお願いとして、「洗濯時は、面ファスナーは閉めてください」と表示するなどの対策をお勧めします。
        ⑤合成繊維製の織ネームの「溶断端」
         合成繊維製の織ネームでは、ほつれを防ぐためにヒートカット加工(織ネームを熱溶断する加工)が施されていることがありますが、溶断端が熱溶融で硬化すると、首部分など商品への取り付け位置によっては、着用時にネームが皮膚を刺激することがあります。これらの対策として、①プラスチック成型品の検品の強化、②合繊織ネームでは溶断端が直接肌に接しないオーバーロック仕様タイプの利用などがあります。

        (2) 化学的刺激
         化学的刺激の原因となる物質には、染料、仕上げ加工剤(防縮・防しわ樹脂、蛍光増白剤、柔軟剤など)、ドライクリーニング溶剤などがあります。
        ①染料、仕上げ加工剤
        a.遊離ホルムアルデヒド
         綿やレーヨンなどセルロース系の商品の洗濯縮みや着用しわを防ぐための樹脂加工剤には、遊離ホルムアルデヒドが生じるものがあります。この遊離ホルムアルデヒドが高濃度の場合、発疹などの皮膚障害やアレルギーを引き起こす可能性があり、「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」により規制値が設けられています。
        b.蛍光増白剤や柔軟剤
         蛍光増白剤や柔軟剤の成分も皮膚障害を引き起こす可能性があり、「必要最小限の加工にとどめること」「過剰加工にならないよう十分注意すること」と行政から指導が出ています。
        c.アゾ染料規制
         2016年4月、有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律において、発がん性リスクのある特定香族アミンを生成するアゾ染料(24種)規制が制定されました。対策として、アパレルメーカーは素材メーカーや染色加工場と連携して、規制された染料の不使用宣言書を入手することが求められています。
        d.ドライクリーニング溶剤
         ドライクリーニングで使用される石油系溶剤による化学やけども化学的刺激のひとつです。石油系溶剤は揮発性が低いため、クリーニング店での石油系ドライクリーニング処理後の乾燥が不十分であった場合、衣類に溶剤が残留し、直後の着用で、肌が赤くなったり腫れたりなどの症状を起こすことがあります。石油系ドライクリーニングをしてもらいクリーニング品を引き取った後には、ポリ袋から出して風乾で充分溶剤成分をとばすことが大切です。特に合成皮革や羽毛商品など乾きにくい重衣料品で注意が必要です。

          ~エコテックス®スタンダード100~
          国際的な繊維の安全性ラベルのひとつに、エコテックス®スタンダード100があります。350種類以上の有害化学物質を対象とする厳しい分析試験にクリアした製品だけに与えられる世界最高水準の安全な繊維製品の証です。日本、欧米、アジア地域を中心にあらゆる国の規制に対応する国際的な安全基準です。エコテックス®についての詳細は、(一財)ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。


      2. 表面フラッシュ
        (1) 表面フラッシュとは
         前述の「アパレル散歩道 第15回」でも、アパレル製品の安全関連の設計不良事例として紹介しています。重大な危害事故になる可能性もあり、改めて表3で説明します。

        表3 表面フラッシュについて
        内容説明
        表面フラッシュとは?
        • 同現象は、ガスコンロなどの炎が接触して製品表面の毛羽が瞬間的に燃え広がるもので、その炎に驚いてお鍋をひっくり返して火災になったり、火傷を負うなどのPL(製造物責任)に発展しうる現象である
        発生しやすい素材や製品
        • 表面フラッシュが起こりやすい商品には、綿ニットの表起毛品、表パイルなどを使用したトレーナーやパジャマなどがある
        • 燃えやすい綿繊維などの周りに、起毛構造などにより十分な空気が存在するときに、本現象は発生しやすい
        評価と対策
        • 表面フラッシュの評価※は、表面フラッシュ試験「JIS L 1917繊維製品の表面フラッシュ燃焼性試験方法」で行える。基準に合格したものを採用すること
        • 特に、合繊混紡品など評価が微妙な素材は、表面フラッシュ試験を実施し、基準に合格したものを採用すること
        • 商品化するにあたり、図1の注意喚起ラベルを併用すること

        ※ 試験の概略と評価基準例の詳細は、ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。



        注意:毛羽が燃えやすいので火に近づかないでください。表面の毛羽に火が走ることがあります。

        図1 表面フラッシュ(毛羽燃焼)の注意表示



      3. 子ども服のひも仕様
         この項についても、「アパレル散歩道 第15回」で紹介しました。子どもが着用する衣料品に取り付けられているひも、固定ループ、調整タブなどが、遊具や乗り物のドアに挟まれて、不測の事態が発生しないよう、設計や縫製仕様に配慮しなければなりません。特に、背面、後頭部、パンツ裾など、特に子どもの視野に入りにくい部位のひも仕様には、万全の注意が必要です。ぜひ、JIS L 4129「子ども用衣料の安全性」を改めて読み返してください。


      4. 針等危険物の混入
        (1) 針等危険物の混入に対するリスクの低減策
         アパレル製品の縫製工程では、基本的に縫い針が必須で、これらが折れて製品に残留することがリスクとなります。加えて、フリースなどの加工工程における起毛針の折れ、販売時の寸法直しのまち針の混入なども考えられます。対策には、製造、流通から販売までを含めた総合的な管理が求められます。縫製現場の針管理方法には、表4のように、①縫製工程での針管理、②出荷時の検針機による全品検査があります。

        表4 針等危険物の混入対策
        分類対策
        ①縫製工程での針管理
        • 縫製工程では、「使用針管理台帳」などによる管理方法がある
        • 「使用針管理台帳」を使用し、縫製工場内の各工程単位に、針の在庫数、針の定期交換や針折れ交換の実績などを記録する
        • 作業中に針が折れた場合は、破片が見つかるまで捜すなど徹底した管理を実施する
        ②出荷時の検針機による全品検査
        • 縫製工程では縫い針だけではなく、工具の破片、クリップ、ホチキスの針、荷札の針金など様々な金属片の混入がある
        • 検針作業手順や検針機の点検方法をマニュアル化するとともに、日付、検査数、異常の有無、異常があった場合の内容と処置方法などを「検針日報」に記録し保管すること
        • 縫製工場に設置する検針機には色々なタイプがあるが、包装後に検針機で、全品検査すること


  4. 安全関連の事故低減に向けて
     近年のアパレル業界では、商品や素材のファッション化、軽量化、ストレッチ化、機能化が大きく進められて、これまで使われていなかった主材料や副資材の採用や組み合わせ、新しい縫製仕様や二次加工(顔料プリントなど)なども増えています。また、海外生産も引き続き大きな比率で、中国だけでなくアセアン地域の生産や現地素材の採用なども増加しています。
     このような状況下に、アパレル企業やアパレル商社は、各種安全に関連するハザードを常に認識し、企業の安全管理システムとしてアセスメント(評価)を実施し、安全リスクを低減させる具体的な対策を講じなければなりません。皆さんも、そのような意識をもって、業務に取り組んで頂きたいと思います。表5に、アパレルメーカーで実施すべき安全性評価(セーフティレビュー)の例を紹介します。

    表5 アパレルメーカーの安全性評価(セーフティレビュー)
    関係先、関係者具体的な対策
    会社
    ブランドマーケティング部門
    1. 企業の社会的責任(CSR)として安全・安心な商品の提供に努める
    2. 安全・安心な商品の提供を目的に、システム的な会社組織、運営、 社員教育に努める
    品質保証部門 品質管理部門
    1. 特に展示会見本で、全品番の仕様・デザインについて、安全性リスクを評価(アセスメント)する ⇒ セーフティレビュー(試着も含む)
    2. 場合により、企画部門に着用試験や洗濯試験の実施を指示する
    3. 指摘項目は、担当部門にフィードバックする。対策などの報告連絡は必須とする(仕様変更、材料変更など)
    品質管理担当者
    1. 担当者は、製品の仕様、材料の加工履歴や品質情報などを入手する
    2. アパレル製品の安全性に関る法令、規格、過去の事故事例、自社の安全性ガイドラインなどを熟知しておく


      安全なものつくりを進めるためには、①経営トップの理解、②社内品質保証体制のシステム化、③人材のキャリアアップが大切です。


(次回のアパレル散歩道 / 11月1日発行)

次回は、「ケーススタディ⑭表示不適切」を取り上げます。

コラム : アパレル散歩道58
~品質事故を分析して原因と対策を考えよう~
テーマ : ケーススタディ ⑭表示不適切


発行元:
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail:
pr-contact@nissenken.or.jp     URL:
https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。



社外経歴
(一社)日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
(一社)日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
(一社)日本繊維製品消費科学会 元副会長

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