アパレル散歩道

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第44回 : 品質基準、品質試験の考え方

2022/09/01

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2022.9.1

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 自社の「品質基準」や「品質試験」を考えるとき、まず「自社の品質管理はどのような背景やルールで実施されているのか」、また、「品質管理は自社の品質保証体系の中でどのような位置づけなのか」などを確認しておくことが大切です。そのうえで、品質管理業務の中で、「品質基準」や「品質試験」を考える必要があります。


  1. 品質保証と品質管理
     品質保証(Quality Assurance)とは、自社の製品が社内で定めている品質レベルを維持しているかを確認し、販売後も消費者に安心や満足を保証する活動のことです。品質保証部門の具体的な業務には、保証の根拠となる品質データの確認業務や消費者対応業務などがあり、また関連部門へのフィードバックにより、品質を確保し、顧客満足を実現しています。一方、品質管理(Quality Control)は、自社の製造・仕入れ段階で不良品を発生させないため、適切な手段を講じる活動です。
     したがって、「品質保証」と「品質管理」、この2つの違いは、どちらかと言えば、「品質保証」が完成品を対象とした「消費者視点」の活動であるのに対して、「品質管理」はこれから製造する、あるいは製造中の製品を対象とした「生産視点」の活動となります。また、品質保証は、材料購買~商品企画設計~製造~出荷~販売~消費者対応~廃棄など、連続した多くの部門を包含した取り組みであり、すべての部門が、要求品質に合致した行動を取らなければ、品質保証は維持できないことになります。このため、品質管理は製造工程中の取り組みであり、品質保証の大きな枠組みの一部としてとらえられています。

    ≪品質管理とは?≫
    • 製造段階で不良品を発生させないための手段を講じる活動
    ≪品質保証とは?≫
    • できあがった製品が社内で定めた品質を有しているかを確認し、販売後も消費者の安心感や満足感を保証するための活動


  2. 品質基準について
     品質基準は、アパレル製品などの製造工程の品質管理業務で、一定の品質水準を維持するための一般的な管理基準のことです。したがって、品質基準書は、品質管理を進めるうえで、重要なツールになります。一般的な品質基準には、「品質基準(主素材)」、「品質基準(副資材)」、「品質基準(機能性)」、「品質基準(安全性)」、「品質基準(二次加工)」、「品質基準(縫製検査)」、「品質基準(検針)」、「品質基準(表示)」などがあります。これらの品質基準は、担当する部門が、タイミングよく運用しなければなりません。
     また、表1に品質基準の種類例を示していますが、例えば、「安全性」は同表のように独立した品質基準としてもよいですが、「1 主素材」や「2 副資材」の品質基準内に設定することも可能です。要は、品質基準を作成する部門の考え方で決められます。

    表1 品質基準の種類
    品質基準の種類
    1主素材
    2副資材
    3機能性
    4安全性
    5二次加工
    6縫製検査
    7検針
    8表示
    1. 品質基準の構成
       一般に、主素材や副資材の品質基準の多くは、ある基準項目に対する数値として設定される場合が多いのですが、この場合、試験方法が明示されていることが必須です。例えば、ニット生地の寸法変化率で、JIS L 1096による試験方法がG法(電気洗濯機法)なのか、D法(浸漬法)なのかが不明なケースがあります。試験方法が違うと、もちろん試験内容が違うので、測定値は大きく異なります。これらの基準の混乱を防ぐためにも、試験方法の明示と確認は必須です。

      表2 品質基準の記載例
      品質項目試験方法基準値 (例)
      染色堅ろう度 (洗濯)JIS L 0844 A-2法変退色4(級) 汚染3-4(級)
      物性 (引裂強さ)JIS L 1096 ペンジュラム法10 (N)
      物性 (洗濯寸法変化率)JIS L 1096 G法 吊り干し±3(%)
      安全 (遊離ホルムアルデヒド)JIS L 1041アセチルアセトン法75 (ppm)


      ≪品質基準の構成≫
      品質基準は、通常 (品質項目)+(試験方法)+(基準値) で構成されています。


    2. 品質基準設定の考え方
       筆者が現役当時に担当していた競技系スポーツウエアは、①デザインに濃淡配色が多い、②汗や雨で濡れやすい、③洗濯頻度が高い、④スライディング動作など厳しい着用が予想される、などの理由で、染色堅ろう度(特に湿潤堅ろう度)や物性の基準は、一般アパレル製品より高い基準値を設定していました。しかし、同じスポーツウエアでもスポーツライフスタイル系のウエアは、競技系よりマイルドな使用環境から勘案して、品質基準で競技系ウエアと差をつけていました。このように、品質基準のレベル設定は、ユーザーの利用状況や使用環境を踏まえたユーザー目線で基準を設定すべきです。当たり前ですが、アパレル製品の品質基準は、過不足のない適正な品質基準が望ましく、マーケティング戦略における商品政策は、この「品質基準設定」を念頭に商品化を進めることが大切です。

      ≪品質基準の考え方≫
      品質基準は、使用用途によって異なるのが当然であり、社会や消費者意識の変化によって、合理的に修正すべきものと考えます。


    3. 品質基準の種類
      表1で、一般的な品質基準書には、「品質基準(主素材)」「品質基準(副資材)」「品質基準(機能性)」「品質基準(安全性)」「品質基準(二次加工)」「品質基準(縫製検査)」「品質基準(検針)」「品質基準(表示)」などがあると示しました。以下にこれらの基準のポイントを説明します。

      1. 品質基準(主素材)
        ①染色堅ろう度

         織物やニット素材の品質基準には、主に染色堅ろう度と物性があります。代表的な染色堅ろう度と物性の項目を表3と表4で紹介します。なお、試験方法は、国内販売を前提に記載しています。海外販売を検討される場合は、当該国が指定する品質基準が別途ありますので、ニッセンケン品質評価センターにご相談ください。

        表3 品質基準(主素材)~染色堅ろう度の例
        項目試験の対象試験方法基準値の例
        耐光堅ろう度
        (注1)
        日光(紫外線)による変退色JIS L 0842 カーボンアーク
        灯光第3露光法
        JIS L 0843 キセノンアーク灯光法
        変退色3級以上 または変退色4級以上
        (注2)
        洗濯堅ろう度洗濯による汚染、変退色(色あせや白場汚染など)JIS L 0844 A-2法変退色4級 汚染3級
        汗堅ろう度人工汗液による汚染、変退色(汗による色あせや色なきなど)JIS L 0848変退色4級 汚染3級
        水堅ろう度水による汚染、変退色(雨などの湿潤による汚染など)JIS L 0846変退色4級 汚染3級
        ドライクリーニング堅ろう度ドライクリーニング溶剤による汚染、変退色JIS L 0860 A法変退色4級 汚染3級
        汗耐光堅ろう度汗と日光の複合による変退色(セルロース系に適用)JIS L 0888 B法(ATTS人工汗液)変退色3-4級
        色泣き湿潤による汚染(捺染品や柄物などに適用)大丸法汚染4-5級
        摩擦堅ろう度繊維製品間の擦れによる色移りの汚染JIS L 0849 摩擦試験機Ⅱ形乾燥3-4級 湿潤2級
        昇華堅ろう度分散染料の在庫中の汚染(ポリエステル素材に適用)JIS L 0854変退色4級 汚染3級
        酸化窒素ガス堅ろう度空気中の酸化窒素ガスによる変退色や黄変(セルロース系、ナイロン、アセテートなどに適用)JIS L 0855 弱試験または強試験変退色4級
        BHT・NOx黄変ポリ袋やハンガーに含有されるBHTと空気中の酸化窒素ガスの複合によるフェノール黄変(白物に適用)コートルズ法変退色4級
        (注1) 耐光堅ろう度の光源について
        JISの耐光堅ろう度試験には、「カーボンアーク灯光法」と「キセノンアーク灯光法」があります。前者は主に日本国内で、後者は主に海外で運用されています。しかし、最近、日本国内でも、キセノンアーク灯光法を併用するメーカー、商社も増えているようです。納入先の納入基準がどの試験法を指定しているかが、ポイントです。
        (注2) 耐光堅ろう度の照射時間について
        耐光堅ろう度の照射時間には、主に3級照射と4級照射が使用されています。一般のアパレル製品は3級照射で、また屋外で使用される紫外線の影響が大きいスポーツウエアや作業服などは、より試験時間の長い4級照射で評価されることが多いです。

        ②物性
         物性とは、物質の示す物理的性質のことです。アパレル製品では、「生地の損傷」、「縫い目の損傷」、「外観・形態変化」、「風合い・光沢変化」などに対する項目があります。
        • 「生地の損傷」の主な試験項目には、織物は「引裂強さ」、ニットは「破裂強さ」があります。強度物性をおさえるため、まずはこの2項目を基準化することが大切です。
        • 「外観・形態変化」には、洗濯による寸法変化などがあります。JIS L 1096には、浸漬処理や洗濯処理として、A法からG法まで様々な試験方法があるため、基準化にあたり、試験方法の明記は必須です。

        表4 品質基準(主素材)~物性の主な品質管理項目について
        項目試験の対象試験方法基準値例や基準の考え方
        引裂強さ生地の引き裂かれやすさ
        (織物、経編素材に適用)
        JIS L 1096 D法
        (ペンジュラム法)
        一般的な基準は10Nであるが、薄地素材などは7~8N程度で運用されている
        破裂強さ生地の破裂のしやすさ
        (ニット素材に適用)
        JIS L 1096 A法
        (ミューレン形法)
        一般的な基準は400kPaであるが、薄地素材などは300~400 kPa程度で運用されています。また、用途により、400 kPa以上で設定されることもある
        洗濯寸法変化率家庭洗濯による寸法変化JIS L 1096 G法
        パルセーター形家庭用電気洗濯機法
        (織物一般) ±3%以内
        (ニット一般) +3~-6% (注1)
        ユニフォームやスポーツウエアなど、タンブル乾燥可能衣料では、別途その基準も併記することが望まれる
        ピリング毛玉の発生のしやすさ
        (基本紡績糸使いに適用)
        JIS L 1076 A法3級
        合繊混など組成によって、基準を検討することが望まれる
        スナッグ引きつれの発生のしやすさ
        (基本フィラメント糸使いに適用)
        JIS L 1058 A法
        (ICI形メース試験機法)
        3級 (注2)
        縫い目滑脱抵抗力縫い目部での生地糸の滑脱のしやすさ (織物に適用)JIS L 1096
        滑脱抵抗力試験
        3mm
        素材や用途により、3mm以下で設定されることもある
        摩耗強さ(注3)摩耗による破れやすさJIS L 1096 A-1法
        (平面法)
        基準値は、組成と用途によって個別設定のこと。試験方法を明記のこと
        引張強さ引っ張りによる破れやすさJIS L 1096 A法
        (ストリップ法)
        一般衣料品の目安は200N程度とされているが、組成と用途によって個別設定すること
        (注1) 洗濯寸法変化率試験について
        ニット素材では、組成が綿100%かポリエステル100%かで、大きく性能は異なります。素材別の基準を検討することも有意義と考えます。また、基準値のマイナス(-)は、生地の縮み、プラス(+)は、伸び切りを示しています。
        (注2) スナッグ試験について
        アパレル業界ではA法が多用されているが、A法はフィラメント切れが評価しにくいといわれています。粗硬い物体との摩擦によるフィラメント切れが想定される用途では、JIS L 1058 D-1法(ダメージ棒)による基準も採用されています。
        (注3) 摩耗試験について
        JIS摩耗試験には、用途や目的により、ユニバーサル形(A-1法/平面摩耗、A-2法/屈曲摩耗、A-3法/折目摩耗)、スコット形(B法)、テーパ形(C法)、アクセレロータ形(D法)、マーチンデール形(E法)、ユニフォーム形(F-1法/スチールブレード法、F-2法/研磨紙法)など、多くの試験方法があります。


      2. 品質基準(副資材)
         副資材には、芯地、ボタン、ファスナー、面ファスナー、テープ、ひも、ゴム、ワッペン、ホック、D環やバックル、ポリ袋などがあります。また、副資材の組成は、繊維素材だけでなく、プラスチック素材、金属素材など、非常に幅広い材料が使用されています。品質基準(副資材)を検討するにあたり、大手副資材専門メーカーや副資材商社の品質基準を引用するのもよいでしょう。

        表5 品質基準(副資材)の種類と品質基準設定の考え方
        種類品質基準設定の考え方主な副資材の例
        繊維副資材
        • 基本的には、主素材用品質基準を準用する
        芯地、フェイクファー、ワッペン、テープ、ひも
        金属副資材
        • バックルなど強度が必要な副資材は、材質を検討の上、引っ張り強さなどを基準化する
        • 湿潤による錆(サビ)が懸念される場合は、防錆性を評価し、場合により基準化する
        • 表面を樹脂加工やメッキ加工している副資材は、家庭洗濯やドライクリーニングの耐久性を確認し基準化する
        金属ファスナー、ホック、D環、バックル、ボタンなど
        プラスチック副資材
        • 塩化ビニル製副資材は、耐ドライクリーニング性、耐低温性が劣るので、用途を検討すること
        • ポリエステル素材との組み合わせにより、移行昇華が生じたり、自着が生じることがある
        スパンコール、シート状フィルム、カードケース、ボタンなど


      3. 品質基準(機能性)
         商品に機能性があることを謳う場合、一定の法令やガイドラインに従って表示することが必須になります。消臭機能のない商品や機能性の低い商品に、大きく「消臭」のタグを付けたり、紫外線カット商品で、実性能以上の標記をすることは許されません。
         また、機能性表示の根拠になる試験データが、合理的・客観的な試験に基づいているか、機能性表示と機能データに矛盾がないかも問われます。このため、機能性の品質基準は、主副材料の品質管理基準とは別管理で、しっかり運用されるべきものです。表6にアパレル製品で比較的多用される機能項目を一部紹介していますが、詳細は、ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。


        紫外線を
        カット
        します。

        速やかに汗を
        吸い上げ、
        乾燥します。

        図1 機能下げ札の例


        ≪機能性表示について≫
        衣料品の機能性表示は、景品表示法(優良誤認、不実証広告規制)、医薬品医療機器等法などの法令に違反しないことが大切です。機能性基準とは別に、このことも充分ご配慮ください。
        第16回アパレル散歩道「アパレル製品の機能性の考え方 2.機能性表示と法的規制」を改めてご確認覧ください。


        表6 品質基準(機能性)について
        項目機能の意味と用途試験方法と基準の考え方
        吸水速乾性
        • 運動などによる汗を速やかに生地に吸水し、生地表面に拡散、外部に放散する機能のこと
        • 夏物期衣料やスポーツウエアなどに多く使用される
        • JIS L 1907 滴下法/バイレック法
        • 拡散性残留水分率試験
        • 吸水性と速乾性を個別に基準設定する
        • 新品だけでなく、洗濯処理後も設定する
        消臭性
        • 繊維の周りの臭気成分の濃度を低減することにより、臭気の強さを軽減する機能のこと。主に、三大臭気であるアンモニア、酢酸、イソ吉草酸などが対象になる
        • 汗などが付着する衣料やスポーツバッグ裏地などに多く使用される
        • 機器分析試験法(検知管法またはガスクロマトグラフィー法)
        • SEKマーク繊維製品認証基準(臭気成分減少率)
          アンモニア70%以上(80%以上)
          酢酸(70%以上)
          イソ吉草酸85%以上(95%以上)
          ※( )の基準を満たす場合、官能試験省略可
        • 洗濯処理後の試験も実施のこと
        抗菌防臭性
        • 繊維上の菌の増殖を抑制し、防臭効果を高める機能のこと
        • 汗が付着しやすい夏物衣料に使用されることが多い
        • JIS L 1902(ISO 20743) 抗菌性繊維製品の評価方法(菌液吸収法)
        • 基準はSEKマーク認証基準準用のこと。洗濯処理後の試験にも合格すること
        紫外線遮蔽性
        • 太陽光の紫外線を遮蔽し、肌の日焼けを防ぐ機能のこと
        • 夏物衣料の淡色素材や白色素材に使用される
        • JIS L 1925 紫外線遮蔽性試験
        • 「紫外線遮蔽率」、「UPF(紫外線防護係数)」がある。比較的UPFが多用され、最低UPF値は15以上が目安で、「15」「40」「50+」などと表示される
        はっ水性
        • 雨などの水を弾く機能のこと
        • レインウエアやウインドブレーカー、スキーウエアなどに使用される
        • シリコン系、フッ素系、非フッ素系のはっ水剤が使用される
        • JIS L 1092 スプレー法
        • 家庭用品品質表示法/繊維製品品質表示規程では、はっ水度が2級以上である性質と規定されるが、実用的にレインウエアなどは4級程度が望ましい。また、耐洗濯性も必須である
        耐水性
        • 耐水性とは、水を通過または浸透させない機能のこと。防水性の中のひとつの機能である
        • 樹脂コーティングやラミネート、織物の高密度化で機能を付与する
        • JIS L 1092 A法(低水圧法)またはB法(高水圧法)
        • 一般的なウインドブレーカーでは、500mm(4.9kPa)以上が目安だが、ハードな用途では必要に応じて基準設定のこと
        透湿性
        • 水蒸気を通過させる機能のこと。一般にアパレル用途では「透湿防水」機能として多用される
        • アウトドア、スキー、スノーボード、レイン用に多用される
        • JIS 1099透湿性試験 A-1法、B-法など
        • JISでは、1時間当たりの透湿性を「透湿度(g/m²・h)」で表示するが、スポーツ業界などでは、24倍して、1日当たりの透湿性を表示することがある
        • 試験方法では、A-1よりB-1法のほうが試験結果の値が大きくなる傾向があり、品質基準には試験方法の明記が不可欠である
        接触冷感性
        • 物体に触った時、物体間の熱量の移動により、冷たく感じる機能のこと
        • 夏物肌着、スポーツウエア、タオルなどに使用される
        • JIS L 1927 接触冷感性試験
        • JIS L 1927によると、q-maxが0.1以上で接触冷感性があるとされている
        通気性・防風性
        • 通気性は、製品が空気を通す機能のこと。防風性は、逆に空気を通さない性質のこと
        • 通気性は、夏物衣料全般に使用される。防風性は、冬物衣料、ライダーウエアなどに使用される
        • JIS L 1096 通気性試験
          A法(フラジール法) 単位はcm³/cm²・秒
        • 基準値は用途、素材を考慮し、アパレルメーカーで決定すべきである
        制電性
        • 衣服のまとわりつきや、「ぱちっ」と放電したりするなど、衣服に静電気が帯電しない機能のこと
        • JIS L 1094帯電性試験方法
          A法 (半減期測定法)
          B法 (摩擦帯電圧測定法)など
        • JIS T 8118 静電気帯電防止作業服
          ガソリンスタンド、化学工場作業服など
          (基準の目安) 製品 0.6µC以下
          生地 7µC/m²


      4. 品質基準(安全性)
         昨年3月の第15回アパレル散歩道で、「アパレル製品の安全・安心」を取り上げました。この散歩道の表2を改めて見ていただくと、衣料品の安全は、素材、パターン・設計、縫製工程、クリーニングなど、幅広く人体危害ハザードがあることが分かります。アパレルメーカーが安全性の品質基準を作成するに際しては、これらの人体危害ハザードを事前に最小化できる品質基準(安全性)を作成し運用することが望ましいと考えます。
         また、品質基準化にあたり法令、JIS規格、業界の権威あるルールの引用はもちろん、合理的な社内ルールも活用してください。

        表7 品質基準(安全性)の考え方
        分類安全性基準項目の例
        主素材
        • 「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」を遵守のこと
            (遊離ホルムアルデヒド、特定芳香族アミン生成アゾ化合物など)
        • 蛍光増白剤や柔軟剤は必要最低限の加工にとどめること
        • 「JIS L 1917 繊維製品の表面フラッシュ燃焼性試験」に合格すること
        • モノフィラメント混用素材使用のルールを明記することなど
        副資材
        • プラスチック成型品などにバリがないこと
        • 織ネームの溶断端に異常がないこと
        • 極端に鋭利な形状の副資材は避けること など
        設計・パターン
        • 乳幼児や子ども衣料:手口など過度な圧迫がないこと
        • 子ども服ひも仕様:「JIS L 4129」に適合のことなど
        縫製仕様
        • モノフィラメント縫い糸の使用は、使用ルールを明記すること
        • 製品に折れ針、起毛針など異物が残留していないこと
           (生産時の検針検査基準を準用のこと)など


      5. 品質基準(二次加工)
         二次加工とは、生産時に「顔料プリント」、「熱圧着プリント」、「刺繍加工」などを主に外注工場で行うものです。これらは、海外の外注工場で加工されることが多いため、現場の品質管理状況が不明確な場合もあり、特に「顔料プリント」、「熱圧着プリント」では時として、加工条件のトラブルによってプリントのはく離事故などが多発することがあり、最悪全品回収などの可能性もありえます。
         プリントはく離事故の原因には、表8が考えられますが、試作段階と生産段階において適正な品質基準(二次加工)を作成し、運用されることをお薦めします。品質管理基準書(二次加工)の例を表9に示します。

        表8 「顔料プリント」、「熱圧着プリント」のはく離事故の原因
        試作段階生産段階
        顔料プリント生地との相性インク調合ミス、ベーキング不足
        熱圧着プリント接着プレス機の温度、圧力、時間の設定ミス


        表9 品質基準(二次加工)の品質基準の例
        品質基準項目適用例試験法の例基準例
        洗濯はく離顔料プリント、熱接着プリントなどに適用JIS L 1096 寸法変化率試験(G法)など (1洗) はく離のないこと
        (10洗) はく離のないこと

         基準項目の「洗濯はく離」に対して、基準は「はく離のないこと」になりますが、製品の予想される洗濯頻度によって、1洗だけでなく、「10洗後」や、場合により「20洗後」などの基準の設定も必要になることがあります。それらを前提に、繰り返し洗濯試験を実施してください。
         また、第21回「アパレル散歩道」で、「アパレル製品の二次加工(顔料プリント、熱転写プリント)」を掲載していますので、改めてご確認ください。


      6. 「品質基準(製品検査)」「品質基準(検針)」
         前々回の第42回アパレル散歩道で、製品検査の種類を紹介しました。製品検査には、「規格検査」「寸法検査」「外観検査」「縫製検査」の4つがあります。具体的な検査基準の検査項目例の一部を表10に示していますが、自社の商品政策の延長線上の最終チェック内容として、品質基準(製品検査)、品質基準(検針)は、ぜひ企業内で作り上げてください。
         完成した縫製品は、出荷前にこれらの基準書に従って全数検査と検針検査が実施され、不合格品については修理などが行われます。不合格品は出荷しない方針での運用が必要です。

        表10 製品検査基準と検査分類別の検査項目(検査項目は一例です)
        検査の種類検査項目の例
        製品検査規格検査
        • 表示内容(組成、取扱い、原産国、サイズ、表示者名、はっ水など)は正しく表記すること
        • 機能性表示は正しい内容であること
        • 材料使いと配色は正しいこと
        • 顔料プリントなどの配色、位置は正しいことなど
        寸法検査
        • 仕様書通りの寸法に各部が仕上がっていること
        • 脇目曲がり、斜行はないこと
        • 襟回りなどに伸び切りはないことなど
        外観検査
        • 生地のキズ、汚れ、プレス当たりはないこと
        • 色むら、色違いはないこと
        • 異臭がないこと
        • 生地の表裏は正しいこと
        • いせ込みや形状で、左右のバランスに問題がないこと
        • ステッチ形状、運針数、縫い糸配色は問題ないこと
        • 裏地にねじれ、はみ出しはないこと
        • ボーダー品などの柄合わせは問題ないこと
        • 顔料プリントに割れやべとつきなどはないこと
        • モノフィラメント縫い糸は使用していないこと
        • 副資材に不要なバリなどはないこと
        • 着用に支障はないことなど
        縫製検査
        • 地糸切れ、縫い糸切れ、目飛び、縫い外れ、目寄れ、縫い目滑脱はないこと
        • シームパッカリングは問題ないこと
        • 糸始末はできていること
        • 表示物は見やすく正しい位置に取り付けられていること
        • ボタン付け、ホック打ちは問題ないことなど
        検針
        • 針や異物が混入していないこと
        • 検針機のゲート数や検針感度を明記していることなど


  3. 各種品質基準の運用
     これまで、「品質基準」とはどのようなものか、「品質基準」に何を盛り込むか、そして「基準値」の考え方についてご説明しました。ここで特にコメントしたいのは、品質管理業務は、「品質基準」を作成して終わりではなく、企画・生産工程で各担当者が効果的に運用することが大切です。俗に「仏作って魂入れず」などと言いますが、まさに品質管理業務では、「品質基準書」はツールであり、基準作りは品質管理のスタートであり、その適正な運用が品質管理のゴールと言えるでしょう。

    ≪品質管理と品質基準≫
    • 品質基準書作りは、品質管理のスタートで、その適切な運用がゴールとなる。
    • 合理的な理由があれば、品質基準は変更されるべきである。




(次回のアパレル散歩道 / 10月1日発行)

次回の第45回アパレル散歩道からは、新シリーズ「品質事故を分析して原因と対策を考えよう」として、まず「ケーススタディ① 生地の損傷」について説明します。

コラム : アパレル散歩道45
~品質事故を分析して原因と対策を考えよう~
テーマ : ケーススタディ① ~生地の損傷~


発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。



社外経歴
日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部元代表幹事
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長

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