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アパレル散歩道 第83回 : 「衣料品の品質トラブルの原因絞り込み⑪」

2025/12/01

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1. 前回の事例レビュー はじめに、前回の第82回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめています。

2025.12.1

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  1. 前回の事例レビュー
     はじめに、前回の第82回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめました。

    表1.「第82回アパレル散歩道」品質事故事例レビュー
    事例服種現象考えられる原因原因分類
    38スーツ(毛100%)バブリング
    • ハイグラルエキスパション
    • 撚りの影響
    素材特性
    商品企画
    39シャツ
    (綿70% ポリエステル30%)
    塩素による色あせ
    • 水道水中の塩素
    • 塩素処理水堅ろう度
    技術限界
    品質管理
    40スカート
    (ポリエステル100%)
    プリーツ消える
    • プリーツ加工条件
    • クリーニング処理条件
    生産管理
    クリーニング
    41シャツ
    (ネーム:ポリエステル100%)
    ネームのちくちく感
    • 溶断端による刺激
    • モノフィラメント縫い糸
    商品企画/生産管理
    生産管理


  2. 今回の品質事故事例紹介
    事例42ジャンル服種状態
    カジュアルプリントニットシャツ1シーズンで脇下が白くなった
    プリントニットシャツを1シーズン着ていたら、脇の下部が白くなってしまった。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。シャツの組成表示は毛100%、取扱い表示は、手洗い(中性洗剤)とドライクリーニングであった。
    図1. ウールニットシャツ(脇部)の白化現象
    図1.
    ウールニットシャツ
    (脇部)の白化現象1)

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「毛(ウール)」、「プリント品」、「わきの下」、「白化」です。
    • ウール製品では、着用中に汗などで湿潤状態になり、これに揉みや摩擦の作用が加わると、繊維がフェルト化し、反転することがあります。言うまでもなく、脇の下部は汗をかいて擦れやすい部分です。特に毛の捺染素材で、裏面の染まっていない部分が表面に移動し白く目立つことがあります。
      これを「捺染柄反転」と言います。特にニットでその傾向が強いと言えます。
      (第54回アパレル散歩道「5.4毛(ウール)製品の捺染柄反転」参照)

    表2. 《事例42》「プリント柄の反転」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 脇部以外に白くなっている部位はないか目視で調査する。
    • 白化部の裏面はどのような外観か、プリント柄が反転していないか、目視で調査する。
    消費者への聞き取り
    • 消費者要因を確認するため、使用状況やサイズ適合性を聞き取る。
    商品に関する調査
    • 生地要因を確認するため、糸種やゲージを聞き取る。
    原因の推定
    • 着用中に汗などの湿潤状態で、揉みや摩擦作用が加わってフェルト化が進み、糸が反転した。捺染素材では、裏面の染まっていない部分が表面に移動し白く目立った。
       ⇒捺染柄反転
    • 密度の粗いニット生地では、捺染柄反転するリスクが高いと推定される。
    確認試験など
    • JIS L 0849「摩擦に対する染色堅ろう度試験方法」の摩擦堅牢度試験機を使用し、湿潤摩擦によって柄反転が生じるか確認する。
    対策
    • 過度に組織の甘いニット素材は柄反転のリスクが高いため、採用するかどうか慎重に検討する。
    • 消費者に白化のリスクについて情報提供する。

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    事例43ジャンル服種状態
    アウトドアジャケットはっ水の低下によるプリーツ消失
    アウトドアジャケットを購入して数ヵ月着用した。新品時は雨滴を弾いていたが、最近は弾かずに、べたっと濡れるようになった。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。なお洗濯は、家庭洗濯と商業クリーニングの両方で行っていた。表地はポリエステル100%のタフタ、取扱い表示は「家庭洗濯30℃限度」「アイロン可」「ドライクリーニング(石油系)可」であった。

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「新品時は良好」、「クリーニング」、「アウトドア」です。
    • はっ水性の低下では、①そもそもはっ水機能の耐久性が低かった、②外的な要因ではっ水機能が低下した、以上2つのケースが考えられます。
      (第29回アパレル散歩道「3.2 はっ水性」の項参照)
    • はっ水機能は、主に染色仕上げ時、生地に水性や油性のはっ水樹脂を塗布し、その後のベーキング(熱処理)によって耐久性が付与されます。
    • そもそも製品の初期性はっ水性が低い場合は、加工工程でのはっ水剤調合やベーキング条件、再加工などの要因が考えられます。
    • 一方、外的な要因では着用時の汚れの付着、家庭洗濯やクリーニング処理時のソープ残留などがあります。

    図2. アウトドアジャケットの例
    図2. アウトドア
    ジャケットの例


    表3. 《事例43》「はっ水の低下」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 製品全体にスポイトで水滴を滴下し、どの部位が主にはっ水性が低下しているか、また、どの程度はっ水機能が低下しているか確認する。
    商品に関する調査
    • 当該生地のはっ水加工条件(はっ水剤のタイプなど)を聞き取る。
    • 当該生地のはっ水耐久性試験結果を確認する(本生産分)。
    • 消費者の了解が得られれば、製品を水洗いして、はっ水性が回復するか確認する。
    消費者への聞き取り
    • クリーニング処理前後のはっ水性について聞き取る。
    • 家庭洗濯処理について、洗濯条件(洗剤、浴比、すすぎ回数など)を聞き取る。
    • 着用状況と着用日数などを聞き取る。
    クリーニング業者への聞き取り
    • クリーニング処理は、水洗いか、ドライクリーニングかを聞き取る。
    • ドライクリーニングした場合は石油系か、他の溶剤であったかを聞き取る。
    原因の推定
    • 着用中の激しい擦れや揉み作用により、はっ水剤(樹脂)が脱落し性能が低下した。(着用要因)
    • 着用中の各種汚れが付着・残留していたため性能が低下した。(着用要因)
    • 生地染色加工時に、ベーキング条件の不良や再加工などにより、はっ水機能の耐久性が低いロットの生地が混入した。(生産要因)
    • クリーニング処理時に石油系溶剤が使用され、ソープが残留した。(クリーニング要因)
    • 家庭洗濯で、すすぎ不足により洗剤が残留した。(家庭洗濯要因)
    確認試験など
    • 簡易のスポイトによる水滴滴下試験で評価する。
    • JIS L 1092「繊維製品の防水性試験方法」のスプレー法ではっ水性を評価する。洗濯後の評価もすることが望ましい。
    対策
    • 素材要因の場合、素材メーカーや加工場に対して、はっ水加工条件の見直しと現場での品質チェックを要請する。
    • 消費者の取り扱い要因の場合、「注意表示」などで以下の情報を発信する。
      ◎洗濯などで洗剤が可能な限り残留しないようにすすぎを充分に行う。
      ◎はっ水加工は永久加工ではなく、色々な要因で性能低下する場合がある。
      ◎はっ水性が低下しても、水洗いでその性能が復元することがある。
    • 特に近年、PFAS問題で、はっ水剤に用いられる薬剤が、フッ素系から耐久性の低いシリコン系や炭化水素系へ変更されつつあり、消費者にはっ水性能と耐久性について、再認識していただくことが必要である。
    PFAS
    主に炭素とフッ素からなるペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の略称で、はっ水性やはつ油性、耐熱性を有する化学物質の総称。これらの物質の中には、人や環境への蓄積や残留性などが問題となるものがあり、国際的に使用制限や製造禁止等の規制が進められている。

    ≪はっ水性低下の原因≫
    はっ水低下の要因には、次の3つがあります。
    ◎消費者要因…
    過度な擦れによる影響、汚れの付着、家庭洗濯時のすすぎ不足など
    ◎メーカー要因…
    はっ水加工条件不良、再加工による不良など
    ◎クリーニング要因…
    石油系ドライクリーニングによるソープ残留など

    ~はっ水性は水洗いで復元することがある~


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    事例44ジャンル服種状態
    レディースブルゾン着用・洗濯の繰り返しによる中綿の吹き出し
    表地がスムース地のわた入りブルゾン(キルト仕様)で、着用と洗濯を繰り返していたら中わたの細い繊維が生地目から吹き出してきた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。なお、製品の組成表示は、表地ポリエステル100%、裏地ポリエステル100%、詰め物ポリエステル100%であった。

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「わた入り製品」、「吹き出し」、「詰め物」です。
    • 吹き出し現象は、中わたを構成するポリエステル繊維などが、揉みなど何らかの物理的作用によって、生地組織を通過して表面に飛び出すものです。
    • ポリエステルわたは、内部に多くの空気を含み、保温性や断熱性に優れています。一口に「ポリエステルわた」と言っても、繊維の太さ、厚み、樹脂量などの違いで、中わたの性能や外観は様々です。例えば、樹脂でしっかり固められた「わた」は風合いが硬いですが、着用・洗濯によるわた切れやわたの吹き出しはほとんど発生しないでしょう。しかし、樹脂量が少ない「わた」では、風合いは柔らかいですが、わた切れや吹き出しのリスクが高まるでしょう。
      (第48回アパレル散歩道「7.中わたの吹き出し」参照)

    図3. わた入りキルト素材の例
    図3. わた入りキルト
    素材の例


    表4. 《事例44》「中わたの吹き出し」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 吹き出した繊維を特定するために、拡大鏡や顕微鏡などで観察する。
    • 吹き出しは、生地面のみか、またはキルト部分にも発生しているかを観察する。
    商品に関する調査
    • 表地はどの程度の通気性があるかメーカーに聞き取る。
    • 中わたの樹脂の使用量を調査する。
    • キルトの縫製条件(針番手、運針数など)、縫い糸(糸種、番手など)を確認する。
    • 樹脂わたのポリエステル繊維は、短繊維か長繊維かを確認する。
    原因の推定
    • 今回のケースでは、表地はニット(スムース)であり、編み目に空隙くうげきが多いため通気性が大きくなり、そこから中わた繊維が飛び出した。
    • 併せて、樹脂わたの樹脂量が少なく、洗濯や着用による揉みなどで、ポリエステル繊維が脱落しやすかったことが推察される。
    確認試験など
    類似の事例
    • 羽毛製品では、表地の通気性管理と羽毛品質の両面から評価すること。
    対策
    • ポリエステル中わたの選定は、表地や裏地の通気性などを考慮して決定すること。
    • 場合により、表地や裏地と中わたの間に不織布を挿入し、吹き出しを防止する。
    • 事前に「バイリーン法」による吹き出し試験を行い、合格した組み合わせを採用する。
    吹き出し試験(バイリーン法)
    実際の製品を想定した表地・中わた・裏地で袋状の試料を作り、その中にダメージを与えるスーパーボールを入れて、ICI形ピリング試験機で一定時間ダメージを与え、試料表面や裏面ヘのわた繊維の吹き出しの程度を評価する。芯地やわた材のメーカーである日本バイリーン社が考案したシミュレーション試験方法である。

    ~高周波キルトについて~
    近年、図4のような高周波キルト素材をよく見かけます。縫製ではなくドット状の高周波接着によって、表地と裏面の合繊わたを結合しています。高周波接着では、表地も中わたも熱溶融する合繊素材であることが必須です。 高周波キルトの長所は、①伸縮性がある、②針穴がなく耐水性や保温性が期待できるなどですが、高周波加工条件のばらつきにより、㋑生地が融け過ぎて穴があく、㋺逆に熱不足ではく離しやすい、などのリスクがあります。

    図4. 高周波キルトの外観
    図4. 高周波キルトの外観


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    事例45ジャンル服種状態
    カジュアルセーターモール糸使いのセーターで部分的に糸が抜けた
    モール糸使いのセーターを着用していたら、部分的に糸が抜けたような外観になっていた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。なお、素材組成は、アクリル100%。洗濯は、家庭で手洗いをしていた。

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「モール糸」、「糸抜け」です。
    • モール糸は、シェニール(フランス語で毛虫の意)糸とも言われ、芯糸と押さえ糸との撚り合せ時に、花糸と呼ばれる短い繊維を挟み込んだ構造の飾り糸のことで、肌あたりがよく、婦人アパレルのニット衣料などに使用されています。
    • 今回の糸抜けは、モール糸の花糸が部分的に抜けたものと推定されます。
    • モール糸は、衣料用だけでなくインテリアなどにも使用され、花糸抜け防止のため、特に家庭用では、熱融着糸使用タイプが望まれます。(第45回アパレル散歩道「2.3「パイル脱落」について」参照)
      熱融着糸
      110℃~120℃の熱を加えると、糸が溶け、接着剤としての役目を果たす。花糸が抜けることを防止する目的で使用するが、海外製のモール糸にはあまり多用されない。

    図5. モール糸使い
素材例
    図5. モール糸使い素材例

    図6. モール糸の外観例
    図6. モール糸の外観例

    図7. モール糸の構造
    図7. モール糸の構造


    表5. 《事例45》「モール糸衣料の糸抜け」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察など
    • 着用時の要因を確認するため、糸抜けの発生場所を目視で調査する。
    素材メーカーなどへの聞き取り
    • 素材要因を確認するため、モール糸の構造を聞き取る。
    • 素材要因を確認するため、熱溶融糸の有無を聞き取る。
    原因の推定
    • 着用や洗濯時の過度な揉みや擦れにより、糸抜けが発生した。
    • 熱溶融糸が使用されていないモール糸であった。
    確認試験など
    • 摩耗試験機(JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」に規定されたマーチンデール形など)を使用して、糸抜けを再現する。
    • 摩擦堅ろう度試験機(学振形)を準用して、摩耗処理を行う。
    対策
    • 衣料用では、できるだけ熱溶融糸を使用したモール糸使いの素材を採用する。
    • 消費者に対して「過度な揉み作用で、糸が抜けることがある」などの情報発信を行う。
    • 海外で調達した素材は、事前に糸使いを確認のこと。
    • インテリア用モール糸使いの素材は、熱溶融糸が未使用の場合もあり、注意すること。

    ~パーティ会場のモール飾り~
    クリスマスパーティで使用する右のような飾りも「モール」と呼ばれていますね。この飾りも前述のモール糸と同様、押さえ糸とスリット糸(注)で構成されています。
    注:ポリエステルなどのフィルムを細く裁断して作る糸のこと
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(参考資料)
1)「繊維製品の苦情処理ガイド(色に関する苦情)」:一般社団法人日本衣料管理協会、巻末写真P.6 3.1.1引用

(第84回 アパレル散歩道の予告 – 2026年1月1日公開予定)

 早いもので、次回は2026年新年の発行になります。引き続き、『品質トラブル原因を絞り込もう』のシリーズです。第12回目は以下の事例を取り上げます。
  • 事例46. 「顔料プリントのはく離」
  • 事例47. 「穴あき(化学薬品付着)」
  • 事例48. 「金属ボタンの黒変」
  • 事例49. 「接着縫製衣料のはく離」
 また、現在連載している『品質トラブル原因を絞り込もう』のシリーズは、2026年3月まで(第14回が最終回)を予定しています。いま新シリーズの構想を着々と練っていますので、どうぞご期待ください。

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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