アパレル散歩道

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第60回 : アパレル産業を担う若い人たちへ「10の提言」~ 変化への対応とチャレンジ、そして発展へ! ~

2024/01/01

品質事故を分析して原因と対策を考えようアパレル散歩道 品質事故を分析して原因と対策を考えよう

2024.1.1

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 皆様、新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。

 わが国のアパレル産業は、高度経済成長と繊維産業の発展により、1960年代から大きく成長して現在に至っています。そして、これからもいくつかの課題を解決しながら、さらに飛躍することが期待されています。 そのような中、筆者は1975年に京都工芸繊維大学を卒業して、当時右肩上がりだったアパレル産業への入職を果たし、長年この業界に身を置いてきました。今回は、年頭にあたって【アパレル産業を担う若い人たちへ 「10の提言」 ~ 変化への対応とチャレンジ、そして発展へ!】と題し、長年にわたる経験の中で培ってきた経験や知識をもとに、読者の皆さんに何かを伝えることができれば、という思いで一筆を取ります。



  1. 最近のアパレル業界の現状と課題
     わが国のアパレル産業は、草創期から約60年間以上が経過していますが、その中身をよく見ると、実は大きく変化しているのです。はじめに、これらの変化についてまとめてみます。

    1. 近年、アパレル製品の流通が大きく変化し、百貨店流通や量販店流通が減少し、ネット流通、専門店流通が増加しています。特にコロナ期をきっかけとして、SNSビジネスは増加しています。
    2. アパレルメーカーのなかでも、消費者に近いビジネスモデルといわれるSPA(製造小売業)企業が世界的にも大きく進展しています。長年、わが国のアパレルのサプライチェーンや商習慣の複雑さが問題とされていましたが、SPA生産はこれらの課題を解決しています。
    3. アパレル製品の生産体制が、プロダクトアウトからマーケットインに移行し、これにより、短納期で多品種少量生産が進んでいます。当然、これによるリスクも発生しています。
    4. 近年、地球温暖化を防ぐための環境負荷低減に取り組むことの世界的な要請もあり、適正な発注による不良在庫削減、リサイクル素材の採用や、サステナブルな省エネ生産手法が検討されています。
    5. 衣料の安全性や快適を求める機能性は、消費者の基本的なニーズであり、今後もこれらの要求は高まり、さらなる消費者目線の企画設計が求められています。
  2. アパレル産業を担う若い人たちへの提言
     「1.」の最近の業界動向や社会情勢の変化などを踏まえて、これからのアパレル業界を担っていただく若い方々に、僭越ながらコメントをさせていただきます。私の50年近い業界キャリアの中で感じてきたことが、少しでも皆さんのお仕事やこれからのキャリアアップのご参考になれば幸いです。

    1. 公私にわたり、何にでも幅広く関心を持ってほしい
       アパレル産業は、複数の部品やパーツを組み合わせるアセンブリー産業であり、ある意味情報産業であることを理解してください。このため、マーケティングの視点から、ファッション情報、店頭情報、新素材情報、地球環境情報などに関心を持ってください。皆さんが街を歩いていて、どのお店で、どのような商品がいくらの価格で販売されているかを観察するのも有効ですし、衣料品にどのような表示、下げ札がついているか、観察するのもいいですね。
       また、衣料関係から離れて、食品や電気製品、雑貨など他分野でどのような消費者ニーズに基づき商品が開発されているか、どのような課題があるかなどの関心もぜひ持っていただきたいと思います。
    2. より高い視野から物事を見てほしい
       木を見て森を見ずということわざがあります。これは、小さい事に心を奪われて、全体を見通さない例えです。例えば、色泣きの事故が発生した時、染料特性や染色堅ろう度のみを追求するだけでなく、視点を上げて、消費者サイドの要因は考えられないかなどの工夫をお願いします。また、暖かい衣料品の開発でも、保温性の大きい素材やカッティングを検討するだけでなく、重ね着理論やスマートテキスタイル、スマートウエアもぜひ検討していただけたらと思います。視点を上げれば見えないものが見えてきます。まさに、木を見て、さらに森を見るということでしょうか。
    3. 朝礼暮改とは言わないが、ルールは実態に即して変えるべきである
       社内ルールや各種基準は、これまで一度決定すると、それらが独り歩きして変更できない傾向がありました。しかし最近では、消費者ニーズが多様化して、衣料品の仕様も多様化していることを考えると、画一的なルールや基準を運用することは合理的でないと考えます。スポーツウエア、カジュアルウエア、パジャマ類などでは、むしろ、それぞれの品質基準、管理基準などが異なっていることが合理的であり、また生産ロットが10万枚の衣料品と500枚の衣料品の生産管理も異なってしかるべきと考えます。合理的な基準や運用ルール変更は大歓迎です。
    4. 消費者目線で合理的な基準に変更すること
       アパレルメーカーには、昔から引き継いでいる各種基準があります。また、わが国の業界にはJISがあります。JISとは「日本産業規格」であり、ある意味生産者からの立場で作られた規格であるという性格は否めません。近年JISにも消費者の意向が反映された規格が作成されていますが、より消費者目線の規格が今後も増えることを期待しています。
       また、私たちは衣料品の品質管理を目的としてJISに基づく各種試験を実施していますが、これらの試験と実用との相関を知ることは大切です。ラボテストは本来実用と相関性の高い試験であるべきですが、もし相関性が低いと感じるなら、より実用性の高い独自試験法を自ら作成して規格化することも有効です。業界の最近の例では、JIS L 0888汗耐光堅ろう度試験のATTS人工汗液の提案と実用化があります。また、試験方法の要件には、1.実用との再現性があること、2.リーズナブルな試験コストであること、3.試験結果が短時間でわかること、が必須であると考えます。
    5. 具体的な目標を常に持って、日々業務に取り組んでほしい
       皆さんは、会社の人事考課で半期の短期目標、通年の中期目標などを決められていると思います。皆さんがアパレル製品の商品企画、品質保証、販売に従事されている場合、短期や中期で具体的な商品開発計画や事故発生対策の提言、そして売上目標などが話題となりますが、これらは可能な限り具体的に設定をお願いします。また、皆さんのキャリアを向上させるための目標もぜひ自ら考えてください。例えば、3年計画でTES(繊維製品品質管理士)を取得する、来年は消費生活アドバイザー受験に挑戦するなど、具体的な目標設定ができればベストです。
    6. 「しているはず」と「している」は違う
       品質トラブルが発生した時、「この内容は仕入先で確認しているはずだ」、「材料の仕様変更は〇〇さんが仕入先に伝えているはずだ」、「その材料は改良されているはずだ」など、「はず」が担当者から次から次に発せられることがあります。「はず」のニュアンスは、「明確に確認していないがおそらくそうなる」ということで、個人生活では特に問題はないかと思いますが、ビジネスでトラブルの原因を分析し、責任所在を絞る時は、「はず」の姿勢は好ましくありません。未確認の内容があれば、先入観は持たず、常に社内外の誰かに「確認する」習慣をつけてください。「はず」には説得力がありませんので、連絡事項は、後日記録が残るように、文書あるいはメールでされることをお勧めします。
    7. 待ちの姿勢はだめ。どんどん積極的に提案してほしい
       情報過多の時代ですが、必ずしも必要な情報がタイムリーに入手できるとは限りません。必要な情報は、自ら入手する努力を試みてください。業界新聞、SNSニュースはもちろん、社内外の専門家の知り合いを多く知っていることは非常に心強いです。あらゆる機会に名刺交換を積極的にして、気軽に問い合わせできる各分野の知り合いを増やす努力をお勧めします。検査協会もそのひとつです。そして、これらの結果を踏まえて、社内で積極的に自ら提案していただきたいと思います。
    8. 社外で揉まれてレベルアップしてほしい
       「井の中の蛙(かわず) 大海を知らず」ということわざがあります。井戸を会社に置き換えるなら、社内だけの判断で下した結論も、「社内の常識は、社外の非常識」になりかねません。例えば、品質管理のメンバーなどは、可能な限り社外の各種学会や研究会(TES会ATTSなど)に参画したり、各種講演会、施設見学会にも参加し、人的ネットワークの構築とご自身のキャリアをスパイラルアップしていただきたいと思います。
    9. 繊維製品のモノつくりの基本は、バラツキを揃えることである
       衣料などの繊維製品は、金属製品やガラス製品のように単一な物質ではありません。繊維は、動物や植物から採取した繊維や石油から合成した繊維を撚って糸にして、織編・染色工程を経て布(テキスタイル)になります。また混紡糸などは、まさに物理的性質の異なる複数の繊維を一本の糸に撚り上げています。金属製品やガラス製品は、一度成型すると、その寸法や表面感は大きく変わりませんが、繊維製品は、引っ張れば伸びる、着用でしわになる、家庭洗濯で縮む、こすると毛羽立つなど、大きく外観が変化し、ある意味不安定でやっかいな材料です。
       このように繊維製品はもともと物性や外観がばらついている材料を実用化できる範囲でまとめあげたものです。そのため、品質管理には合理的な一定の許容範囲も必要であり、品質がばらつくリスクもあることをご承知おきください。
    10. 地球温暖化、海洋汚染問題は、アパレル業界には大きな課題である
       SDGsは国連の2030年までに達成するための目標です。わが国も2030年には温室効果ガス排出量を2013年比46%削減することが目標になっています。このため、アパレル業界もこの目標達成する責任があり、リサイクル素材の採用、低エネルギーや節水の生産体制などが求められています。また、マイクロプラスチック、ファイバーフラグメントによる海洋汚染も世界的に大きな課題となっています。本業界に身を置く私たちも、このことをよく理解して、商品企画、品質管理、商品物流に反映していきましょう。
  3. まとめ
     アパレル業界には、ファッションや機能などの魅力ある製品を、効率よく適時に消費者に提供するだけでなく、社会的な貢献も求められています。前者は、マーケティング戦略に基づき、ファッション・商品政策、流通政策、価格政策を実施することであり、後者は地球温暖化のためのCO2削減策や海洋汚染対策、安全対策など挙げられます。これらを実現するためには、会社や部門の方針が大切なのですが、最終的には、部門を支える皆さん個人の取り組み姿勢やキャリアが決定するものと考えます。これからのアパレル業界を支える皆さんの活躍を期待しています。


(次回のアパレル散歩道 / 2024年2月1日発行)

 新シリーズ『テキスタイルの特性を学ぼう』が始まります。まず「1.テキスタイルの機械的特性」を取り上げます。アパレル製品の側面から、素材特性を勉強しましょう。

コラム : アパレル散歩道61 ~テキスタイルの特性を学ぼう~
テーマ : 1.テキスタイルの機械的特性


発行元:
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail:
pr-contact@nissenken.or.jp     URL:
https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。



社外経歴
(一社)日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
(一社)日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
(一社)日本繊維製品消費科学会 元副会長

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