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第65回 : 「テキスタイルと水分に関する性質~その2」

2024/06/01

テキスタイルの特性を学ぼうアパレル散歩道 テキスタイルの特性を学ぼう
第64回「テキスタイルと水分に関する性質~その1」からの続きです 4 透湿性 透湿性とは、テキスタイル(生地)が水蒸気を透過させる性質のことです。この性質は、衣料品の生理的機能に大きな影響を与えます。

2024.6.1

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第64回「テキスタイルと水分に関する性質~その1」からの続きです


  1. 透湿性
     透湿性とは、テキスタイル(生地)が水蒸気を透過させる性質のことです。この性質は、衣料品の生理的機能に大きな影響を与えます。
     透湿抵抗の大きいテキスタイルを使用した衣料品や、重ね着をし過ぎたケースでは、肌に近い衣服内の湿度が上昇し、蒸れ感の不快を感じることになります。しかし、これらは発汗量と透湿量のバランスで検討されるべきで、激しい運動を伴う衣料品では、発汗に対する十分な透湿性が求められるでしょう。
     近年、レインウエア、アウトドアウエア、スキーウエアなどでは、「透湿性」と「防水性」を組み合わせた「透湿防水性」をもつテキスタイル素材が登場しているのはご承知の通りです。透湿防水素材については、アパレル散歩道 第29回「3.1 透湿防水素材」第40回「3.4 透湿防水加工」を参照してください。
      ≪透湿防水性とは≫
      透湿性は、テキスタイル(生地)が水蒸気を透過させる性質のことです。また防水は、耐水、はっ水、漏水の総称であり、これらの機能を持つ素材を防水素材と呼びます。このため、透湿性と防水性の両方の性能を持つ素材は、透湿防水素材と呼ばれます。
     また、私たちは経験的に、ニット素材は織物素材より透湿性が大きいことは理解しており、また織物でも非コーティング素材は、樹脂コーティング(ラミネート)素材よりも透湿性は大きいことも理解しています。このような経験的な理解を技術や理論で裏打ちして、さらに理解を深めていただきたいと思います。
      ≪透湿性の大きい素材、小さい素材とは≫
      衣服内の汗水蒸気が、衣服内から外部に放出されるメカニズムを考えると、以下のことが想定されます。
    1. ニットは一般に織物より透湿性は大きい
    2. ニットでも織物でも、編密度、織密度が小さい素材は、透湿性が大きい
    3. 織物でも、樹脂コーティングやラミネート素材は、非樹脂コーティングや非ラミネート素材より透湿性は小さい
    4. アクリルコーティングは、ポリウレタンコーティング(ラミネート)素材より透湿性は小さい。アクリルコーティング樹脂は、ポリウレタン樹脂と比較して微多孔タイプや親水無孔タイプがないため、高透湿性は期待できない
    1. 透湿性の評価法
       繊維製品の透湿性は、「JIS L 1099繊維製品の透湿度試験方法」で規定され、A-1法とB-1法などがあります。いずれも、吸湿剤である塩化カルシウムや酢酸カリウムを用いて、試料の透湿度を評価する方法です。
       アパレル散歩道 第40回「3.4 透湿防水加工」に評価法を紹介していますが、詳細はニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください

      表9 JIS L 1099透湿度試験の種類
      試験法結果と単位
      A-1法塩化カルシウム法透湿度 (g/m²・h)
      B-1法がA-1法より大きな数値がでる
      B-1法酢酸カリウム法


      ~透湿度の表記~
      B-1法はA-1法より大きな数値がでるため、アパレルメーカーのマーチャンダイザー(MD)は、B-1法の数値を商品に表示したい傾向がありますが、A-1法が実用環境に近いとも言われています。いずれにしても、商品に数値を表示する場合は、消費者に誤解を招かないよう、必ず試験法を併記することが大切です。(図9の表記例を参照のこと)

      透湿度 150 (g/m²・h)
      試験法 JIS L 1099 A-1法

      図9 透湿性の表記例



    2. 最近の透湿防水素材の例
       最近の透湿防水素材の例を表10に紹介します。近年、多くの素材メーカーや商社により、たくさんの透湿防水素材が開発されています。また、最近は、サステナブルの要請から、植物由来やリサイクルに対応した素材も登場しています。素材性能の詳細は、各素材メーカーにお問い合わせください。

      表10 最近の透湿防水素材(例)
      素材メーカー素材名素材例備考
      小松マテーレサイトスポリエステル、ナイロン高水圧、高透湿が特徴
      サカイオーベックスエスフレッチャーポリエステル、ナイロン乾式コーティング
      セーレンテクノブレンポリエステル、ナイロンラミネートタイプ
      バーレル グリーンポリエステル、ナイロン植物由来コーティング樹脂使用
      帝人フロンティアネオゾイックポリエステル、ナイロン無孔質膜による加工
      マイクロフトコンデニアポリエステル高密度による機能素材
      エコストームポリエステルリサイクルポリエステル使用
      テックワンルストレFGXポリエステル、ナイロン微多孔のポリウレタン膜ラミネート
      東レエントラントポリエステル、ナイロン透湿防水素材として長年実績あり
      ダーミザクスポリエステル、ナイロン樹脂膜ラミネートタイプ
      ユニチカトレーディングタフレックスポリエステル非コーティングによる透湿防水織物


  2. 防水性
     防水性は、雨や雪などでウエア表面が濡れても、衣服内が濡れない機能で、レインウエア、屋外作業着、スキーウエア、アウトドアウエアなどに求められます。また、JIS(日本産業規格)によれば、防水は、はっ水、耐水、漏水の総称として定義されています。

    表11 防水の構成
    防水の構成意味など
    はっ水雨や水などをはじく性質。主に糸表面へのはっ水加工剤付与で機能を実現しているため、汚れの付着、摩擦や洗濯によるはっ水剤の脱落で、雨などが浸透することがある。(図10参照)
    耐水雨や水の通過や浸透を防ぐ性質。耐水の実現には、①生地裏面へのポリウレタン樹脂コーティングやラミネート加工、②織物の高密度化、などがある。①では、その樹脂膜が透湿膜なら、透湿防水素材となる。(図11参照)
    漏水水を通過または浸透させる性質。耐水と近い性質だが、ウエア用途でその概念は少ない。グランドシートやテント生地など資材用の概念と思われる。


    図10 はっ水のメカニズム
    図10 はっ水のメカニズム

    図11 耐水のイメージ(左:樹脂膜加工、右:織物の高密度化)
    図11 耐水のイメージ(左:樹脂膜加工、右:織物の高密度化)



    1. ウエアの防水
       防水機能のあるウエアを商品企画する場合、防水素材を採用するだけでなく、製品開発での工夫も大切になります。表12に、防水ウエアの開発についてまとめています。ご確認ください。

      表12 防水ウエアの開発
      開発の種類項目具体的な開発例
      素材開発素材の選定
      1. はっ水素材を選定(耐久性考慮のこと)
      2. 耐水素材を選定
        ~特に透湿防水素材など~
      製品開発縫い目からの浸透を防ぐ
      1. 縫い目の少ないデザインの検討
      2. 接着縫製仕様の検討
      3. シームシーリングで縫い目を封鎖(図12参照)
      副資材の工夫
      1. 止水ファスナーの採用(図15参照)
        ファスナーテープへの樹脂コーティング加工
      2. はっ水縫い糸の採用
      パターン・仕様の工夫
      1. 襟、袖口、裾など開口部からの水の浸入しにくいパターン
      2. フードデザインの工夫
      3. タブ、引きひもなどによる工夫 (図13,14参照)


      図12 縫い目のシーリング
      図12 縫い目のシーリング

      図13 袖口のタブ
      図13 袖口のタブ

      図14 襟部フード仕様(開口部の絞り)
      図14 襟部フード仕様
      (開口部の絞り)

      図15 止水ファスナーの例
      図15 止水ファスナーの例

      ~縫い目からの水の浸入~
      • コーティング生地の縫製品では、ミシン針で明らかに針穴があきます(図16)。たとえ10000mmの耐水生地でも針穴部の耐久性はほとんどゼロになっています。
      • 生地のはっ水が色々な要因で低下すると、縫い糸が雨どいの役目をして、縫い糸を伝って雨水が内部に浸透することになります。この対策としては、①縫い目自体の少ないデザインの検討、②接着縫製仕様の検討、③シームシーリングで縫い目を封鎖する、④生地のはっ水性を高める、⑤はっ水加工した縫い糸を使用する、などがあります。

      図16 縫製品の縫い目
      図16 縫製品の縫い目


    2. はっ水性の試験
       はっ水性の試験方法は、JIS L 1092繊維製品の防水性試験方法によるスプレー法などが規定されています。図17上部の漏斗のスプレーノズルから水250mlを散布し、下部の保持具の試験片保持枠に45度の斜めに取り付けた生地表面の濡れの程度を判定写真(図18)にしたがってはっ水度を判定します。レインコート等に「はっ水」を表示する場合は、家庭用品品質表示法「繊維製品品質表示規程」では、はっ水度が2級以上と規定されていますが、この基準値は最低基準であり、スポーツウエアやアウトドア用衣料では、はっ水度が3級~4級程度は必要になります。アパレルメーカーは、用途によって、はっ水度の品質基準の設定が必要です。

      図17 JIS L 1092スプレー法の試験装置
      図17 JIS L 1092スプレー法の試験装置



      JIS L 1092スプレー法の判定写真1級 JIS L 1092スプレー法の判定写真2級 JIS L 1092スプレー法の判定写真3級 JIS L 1092スプレー法の判定写真4級 JIS L 1092スプレー法の判定写真5級

      図18  JIS L 1092スプレー法の判定写真



    3. はっ水剤について
       第二次世界大戦前まで、世界の衣料用はっ水剤の成分は、ろうそくの原料でもあるパラフィンでした。戦前の登山家は、ヤッケやジャケットにパラフィンを溶かして塗布していました。戦後は化学工業の発達により、シリコン系はっ水剤、そしてフッ素系はっ水剤が登場しました。ただし、シリコン系はっ水剤は摩擦係数を下げる効果によって織物がスリップしたり毛羽立ちしやすい弱点もあり、2000年頃には、はつ油性もあるフッ素系はっ水剤が、衣料用の主力になっていました。その後、2015年にC8タイプのフッ素系はっ水剤が、これにわずかに含まれるPFOA(ペルフルオロオクタン酸)が地球環境や健康に悪影響を及ぼす可能性があるとして生産中止になり、PFOAを含まず環境リスクの少ないC6タイプのフッ素系はっ水剤、そして、さらにフッ素を含まない非フッ素系はっ水剤も登場して現在に至っています。世界の潮流は、この非フッ素系になりつつあります。
       非フッ素系加工剤は、「フッ素フリー」とも呼ばれていますが、それまでのフッ素系はっ水剤と比べると、化学構造上、洗濯耐久性やはつ油性に劣るところがありましたが、はっ水剤メーカーや素材メーカーの研究開発の結果、洗濯耐久性能などは向上しつつあります。
       はっ水機能を有する商品を開発するアパレルメーカーは、①消費者ニーズと②使用材料のはっ水機能(消費性能含む)、③消費者への情報提供を充分に検討して、はっ水剤のタイプを決めることが必要です。


    4. 耐水性試験
       耐水性は、外部から衣服内へ雨滴などの浸入を防ぐ性質で、アウトドアの防水ジャケットなどで主に裏面にポリウレタン樹脂コーティングやラミネートされた素材などに求められる機能性です。一般には透湿機能との組合わせで、「透湿防水性」とも呼ばれています。JIS L 1092の耐水性試験には、A法(低水圧法)、B法(高水圧法)があります。A法による試験結果の単位はmmで、またB法による試験結果の単位はkPaで示されます。一般的な基準値ではアクリルコーティングされた傘地や一般ブレーカー・ブルゾンなどの軽衣料で400mm~600mmレインコートやアウトドア・スキーウエアなどの重衣料では2000mm以上などで多用されています。商品の用途や素材を考慮し、実用性と相関のある合理的な基準値を運用することをおすすめします。

      表13 JIS L 1092の耐水性試験
      試験方法試験概要試験結果の単位(注)主な用途
      A法(低水圧法)専用の試験機で、一定の昇圧速度で試験片に水圧をかけて、生地から水滴が3滴出た時点の水圧を測定するmm一般衣料
      B法(高水圧法)kPaアウトドア・機能ウエアなど
      (注) 1 kPa=101.972mmの換算式があります

      図19 耐水性試験機
      図19 耐水性試験機



  3. 水洗いで外観変化しない性質

    1. 洗濯寸法安定性
       この洗濯寸法安定性は、アパレル散歩道 第63回「テキスタイルの寸法安定性」に記載しています。本稿では省略しています。


  4. ウール織物素材が空気中の湿度によって寸法変化する性質

    1. ハイグラルエキスパンション(hygralexpansion)
       ハイグラルエキスパンションは、湿度変化によってウール繊維が水分を吸収または放出して伸縮する現象のことで、毛(ウール)織物やウール衣料品に該当する課題です。毛織物は水分を吸収すると伸び、発散することにより元に戻る性質があります。この現象により、吸湿時と発散時の寸法変化の大きい生地ほど、製品後に問題になる可能性があります。
       特に、夏期は多湿で冬期は乾燥しているわが国のような環境では、このハイグラルエキスパンションによる寸法変化が問題になるケースがあります。対策として、①ハイグラルエキスパンションの少ない毛織物の採用、②縫製工場の湿度管理の徹底などが実施されています。
       毛繊維の特徴についてはアパレル散歩道 第35回「5.2毛繊維」も参照してください。

      図20 ウール繊維の外観
      図20 ウール繊維の外観

      図21 ウール繊維の内部構造
      図21 ウール繊維の内部構造



      ハイグラルエキスパンション(%) = 吸水時の寸法 – 発散時の寸法 発散時の寸法 × 100

      図22 ハイグラルエキスパンション評価の考え方



(第66回 アパレル散歩道の予告 – 2024年7月1日公開予定)

 次回は、『テキスタイルの特性を学ぼう』の6回目として、「熱に関する性質」を取り上げます。アパレル業界に携わる立場から、テキスタイル素材の特性を勉強しましょう。

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。


社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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