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アパレル散歩道 第91回 : シリーズ【アパレルのモノつくりQ&A】⑤ / 「繊維編」その2

2026/08/01

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前回に引き続き「繊維編」として、「ポリエステル繊維 その2」をお送りします。今回は、ポリエステル商品のリサイクル、そしてこれらの商品の品質事故を中心に説明します。

2026.8.1

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 前回に引き続き「繊維編」として、「ポリエステル繊維 その2」をお送りします。今回は、ポリエステル商品のリサイクル、そしてこれらの商品の品質事故を中心に説明します。

第90回(前回)

1.ポリエステル繊維の登場
 1.1ポリエステル繊維の歴史
 1.2約60年前の野球ユニフォーム素材
2.ポリエステルの価格について
3.ポリエステル繊維の特徴
 3.1短所の改善
 3.2各種繊維の性能比較
 3.3優れた強度や耐久性
 3.4吸湿性、吸水性が低い(速乾性高い)
 3.5優れた耐熱性
 3.6分散染料で染色

第91回(今回)

4.ポリエステル製品とリサイクル対応
 4.1ポリエステルのリサイクル
 4.2リサイクルの課題
5.昇華捺染可能
6.ポリエステル製品の品質事故
 6.1物性の事例
 6.2染色堅ろう度関連の事例
  (昇華汚染、マイグレーション、白場汚染)
7.さまざまなポリエステル繊維について
 7.1PTT繊維
 7.2ポリ乳酸繊維
 7.3カチオン可染ポリエステル


■ 繊維編(その2) ―【Q&A7 ポリエステルの歴史から特徴まで徹底解剖2】 ■

Q&A-7
ポリエステル繊維は、現在世界で最も多く生産されている合成繊維ですが、その生産背景、化学構造、消費性能(長所や短所など)、また染色性、環境負荷、代表的な品質事故例などについて、総合的に教えてください。

図8.ポリエステル繊維の製造例(溶融紡糸)
図8.ポリエステル繊維の
製造例(溶融紡糸)



  1. ポリエステル製品とリサイクル対応
     今日、地球環境負荷の低減は、世界的に大きな課題となり、繊維製品においても「リサイクル問題」、「マイクロプラスチック問題」などが取り上げられています。一般的に、ポリエステル繊維は、多くの繊維の中でも比較的リサイクルしやすい繊維と言われています。衣料用として多用されるポリエステル繊維の成分であるPET(ポリエチレンテレフタレート)は、ペットボトルにも使用される樹脂であり、世界的にもリサイクル技術は先行しています。しかし、ポリエステル衣料品のリサイクルには、4.2に述べるような各種ハードルがあることを認識してください。
     ポリエステルのリサイクルについては、第33回アパレル散歩道「環境にやさしいものつくり」も参照してください。

    1. ポリエステルのリサイクル
       ポリエステルがリサイクルされやすい理由を表8に示します。また、ポリエステル製品のケミカルリサイクルの工程例も改めてお示しします。

      表8.ポリエステルがリサイクルされやすい理由
      理由説明
      ①熱可塑性である
      • ポリエステルは、綿や毛などと異なり、熱可塑性樹脂のため、溶かして再び繊維化することができる
      ②世界的に回収システムがある
      • 特にPETボトルでは、回収、粉砕、洗浄、再ペレット化の仕組みが確立されている
      • 「ペットボトルからペットボトル」、「ペットボトルからポリエステル繊維」などが実用化されている
      ③品質劣化が比較的少ない
      • ポリエステルは、他の合成繊維に比べて再利用時の性能低下、特に重合度(分子量)の低下が比較的に少ない
      • 耐久性が求められる各種ユニフォーム素材、自動車内装材、フリース素材などに再利用されている


      図9.ポリエステル製品のケミカルリサイクルの工程例
      DMT : テレフタル酸ジメチル(ジメチルテレフタレート)のこと。ポリエステルの原料になる。

      図9.ポリエステル製品のケミカルリサイクルの工程例



    2. リサイクルの課題
       ポリエステル素材(繊維、フィルム、ペットボトルなど)は、上記4.1の理由で「リサイクルしやすい」と述べましたが、ポリエステル衣料品のリサイクルでは、製品形態や混用状況など、表9に示す理由で現状では実施が難しいケースもあります。製品回収ができても、リサイクルが難しいことになります。

      表9.ポリエステル製品のリサイクルの課題
      理由説明
      ①異繊維との混用生地が多い
      • 多くの衣料品は、ポリエステル100%ではない
      • 例えば、ポリエステル/綿、ポリエステル/ポリウレタン、ポリエステル/ナイロンなど、複数の繊維が混用されている
      ②付属品が多い
      • 一般のポリエステル衣料品には、異素材の裏地、ファスナー(金属製や樹脂製)、ボタンやフック各種、芯地(ホットメルト樹脂)、テープ各種、縫い糸各種、顔料プリント、刺繍糸など、多くの副資材や付属品が取り付けられている
      • 効率良くリサイクルを実施するには、これらを分離し除去する工程が必要であり、その手間とコストを回収できるかが問題となる
      ③染色・加工剤の問題
      • 衣料用テキスタイルは、染色加工工程で、染料、はっ水剤、柔軟加工剤、難燃剤など、色々な薬剤が加工されている
      • リサイクル後にこれらの薬剤の残留により、リサイクル品の性能に影響を及ぼすことがある


      ≪アパレル業界でのリサイクルの課題≫
      • 製品回収はできても、衣料品をリサイクルして新規に衣料品に戻す水平展開は、現状難しい面がある。今後、①異繊維(混紡など)の分離技術の確立、②回収ルートの整備、③易リサイクルな副資材の開発、④アパレルメーカーの易リサイクル商品の積極的な開発などが、総合的に検討されることが望まれる。
      • 近年、EUなどの衣料品リサイクル動向をみると、①材料の単一化(モノマテリアル化)、 ②解体しやすい商品設計、③リサイクルのケミカルリサイクル化、④デジタル製品パスポート化などが検討されている。
      デジタル製品パスポート化
      「デジタル製品パスポート(DPP)」とは、衣料品の情報をデジタル化し、QRコードやICタグで、各製品を追跡・共有できる仕組みで、素材の履歴、製造情報、リサイクル方法などが記録されている。欧州を中心に、循環型社会実現のため、導入が検討されている。


  2. 昇華しょうか捺染なっせん可能
     通常ポリエステル繊維は分散染料で染色されます。分散染料は「昇華しやすい」という弱点がありますが、この弱点を逆に利用したのが昇華捺染です。第39回アパレル散歩道「4.2.3 捺染」でも、昇華捺染について詳しく紹介していますので、参考にしてください。要点は以下の通りです。

    1. 昇華捺染用のインクでは、特に基本昇華しやすい分散染料が使用されます。特に分子量が小さい分散染料であるほど、昇華しやすいと言えます。
    2. ニット素材では、編地が温度と圧力で偏平して、風合いや機能性が低下することがあります。例えば、生地が薄くなり吸水キャパが低下し、吸水速乾性が不合格になることがあります。
    3. 捺染後のソーピングが不要のため、「環境対応である」「製版が不要なため短納期で加工できる」「グラデーション柄や写真柄が可能」「小ロット対応可能」などのメリットがあります。
    4. 現状では、適用素材は白色系ポリエステル生地に限定されます。
    以上の状況により、今後ともその用途は拡大すると思われます。
    図10.昇華プリント(縫製パーツによるバッチ加工)

    図10.昇華プリント
    (縫製パーツによるバッチ加工)



  3. ポリエステル製品の品質事故
    1. 物性の事例
       ポリエステル製品は、繊維の物性や染色性に起因して、品質事故が発生することがあります。以下に事例を紹介します。
      1. ピリング
        • ピリングとは、着用中の摩擦で生地表面が毛羽立って絡み合い、小さな球状の毛玉(ピル)が生じる現象です。特に短繊維ポリエステル製品(混紡を含む)では、繊維の強度が大きいため毛玉が脱落せず、ピリングが進行します。
        • 短繊維からなるポリエステル紡績糸(混紡含む)は、もともと毛羽立っており、毛羽が擦れなどで絡まって毛玉が成長します。→図11Ⓒ参照
        • ピリングは短繊維糸のみに発生するのではなく、もともと毛羽のない長繊維糸(フィラメント)で構成された生地が、着用中に擦れてフィラメント切れが発生し毛羽立ち、毛玉になることもあります。→図11Ⓑ参照

        図11.ピリングとスナッグ発生のメカニズム
        図11.ピリングとスナッグ発生のメカニズム

      2. スナッグ
         スナッグは、主に長繊維(フィラメント糸)使いの生地に発生し、フィラメント切れによる毛羽立ちや、図11Ⓐのように外部との接触による組織糸の飛び出しやループの突出、ひきつれ現象の総称です。

        図12.合繊ニット製品のスナッグ現象
        図12.合繊ニット製品のスナッグ現象

        1. 糸種とスナッグ
          伸縮性に優れたポリエステルなどの合繊加工糸を使用した生地では、加工糸の捲縮によって生地に伸縮が発現しますが、他の粗硬物体と引っ掛かりやすくなります。また、ポリエステルなどの合繊フィラメント糸は、強度も大きく摩擦係数も低いことから、引っかかると切れずに図12のように引き出されやすくなります。

          図13.紡績糸
          図13.紡績糸

          図14.フィラメント糸
          図14.フィラメント糸

          図15.ポリエステル加工糸
          図15.ポリエステル加工糸

          ≪スナッグ発生の3要素≫
          1. 突起物や粗硬物が生地と接触すること
          2. 糸が引っ掛かりやすいやすいこと
          3. 糸が切れずに生地組織から引き出されやすいこと
        2. ピリング・スナッグのまとめ
          • ポリエステル100%や混紡の紡績糸使いの生地は、毛玉ができてもポリエステル繊維は強度が大きいため、根が生えた状態になり、毛玉が脱落せず成長します。
          • スナッグは、ポリエステル、ナイロンなど合繊ニットで発生しやすい。特に伸縮性に富む合繊加工糸使いの素材で発生しやすいと言えます。
          • 編み密度や針密度(ゲージ)が粗く、柔軟加工されると、ピリングやスナッグは発生しやすくなります。
          • 捺染品(プリント)は裏面が染まっておらず、裏糸の白糸が引き出され、スナッグが目立ちやすくなります。
          • 染色加工時の過度な柔軟加工、家庭洗濯での過度な柔軟剤処理は、糸表面の摩擦抵抗が減少して、ピリングやスナッグが発生しやすくなります。
          • 最近の素材のソフト化、ストレッチ化では、ピリングやスナッグが発生しやすい傾向があります。事前の品質試験が大切です。
          • ピリングやスナッグの発生は、消費者の着用状況にもよりますが、特にハードに使用されるスポーツウエアやワーキングウエアなどはその発生リスクは大きく、使用用途とのマッチングが重要です。
      3. 引裂強さ
         引裂強さは、織物の強度物性を確認する重要な性能項目の一つです。
        • ポリエステル繊維は、引張り強さに優れていますが、極細ポリエステルフィラメントの高密度織物 (図16参照)などでは、着用中に引き裂けることがあります。
        • 引張り強さが、糸の長さ方向に応力が加わるのに対して、引裂き強さは、糸のせん断方向に力がかかり、両者のメカニズムは全く異なります(図17参照)。引張り強さは強靭なのに、引裂き強さは非常に弱い素材も存在します。
        • アクリル系やポリウレタン系の樹脂コーティング加工で糸の自由度を制限すると、生地はさらにペーパーライク化して引裂き強さがさらに低下することがあります。コーティング前に、引裂き強さが既に品質基準ぎりぎりであれば、同一生機のコーティング加工は、引裂き強さがより低下するリスクがあり要注意です。

        図16.極細フィラメント高密度織物の外観
        図16.極細フィラメント高密度織物の外観

        図17.引裂きのメカニズム
        図17.引裂きのメカニズム

        ≪織物の強度物性≫
        織物の耐久性は、①引裂き強さ、②引張り強さ、③摩耗強さで管理されることが多く、この3つの項目は、織物の代表的な品質基準項目です。新規織物を採用する時は、これらのデータをご確認ください。
      4. 静電気の発生
         合成繊維製の衣料品を着用していると、電気絶縁性が高いため、着用摩擦で発生した静電気が移動せずに帯電し(時には生地表面に数千ボルトもの帯電圧が発生)、衣服が「まつわり付く」「着脱時にパチパチ音がする」「空気中へ火花放電する」「ほこりが付きやすい」などの現象を引き起こすことがあります。以下に静電気に関する特性についてまとめています。(第68回アパレル散歩道「テキスタイルと静電気に関する性質」参照)
        • 帯電圧は繊維の水分率にも関係し、特に水分率の低いポリエステル繊維などの帯電性は大きくなります。
        • 冬期など環境湿度が低いと帯電しやすくなります。縫製工場では、冬期は加湿して湿度コントロールが必要になることもあります。
        • 薄くて柔らかい合成繊維素材では、皮膚との接触面積も大きいため静電気が生じやすい。また摩擦相手の素材によっても帯電圧は異なります。
        1. 帯電序列と帯電防止について
          各繊維は、それぞれの化学構造によって、(+)に帯電しやすいものと(-)に帯電しやすいものがあります。図18は「繊維の摩擦帯電列」です。ポリエステルもマイナスに帯電しやすい傾向があります。
          • 繊維同士を摩擦した場合、この序列が離れているほど静電気が発生しやすく、帯電圧が高くなる傾向があります。例えば、「“ナイロン”のストッキング」と、「“ポリエステル”のスカート裏地」の組み合わせは、静電気が発生しやすくなります。
          • 帯電列中央の“綿”や“レーヨン”などは、繊維中に水分を含むため、帯電しにくいと言えます。


          マイナスに帯電しやすい
          プラスに帯電しやすい
          塩化ビニル樹脂
          アクリル
          ポリエステル
          アセテート
          綿
          レーヨンなど
          ナイロン
          ウール
          ガラス繊維

          図18.摩擦帯電列

        2. 帯電防止策
          帯電防止は、繊維の電気伝導性を高めることであり、主に3つの方法があります。
          • 導電性繊維の使用(図19参照)。
          • 親水性化合物を繊維に練り込んだり、原糸を改質して共重合すること。
          • 染色時の帯電防止加工(親水加工)。ただし耐久性は劣る傾向があります。

          図19.導電性繊維の例(芯にカーボンを練り込む)
          図19.導電性繊維の例
          (芯にカーボンを練り込む)

        3. 特殊作業服の例
          化学工場やガソリンスタンド用作業服などの特殊作業服では、静電気による爆発火災防止、電子機器工場など静電気障害による電子部品の破損防止が求められます。このため特殊作業服は、JIS T 8118「静電気帯電防止作業服」で規定されているように、帯電電荷量なども含めて帯電性を評価したうえで、商品化されることが望まれます。もちろん、特殊作業服を使用する会社も、納入基準を設定しているケースが多いと思われます。

    2. 染色堅ろう度関連の事例(昇華汚染、マイグレーション、白場汚染)
       ポリエステル製品は、分散染料を使用しているため、昇華汚染、マイグレーション、白場汚染で事故が発生することがあります。世界的にもポリエステル繊維の使用比率が圧倒的に多いため、濃色ポリエステル製品は同現象について、要注意と言わざるを得ません。まず、この3つの現象を表10に示します。

      表10.ポリエステル製品の染色関連事故の現象
      事故の現象説明
      昇華汚染
      • 昇華とは、物体が固体から液体にならずに直接気体に変化する現象のこと
      • ポリエステル製品では、分散染料が周囲の環境(高温条件等)によって気化し、他の部位を汚染すること
      マイグレーション
      (染料移行)
      • 染料が繊維内で移動する現象のこと
      • その結果、分散染料が繊維表面などに移動し、他の部位を汚染すること
      白場汚染
      • 捺染加工時の水洗で白場を汚染したり、クリーニングなどで溶剤中に脱落した分散染料が、他の白色部に再汚染すること

      1. 染色時、分散染料は水に不溶のため、助剤の分散剤で水に分散させて使用します。しかし、化学的にポリエステル繊維分子と結合せず、繊維中に分散しているだけのため、熱などによって染料の分子運動が活発化し生地表面などに移動しやすくなります(マイグレーション現象)。
      2. 高温環境になると染料は昇華やマイグレーションしやすいため、染色工程のファイナルセットでは、セット温度が過度に高くならないように注意を要します。
      3. 濃色品は、もともと染料濃度(owf)が高いため染料の使用量が多く、このため濃色品の事故は多い傾向にあります。
      4. owf(%) on the weight of fiberの略で、繊維重量に対する使用する染料の重量比のこと。

      1. 昇華汚染のメカニズム
         ポリエステル濃色生地の分散染料が表面に移行し、昇華現象により、他の淡色部に染料が汚染します。特に、温度が上昇すると、分散染料の動きが活発になり、その汚染傾向は高まります。

        図20.分散染料の昇華汚染メカニズム
        図20.分散染料の昇華汚染メカニズム

        図21.在庫中の事故例(濃色部からの昇華汚染)
        袖の濃色部から、畳まれて在庫中に昇華汚染が生じた

        図21.在庫中の事故例
        (濃色部からの昇華汚染)

      2. マイグレーション(染料移行)
         ポリエステル濃色生地の分散染料が表面に移行し、白色の顔料プリントや他の白色部分などに、さらに染料が移行する現象です。この現象も温度が上昇すると移行が促進する傾向があります。

        図22.分散染料のマイグレーションのイメージ(顔料プリントの場合)
        顔料プリントの変色のイメージ

        図22.分散染料のマイグレーションのイメージ(顔料プリントの場合)


      3. 白場汚染
         白場汚染とは、家庭洗濯やクリーニングで、ポリエステル製濃淡配色製品を洗濯した時に、一度染液(洗濯水やクリーニング溶剤)中に流れ出た分散染料が、製品の淡色部にうっすら再汚染する現象のことです。もともとの製品濃色部の昇華堅ろう度、洗濯時の水温、浴比、溶剤の種類などが、汚染原因に影響することが知られています。

      4. まとめ~汚染事故の対策
        • 濃淡配色製品は、在庫移動時に、分散染料の移行(マイグレーション)と昇華汚染のリスクがあり、特に、濃淡配色のポリエステル製品の濃色生地は、昇華堅ろう度は可能な限り向上させることを推奨します。
        • 濃淡配色品の汚染事故対策で、濃色生地にカチオン可染(CD)ポリエステル生機を採用するという考え方もあります。しかし、生地管理が複雑でコスト要因もあり、一部の使用にとどまっているようです。
        • 濃色生地は、染色加工時にソーピング(還元洗浄/RC)を充分に行い、余分な分散染料を除去すること、また、ファイナルセットも過度に温度を上げないことが求められます。
        • 製品出荷後、流通の保管環境が高温や長期になる場合、ソーピングが十分であっても経時的にマイグレーション(染料移行)による汚染が加速されます。特に海外生産では、夏期の海上輸送コンテナの内部温度が60℃を超えるというデータもあります。ちなみに、アセアン地区からの赤道越えの海上輸送には、約1週間から10日を要します。

        図23.薄紙(昇華防止紙)の使用
        図23.薄紙(昇華防止紙)
        の使用

        • 昇華汚染防止には、古典的ではありますが、薄紙(昇華防止紙、図23)の使用が有効と言えます。また、薄紙の使用指示は、縫製仕様書に記載することで、指示漏れ防止にもつながります。
        • エナメルバッグの合成皮革(表Pu樹脂加工)や吸水速乾素材との接触でも、これらの樹脂や薬剤が分散染料と親和性が高く、汚染リスクが高くなり要注意と言えます。濃淡色の接触部には、薄紙やフィルムによる防御が望まれます。
        • 生産現場でのアイロンやプレス機の使用は、昇華汚染を促進するリスクがあり、注意が必要です。

  4. さまざまなポリエステル繊維について
     ポリエステル繊維の物質名は「ポリエチレンテレフタレート」であると前述しましたが、同じポリエステル繊維でも、構造などが異なったタイプの「PTT繊維」、「ポリ乳酸繊維」、「カチオン可染ポリエステル繊維」が使用されることもあります。以下にこれらを紹介します。

    1. PTT繊維
       PTT繊維とは、正式にはポリトリメチレンテレフタレートと呼ばれるポリエステル系繊維の一種です。
       一般のポリエステル(PET)とは構造が若干異なり、①自然なストレッチ性(伸縮性)、②ソフトな風合い、③形態安定性(シワになりにくい)、④発色性が良い、などが特徴となっています。

    2. ポリ乳酸繊維
       ポリ乳酸繊維(PLA繊維)は、植物由来の原料から作られる生分解性繊維で、環境配慮型素材として利用される合成繊維です。原料はトウモロコシやサトウキビなどのデンプンで、発酵→乳酸化→重合→繊維化の工程で作られます。バイオマス系ポリエステルに分類されています。
      バイオマス: 
      石油など化石資源を除く、生物由来の有機物で、再生可能な資源」 を指し、燃料や材料として利用してもカーボンニュートラルな特性を持つもの

    3. カチオン可染ポリエステル
       カチオン可染ポリエステルは、カチオン染料(陽イオン染料)で染色できるように改質されたポリエステル繊維のことです。通常のポリエステル(PET)は染色が難しく疎水性の分散染料で染められますが、その短所を改良した素材です。一般的なポリエステル(PET)にイオン性基(スルホン基 -SO4など)を導入し、カチオン染料で染色が可能になっています。CDポリエステルとも呼ばれます。CDとはカチオンダイのことです。その特徴は、① 常温染色が可能でエネルギー削減に寄与、② 鮮やかな発色性、③濃淡配色品の白場汚染が少ない、などの長所もありますが、④耐光性やや劣る、⑤一般PETよりコスト高などの短所もあります。


~終わりに~
前回第90回と今号の2回で、ポリエステル繊維と製品についての特性を色々な角度から紹介しました。作る立場の皆様も、家庭では使う立場となります。
ポリエステル製品の長所と短所をしっかり把握していただきたいと思います。

…次回予告
(第92回 アパレル散歩道 – 2026年9月1日公開予定)

 【繊維編 その3】として「機能性繊維のQ&A」をテーマにお送りします。
著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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