第35回 : ものつくり原点回帰シリーズ ~繊維 その2~
2022/02/01



2022.2.1
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前回の34回「アパレル散歩道」では、繊維、特に合成繊維と半合成繊維について勉強しました。
今回の35回「アパレル散歩道」では、引き続き「繊維」をテーマにして、天然繊維と再生繊維について勉強しましょう。
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天然繊維・再生繊維の外観と特徴
代表的な天然繊維や再生繊維の外観形状は、図1の通りです。繊維の外観や断面形状が、繊維の特性を決定し、ひいては、糸や織編物、衣料品の消費性能の多くを決定することになります。
図1.主な天然繊維と再生繊維の外観と性質1)
繊維名 | | 特徴 |
綿 |
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- 成分はセルロース(繊維素)である。
- ストローをつぶしてねじった形状で、断面は中空になっている。綿素材の風合いの柔らかさは、これに起因する。吸水性に優れるが、乾きにくい。
- わが国では、江戸時代から栽培され始めた。
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麻 (亜麻) |
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- 成分はセルロース(繊維素)である。
- 棒状のしっかりした繊維束状で、断面は綿と同様に中空である。風合いの硬さはこれに起因する。
- 吸水性に優れ、コシがあるため、夏物衣料などに使用される。強い摩擦で繊維がフィブリル化し、白化の原因となりやすい。
- わが国では、古代から栽培されている。
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毛 |
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- 成分はケラチンというたんぱく質である。
- 毛繊維表面の鱗片(スケール)が特徴である。この鱗片によって、洗濯などによってフェルト収縮が生じる。
- わが国では、明治時代から、毛製品の生産が拡大した。
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絹 |
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- 成分はフィブロインというたんぱく質である。
- 断面が三角形のおむすび型が特徴で、これは蚕の吐糸口の形状による。プリズム効果による光沢がある。強度が弱く、摩擦などでフィブリル化し、白化や破損が生じやすい。
- 中国でもともと数千年の歴史があった。
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レーヨン |
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- 成分はパルプなどセルロース(繊維素)である。
- 断面はつぶれた状態だが、湿式紡糸工程で、長繊維として製造される。水分が繊維内部から外部に排出される凝固過程で繊維表面が凹凸化している。吸水性に優れるが、濡れると強度低下しやすい弱点がある。
- 1930年代から商業化され今日に至っている。
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綿繊維
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綿繊維について
綿は、インド原産ともいわれ、江戸時代になってわが国に入ってきました。図2~4のように、綿繊維は綿花の種子に生えている種子毛から採取される繊維です。図5のように、綿繊維は中空扁平で、ねじれたリボン状であるため、繊維と繊維がしっかり絡み合い、糸にする紡績性が良好な繊維です。中空であるため、吸水性に優れ、軽くて暖かい特性もあります。また、耐薬品性では酸性には弱いものの、アルカリ性には強いため、弱アルカリ性の石鹸などに対する耐洗濯性も優れています。
図5.綿繊維の断面と側面
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綿繊維の特徴
綿繊維の長所と短所を表1.に示しています。この短所を補完するために、ポリエステルなどと混紡などがされています。天然繊維の中では、最も実用的に優れ、下着からジャケット、コートなどまで幅広く使用されています。
綿繊維をはじめとするセルロース繊維は、染色では主に反応染料が使用されますが、反応性染料にも弱点があり、①経時劣化して染色堅ろう度が低下する、②NOxガス、③漂白剤、④繰り返し洗濯、⑤汗と日光の複合による退色などが、品質事故として顕在化しています。
表1.綿繊維の長所と短所
長所 | 短所 |
- 吸水性がある(水分率8%)
- 天然繊維としては丈夫(アルカリに強い)
- 乾湿強力比が少ない(濡れても強度低下しない)
- 耐熱性あり(熱で溶けない)
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- 湿潤の染色堅牢度などが低い(染料の問題)
- 洗濯による縮み大きい
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綿繊維の原産地
綿繊維は、「綿花」として世界中の温暖地域で栽培されています。「綿花」が紡績工場で「原綿」となるわけです。
主な品種を表2で紹介します。2019年の世界の綿花生産量のトップ3は、1位が中国、2位がインド、3位が米国となっています。
表2.綿花の主な品種
品種 | 特徴 |
シーアイランド綿 | メキシコ付近のカリブ海の西インド諸島で栽培。繊維長が長く、柔らかく、光沢も有り、細番手糸に適している。世界でも最も優れた綿繊維といわれる。 |
エジプトギザ綿 | ナイル川領域で栽培。シーアイランド綿に次ぐ優れた綿繊維と言われている。
細番手糸に適している。近年生産量は低下している。 |
米綿 | 米国南西部で栽培。平均的に中級な綿素材といわれる。 |
スーピマ綿 | 米国西南部ピマ地方で栽培。超長綿として商品化されている。 |
中国新疆綿 | 繊維長が長い「超長綿」で、滑らかさや光沢感がある。色が白く発色も良い。 |
インドアッサム綿 | インド綿の中でも非常にコシのある高級綿素材。 |
≪良質な綿繊維とは~ステープルダイアグラムについて≫

ステープルダイアグラムの一例
原綿を紡績して綿糸を作る際、より細い糸(細番手)が紡げるかが大きなポイントです。細い糸を作る要件は、平均繊維長が長いことです。写真は原綿のステープルダイアグラムと呼ばれるもので、繊維を1本づつ長い順に並べたものです。 縦軸が繊維長であり、繊維長が長いものが高級綿となります。
~河内木綿の歴史~
江戸時代の後半から明治にかけて、大坂(大阪)の河内地方一帯は河内木綿の一大産地でした。
当時の大阪は明治時代、東洋のマンチェスターと呼ばれ、わが国の紡績産業の中心をなしていました。

八尾市のマンホール
(綿糸繰り)

綿を摘む図
「綿圃要務」より
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毛繊維
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毛繊維について
ここでいう「毛繊維」とは、ヒツジから刈り取った体毛を加工して得られる原毛のことです。毛(ウール)の歴史は、とくにヨーロッパではとても古く、古代エジプトからギリシャ、そしてローマ帝国に伝わったといわれています。わが国では、明治時代に入り産業化されましたが、原料である原毛は当時も今も輸入に頼っています。わが国の高温多湿の環境が、牧羊に合致していなかったのですね。原毛生産工程は、図6の通りです。
図6.羊毛の生産工程
現在、世界の主要な羊毛の品種は「メリノ種」ですが、他に「サフォーク種」、「ロムニー種」などがあります。

メリノ(オーストラリア、ニュージーランド)

サフォーク(英国)

ロムニー(ニュージーランド)
図7.羊の種類について
(メリノ、サフォーク、ロムニー)
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獣毛繊維について
同じ動物の毛であっても、羊毛以外は「獣毛」に分類されています。カシミヤ、アルパカ、モヘヤ、キャメルなどがあり、それぞれ、特有の風合いや性能を持っています。

カシミヤ(カシミヤ山羊)

アルパカ

モヘヤ(アンゴラ山羊)

キャメル
図8.獣毛の種類について
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毛(ウール)繊維の特徴
毛繊維は、人間の髪の毛と同様に、成分は「たんぱく質」です。側面を観察すると、図9のようにスケールと呼ばれる「鱗片」が表面を覆っています。ちょうど屋根瓦を敷き詰めた状態のようです。この表面のスケールは疎水性で、水を弾く性質があります。人間の髪の毛にも、ほぼ同様のスケールがあります。

図9.毛繊維の側面
図10は、毛繊維の断面の構造を示しています。図11のように、毛繊維は、成分の異なるタンパク質であるAコルテックスとBコルテックスが、ちょうどバイメタル構造(貼り合わせたような構造)になっていることがわかります。この成分の違いが物性の違いになり、羊毛繊維は図11のようにクリンプ(捲縮)の外観を示しています。また、先ほど5.2.3で表面のスケールは疎水性といいましたが、内部のコルテックスは、親水性を示します。羊毛の公定水分率が繊維の中でも約16%と高いのは、このコルテックスに水分が貯蔵されるためです。表面は疎水性でからっとしているため、湿度調節(エアコン)機能があるともいわれ、冬山登山シャツなどにも多用されていました。
表3.毛繊維の長所と短所
長所 | 短所 |
- かさ高性がある(クリンプ)
- 吸湿性がある(水分率16%)
- 耐熱性がある(熱で溶けない)
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- 洗濯によって縮みやすい
- フェルト化する
- アルカリに弱い(蛋白質ケラチン)
- 虫喰いにあう(蛋白質ケラチン)
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表3は、毛繊維の長所と短所を示しています。毛繊維の側面や断面で、他の繊維にはない特殊な構造により、独特の性能を示しています。クリンプ構造による保温性、内部コルテックスの吸水性による吸放湿性、燃えにくいなどの性質は、非常に興味深い機能です。ただし、ハードな洗濯や着用でフェルト化しやすい、虫害に会いやすいなどの弱点もあり、これは消費者へのメンテナンス情報を、しっかり提供することが大切と考えます。
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フェルト化について
毛製品のジャケットやパンツで、着用中、汗や雨などの水分過多の状態でもみや摩擦を受けると、羊毛はフェルト化することがあります。洗濯でも同様の現象が発生することがあります。図14によると、表面のスケールが、水・酸・アルカリの影響を受け、スケールが立った状態になり、その後の摩擦によって、立ったスケール同士が絡み合った状態になることがフェルト化です。
毛素材は、洗濯や着用で、丁寧な扱いをすることが必要です。人間の髪の毛も基本同様の構造で、髪の毛の手入れが不十分であると髪の毛が絡みついたりします。これを防ぐために私たちは、シャンプー後にリンスをして繊維同士が滑りやすくしています。

正常な状態のウール

水・酸・アルカリの影響を受け、スケールの立った状態

摩擦を受け、立ったスケール同士が絡み合った状態(フェルト化)
図12.フェルト化のメカニズム
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ウォッシャブルウールについて
ウール素材は、フェルト化によって収縮や硬化などの品質リスクがあるため、家庭用品品質表示法による取り扱い表示は、一般には水洗い不可、ドライクリーニング可の表示を付けられていると思います。しかし、毛素材であっても、水洗いをしたい要望もあり、このため、原毛に防縮加工が施されることがあります。しかし、防縮加工により、本来のウールの風合いや特性がやや失われる傾向もあり、用途によってケースバイケースの対応が望まれます。最近では、ウールスーツでもあっても、マーケティング戦略で水洗い可のスーツの商品化もあり、マーケティングから商品化までの合理的な商品企画が望まれます。
表4.防縮加工の種類
防縮加工の種類 | 内容 |
オフスケール | 薬品でスケールを除去する方法 |
樹脂加工 | 樹脂でスケール間を埋める方法 |
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絹(シルク)繊維について

図13.絹の留めそでの一例
絹(シルク)は、中国が原産で、長年わが国では、着物用の素材として発展し、今日に至っています。近年のライフスタイルの洋風化により、その需要は減っていますが、蚕の幼虫が吐出するたんぱく質が原料になっていることは、注目に値すると思います。ぜひ、その原理を理解していただきたいと思います。ちなみに、蚕は桑の葉のみを食べて大きくなります。
絹繊維は、図14のように、蚕が作った繭をほぐして取り出される長繊維(フィラメント)です。図14-Cは絹繊維の断面ですが、フィブロインというたんぱく質②が2本あり、その周りをセリシンと呼ばれる別のたんぱく質①で覆われている構造です。②のフィブロインは三角おにぎりの構造で、これがプリズム効果で光沢を発する原因となっています。一方、周囲の①セリシンは水溶性で、精錬工程で温水除去されます。除去されたセリシンは保湿効果があるため、現在も化粧品などに再生活用されているようです。

a.蚕(かいこ)

b.繭(まゆ)

セリシン フィブロイン
c.絹繊維の断面
図14.絹糸の製造について
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絹(シルク)繊維の特性について
表5は絹(シルク)繊維の長所と短所です。短所は色々とあるのですが、それらを上回る絹素材独特の風合い、光沢、吸湿性があるのが特徴でしょうか。天然のたんぱく質繊維であるため、これらの弱点は受け入れて、賢い売り方や使い方がされるように努めることが大切です。
表5.絹(シルク)繊維の長所と短所
長所 | 短所 |
- 光沢がある(長繊維、プリズム効果)
- 吸湿性がある(蛋白質)
- 風合いが良い
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- 強度が弱い
- アルカリに弱い(蛋白質)
- 虫喰いにあう(蛋白質)
- 洗濯で縮みやすい
- 白化しやすい(フィブリル化)
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合成繊維のシルキー化
「シルキー化」とは、「絹(シルク)のような」という意味です。前回の
「第34回アパレル散歩道」のティータイムで、合成繊維の「異形断面繊維」のお話をしました。本物の絹繊維の三角断面が、プリズム効果で光沢発現に大きく関係していることから、合成繊維でも光沢感を得るために、三角断面の合成繊維が開発されました。また、この異形断面化によって、毛細管現象による吸水化も得られることになりました。

図15.合繊の異形断面糸
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麻繊維について
麻の歴史は非常に古く、紀元前1万年前に、エジプトで麻が栽培され、麻布が作られていたようです。わが国では、縄文時代が始まる時代でしょうか。エジプトのミイラも麻布で包まれていることからも、古くから使用されていたことがわかります。わが国でも、飛鳥時代の昔から、苧麻(ラミー)が使用されていました。東京にも麻布という地名が残っています。綿素材が登場するのは江戸時代であり、絹はごく限られた高貴の方の衣料用であったため、当時の一般衣料としては麻素材しかなかったということです。まさに古来から日本人の生活に貢献した貴重な繊維です。
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麻繊維の種類
麻は最古の繊維で、古代エジプトでも使用されていたと先に説明しました。
図16のように、衣料用麻には、リネン(亜麻)とラミー(苧麻)があります。いずれも、植物の茎から取った繊維です。余談ですが、ホテルに宿泊すると、「リネンサプライ」というシーツなどの保管部屋をみかけますが、シーツや枕カバーなどはもともと麻繊維が使用されていたので、その名残でその名前がついているようです。新幹線の背もたれカバーは今も麻織物が使用されています。麻の特徴は表6の通りです。

(日本に昔からあった苧麻)(ヨーロッパの亜麻)
図16.苧麻と亜麻2)
表6.麻繊維の特性
長所 | 短所 |
- 強度が大きい
綿よりも約2倍の強度がある。濡れると強度が上がる。
- 吸湿性、放湿性に優れる
吸湿性が良好で水分をよく吸い取るため、衣料やナプキンに使用される。新幹線の座席カバーも麻製である。
- 涼感に優れる
繊維が綿に比べると硬くて太いため、熱伝導性があるため、夏物衣料に多用されている。
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- 伸びにくく、しわになりやすい
伸度と弾力性に乏しいため、しわの回復性が弱い。
- 風合いが硬い
繊維が太くて硬いため、まれに皮膚刺激に影響することがある。
- 染まりにくい
濃色品では繊維内部まで染まっていないこともあり、擦れなどによって白化することがある。
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再生繊維について
今回の「散歩道」では、これまでに、綿、毛、絹、麻の天然繊維を紹介してきました。この項では、再生繊維を紹介します。再生繊維には、レーヨン、キュプラ、リヨセルなどがありますが、針葉樹などから作ったパルプ、綿繊維など植物原料を薬品で溶かして繊維を再生するという意味で、「再生繊維」と命名され、また、それぞれ植物原料を溶解させる薬品などの違いにより、レーヨン、キュプラ、リヨセルなどがあります。(図17参照)
レーヨンは人間が初めて作った化学繊維で、わが国でも1930年代から生産が始まりました。当時は、絹に似せた繊維ということで「人造絹糸」、略して「人絹(じんけん)」とも呼ばれていました。現在、わが国を代表する繊維メーカーである「東レ」や「帝人フロンティア」も、当時の社名は、「東洋レーヨン」、「帝国人造絹糸」でした。繊維産業の時代の変化を大きく感じさせる社名の変遷ですね。(図18参照)

図17.化学繊維の分類

図18.レーヨンの年代別生産量3)
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レーヨンなど再生繊維の特徴
レーヨンなど再生繊維の特徴を以下に紹介します。原料が植物天然原料で、これを薬剤で溶かして繊維状に固めていることから、再生繊維の特性として、長所は、吸湿性、シルクライク、冷感など感性的なものが多く、短所では、濡れると強度低下、しわ発生、白化などがあげられるでしょう。
各繊維の詳細は表7の通りです。
表7.再生繊維の特徴
再生繊維の種類 | 長所 | 短所 |
レーヨン |
- 吸湿性良好
- 染色性良好
- 他の繊維との混用性良好
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- 強度低い 濡れると強度低下
- しわ発生しやすい
- 洗濯で縮みやすい
- 摩擦でフィブリル化し白化しやすい
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キュプラ |
- シルクライクの光沢
- 肌ざわり 接触冷感あり
- レーヨンより強度あり
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- 洗濯で縮む
- 摩擦でフィブリル化し白化しやすい
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リヨセル |
- シルクライクの光沢
- 肌触りやわらかい
- レーヨンより強度あり
- 吸湿性の高い繊維素材
レーヨンより縮みにくい
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- しわ発生しやすい
- 摩擦でフィブリル化し白化しやすい
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(参考文献)
1)石川欣造:被服材料実験書,P.14,同文書院(1978)一部引用
2)東洋紡シリーズ「せんいガイド・素材編(改版)」P25引用
3)帝人株式会社「人と化学と100年」(2021) P14引用
(次回のアパレル散歩道)
コラム : アパレル散歩道36
~魅力ある商品を開発するために~
テーマ : ものつくり原点回帰シリーズ ~糸~
発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。
社外経歴
日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部代表幹事
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長