アパレル散歩道

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第13回 :品質管理システムを構築しよう

2021/02/15

アパレル散歩道 繊維製品の品質事故はなぜなくならないのか

2021.2.15

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 昨年の8月から、「繊維製品の苦情はなぜなくならないのか」をテーマに、品質事故要因と品質事故事例を勉強してきました。アパレル製品の品質事故要因とその事例が理解できると、次は、これらを仕事にどのように生かすのかを考える必要があります。個人の資質をレベルアップさせることはもちろん重要ですが、個人ができることには限界があります。このため、組織あるいは会社として、しかるべきタイミングに効果的な対策が取れるか取れないかが、品質事故発生の分水嶺になるのではないでしょうか。このことをよく理解したうえで、社内の品質管理システムをどのように構築するのかを考えていきたいと思います。

                   
1.アパレル製品の品質管理
 アパレル製品の品質管理をシステム化するにあたり、少し品質管理のおさらいをします。

                      
1.1消費者の品質に対する要求事項
 消費者は、アパレル製品について、次の3つの要求を感じています。これを要求の三要素と呼んでいます。
消費者が店頭で、①このような外観や手触り、こんな機能が欲しい、②もっと価格の安い製品はないか、③サイズ切れの場合、いつ入荷するか、メンテナンスが心配だ、などと考えるのはごく自然な消費者行動です。

図1. 消費者の3つの要求

         

1.2 品質の4要素(4M)
 さらに、物つくり、ひいては品質を決定する要素には、次の4つがあります。

図2. 品質の4要素

 上記4要素を少し補足します。①物つくりを担当する人では、その担当者は品質管理上の知識や技量、関係部署との調整能力が問われます。②の材料では、商品企画にかなう一定の品質や性能を有する材料選定・開発ができているかが問われます。③は当該製品を製造するに適した機械や工場があるかが問われます。そして④では、③の機械装置を使用して適正な加工がなされるかが問われています。これらをまとめて、品質の4要素(4M)と呼んでいます。このうちひとつでも欠けると、満足できる品質は維持できないことになります。

                   

1.3 PDCAサイクル

図3. PDCAサイクル

 業務改善をすすめる手法として、有名なPDCAサイクルがあります。
まず、①のPDCAのP(Plan)では、目標を設定し、業務計画を作成する段階です。解決したい問題があれば、解決された状態(目標)を意識して各種情報を収集し、解決策を考え立案します。
 次は、②の「Do:実行」です。①のPの段階で立てた計画を実際にトライする段階です。
 次は、③の「Check:評価」です。ここでは、計画に沿って実施できていたかを評価します。②で実行したことが満足であったか、でなければ問題点を抽出します。
 次に、④の「Action:改善」で①②③の結果に基づき、改めて改善策を提案します。ここで問題点がさらに見つかれば、サイクルをもう一度回すことになります。
 あるシーズン初めに大量の商品トラブルが発生したとき、なんとか商品回収や店頭フォローはできても、次期の物つくりにフィードバックすることが大切です。この時、このサイクルを回して改善ができれば、仮に担当者が変わっても、同じミスは発生しないでしょう。

  1. なかなか業務が進まない時、あきらめないで、一度PDCAサイクルを回してください。きっと課題と対策案が見つかります。
  2. 皆さんもPDCAサイクルを自ら回せる人になって欲しいと思います。会社はそんな人材を求めています。

1.4 工場現場の品質管理
 アパレルメーカーや商社の皆さんも、縫製工場や染色工場の現場に視察や打ち合わせで行かれることがあると思います。現場に入って大型の染色機や縫製機器をみても、よくわからないケースも多々あったのではないでしょうか。そのような時は、身近な例として、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾(しつけ)」のいわゆる5Sがきっちりできているかをチェックするのも有効です。われわれが縫製現場に入った時、ハサミや型紙など備品の管理が悪い、仕様書などが乱雑に保管されている、現場にゴミが多い、汚れている、異物の飛び込みが多い、オペレーターが作業中よく喋って集中できていないなどがあれば、そこで生産される製品の品質レベルも想像がつくことでしょう。私が現役の時、海外の顔料プリント工場を視察したときは、まずインク調合室へ行って、調合室の整理整頓状態、インクの保管状況を見て、まず管理状態を推定したものでした。「形から入って心に至る」ことも重要と思っています。

                      
1.5 品質保証について
 最近多くのアパレルメーカーが取り入れている品質保証業務について、勉強しましょう。
品質保証とは、消費者に対して、製品の品質や機能を保証することです。品質保証活動は、個人が単独で実施するものではなく、会社のシステムとして実施すべきものです。ある会社が社会的責任(CSR)の証として各種基準を運用しているならば、基準を下回る不良品は基本出荷しないことが求められます。そのためには、本生産時の材料試験や製品検査を実施して、品質の可否を精査して保証することになります。品質管理を確実かつ粛々と実施することが、品質保証を達成する前提になります。
 皆さんも一度、このような観点から、下記の図4を参照して「わが社の品質保証フロー」を作られたらいかがでしょうか。品質保証のための情報の流れを明確にすることによって、「今私たちは、この時にこれをしなければならない」ようなことが判ってくるでしょう。同フローは、「企画⇒設計⇒試作⇒量産」などの時系列を縦軸に、各関連部署を横軸に配置すると理解しやすいと思います。

図4. アパレルメーカーの品質保証フローの一例 
(「繊維製品の基礎知識 第2部 家庭用繊維製品の品質と製造」P147日本衣料管理協会より引用)

                          

2.具体的な品質管理チェック項目
 ここでは、試作、展示会、本生産のそれぞれの段階で、品質事故をなくすためにどのようなことを確認すべきかを具体的に紹介します。但し、これはあくまでも一例です。

表1. アパレル製品の試作、展示会、本生産における品質チェック項目の例
  1. 試作生地では、まず「物性」を確定しよう。生機(きばた)品質が確定します。
  2. 展示会生地では、まず各色の染色堅ろう度や機能性を確認しよう。不良なら
    改善してください。物性は試作品のOKレベルが再現されていること。
  3. 本生産品は消費者にわたる大切なものであり、「物性、染色堅ろう度、機能、安全」は基本全て確認すること。納入先の指示内容も考慮のこと。
  4. 品質管理や品質保証業務は、個人では限界があり、会社組織全体として取り組むこと。もちろん、個人の資質や意欲も重要である。
  5. 品質管理の会社組織での取り組みは、経営陣の理解が必要である。

染色堅ろう度の改善には、①ソーピング強化、②助剤の併用、そして③染料レサイプの変更などがあります。

                 

3.品質管理のシステム化

 私たちは、品質事故が発生しないように、日々品質管理を実施しています。会社の事業規模も大きくなれば、
会社の経営方針として品質保証体制の充実が求められることになります。皆さんも、現時点で十分な体制でなくても、3年後あるいは5年後の品質保証体制のあるべき形を目標として設定し、この目標に向けて、1年目、2年目、3年目の中間目標を実現する施策を考えることによって、大きな目標が実現するでしょう。まず、「隗(かい)より始めよ」っていうことですね。

                           

                      

<次回のコラムについて> 

 次回は、品質管理、品質保証体制を支える人材教育の話をしたいと思います。最初から、繊維やアパレルについて多くの知識を持っている人などはまずいません。次回は、品質の4要素の一つは「人」であり、効率よく関連知識を吸収し、本人やスタッフが効率よくスパイラルアップできる方法を紹介しましょう

コラム : アパレル散歩道⑭
~繊維製品の品質苦情はなぜなくならないのか~
テーマ : 人材教育について

                   

◎お詫びと修正
前回の「アパレル散歩道12」で、2件の記述間違いがございました。お詫びとともに、修正させていただきます。よろしくお願いします。
(1)  2ページ目  (事故要因と対策)の③ 「東(株)」を「東レ(株)」に修正します。
(2)  4ページ目 表3 少年用の胸囲(バスト)を胸囲(チェスト)に修正します。
        少女用の胸囲(チェスト)を胸囲(バスト)に変更します。

               

発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター マーケティンググループ 企画広報課

E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

                  

Profile:清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)  

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。

社外経歴
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長
日本繊維技術士センター執行役員 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会常任委員 TES会西日本支部代表幹事

               

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