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アパレル散歩道 第76回 : 「衣料品の品質トラブルの原因絞り込み④」

2025/05/01

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1. 前回の事例レビュー はじめに、前回の第75回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめました。

2025.5.1

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  1. 前回の事例レビュー
     はじめに、前回の第75回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめました。

    表1.「第75回アパレル散歩道」品質事故事例レビュー
    事例服種現象考えられる原因原因分類
    10ワンピース
    (C100%)
    捺染プリントの色泣き(汚染)
    • 染色堅ろう度不良
    • 漬け置き洗いや長時間濡れたまま放置
    • 洗濯時の漂白剤併用
    • 反応染料の加水分解による経時劣化
    生産管理
    消費者
    消費者
    技術限界
    11ジャージ(E100%)摩擦溶融
    (安全)
    • 瞬間的な衝撃と摩擦で生じた発熱による溶融
    技術限界
    12ストレッチTシャツ
    (E92% PU8%)
    裏地(E100%)
    伸び切り(外観)
    • ポリウレタン糸の脆化と着用時の繰り返し伸縮、家庭洗濯時の物理的な揉みなどの複合によるポリウレタン糸の切断、粉化
    • 生地加工工程での熱セット不適によるポリウレタン糸の脆化
    • 染色時の過剰な還元洗浄処理によるポリウレタン糸の劣化
    技術限界
    取扱い

    生産管理

    生産管理

    13ダウン(N100%)引裂き(破損)
    • 引き裂き強さ不足
    • 着用中の強い引っ掛け
    商品企画
    消費者


  2. 今回の品質事故事例紹介
    事例14ジャンル服種状態
    カジュアルコーデュロイパンツ内また部分のパイル抜け
    コーデュロイパンツ(綿100%)を約1年間着用していたら、内また部分のパイルが抜けているのに気付いた消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。

    ■原因絞り込みの考え方
    図1. コーデュロイ外観例

    図1. コーデュロイ外観例

    • パイル生地には、今回のコーデュロイをはじめ、他にはベロア、モール糸使い生地、フロック加工生地などがありますが、それぞれの構造によってパイル抜けの原因は異なりますのでご注意ください。(第45回アパレル散歩道2.3参照のこと)
    • コーデュロイ生地は、パイルでたてうねを表現したパイル織物で、コール天とも呼ばれ、ジャケット、パンツ、インテリアなどに用いられています。今回の事例では、コーデュロイのパイル構造がパイル抜けに関係していると思われます。
    • キーワードは、「コーデュロイ」と「パイル抜け」となります。
    • コーデュロイのパイル抜けは、着用の程度、摩擦状況にもよりますが、パイル組織の違いも関係します。そして、商品の品質情報、消費者からの取り扱い情報をさらに収集し、原因を絞り込むことが大切です。

    表2. 《事例14》「コーデュロイパイル抜け」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 着用の要因を確認するため、パイル抜け発生部が内また部以外にもあるか、目視で調査する。
    • 生地要因を確認するため、構造がルーズパイル(V型)か、ファストパイル(W型)かを調査する (図2参照)。
    商品に関する調査
    • 生地品質要因を確認するため、生地のパイル保持性を調査する。
    • 消費者が洗濯時に過度に柔軟剤を使用したため、糸間の摩擦抵抗が下がり抜けやすくなった。
    • 着用時に裏面が繰り返し強く摩擦される状況が生じた。
    消費者への聞き取り
    • 消費者の取扱い要因を確認するため、使用状況(着用時の擦れ、サイズ適合など)や洗濯状況(もみ洗いの有無、柔軟剤使用の有無)を聞き取る。
    原因の推定
    • 生地のパイル組織がルーズパイル(V型)であったため、比較的パイル抜けが生じやすかった。
    • 着用時、生地の裏面を繰り返し強く摩擦される状況が生じていた(サイズ要因)。
    確認試験など
    対策
    • 製品の用途(ジャケット用かパンツ用か)を理解し、生地のパイル保持性を考慮した素材選定を行う。
    • パイル抜けが比較的生じにくいファストパイル(W型)を採用する。
    • 製品に、「着用時に強い摩擦は避ける」、「洗濯はもみ洗いは避ける」、「過度な柔軟剤の使用は避ける」などの注意表示を行う。

    【参考】ルーズパイルとファストパイル
     コーデュロイには、パイル構造により、V型のルーズパイルとW型のファストパイルがあります。
     ルーズパイルは、風合いは柔らかいのですが、Vパイル構造のため、摩擦によりパイル抜けしやすい弱点があります。これに対して、ファストパイルは、文字通りW構造によって「組織がしっかり」しているため、パイルが抜けにくいのですが、やや風合いが硬い特徴があります。
     商品の用途により、使い分けるのがよいと考えます。

    図2. ルーズパイル(V型、左)とファストパイル(W型、右)のイメージ1)
    図2. ルーズパイル(V型、左)とファストパイル(W型、右)のイメージ1)


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    事例15ジャンル服種状態
    アウターダウンジャケット羽毛の吹き出し
    1シーズン着用したナイロン製のダウンジャケットを、シーズン終盤になってよく見たところ、生地面や縫い目から羽毛が吹き出していた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。

    ■原因絞り込みの考え方
     一般に、衣料品に使用される「詰め物」には、ポリエステルなどの詰め綿、羽毛などがあります。いずれも生地と詰め物の相性によって吹き出し事故が発生する場合があり、詰め物の種類によって吹き出しの原因は異なります。
    • 今回の事例分析キーワードは、「ダウンジャケット」、「羽毛」です。
    • ダウンジャケットに使用される表地は、羽毛製品のコンパクト性を最大限生かしつつ、羽毛の吹き出しを抑えるため、ダウンプルーフ加工が施されています。この加工の特徴としては、高圧と高温で生地表面を目つぶし処理することで、生地の通気度を1cc程度に抑えています。
    • 羽毛は水鳥から採取する天然物ですが、中身は「ダウン(ボール)」、「フェザー」、「ファイバー」に大別されます。一般に羽毛衣料では、ダウンボールの含有量は60%~90%ですが、羽毛製品の保温性に貢献するのはダウン(ボール)であるため、ダウンボールの含有量が高い商品が、優れた商品とされています。
    • 今回の事例のように、生地目や縫い目から吹き出すのは、フェザーの中でも小型のスモールフェザーやファイバーが多いと言えます。ファイバーは、ダウンボールから切断した一本の羽毛繊維のことです。

    図3. フェザーとダウン
    図3. フェザーとダウン
    図4. ファイバー
    図4. ファイバー

    表3. 《事例15》「羽毛の吹き出し」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • ダウンジャケットの構造を確認する(商品は二層タイプか三層タイプかなど)。
    • 吹き出しは、どの部位で発生しているか、生地目か縫い目かを目視で確認する。
    商品に関する調査
    • 生地要因を確認するため、生地の規格(密度など)や通気度を把握する。
    • 羽毛要因を調査するため、羽毛の混合率を確認する。
    • 縫製の要因を確認するため、縫製条件(縫い糸タイプ、縫い密度、縫い針)を調査する。
    • 羽毛製品の縫製では、座布団状の各パーツを縫い合わせるが、この時各パーツの裁ち端はオーバーロック仕様であったかなど調査する。
    原因の推定
    • ダウンプルーフ加工不足で、通気度が抑えられていなかった。
    • ダウンプルーフ加工はされていたが、生地の密度がもともと粗く、ダウン用に適していなかった。
    • 縫い針が太い、各パーツがロック仕様などでなかったなどの縫製条件により、吹き出しが発生した。
    確認試験など
    • JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」の通気性A法(フラジール形法)で生地の通気性を測定する。
    • その際、新品生地だけでなく、繰り返し洗濯後なども測定し、洗濯による通気度増加の有無を確認する。
    対策
    • 生地の通気度を測定し、基準未達の生地は、羽毛用に使用しない(中地を挿入するものはこの限りではない)。
    • ダウンパーツ縫製時は、オーバーロック仕様やテープ巻仕様を検討し、裁ち端から羽毛が出ないようにする。
    • 羽毛の原毛は、ファイバー混合率の少ないものを採用する。
    • ステッチの少ない縫製デザインや、縫い針は細いタイプが望ましい。
    • 針穴からの羽毛吹き出しを軽減するために、羽毛専用縫い糸の使用を検討する。

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    事例16ジャンル服種状態
    紳士服スーツ前身部にみみずばれ状の凹凸が発生
    昨年購入した紳士スーツを着用し、その後クリーニングに出したら、前身部にみみずばれ状の凹凸が発生していた。消費者は、この現象に不満を感じ、アパレルメーカーに苦情を申し出た。なお、このスーツの組成表示は、毛100%であった。また、取扱い表示は、水洗い不可、ウェットクリーニング不可、ドライクリーニング可であった。

    ■原因絞り込みの考え方
    • この事例分析のキーワードは、「紳士スーツ」、「毛100%」、「前身部」、「みみずばれ凹凸現象」です。
    • 紳士スーツには、美しいシルエットや型くずれ防止のために、接着芯地が多用されています。生地の種類や目的によって、接着芯地には多くの種類があり、目的に合致した芯地の選定が求められます。
    • 生地表面に塗布されている粒状の樹脂は接着樹脂で、ホットメルト樹脂とも呼ばれています。接着は専用のプレス機で一定の温度・圧力・時間のもと管理されますが、管理不備が発生すると、はく離などの接着不良が生じることがあります。
    • 毛100%織物は、ハイグラルエキスパンションによる微妙な寸法変化が生じやすく、この時接着した芯地との相性が問題になる可能性があります。(第65回アパレル散歩道7.1参照)

    図5. 接着芯地の例(ポリエステル100%)
    図5. 接着芯地の例(ポリエステル100%)

    図6. 接接着芯地によるはく離(みみずばれ現象)の例
    図6. 接接着芯地によるはく離
    (みみずばれ現象)の例


    表4. 《事例16》「接着芯地のはく離」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 接着芯地との関連を確認するため、芯地が使用されていない部位にも、同現象が発生しているか調査する。
    素材メーカーへの聞き取り
    • 企画設計の要因を確認するため、企画設計時に適正な接着芯地が選定されていたかを調査する。
    • 生産要因を確認するため、本生産工程で、適正な接着条件で芯地が接着されたか調査する。
    消費者への聞き取り
    • ハイグラルエキスパンションの影響を確認するため、雨の日も着用していたか、保管場所の湿度が高くなかったかなどを聞き取る。
    クリーニング業者への聞き取り
    • クリーニング処理要因を確認するため、ドライクリーニング時に水分の影響などはなかったか聞き取る。
    原因の推定
    • 使用した芯地のドライクリーニングの耐久性が低かった。
    • 芯地の接着条件が甘く、これによる接着はく離が発生した。
    • ハイグラルエキスパンションの影響により、表地と芯地の間で寸法差が発生し、これによりみみずばれ状の接着はく離が発生した。
    確認試験など
    • JIS L 1086「接着芯地及び接着布試験方法」のはく離試験を実施する。なお、はく離強さはcN/2.54cmで求められる。
    対策
    • 本番生地を使用した「はく離強さ」試験を実施し、はく離強さが適正な接着芯地を採用する。
    • 新品生地による試験だけでなく、ドライクリーニング後のはく離試験も実施する。
    • 表地のハイグラルエキスパンション性能を考慮した芯地選定を行う。
    • 縫製工程での接着芯地の接着条件の管理を徹底する。

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    事例17ジャンル服種状態
    寝具パジャマ生地表面に火が走った
    綿100%の表起毛パジャマを着ていて、ガスコンロに手をかざしたところ、袖口から着火して生地表面に炎が走った。驚いてお鍋を落とした。

    ■原因絞り込みの考え方

    図7.
    表面フラッシュ現象の一例
    • 同現象は、ガスコンロなどの炎が接触して生地表面の毛羽が瞬間的に燃え広がるもので、火傷などが生じると、時としてPL(製造物責任)に発展しうるケースもあります。
    • この事例分析のキーワードは、「綿などの表起毛ニット」、「ガスコンロ」です。
    • この現象は表面フラッシュ現象ファイアフラッシュ現象とも呼ばれています。
    • 発生しやすい商品には、綿ニットの表起毛品、表パイルなどを使用したトレーナーやパジャマなどがあります。燃えやすい綿繊維などの周りに、起毛によって十分な空気(酸素)が存在しているため、フラッシュ現象が発生しやすいと言われています。(第15回アパレル散歩道1.5.2参照のこと)


    表5. 《事例17》「毛羽燃焼(ファイアフラッシュ)」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察など
    • 毛羽燃焼が発生した場所を特定する。
    • 未燃焼部分で、表面の毛羽の状態を目視で観察する。
    素材メーカーへの聞き取り
    • 当該生地について、糸の太さ、撚りの程度、密度(度目)、加工内容を調査する。
    • 表面フラッシュ燃焼性試験結果を聞き取る。
    消費者への聞き取り
    • ファイアフラッシュが発生した経緯を聞き取る。
    • 人体危害(火傷など)の有無を聞き取る。
    原因の推定
    • 綿ニット表起毛素材であり、ファイアフラッシュが発生しやすい素材であった。
    確認試験など微起毛品や合繊混紡品など評価が微妙な素材は、JIS L 1917「繊維製品の表面フラッシュ燃焼性試験」を実施する。試験の概略と評価基準例の詳細は、ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください
    対策表面フラッシュ現象が起こりやすいセルロース系ニット素材は、事前に同試験を行い、試験結果に基づき、次のような対策を実施する。
    • 「表面フラッシュが著しい」と判断した素材については採用を中止する。
    • 綿ニットで表起毛していなくても、甘撚りなどで毛羽立ちしやすい素材は試験結果に基づき使用可否を決めること。
    • 綿100%素材に代えて合繊混用品を使用する。
    • 綿素材に、難燃加工を施す。
    • 「注意」と判定された素材は、「注意:毛羽が燃えやすいので火に近づかないでください。表面の毛羽に火が走ることがあります」などの注意表示を付けて販売する。

     このファイアフラッシュ現象は、製品安全に関連する事故例です。製品安全管理は、通常の品質管理以上に優先されるべきものであるという考えのもとに企画設計をお願いします。


(参考資料)
1)「実用織編物の基礎知識」:株式会社色染社、P.23ほか引用

(第77回 アパレル散歩道の予告 – 2025年6月1日公開予定)

 次回は、『品質トラブル原因を絞り込もう』の5回目として、「衣料品の品質トラブルの原因絞り込み⑤」をお送りします。以下の事例18~21を取りあげます。
  • 事例18. 「色移り ポリエステル素材」
  • 事例19. 「蛍光増白剤 変色」
  • 事例20. 「洗濯縮み」
  • 事例21. 「フィブリル化による白化」
 また、私の地元で開催中の大阪・関西万博/EXPO2025について、繊維・アパレル関係の展示などトピックをご紹介する予定です。

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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