2021/01/15
第11回 : 品質事故例の紹介 ~技術限界の事例~
アパレル散歩道
2020/10/15
2020.10.15
前回は、品質事故要因の中で、「2.3生地(織編)」と「2.4染色・仕上げ加工」について勉強しました。今回は「2.5縫製」「2.6表示」「2.7洗濯・クリーニング」と品質事故との関係を勉強しましょう。
2.5縫製
縫製とは、「布を縫い合わせて製品を作ること、あるいは布などの材料を用いてパーツを作り、それを組み合わせて(アセンブリー)製品を完成すること」で、衣料品ではミシンと糸による縫合が主体で、ソーイングと同義語です。(図1参照) 近年では、接着剤による接着、高周波による融着などの方法も広義に縫製に含みます。 いずれにしても、布という二次元(平面)の材料が、この縫製工程で三次元(立体)化されます。余談ですが、景表法の原産国表示の「実質的な変更がなされた国」とは、この「立体化がなされた国」にほかなりません。
(1) 工業用ミシンと家庭用ミシン
家庭用ミシンには、「作業効率は問わない」、「一台で多用途」、「ミシン回転数は低くてもよい、800回/分程度」などの特徴があります。一方、工業用ミシンは、「生産効率が優先」、「機種の専用機化」、「回転数は最高1万回」などの特徴があります。ジャケットを一枚縫製するにも、図2のような多くの専用ミシンが用いられます。
(2)縫い目の種類と特性
縫い目形式は、主に本縫いと環縫いに分類されます。本縫いは、縫い目方向に伸びにくいため、主に布帛(織物)の縫製に使用されます。環縫いは、縫い目自身に伸びがあるため、ニットの縫製に使用されています。縫い目形式については、今後のコラム7で詳細に説明する予定です。ご期待ください。
(3)「縫製」の品質事故に影響を与える因子
商品企画・設計上
・素材特性と縫製仕様のマッチングが重要である。素材によっては縫製が難しいものがある。
例1 ソフトで薄い伸縮素材では、シームパッカリング事故が発生しやすい。
例2 ストレッチ素材を使ったスリムパンツで、本縫いを使用して、縫い糸が切れて縫い目がパンクした。
例3 織物のパーツ端をロックしなかったため、ほつれが発生した。
例4 当初の縫製仕様に誤りがあり、不良品の原因となった。
例5 かん止位置が不適正で、補強の効果が出なかった。
製造段階
・縫製仕様書どおりの縫製が、生産工程でされていない。
例1 裁断ミスで、製品が変形したり、仕上がり寸法が不足している。
例2 パーツや縫い糸の配色を誤った。
例3 針糸管理の不適正で、地糸切れが多発した。(図4)
例4 オペレーターの技術レベルが低く、仕様書通りの縫製ができていない。シームパッカリングなど。
例5 適正な製品検査が実施されていない。
2.6表示
(1)表示の種類
2004年に制定された「消費者基本法」では、「事業者は消費者権利の尊重とその自立支援などに鑑み、供給する商品や役務について、消費者に対して必要な情報を明確かつ平易に供給することが責務」と定められています。このため、現在、アパレル製品に取り付ける「表示」には、その目的と根拠から、いくつかに分類され、消費者に情報発信されています。では、表示を分類してみましょう。
※繊維・アパレル業界の公正規約として、スポーツ業界に「スポーツ用品公正競争規約」があります。景品類の提供や表示が適正に行われるよう、いろいろな商品の種類や業種ごとにメーカーや販売業者が消費者庁長官及び公正取引委員会の認定を受けて設定する業界のルールです
※※機能性表示は任意表示ですが、表示内容が合理的でない場合や機能の実力が表示内容と一致しない場合は、景品表示法の優良誤認に抵触することがあります。くれぐれもご注意ください。
(2)「表示」の品質事故に影響を与える因子
商品企画・設計上
・組成表示は、家庭用品品質表示法の「繊維製品品質表示規程」にしたがうこと。表示ミスは、時として商品回収するほど拡大するケースもあり、縫製仕様書への記載は、組成内容が間違わない仕組みを社内、仕入先、ラベル業者の三社で構築する必要がある。仕入れ先からは、生地品番毎に書面で組成混用率を入手するように努めること。
・メーカーや商社との組成の確認は、電話や口頭は避けて必ず文書でもらい、記録として残すこと。記録がないと後日トラブルの原因になります。
・取扱い表示は、JIS L 0001にもとづいて表示すること。同JISの考え方は「上限表示」であり、その意図を踏まえて、適正に各表示記号を選定すること。
・素材の取扱い特性と表示記号がマッチングしていること。
・素材の組み合わせ(副資材含む)特性と表示記号がマッチングしていること。
・顔料プリントなど二次加工特性と表示記号がマッチングしていること。
・製品の取扱い表示を決定するにあたり、素材データだけでなく、実際の商品での洗濯試験、商業クリーニング試験も参考にすること。
・原産国表示は、基本縫製された国を表示すること。本生産では、急に生産国が変更になることもある。また、当初ファーストオーダーは海外生産しても、追加生産は国内生産することもあり得る。この場合、製品取り付け表示はもちろん、ネットやカタログなどでの原産国表示には気をつけること。
・サイズ表示は、法制化はされていないが、流通では表示することが不可欠なため、実質的に法定に準じる必須表示となっている。基本、JIS規格の「乳幼児」「少年用」「少女用」「成人男子」「成人女子」「ファンデーション」「靴下類」に従って表示すること。
・JISサイズ表示では、身体部位の寸法である「基本身体寸法」が基本となっている。つまり「この服はヌード寸法がこれだけの方が着用できる」という意味の表示となる。
アパレルメーカーは、「この商品はルーズフィットで着て欲しい、またスリムフィットで着て欲しい」などの意図があり、それをパターンやサイズ表示に反映させている。近年、ネット販売、Eコマースの浸透により、試着ができない販売方式が増え、消費者が適性サイズに基づくサイズ選択が難しい状況が増えている。
・機能性表示はメリット表示ともいわれ、消費者に商品の優良性を表示するもので、もちろん任意表示である。表示をすることによって、その内容次第では、景品表示法の「優良誤認」、「有利誤認」、「不実証広告規制」に抵触することがある。詳細は、ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。
・医薬品医療機器法で医療承認を受けていない衣料品では、人体への効能効果は謳えないので注意の事。
製造段階
製造段階での表示ミスは、表示ラベルの印字間違い、取り付け間違いが主な原因となる。縫製工程では、事前と事後に 内容と取り付けミスがないことを確認してから、出荷していただきたい。また、出荷検査でも表示内容の確認はぜひお願いしたいと思う。
2.7消費者の取扱い
消費者の取扱いとは、具体的に「着用」、「家庭洗濯」、「商業クリーニング」、「保管」などです。これらのひとつひとつが品質事故に関係しています。個々に原因となる因子をみていきましょう。
(1)「着用」の品質事故に影響を与える因子
・サイズ適合性に問題なかったか。購入時に試着などがされていたか。
・着用期間は? 洗濯の頻度は?
・過度な運動やスポーツをしていなかったか。粗硬なコンクリート面やブッシュの枝などとの接触はなかったか。
・ショルダーバッグ、リュックを長時間使用して擦れていなかったか。
・長時間日光(紫外線)の暴露がなかったか。
・汗や汚れの付着がなかったか、付着後ただちに洗濯したか。長時間放置していたか。
・パーマ液、除光液、漂白剤、カビ取り剤など、家庭などで薬剤の付着や残留はなかったか。
(2)「家庭洗濯」の品質事故に影響を与える因子
・取扱い表示について、メーカーは適正に表示していたか。また、消費者は表示通りの取扱いができたか。
・洗濯機の容量と洗濯物の比率(浴比)が適正であったか⇒浴比が少ないと白場に色がつく(汚染)ことがある。
・洗濯用水は何を使ったか。水道水、風呂の残り湯、井戸水など⇒「入浴剤」がはいった風呂の残り湯では、併用した洗濯用柔軟剤と反応して、衣料の白場がピンク色になることがある。
・水温は何度であったか。⇒表示温度以上の温度で洗うと、染料によって色なきや再汚染することがある。
・洗剤は何を使用したか。一般に洗剤には「中性洗剤」「弱アルカリ性洗剤」がある。また、洗剤に含まれている成分には、「界面活性剤」「アルカリ剤」「酵素剤」「蛍光増白剤」「漂白剤」などがある。配合の有無は個別の洗剤によって異なるので、容器の成分表示を確認してほしい。
・中性洗剤は、弱アルカリ性洗剤で洗うと品質が劣化(※)する恐れのあるウール、絹などの洗濯に使用される。また、中性洗剤には蛍光増白剤を含んでいないため、ベイジ色など淡色の綿製品の白化を防ぐ効果がある。
※ウールセーターなどを中性洗剤でなく弱アルカリ性洗剤を使用すると、その液性のため、縮みやフェルト化が生じることがある。
・洗剤の中には、酸素系漂白剤を含むものがある。その酸化作用によって、金属付属品などが変色することがあるので注意が必要である。
・洗濯時に洗剤と併用される薬剤に、「柔軟仕上げ剤」「漂白剤」「香り付け剤」などがある。
・柔軟仕上げ剤は、製品をソフトに仕上げる薬剤である。ちょうどお風呂で使うリンスをイメージしてください。繊維の表面に付着して摩擦抵抗が減少し繊維が滑りやすくなり、その結果ソフトな風合いが得られる。密度の粗い合繊ジョーゼットのブラウスなどでは、この柔軟仕上げ剤を過度に使用し過ぎると、生地スリップ(滑脱)がより生じやすくなるリスクがある。(図5参照)
・漂白剤には、その酸化作用によって、製品に付着した汚れの色素を分解し白くする効果がある。漂白剤には、白物に使用する「塩素性漂白剤」と色物や柄物に使用できる「酸素系漂白剤」がある。また、販売量は少ないが、赤土汚れなどを落とす「還元漂白剤」も一部で販売されている。赤土には酸化鉄が含まれており、この色素除去には酸化鉄を還元する必要がある。(表3参照) 塩素系と酸素系の漂白作用の違いについては、塩素系が酸素系より作用が強く、JIS規格の取扱い表示でも、表3のように区別されている。
・蛍光増白剤は、この薬剤から発する蛍光によって、白物をより白く見せる効果がある。ベイジ系や生成りなど淡色の綿や麻などの製品に過度に蛍光剤が付着すると、洗濯前よりも白く見えるために、消費者が「洗濯で変色した」という苦情が出ることがある。中性洗剤にはこの蛍光増白剤が基本含まれていない。表示などで、このあたりの情報提供が必要になる。
(3)「商業クリーニング」の品質事故に影響を与える因子
2014年にJIS L 0001に制定され、表5のウェットクリーニングのマークが追加されました。商業クリーニングには、高温機械洗いの「ランドリー」、手洗い感覚の「ウェットクリーニング」、そして溶剤洗濯の「ドライクリーニング」があります。
・ドライクリーニングの溶剤には、パークロロエチレンと石油系溶剤がある。油汚れを落とす目安の油脂溶解力は
パークロロエチレンが石油系溶剤より大きい。
・製品設計で、接着芯地やゴム材、顔料プリント、プラスチック付属品などの溶剤性とドライクリーニング表示がマッチングしていることが必須である。
・ドライクリーニングは、油汚れ除去に適しており、汗などの水溶性汚れには適さない。綿や麻など夏物衣料で、風合いを重視するあまり、水洗い不可と表示することは望ましくない。
(4)「保管」の品質事故に影響を与える因子
消費者が衣料品を保管するとき、保管環境や保管方法によっては、色落ちや劣化が生じることがあります。
・保管は、基本的には「直射日光が当たらない」「高温でない」「湿気が少ない」「風通しがよい」「排気ガスなどがない」「積み重ねない」などの場所や方法が望ましい。
・高温多湿環境では、ポリウレタン素材(糸やコーティング)の加水分解による経時劣化や黄変などが進行することがある。
・濡れたまま保管されると、湿潤堅ろう度がもともと良くても、色移りすることがある。
・保管中の排気ガスなどの影響で、黄変や変色が生じることがある。車庫での保管など。
・着用後、汗などで汚れた商品を未洗濯のまま保管すると、汚れ成分の影響で変色や変質することがある。
・アパレルメーカーにおいても、ポリエステルの濃淡配色品をポリ袋に畳まれた状態で長期間にわたり倉庫で保管すると、倉庫内の高温によって、濃色の分散染料が白場に昇華汚染するリスクがある。特に、夏季の製品倉庫や海外からの輸送コンテナ内部は、場合により内部温度が60℃になることもある。
次回からは、具体的な事故例を挙げて、個別に分析していきましょう。まずは、「企画・設計不良」の事例です。
コラム : アパレル散歩道⑥
~繊維製品の品質苦情はなぜなくならないのか~
テーマ : 品質事故例の紹介 ~企画・設計不良 その1~
発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター マーケティンググループ 企画広報課
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
Profile:清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。
社外経歴
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長
日本繊維技術士センター執行役員 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会常任委員 TES会西日本支部代表幹事
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