アパレル散歩道

アパレル散歩道

第59回 : ケーススタディ⑮品質事故 原因の絞り込みと対策

2023/12/01

品質事故を分析して原因と対策を考えようアパレル散歩道 品質事故を分析して原因と対策を考えよう

2023.12.1

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 「アパレル散歩道」は昨年10月の第45回から今年11月の第58回まで、アパレル製品のさまざまな品質事故事例を紹介してきました。さまざまな素材で作られたアパレル製品が、さまざまな原因で品質事故が発生していることをお分かりいただけたと思います。
 今回は「品質事故を分析して原因と対策を考えよう」シリーズの最終回です。自分自身をアパレルメーカーの品質保証部門・品質管理担当と想定していただき、消費者から送られてきたお申し出品を手に取った時に、事故原因を絞り込み、対策を講じるため、具体的にあなたが取り組むべき事項を紹介します。事故原因が確定すれば、お申し出者への適切な対応、また在庫品の処理、流通・社内(企画部門や生産管理部門)・仕入先に対するスムーズな対応が可能になります。



  1. 事故原因絞り込みと対応の流れ
     アパレル製品の事故原因の絞り込みと対応の流れは、一般的に図1の通りです。

    1.1 事故品の受付

    ①お客様相談
     部門経由
    ②営業経由
    1.2 事故品の観察
    1.3 事故品に関する聞き取り
    1.4 事故品の品質確認

    ①品質データ
    ②再現試験
    1.7 対策の実施

    ①お申し出者対応
    ②社内外対応
     企画・生産管理部門
     流通・仕入先
    1.6 責任所在と再発防止策

    ①責任の所在確定
    1.5 原因の絞り込みと確定

    図1 事故原因絞り込みと対応の流れ



    1. 事故品の受付

      (1)事故品の受付
       事故品には、消費者がお客様相談室に持ち込むケースと営業経由で販売店から上がってくるケースの2つの経路があります。
       また、品質事故は、消費者段階のお申し出だけが全てではなく、製造段階や流通段階で発生する品質事故にも注目しなければなりません。アパレル製品の品質事故は、さまざまな段階で発生しているのです。(図2参照)

      • 品質事故受付=お客様相談室受付+営業受付
      • 広義の品質事故=製造段階+流通段階+消費者段階(苦情)

      図2 品質事故受付と品質事故の種類



      (2)消費者段階の事故
       アパレルメーカーでは、通常消費者苦情の集計をおこなっていますが、消費者からの「修理・返品」もしっかり集計・分析できているでしょうか。消費者からの品質事故は、お客様相談室などに持ち込まれるケースだけでなく、修理依頼や返品の中にも含まれている可能性があります。
       もちろん、お申し出の中には、消費者の誤使用や商品寿命(技術的限界)もあるのですが、時として商品不良や欠陥に起因する修理もあります。発売後早期に、同一品番で同様の修理依頼が集中すれば、それは要注意にほかなりません。同様に返品も、返品理由が同様なものは要注意です。品質保証部門は、消費者窓口だけでなく、修理・返品状況の集計と分析も併せて情報収集することが望ましいと言えます。

      • 消費者段階の品質事故=苦情+修理+返品
      • 発売早期・同一品番・同色・同一現象の複数事故発生は要注意

      図3 消費者段階の品質事故



      (3)お申し出記録カード(仮称)の作成
       あなたが事故品を入手したら、「お申し出記録カード」に各種情報をインプットしてください。消費者からの各種情報、製品の各種情報などの管理は、問題解決に向けた基本的業務です。
       社内で「お申し出記録カード」がなければ、表1の項目を盛り込んだカードを作成してください。

      お申し出記録カード
      表1 お申し出記録カードの項目例
      項目小分類
      ①管理番号
      ②受付年月日受付担当者含む
      ③申し出品ブランド
      品番
      カラー
      サイズ
      ④申し出内容できるだけ詳細に記載のこと。事故に気付いた時点も含む
      ⑤購入日
      ⑥購入価格
      ⑦購入店
      ⑧洗濯方法洗濯回数を含む
      ⑨保管方法期間、環境を含む
      ⑩申し出者氏名 住所 連絡先(電話、e-mail)
      ⑪品質表示組成 取扱い ご注意 原産国
      ⑫お申し出部分の観察この観察が重要になる
      ⑬試験データ・再現試験生地データ 新品での再現試験データ
      ⑭原因原因の特定
      ⑮お申し出者への解答
      ⑯最終結果


    2. 事故品の観察
       アパレル製品の事故には、過去のアパレル散歩道で説明したように、「損傷(生地、縫い目)」「外観変化」「形態変化」「風合い変化」「光沢変化」「色の変化(汚染、変退色、黄変、白化)」「機能低下」「安全性不適切」「表示不適正」など多様な現象がありますので、事故品観察もこれらの分類を踏まえた観察が必要です。表2、3、4では、①穴あき、②変色、③縫い目パンクについて、観察例と原因の推定例を紹介しています。

      表2 お申し出と観察の事例① 穴あきの場合
      お申し出事例観察事項原因の推定
      綿/ポリエステル混ニットパンツでがあいた発生は縫い目付近か地糸切れによる穴あきが推定される
      ひじ部、膝部、尻部など、特定の部位に発生しているか着用中の擦れが推定される
      摩耗強さの程度が推定される
      ランダムな場所に数か所発生しているか薬品の付着が推定される
      穴あき部の周辺が硬くなっているか(顕微鏡観察)摩擦溶融による穴あきが推定される
      (合繊、合繊混の場合)
      穴あき部の周辺が毛羽立っているか(顕微鏡観察)着用中の擦れが推定される


      表3 お申し出と観察の事例② 変色の場合
      お申し出事例観察事項原因の推定
      紺色の綿シャツが洗濯で変色した変色は全体で均一か洗濯機槽での漂白剤や蛍光増白剤の影響が推定される
      むら状に発生しているか蛍光増白剤や漂白剤のむら付きが推定される
      裏面も変色しているか裏面は変色していないなら、日光の影響が推定される
      襟やポケット口、太もも部など特定部で発生汗の付着による影響が推定される
      変色部が他に比べて毛羽立っているか摩擦による毛羽立ちによる白化などが推定される
      捺染品で濃色部が白っぽく見える柄反転が生じた(特に毛素材)


      表4 お申し出と観察の事例③ 縫い目パンクの場合
      お申し出事例観察事項原因の推定
      織物パンツの縫い目がパンクした縫い糸が切れているか縫製仕様、縫製条件、縫い糸の選定の要因が推定される
      消費者のサイズ不適合も推定される
      消費者の過度な激しい使用も推定される
      生地糸が切れているか生地自体の縫い目強さが弱いことが推定される
      消費者のサイズ不適合も推定される
      消費者の過度な激しい使用も推定される
      生地糸が滑脱しているか織物の経糸/緯糸の密度が甘いことが推定される
      織物が滑脱しやすいことが推定される
      消費者のサイズ不適合も推定される
      消費者の過度な激しい使用も推定される
      製品のシルエットはタイトか着用と運動による負荷が推定される
      縫い代はかがり縫い仕様かかがり縫いでない、切りっぱなしなら縫製不良が推定される
      適切にかん止めや芯地で補強されているか仕様の可否によっては設計不良が推定される


    3. 事故品に関する聞き取り
       事故品の原因を絞り込むために、申し出者を含む関係者に必要事項を丁寧に聞き取ります。具体的な聞き取り先には、①アパレルメーカー内部(企画部門、生産部門など)②縫製工場③染色工場(素材メーカー経由)④クリーニング業者などがあります。では、さらに具体的に聞き取るべき事項を例として紹介します。

      (1)アパレルメーカー内部への聞き取り(企画部門、生産部門など)
       アパレルメーカーが、社内(企画部門・生産部門)などで、確認すべき事項の例を事故例別に表5で紹介します。

      表5 アパレルメーカー内部への聞き取り例 (企画部門、生産部門など)
      事故例確認すべき事項
      共通
      • 同一品番、同一カラーで、同様の現象の事故が、複数発生していないか。修理依頼なども含む
      変色や汚染、色泣き
      • 先発品の各種染色堅ろう度試験データがあるか
      • データは品質基準に合格しているか
      • 適切な注意表示をしていたか
      • ロット別のデータがあるか
      縮み
      • 先発品の洗濯寸法変化率試験データがあるか
      • データは品質基準に合格しているか
      白化
      • 繊維素材の特性と染色方法を聞き取る
      • 適切な注意表示をしていたか
      黄変
      • 生地の黄変関連の試験データがあるか
      • 適切な注意表示をしていたか
      穴あきや引裂け
      • 先発品の摩耗試験や引裂き試験の試験データがあるか
      ピリング、スナッグ
      • 先発品のピリング、スナッグ試験データはあるか
      • 適切な注意表示をしていたか
      縫い目のパンク
      • 先発品の縫い目滑脱抵抗力、縫い目強さ試験データはあるか
      • 縫製仕様は問題ないか(かん止め位置、芯地併用など)
      • シルエットはどうか
      機能性低下
      • 機能性データはあるか データは合格しているか
      色違い
      • ロット管理はできていたか
      二次加工顔料プリント
      • 企画時に生地との相性は確認していたか


        • 品質事故や安全事故が発生したら、他にも同一品番、同色で複数件数発生しているか、調査することが大切である。
        • 逆に言えば、日頃から全社でお申し出内容、修理内容が集計分析されていれば、遅滞なく重大トラブルリスク軽減が可能になる。


      (2)縫製工場への聞き取り(自社工場は生産部門経由、協力工場は商社経由)
       縫製関連の事故例と確認すべき事項の例を表6で紹介します。

      表6 縫製工場への聞き取り例 (協力工場は商社経由)
      事故例確認すべき事項
      折れ針が混入した
      • 検針管理は正しく実施していたか。該当期間の検針記録はあるか
      各種縫製不良が発生した(パッカリング、地糸切れ、縫い外れなど)
      • 縫製したミシン、縫い糸、縫製速度など記録はあるか
      • 製品検査は実施していたか。記録はあるか(全品検査、抜き取り検査など)
      • 製品検査後、適時補修はしていたか
      製品で色違い発生
      • 原反のロット管理はできていたか
      二次加工の顔料プリントがはく離した
      • 顔料プリントのロット管理がプリント業者でされていたか
      • インク調合・ベーキング機の管理は適正であったか
      誤った表示物が付いていた
      • 工場内での下げ札、ラベルなど副資材の管理は適切にしていたか
      サイズが小さく仕上がっていた
      • パターン設計に問題はなかったか
      • 出荷時の全数検査で、縫製仕様書のサイズ表に合格していたか
      • ウール製品などで、工場内の湿度管理やスチームアイロンなどで、フェルト収縮などはなかったか


      (3)染色工場への聞き取り (生地メーカー、商社経由)
       事故例と確認すべき事項の例を表7で紹介します。

      表7 染色工場への聞き取り例 (生地メーカー、商社経由)
      事故例確認すべき事項
      汚染・色泣きが発生した
      • 染色機や染料に関する調査を実施する(液流染色、捺染など)
      • 各色のロット別染色堅ろう度データはあるか
      製品間で色違いが発生した
      • 染色ロット間の色管理はできていたか。ロット見本はあるか
      皮膚障害が発生した
      • 法令は遵守しているか
      • SDS(製品安全データシート)はあるか
      生地の強度低下が発生した
      • 再加工はなかったか
      • 再加工がされていたなら、物性は確認されているか


      (4)クリーニング業者への聞き取り
       品質事故がクリーニング処理後に発生し、原因がその処理に関連していると推定される場合は、事故現象に応じて、以下のような処理内容(表8参照)を聞き取ります。

      表8 クリーニング業者への聞き取り例
      確認すべき事項
      1処理は、水洗い(ランドリー・ウェットクリーニング)か、ドライクリーニングか
      2店頭で預かったとき異常はなかったか
      3ドライなら溶剤は、石油系かパークレン
      4漂白剤や柔軟剤、アルカリ剤は使用したか
      5石油系ドライで、溶剤管理はどのようにしているか
      6乾燥はタンブル乾燥か、吊り干しか
      7石油系ドライクリーニングで、乾燥時に溶剤は十分除去されていたか
      8仕上げは、アイロン仕上げかプレス仕上げか


      (5)お申し出者への聞き取り
       品質事故がお申し出者の着用状況やメンテナンスなどに関連していると推定される場合は、以下のような内容(表9)を聞き取ります。事故状況に対応した聞き取りをしてください。

      表9 お申し出者への聞き取り例
      確認すべき事項
      着用関連購入はいつごろか
      着用期間や着用頻度はどの程度か
      いつ異常に気づいたか(着用後、洗濯後など)
      特にハードな使用はなかったか (スポーツ、特殊作業など)
      申し出者の体型情報などを確認できるかなど
      洗濯洗濯は主に家庭洗濯か、商業クリーニングか
      家庭洗濯では、洗濯槽に入れる順番(洗濯物、水、洗剤)はどうか
      洗濯ネットは使用していたか
      色柄物と白淡色物は、分けて洗濯しているか
      水は水道水か、地下水か、風呂の残り湯か
      水温はどの程度か
      洗剤のブランドは何か。漂白剤や蛍光増白剤は含まれていたか
      柔軟剤は使用したか
      手洗いの場合、長時間の漬け置き洗いはしたか
      手洗いの場合、強く揉まなかったか
      乾燥はタンブル乾燥か、自然乾燥か
      タンブル乾燥の温度はどの程度か
      自然乾燥は吊り干しか、平干しか
      自然乾燥は日陰干しだったかなど
      保管保管は、どこでしていたか
      保管場所で、外部の日光や排気ガスなどの影響はなかったか
      クリーニングからの返却時に異常はなかったか
      保管場所付近で、ガスストーブは使用していたかなど


    4. 事故品の品質確認
       事故品の観察とお申し出者を含めた関係者への聞き取りが完了したら、次に原因の絞り込みをする必要があります。これには、関連品質試験データを参考にします。また、同一品の新品在庫品があれば、場合によっては再現試験を実施します。

      (1)品質試験データについて
       日常の品質管理で、アパレルメーカーが品質基準書に規定し運用している品質や機能性、安全性に関する先発試験データなどは、基本的には存在する前提で話を進めます。先発データは直接消費者に届く製品の試験データである一方、展示会見本生地のデータは、見本反の染色機が本機と異なるなどの可能性もあり、あくまでも参考データとしか扱えないものです。
       表10に、いくつかの品質事故と関連品質試験データの例を紹介します。

      表10 品質事故と関連品質試験データの例
      品質事故例品質・機能性・安全性のデータの規格例
      汚染や変退色JIS L 0842「紫外線カーボアーク灯光に対する染色堅ろう度試験」
      JIS L 0844「洗濯に対する染色堅ろう度試験」
      JIS L 0848「汗に対する染色堅ろう度試験」
      JIS L 0849「摩擦に対する染色堅ろう度試験」
      JIS L 0860「ドライクリーニングに対する染色堅ろう度試験」
      JIS L 0846「水に対する染色堅ろう度試験」
      JIS L 0842「紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験(汗・耐光)」
      JIS L 0884「塩素処理水に対する染色堅ろう度試験」
      JIS L 0854「昇華に対する染色堅ろう度試験」
      大丸法「色泣き試験」
      ブラックライトによる紫外線照射など
      黄変 JIS L 0855「窒素酸化物に対する染色堅ろう度試験」
      コートルズ黄変試験など
      引裂きJIS L 1096「織物及び編物の生地試験」 引裂き強さ
      家庭洗濯による縮みJIS L 1096「織物及び編物の生地試験」 寸法変化
      ニットのウエール・コース密度 (設計上の密度との比較)
      織物のたて糸・よこ糸密度 (設計上の密度との比較)など
      縫い目パンクJIS L 1096「織物及び編物の生地試験」 縫い目滑脱抵抗力
      織物のたて糸・よこ糸密度 (設計上の密度との比較)など
      スナッグJIS L 1058「織物及び編物のスナッグ試験」
      はっ水低下JIS L 1092「繊維製品の防水性試験」 はっ水度試験
      皮膚かぶれ「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」に基づくホルムアルデヒド定量試験


        ~先発データの大切さ~
        • 事故原因を絞り込むための試験データは、先発生地のデータが基本必須である。
        • 展示会見本生地のデータは、あくまでも参考とすべきである。
        • 場合により、先発でもロット間のデータが必要な事例もある。
        • アパレルメーカーがISOで品質基準を運用している場合は、ISOの試験データで問題はない。


        ~ハウスデータについて~
        • 検査協会による“第三者”的試験データに対して、ハウスデータとは染色加工場等のいわば“自前”による試験データのこと。
        • ハウスデータの活用は、事前に、①アパレルメ―カー、②検査協会、そして③染色加工場の三者で、試験方法と試験結果の手合わせを実施し、実質的に問題がないことを確認したうえで行うこと。


      (2)再現試験について
       事故品の外観と生地先発試験データを総合的に検討することによって、かなり原因が絞り込めます。しかし、家庭洗濯時に使用した洗剤や蛍光増白剤の影響なども推定される場合、新品の同一商品があれば、これを使用した洗濯再現試験などで、さらに原因を確定することができます。

      表11 再現試験の例
      品質事故例再現試験の目的
      1綿スラックスを家庭洗濯したら色あせした
      • 同一新品を用いて、申し出者が使用した洗剤を使用して、申し出条件下で洗濯処理を行い、変退色を事故品と比較する
      2綿ニットシャツを家庭洗濯したら大きく脇目が曲がった
      • 同一新品を用いて、申し出条件下で洗濯乾燥処理を行い、脇目の変化を事故品と比較する
      3雨天下でナイロン製レインウエアを使用したら、短期間ではっ水機能が低下した
      • 同一新品を用いて、レインテストを実施し、表面のはっ水の状況を確認する
      • ドライクリーニング(石油系)後の着用であれば、ソープ残留の可能性もあり、事故品を家庭洗濯後、はっ水試験する


      (3)着用試験について
       上記(2)で説明したように、事故品の観察と生地先発試験データを総合的に検討することによって、かなり原因が絞り込めます。しかし、着用による要因が複合していると推定される場合で、かつ新品在庫がある場合は、場合により着用試験も有効と考えます。

      表12 着用試験の例
      品質事故例着用試験の方法と目的
      1スリムタイプのスラックスで、尻部がパンクしたサイズに適合した被験者による着用と運動を行い、縫い目部の破損状況を確認する
      2レインウエアで、雨天下で短時間に雨が衣服内に浸入した人工降雨施設や実際の雨天下で、被験者が着用し、衣服内部への水の浸入状況を確認する
      3綿/ポリエステル混のニットパンツに毛玉が多く発生した実際に当該パンツを被験者が着用し、毛玉の発生状況を確認する


    5. 品質事故原因の絞り込みと確定
       これまで説明した「1.2事故品の観察」「1.3申し出者への聞き取り」「1.4先発製品の品質データ」と「素材・製品の特性」「各種表示」などを総合して、事故原因の絞り込みと確定を行います。(図4参照)

      1.2事故品の観察
      1.3申し出者への聞き取り
      1.4先発製品の品質データ
      再現試験結果
      着用試験結果
      素材・製品の特性
      各種表示
      1.5 原因の絞り込みと確定

      図4 品質事故原因の絞り込みと確定



    6. 責任所在と再発防止策

      (1)責任の所在確定
       品質事故の原因は表13の通り分類され、申し出者からお預かりした事故製品の原因と責任の所在は、以下の表13のいずれかに分類されます。

      表13 事故製品の原因と責任の所在
      原因の分類原因例責任の所在
      自社生産品仕入れ品
      1企画・設計不良材料の用途外使用、縫製仕様不良、パターン不良、材料や二次加工の組み合わせ不良、安全性未達商品企画部門仕入先
      2生産のばらつき本生産での材料・縫製・二次加工段階での製造不良生産管理部門仕入先
      3表示不適正組成、取扱い、原産国、機能性、サイズ、ご注意文に関する表示ミス
      製品に取り付けるものだけでなく、SNS掲載内容にも適用
      商品企画部門
      生産部門
      縫製工場
      仕入先
      4素材特性天然繊維、再生繊維、合成繊維など、素材の特性や寿命に起因するもの商品企画部門
      消費者
      アパレルメーカー
      仕入先
      消費者
      5誤使用消費者の誤使用消費者消費者
      61~4の複合要因品質事故は単一要因だけでなく、複合要因で発生しやすい複数複数


      ~品質事故と複数要因~
      アパレル製品の品質事故は、単一の要因だけでなく、複合要因で発生する傾向があります。以下の例を紹介します。

      1. 綿ニットシャツの緩和収縮性 + タンブル乾燥
      2. アクリルニットパンツのピリング性 + ハードな着用
      3. 綿パンツの洗濯堅ろう性 + 長時間の漬け込み洗い
      4. ポリエステルシャツの昇華堅ろう性 + 長期高温在庫 など


    7. 対策の実施

      (1)申し出者への対応
       申し出者に対しては、事故品についての調査結果を早期かつ丁寧に報告し、返却、修理、交換、返金など適切な対応をすることが望まれます。

      (2)再発防止策作成
       消費者への対応とは別に、関係部署、関係会社へのフィードバックが重要です。
       原因が消費者の誤使用でない限り、原因分類別に関係部署へのフィードバックを行い、今後同様の事故が発生しないような対策が望まれます。表14に、原因別の対策例を示しています。

      表14 原因分類別の対策例
      原因の分類対策例の説明
      1企画・設計不良
      • 仕入先やアパレルメーカーの商品企画部門にフィードバックし、MD、デザイナー、パタンナーに改善を要請する
      • 縫製仕様書の記載内容の改善を要請する
      • 品質保証部門では、素材の品質基準の変更、新管理項目や新試験法の導入などもありうる
      • 縫製仕様、主副材料の組み合わせによる安全や品質不備の可能性に対して、展示会時にセーフティレビューを実施する
      2生産のばらつき
      • 生地メーカーで、本生産で品質や安全性が低下したり、本生産時の縫製不良や規格不良などで事故が発生することがある
      • 生地メーカーや副資材メーカー、縫製工場に対して、不良発生の未然防止策を具体的に文書で求める
      • 二次加工の顔料プリントなどでは、加工業者に品質管理精度向上を求める
      3表示不適正原因には、a.アパレルメーカーからの情報ミスや指示ミス、b.ラベル副資材業者の印刷ミス、c.縫製工場の取り付けミスが考えられる。各事業所では、表示不良が発生しない具体的な対策を求める。この結果はできれば文書化する
      4表示不適正各繊維や製品の特性を理解した商品企画、注意表示の作成を徹底させる
      5誤使用誤使用による事故発生について、素材特性も関係しているか、表示による情報提供は十分かを検証する
      6複合要因品質事故に複数要因が考えられる場合は、上記1~4について、個別に対策を検討する


(次回のアパレル散歩道 / 2024年1月1日発行)

  • 次回2024年1月号は、新年号企画として「アパレル業界の若い方への提言」と、これまでの「アパレル散歩道」の索引を紹介します。効率よく勉強していただくために、皆様ご活用ください。
  • また2月号からは、新シリーズ『テキスタイルの特性を学ぼう』として、まず「1.テキスタイルの機械的特性」を取り上げます。アパレル製品の側面から、素材特性を勉強しましょう。

コラム : アパレル散歩道60
「アパレル業界の若い方への提言」


発行元:
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail:
pr-contact@nissenken.or.jp     URL:
https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。



社外経歴
(一社)日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
(一社)日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
(一社)日本繊維製品消費科学会 元副会長

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