2024/04/01
第63回 : 「テキスタイルの寸法安定性」
アパレル散歩道
2023/12/01
2023.12.1
PDF版をご希望の方はダウンロードフォームへお進みください > ニッセンケンウェブサイト ダウンロードサービス【アパレル散歩道No.59】
「アパレル散歩道」は昨年10月の第45回から今年11月の第58回まで、アパレル製品のさまざまな品質事故事例を紹介してきました。さまざまな素材で作られたアパレル製品が、さまざまな原因で品質事故が発生していることをお分かりいただけたと思います。
今回は「品質事故を分析して原因と対策を考えよう」シリーズの最終回です。自分自身をアパレルメーカーの品質保証部門・品質管理担当と想定していただき、消費者から送られてきたお申し出品を手に取った時に、事故原因を絞り込み、対策を講じるため、具体的にあなたが取り組むべき事項を紹介します。事故原因が確定すれば、お申し出者への適切な対応、また在庫品の処理、流通・社内(企画部門や生産管理部門)・仕入先に対するスムーズな対応が可能になります。
図1 事故原因絞り込みと対応の流れ
図2 品質事故受付と品質事故の種類
図3 消費者段階の品質事故
項目 | 小分類 |
---|---|
①管理番号 | |
②受付年月日 | 受付担当者含む |
③申し出品 | ブランド |
品番 | |
カラー | |
サイズ | |
④申し出内容 | できるだけ詳細に記載のこと。事故に気付いた時点も含む |
⑤購入日 | |
⑥購入価格 | |
⑦購入店 | |
⑧洗濯方法 | 洗濯回数を含む |
⑨保管方法 | 期間、環境を含む |
⑩申し出者 | 氏名 住所 連絡先(電話、e-mail) |
⑪品質表示 | 組成 取扱い ご注意 原産国 |
⑫お申し出部分の観察 | この観察が重要になる |
⑬試験データ・再現試験 | 生地データ 新品での再現試験データ |
⑭原因 | 原因の特定 |
⑮お申し出者への解答 | |
⑯最終結果 |
お申し出事例 | 観察事項 | 原因の推定 |
---|---|---|
綿/ポリエステル混ニットパンツで穴があいた | 発生は縫い目付近か | 地糸切れによる穴あきが推定される |
ひじ部、膝部、尻部など、特定の部位に発生しているか | 着用中の擦れが推定される 摩耗強さの程度が推定される | |
ランダムな場所に数か所発生しているか | 薬品の付着が推定される | |
穴あき部の周辺が硬くなっているか(顕微鏡観察) | 摩擦溶融による穴あきが推定される (合繊、合繊混の場合) | |
穴あき部の周辺が毛羽立っているか(顕微鏡観察) | 着用中の擦れが推定される |
お申し出事例 | 観察事項 | 原因の推定 |
---|---|---|
紺色の綿シャツが洗濯で変色した | 変色は全体で均一か | 洗濯機槽での漂白剤や蛍光増白剤の影響が推定される |
むら状に発生しているか | 蛍光増白剤や漂白剤のむら付きが推定される | |
裏面も変色しているか | 裏面は変色していないなら、日光の影響が推定される | |
襟やポケット口、太もも部など特定部で発生 | 汗の付着による影響が推定される | |
変色部が他に比べて毛羽立っているか | 摩擦による毛羽立ちによる白化などが推定される | |
捺染品で濃色部が白っぽく見える | 柄反転が生じた(特に毛素材) |
お申し出事例 | 観察事項 | 原因の推定 |
---|---|---|
織物パンツの縫い目がパンクした | 縫い糸が切れているか | 縫製仕様、縫製条件、縫い糸の選定の要因が推定される 消費者のサイズ不適合も推定される 消費者の過度な激しい使用も推定される |
生地糸が切れているか | 生地自体の縫い目強さが弱いことが推定される 消費者のサイズ不適合も推定される 消費者の過度な激しい使用も推定される | |
生地糸が滑脱しているか | 織物の経糸/緯糸の密度が甘いことが推定される 織物が滑脱しやすいことが推定される 消費者のサイズ不適合も推定される 消費者の過度な激しい使用も推定される | |
製品のシルエットはタイトか | 着用と運動による負荷が推定される | |
縫い代はかがり縫い仕様か | かがり縫いでない、切りっぱなしなら縫製不良が推定される | |
適切にかん止めや芯地で補強されているか | 仕様の可否によっては設計不良が推定される |
事故例 | 確認すべき事項 |
---|---|
共通 |
|
変色や汚染、色泣き |
|
縮み |
|
白化 |
|
黄変 |
|
穴あきや引裂け |
|
ピリング、スナッグ |
|
縫い目のパンク |
|
機能性低下 |
|
色違い |
|
二次加工顔料プリント |
|
事故例 | 確認すべき事項 |
---|---|
折れ針が混入した |
|
各種縫製不良が発生した(パッカリング、地糸切れ、縫い外れなど) |
|
製品で色違い発生 |
|
二次加工の顔料プリントがはく離した |
|
誤った表示物が付いていた |
|
サイズが小さく仕上がっていた |
|
事故例 | 確認すべき事項 |
---|---|
汚染・色泣きが発生した |
|
製品間で色違いが発生した |
|
皮膚障害が発生した |
|
生地の強度低下が発生した |
|
確認すべき事項 | |
---|---|
1 | 処理は、水洗い(ランドリー・ウェットクリーニング)か、ドライクリーニングか |
2 | 店頭で預かったとき異常はなかったか |
3 | ドライなら溶剤は、石油系かパークレンか |
4 | 漂白剤や柔軟剤、アルカリ剤は使用したか |
5 | 石油系ドライで、溶剤管理はどのようにしているか |
6 | 乾燥はタンブル乾燥か、吊り干しか |
7 | 石油系ドライクリーニングで、乾燥時に溶剤は十分除去されていたか |
8 | 仕上げは、アイロン仕上げかプレス仕上げか |
確認すべき事項 | |
---|---|
着用関連 | 購入はいつごろか |
着用期間や着用頻度はどの程度か | |
いつ異常に気づいたか(着用後、洗濯後など) | |
特にハードな使用はなかったか (スポーツ、特殊作業など) | |
申し出者の体型情報などを確認できるかなど | |
洗濯 | 洗濯は主に家庭洗濯か、商業クリーニングか |
家庭洗濯では、洗濯槽に入れる順番(洗濯物、水、洗剤)はどうか | |
洗濯ネットは使用していたか | |
色柄物と白淡色物は、分けて洗濯しているか | |
水は水道水か、地下水か、風呂の残り湯か | |
水温はどの程度か | |
洗剤のブランドは何か。漂白剤や蛍光増白剤は含まれていたか | |
柔軟剤は使用したか | |
手洗いの場合、長時間の漬け置き洗いはしたか | |
手洗いの場合、強く揉まなかったか | |
乾燥はタンブル乾燥か、自然乾燥か | |
タンブル乾燥の温度はどの程度か | |
自然乾燥は吊り干しか、平干しか | |
自然乾燥は日陰干しだったかなど | |
保管 | 保管は、どこでしていたか |
保管場所で、外部の日光や排気ガスなどの影響はなかったか | |
クリーニングからの返却時に異常はなかったか | |
保管場所付近で、ガスストーブは使用していたかなど |
品質事故例 | 品質・機能性・安全性のデータの規格例 |
---|---|
汚染や変退色 | JIS L 0842「紫外線カーボアーク灯光に対する染色堅ろう度試験」 JIS L 0844「洗濯に対する染色堅ろう度試験」 JIS L 0848「汗に対する染色堅ろう度試験」 JIS L 0849「摩擦に対する染色堅ろう度試験」 JIS L 0860「ドライクリーニングに対する染色堅ろう度試験」 JIS L 0846「水に対する染色堅ろう度試験」 JIS L 0842「紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験(汗・耐光)」 JIS L 0884「塩素処理水に対する染色堅ろう度試験」 JIS L 0854「昇華に対する染色堅ろう度試験」 大丸法「色泣き試験」 ブラックライトによる紫外線照射など |
黄変 |
JIS L 0855「窒素酸化物に対する染色堅ろう度試験」 コートルズ黄変試験など |
引裂き | JIS L 1096「織物及び編物の生地試験」 引裂き強さ |
家庭洗濯による縮み | JIS L 1096「織物及び編物の生地試験」 寸法変化 ニットのウエール・コース密度 (設計上の密度との比較) 織物のたて糸・よこ糸密度 (設計上の密度との比較)など |
縫い目パンク | JIS L 1096「織物及び編物の生地試験」 縫い目滑脱抵抗力 織物のたて糸・よこ糸密度 (設計上の密度との比較)など |
スナッグ | JIS L 1058「織物及び編物のスナッグ試験」 |
はっ水低下 | JIS L 1092「繊維製品の防水性試験」 はっ水度試験 |
皮膚かぶれ | 「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」に基づくホルムアルデヒド定量試験 |
品質事故例 | 再現試験の目的 | |
---|---|---|
1 | 綿スラックスを家庭洗濯したら色あせした |
|
2 | 綿ニットシャツを家庭洗濯したら大きく脇目が曲がった |
|
3 | 雨天下でナイロン製レインウエアを使用したら、短期間ではっ水機能が低下した |
|
品質事故例 | 着用試験の方法と目的 | |
---|---|---|
1 | スリムタイプのスラックスで、尻部がパンクした | サイズに適合した被験者による着用と運動を行い、縫い目部の破損状況を確認する |
2 | レインウエアで、雨天下で短時間に雨が衣服内に浸入した | 人工降雨施設や実際の雨天下で、被験者が着用し、衣服内部への水の浸入状況を確認する |
3 | 綿/ポリエステル混のニットパンツに毛玉が多く発生した | 実際に当該パンツを被験者が着用し、毛玉の発生状況を確認する |
図4 品質事故原因の絞り込みと確定
原因の分類 | 原因例 | 責任の所在 | ||
---|---|---|---|---|
自社生産品 | 仕入れ品 | |||
1 | 企画・設計不良 | 材料の用途外使用、縫製仕様不良、パターン不良、材料や二次加工の組み合わせ不良、安全性未達 | 商品企画部門 | 仕入先 |
2 | 生産のばらつき | 本生産での材料・縫製・二次加工段階での製造不良 | 生産管理部門 | 仕入先 |
3 | 表示不適正 | 組成、取扱い、原産国、機能性、サイズ、ご注意文に関する表示ミス 製品に取り付けるものだけでなく、SNS掲載内容にも適用 | 商品企画部門 生産部門 縫製工場 | 仕入先 |
4 | 素材特性 | 天然繊維、再生繊維、合成繊維など、素材の特性や寿命に起因するもの | 商品企画部門 消費者 | アパレルメーカー 仕入先 消費者 |
5 | 誤使用 | 消費者の誤使用 | 消費者 | 消費者 |
6 | 1~4の複合要因 | 品質事故は単一要因だけでなく、複合要因で発生しやすい | 複数 | 複数 |
原因の分類 | 対策例の説明 | |
---|---|---|
1 | 企画・設計不良 |
|
2 | 生産のばらつき |
|
3 | 表示不適正 | 原因には、a.アパレルメーカーからの情報ミスや指示ミス、b.ラベル副資材業者の印刷ミス、c.縫製工場の取り付けミスが考えられる。各事業所では、表示不良が発生しない具体的な対策を求める。この結果はできれば文書化する |
4 | 表示不適正 | 各繊維や製品の特性を理解した商品企画、注意表示の作成を徹底させる |
5 | 誤使用 | 誤使用による事故発生について、素材特性も関係しているか、表示による情報提供は十分かを検証する |
6 | 複合要因 | 品質事故に複数要因が考えられる場合は、上記1~4について、個別に対策を検討する |
コラム : アパレル散歩道60
「アパレル業界の若い方への提言」
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
アパレル散歩道
各種お問い合わせCONTACT
サービス全般についてのお問い合わせ
各種試験・検査に関するお問い合わせ、ご依頼はこちらから承ります。
エコテックス®に対するお問い合わせ
エコテックス®認証に関するお問い合わせ、ご依頼はこちらから承ります。
技術資料ダウンロード
各種試験・検査に関する技術資料が、こちらからダウンロードいただけます。
よくあるご質問
試験・検査などで、皆さまからよくいただく質問と回答をまとめています。
お電話からのお問い合わせはこちら