アパレル散歩道

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第3回 : アパレル製品の品質事故 要因 1 ~ 「繊維」・「糸」

2020/09/15

2020.9.15

 

1.品質事故の種類

1.1 品質事故と品質苦情

 「品質苦情」は、商品の不良や欠陥などの「品質事故」に対して、消費者や流通業者がアパレルメーカーに対してもつ不満のことです。最初に商品不良や欠陥による事故があって、これに対する消費者や流通の不満が「品質苦情」として顕在化します。  

 さて、品質管理担当者は、品質事故の原因を特定し、結果を適切にフィードバックすることが仕事ですから、消費者段階だけではなく、流通や製造時に発生する品質事故にも注目しなければなりません。かつてドラマの『踊る大捜査線』で織田裕二扮する青島刑事が「事件は会議室ではなく現場で起こる。」と言いましたが、まさしくアパレル製品の品質事故は、生産工程を含めた多くの現場で発生しているのです。

◎品質事故=製造段階+流通段階+消費者段階(苦情)

                          

1.2 消費者段階の事故について

 また、アパレルメーカーでは、消費者苦情の集計分析をおこなっていますが、消費者からの「修理・返品」もしっかり分析できているでしょうか。修理依頼の中には、もちろん消費者の誤使用や商品寿命もあるのですが、時として商品の不良や欠陥に起因する修理があります。特に、同一品番で同様の修理依頼が集中発生すれば、それは要注意ということになります。同様に返品も、返品理由が同様なものは要注意です。修理・返品状況の集計とチェックを会社のルールとしてぜひ実施していただきたいと思います。

◎消費者段階の品質事故=苦情+修理+返品
◎同一品番で同一現象の複数事故発生は要注意です

                        

               

1.3 品質事故の現象別分類

 アパレル製品には多様な服種や素材があり、着用用途やシーンもさまざまであるため、いろいろ品質事故が発生します。「繊維製品の品質問題究明ガイドⅡ」(日本衣料管理協会発行)によると、品質苦情事例は大きく7つに分類されるとしています。表1に少しアレンジして紹介します。

表1. 品質事故の現象別分類

1.4 品質事故の要因別分類

 現象別分類は上の表1の通りです。さて、次に品質事故要因を考えてみたいと思います。下表2のように「①繊維」から「⑨消費・取扱い」の要因別に分けることができます。つまり「ものつくり」から「消費者の取扱い」までの至るところに事故原因は潜んでいるのです。われわれは、事故品を短時間に観察調査し、原因を正確に絞り込まなければなりません。

表2. 品質事故のライフスタイル要因別分類

毛織物にスチームを与えて収縮させる工程

                              

図1毛玉(ピリング)の発生

 ひとつ例を挙げましょう。図1のような「毛玉(ピリング)が発生したジャージ」が品質管理担当のあなたの机に置かれていたら、どうでしょう。ピリング現象は、表1の「外観変化」に該当します。しかし、ピリング発生の原因は、ひとつだけでなく複数の要因が重なっていることが知られています。
 この毛玉(ピリング)の場合でも、次の4つの原因の可能性が考えられます。

              

                    

a.糸は紡績糸で甘撚りであったために、通常の使用でも毛羽立ちしやすかった。(糸要因)
b.洗濯で柔軟剤が多用され、タンブル乾燥も加わり、毛羽立ちやすくなっていた。(洗濯要因)
c.着用頻度や時間が大きく、またサイズもピチピチであったため、繰り返しの摩擦作用があった。(着用要因)
d.これら上記の複合要因

                

さて、原因を絞らないと次の対策がとれません。しっかりした繊維知識、商品知識、豊富な経験と情報収集能力があれば、おのずから真実は見えてくるものと思っています。

◎品質事故は、原因が複合することも多い。
 例)素材特性+消費者取扱い
◎調査にあたり、問い合わせ先のポケットを多く持って欲しい

                

2.代表的な事故要因

では、ここからは、表2に掲げた事故要因のうち、主なものを順に紹介します。皆さんも是非ポケットを増やしていただきたいと思います。

2.1 繊維

繊維には、表3のように、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維があります。中でも、天然繊維の綿や毛、合成繊維のポリエステルが、世界で最も広く使用されています。このため、「繊維」が要因になる事故原因は、この「綿」や「毛」や「ポリエステル」の繊維特性が大きく関係してきます。

表3. 繊維の分類と繊維名

 代表的な繊維である「ポリエステル」、「毛」、「綿」の特性を以下の表4にまとめました。また、変退色や汚染などの「色」関連の事故では、「綿」の反応性染料、「毛(ウール)」の酸性染料、ポリエステルの分散染料、この3種の主な染料特性が、品質事故に大きく関係することになります。 今後のコラムで染料特性は説明させていただきます。

表4. ポリエステル・羊毛・綿の性能比較

 次に、合成繊維や天然繊維の性能を簡単に比較します。表5の「各種繊維の性能比較」を見ても、すべての性能を満たしている繊維はないのがわかります。したがって、それぞれの弱点を補うため、混紡、混繊、混織、交編の技術が発達し、今日に至っています。

表5. 各種繊維の性能比較

◎万能な性能をもつ繊維はない。(表5より)
◎天然繊維と合成繊維は、混紡などでお互いの弱点を補完している
例:天然繊維の吸湿性と合成繊維の収縮性など
◎ポリウレタン繊維は伸縮性に富むが強度や発色性に劣る。経時劣化もあり
このため、他の繊維をカバリングして用いる。⇒カバリング糸
◎合成繊維は、原料は石油で熱溶融紡糸される。このため、合成繊維は熱
セット性を有している。⇒防しわ性、プリーツ性、寸法安定性に優れる

                   

2.2 糸

(1) フィラメント糸と紡績糸

 糸は、アパレル製品の品質を大きく決定する最も基本的な構成物です。例えば、図2の左のような平滑なフィラメント糸を使用したウィンドブレーカーは、やはり平滑なつるっとした生地外観であり、図2の右のような毛羽のある紡績糸(スパン糸)を使用したスウェットパンツは肌触りの良い毛羽のある外観になります。紡績糸は毛羽があるがゆえに毛玉の発生は避けられません。フィラメント糸は、毛羽はなく毛玉は基本的に発生しませんが、強くコンクリートなどで擦られると、フィラメント切れして毛羽立ち、これが毛玉になるケースもあります。フィラメント糸は、編物で使用されると、スナッグなどの発生のリスクになります。

(2)加工糸

図4 フィラメント糸(上:なま糸)
と加工糸(下:ウーリー糸)

 加工糸は、合繊フィラメント糸に仮撚り法で捲縮をつけた糸です。もともと、合繊フィラメント糸は真っすぐでストレッチ性はなかったのですが、加工糸は、図4のようにパーマネントをかけたような(けん)(しゅく)があり、糸自体にストレッチ性を有するようになりました。別名をウーリー糸ともいうのは、毛糸のような捲縮とかさ高性があるためです。加工糸の登場は、その後のアパレル製品の性能、シルエットを大変革したといっても過言ではありません。

                  

◎糸の性質が製品の性質をほぼ決定する
◎紡績糸使いはピリング、フィラメント糸使いはスナッグを要注意
◎合繊加工糸の登場は、衣料のシルエット革命といってもよい

      

3.次回コラムのご案内

今回のコラムでは、品質事故要因の中で、「繊維」と「糸」について説明しました。今後も、「生地(織編)」「染色・仕上げ」「縫製」「表示」「消費者・取扱い」などの品質事故要因を勉強しましょう。次回は、「生地(織編)」「染色・仕上げ」を取り挙げます。

コラム : アパレル散歩道④
~繊維製品の品質苦情はなぜなくならないのか~
テーマ : 品質事故の分類と要因 2~ 「生地(織編)」・「染色・仕上げ」

               

発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター マーケティンググループ 企画広報課

E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

                 

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