アパレル散歩道

アパレル散歩道

アパレル散歩道 第82回 : 「衣料品の品質トラブルの原因絞り込み⑩」

2025/11/01

アパレル散歩道 シリーズ 品質トラブル原因を絞り込もうアパレル散歩道 シリーズ 品質トラブル原因を絞り込もう
1. 前回の事例レビュー はじめに、前回の第81回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめています。

2025.11.1

PDF版をご希望の方はダウンロードフォームへお進みください > ニッセンケンウェブサイト ダウンロードサービス【アパレル散歩道No.82】

もっと アパレル散歩道 !!
バックナンバーと索引はこちらから

  1. 前回の事例レビュー
     はじめに、前回の第81回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめました。

    表1.「第81回アパレル散歩道」品質事故事例レビュー
    事例服種現象考えられる原因原因分類
    34シャツ(綿100%)漂白剤変色
    • 消費者の洗濯取り扱いミス
    消費者
    35ブルゾン(毛100%)金属ファスナー付近の変色
    • 毛素材の還元漂白剤の残留による影響
    生産工程
    36スラックス(毛100%)あたり
    • クリーニングのアイロンやプレスによる光沢化
    クリーニング条件
    37パンツ(綾織)
    (綿95% ポリウレタン5%)
    バギング
    (ひざ抜け)
    • 素材がポリウレタン混で、伸長回復性が低かった
    • サイズが適合していなかった
    商品企画/素材特性

    消費者


  2. 今回の品質事故事例紹介
    事例38ジャンル服種状態
    メンズスーツストライプ柄部分に細かい波打ちが発生した
    ストライプ柄のウール(毛)100%スーツで、急な雨で濡れた後、乾いてからよく見ると、細かい波打ちが発生していた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「ウール」、「雨に濡れた」、そして「波うち」です。
    • 一般に、水分などによって繊維や糸が伸縮して生地表面が波打ったり、凹凸状の外観になる現象をバブリングと呼びます。語源はバブル(泡)です。
    • 特に、ハイグラルエキスパンションの性質をもつ毛織物素材に発生しやすいといわれています。
      毛織物を構成する糸の撚りが甘かったり、地糸と柄糸が甘撚糸と強撚糸で構成されている先染め柄織物で、その発生リスクが高くなります。
      ハイグラルエキスパンションとは、毛織物が湿度変化や濡れによって生地が伸縮する性質のこと
       (第48回アパレル散歩道「5. バブリング」参照)

    図1. ストライプ柄スーツのイメージ
    図1. ストライプ柄
    スーツのイメージ


    表2. 《事例38》「バブリング」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 指摘された現象を確認するため、波打ち部と正常部を目視で観察比較する。
    消費者への聞き取り
    • 水分の影響を確認するため、雨に濡れた時の状況を聞き取る。
    商品に関する調査
    • 生地要因を確認するため、地糸と柄糸の糸使いを素材メーカーに聞き取る。
    原因の推定
    • ウール素材は、雨や湿気による湿潤で、微妙に寸法変化する。
      (ハイグラルエキスパンション)
    • 地糸と柄糸の太さや撚り回数の差を主因とする、糸の収縮差による波打ちが発生した。
    確認試験など
    • バブリングの評価には専用の試験機はない。JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」寸法変化率試験のC法(浸透浸せき法)などを活用し、生地の表面変化を評価する。
    他に発生しやすい製品
    • 強撚糸(ウール、絹、レーヨンなど)混用した織物を使用した製品
    対策
    • 毛織物では、糸の撚りや密度を考慮して、事前に当該生地がバブリングを発生しやすい素材であるか否かを試験結果から判断し、場合により消費者に情報提供すること。
    • 毛織物のストライプ柄やチェック柄の素材では、柄糸と無地糸の物性の違いにより、バブリングが発生しやすいリスクが考えられる。

    ≪ハイグラルエキスパンションと仕立屋さん≫
    本場イギリスはもとより、わが国でも毛織物のスーツは、明治以降、長年仕立て屋(テーラー)の職人さんが作っていました。当時の仕立て屋さんでは、「背広は風呂場で仕立てろ」と言われるほど、湿度管理には気を使っていたようです。恐縮ですが、筆者の祖父も、神戸で修行して奈良でテーラーを開業していました。

    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△

    事例39ジャンル服種状態
    インナーシャツ繰り返し洗濯で紺色が変色した
    綿混の紺色シャツをほぼ1年間、着用と洗濯を繰り返していたら、全体が赤っぽく色あせした。洗濯に用いた水は通常の水道水で漂白剤は使用していない。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。シャツの組成は綿70%ポリエステル30%であった。
    図2. 紺色シャツのイメージ
    図2.紺色シャツの
    イメージ

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは「綿混素材」、「紺色」、「長期の使用と洗濯」です。
    • 日本の水道水は基本的に飲料用であり、そのため殺菌用の塩素が0.4mg/L程度配合されています。一見微量ではあるものの、この塩素の影響により、家庭洗濯で繊維素材や色目によっては変色することがあります。
    • 特に綿やレーヨンなどセルロース系繊維や、ナイロンで発生することがあります。ポリエステルではほぼ発生しません。
    • プール水中の塩素でも変色します。プールでは法令で水道水以上の殺菌効果が求められており4~10mg/Lの塩素が投入されています。
    • 特に紺色や緑色、黒色の配合色は青系染料がより色あせしやすいため、変色が進む傾向があります。
      (第51回アパレル散歩道「3.3 塩素処理水による変色」参照)

    表3. 《事例39》「塩素による色あせ」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 退色原因の絞り込みのため、色あせの程度(全体的な部分的か)、表面と裏面の状況を調査する。
    商品に関する調査
    • 商品の要因を確認するため、当該素材の塩素処理水堅ろう度がどの程度か、素材メーカーに問い合わせる。
    消費者への聞き取り
    • 消費者の取扱い要因を確認するため、当該期間の洗濯回数、洗濯方法、洗剤の種類、漂白剤使用の有無などを問い合わせる。
    原因の推定
    • 水道水に含まれている殺菌用の塩素の影響で、変色した。具体的には、紺色染料の青成分が退色したことにより、赤変した。
    • 当該素材の塩素処理水堅ろう度が劣っていた。
    確認試験など
    • 塩素処理水試験(JIS L 0884「塩素処理水に対する染色堅ろう度試験」)を実施する。
    • 同一商品の新品があれば、繰り返し洗濯し、退色を再現する。
    類似の事例
    • 綿のブルー色ニットシャツで、洗濯時に水道蛇口から水の直撃を続けて受けていたら、直撃部分のみ退色した。
    • ナイロン/ポリウレタンの紺色水着で、3か月ほど繰り返し着用したら退色した。プール水中の塩素の影響による色あせである。
    • 綿の紺色スラックスで、家庭洗濯時に漂白剤を併用したら、むら状に変退色した。
      (第81回アパレル散歩道「事例34」参照)
    対策
    • 塩素処理水試験(JIS L 0884「塩素処理水に対する染色堅ろう度試験」)を実施し、できるだけ同堅ろう度の良好なレサイプを採用する。
    • 同試験には、A~D法の試験があるが、一般衣料品はA法を採用する。

    表4. 塩素処理水試験詳細
    試験方法A法B法C法D法
    有効塩素料(mg/L)102050100
    pH7.0 ± 0.27.5 ± 0.05
    温度(℃)25 ± 227 ± 2
    浴比200100
    時間(分)3060
    衣料品の用途一般衣料品洗濯頻度の非常に多い衣料
    遊泳水着・競泳水着


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△

    事例40ジャンル服種状態
    レディーススカートクリーニングによるプリーツ消失
    プリーツ加工したスカートをクリーニングに出したところ、全体にプリーツが消えそうになっていた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。
    スカートの素材はポリエステル100%の綾織で、取り扱い表示は、洗濯機40℃限度、タンブル乾燥低温、アイロン160℃以下、ドライクリーニング石油可、ウェットクリーニング可であった。

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは「プリーツ加工」、「ポリエステル」、「クリーニング」です。
    • 「プリーツ」とは加工により生地につけた「ひだ」や「折り目」のことです。
    • 一般的に綿やレーヨンなどセルロース繊維織物では、プリーツが取れやすい傾向にあります。このため、それらのプリーツ加工では、樹脂が併用されることが多いようです。
      (第62回アパレル散歩道「3.3 天然繊維素材のプリーツ」参照)
    • 合成繊維織物は比較的プリーツ加工の耐久性はありますが、ナイロン織物はポリエステル織物と比較すると、融点やガラス転移点が低いため、耐久性が低いようです。
    • ポリエステル織物でも、軟化点以上の熱が加われば、プリーツ脱落のリスクは増えます。ガラス転移点と軟化点の間の温度で処理されることが望ましいと言えます。(図4及び表6 参照)
    • クリーニング工程で見ると、洗濯後の仕上げであるタンブル乾燥やアイロン、プレスの影響により、プリーツが取れる可能性もあります。

    図3. プリーツ製品のイメージ
    図3. プリーツ製品
    のイメージ


    表5. 《事例40》「プリーツが消える」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 申し出者の指摘を確認するため、新品などと比較して、プリーツの外観変化を目視で調査する。
    消費者への聞き取り
    • 消費者要因を確認するため、着用状況、頻度などを聞き取る。
    クリーニング業者への聞き取り
    • クリーニングの要因を確認するため、クリーニング工程での洗濯方法、乾燥方法、アイロンやプレス条件を聞き取る。
    原因の推定
    • プリーツ加工時に強く加圧されずに熱処理されたことや、また熱セット時間も短かったためにプリーツセット性が低くなったこと等が考えられる。
    • クリーニング工程で、タンブルドライなどの温度が高かったためにプリーツが消失した。
    確認試験など
    • プリーツ性の評価試験はJIS L 1060「織物及び編物のプリーツ性試験方法」で規定されており、開角度法(A-1法)、糸開角度法(A-2法)、伸長法(B法)、外観判定法(C法)の4種類がある。
    • プリーツ耐久性を評価する実用試験として、洗濯試験やドライクリーニング試験もある。
      詳細はニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください
    類似の事例
    • 綿やウールなどの天然繊維素材は、素材の特性上、アイロンやプレス(熱、水分、圧力)などで一時的にプリーツ加工することができるが、耐久性は低い。
    • 天然繊維素材のプリーツ加工では、化学処理が併用されていることが多い。
    対策
    • 取扱い付記表示として、「タンブル乾燥は避ける」と表記する。
    • クリーニング業者に対して、プリーツ製品はタンブル乾燥で高温処理しないよう要請する。

    図4. 物質の熱による変化(融点、軟化点、ガラス転移点について)
    図4. 物質の熱による変化(融点、軟化点、ガラス転移点について)


    表6. 主な合成繊維の熱的性質
    ガラス転移点(℃)軟化点(℃)融点(℃)
    ポリエステル70-90238-240255-260
    ナイロン50180215-220
    アクリル79190-240明確でない

    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△

    事例41ジャンル服種状態
    カジュアルニットシャツニットシャツで首の後ろにチクチクを感じた
    ニットシャツを購入して着用していたら、首の後ろにちくちく刺激があった。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。なお、素材組成は、綿/アクリル50%/50%であった。

    ■原因絞り込みの考え方
    • 今回のような着用時のちくちく感を感じる事例は、製品の安全性に関連しています。
    • キーワードは「ちくちく感」、「首の後ろ部」となります。
    • 第57回アパレル散歩道「3.2 主なアパレル製品の安全事故ハザード」では、いくつかの安全性に関する事故事例を紹介していますので、併せてご参考にしてください。今回は上記キーワードから「合成繊維製織ネームの溶断端による刺激」か「モノフィラメント縫い糸使用」などが推定されます。これらを前提に製品調査をしてください。

    図5. 織ネームの例
    図5. 織ネームの例


    表7. 《事例41》「首筋のちくちく感」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察など
    • 織ネームの要因を確認するため、製品裏面の首の後ろ部に、ブランド織ネームなどが取り付けられているかどうかを調査する。取り付けられていた場合は、ネームの周囲を触り、粗硬部分の有無を調査する。
    • 縫い糸の要因を確認するため、織ネームの取り付けにモノフィラメント縫い糸が使用されていないか確認する。
    副資材メーカーなどへの聞き取り
    • ブランドネームの要因を確認するため、ネームの材質、カッティング方法などを聞き取る。
    • モノフィラメント糸を使用していた場合、それは縫製仕様書の指示通りか確認する。
    原因の推定
    • 合成繊維製の織ネームでは、ほつれを防ぐためにヒートカット加工(織ネームを熱溶断する加工)が施されることがある。溶断端が熱溶融で硬化すると、首など取り付け位置によっては、織ネームが肌を刺激することがある。
    • 縫製仕様書にモノフィラメント使用が付記されていたために、モノフィラメント縫い糸が使用され、その縫い端が皮膚を刺激した。あるいは、縫製工場が誤ってモノフィラメント縫い糸を使用した。
    発生しやすいネーム
    • ポリエステル製織ネームで、生地が比較的厚い多色使いの場合に溶断端が硬くなりやすい。また、面積の大きい織ネームも溶断端が増えるため、事故のリスクは増加する。
    対策
    • ヒートカット対策として、①織ネーム検品の強化、②合繊織ネームでは溶断端が直接肌に接しないオーバーロック仕様タイプを取り入れることなどがある。
    • モノフィラメント縫い糸は、肌と接触する可能性のある部位には使用しないこと。

    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△

    ~大阪・関西万博 2025 訪問記 その6、最終回!!~
    「大阪・関西万博2025」は、10月13日に数々の話題を残して閉幕しました。
    今回は、アパレル散歩道 ティータイム特別企画“大阪・関西万博 訪問記”の最終回です。日本館をはじめとした各パビリオンの紹介と、まとめとして4つの「万博の意義」を紹介します。

    第1回 大阪・関西万博2025訪問記~地元大阪で開催中の万博に行ってまいりました!!~
    第2回 大阪・関西万博2025訪問記 その2!~いろいろな展示とパビリオンの紹介~
    第3回 大阪・関西万博2025訪問記 その3!~大雨にも負けず、熱波にも負けず、初夏~
    第4回 大阪・関西万博2025訪問記 その4! ~夕方の大阪湾の海風に癒されて~
    第5回 大阪・関西万博2025訪問記 その5! ~秋の気配はまだ見えませんが…~


    第6回
     大阪・関西万博2025訪問記 その6、最終回! ~数々の話題を残し閉幕しました~

(第83回 アパレル散歩道の予告 – 2025年12月1日公開予定)

 次回は、『品質トラブル原因を絞り込もう』の11回目として、以下の事例42~45を取りあげます。どうぞご期待ください。
  • 事例42. 「捺染柄反転」
  • 事例43. 「はっ水の低下」
  • 事例44. 「中綿吹き出し」
  • 事例45. 「モール糸衣料の糸抜け」

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

関連キーワード

アパレル散歩道

各種お問い合わせCONTACT

サービス全般についてのお問い合わせ

icon

各種試験・検査に関するお問い合わせ、ご依頼はこちらから承ります。

お問い合わせする

エコテックス®に対するお問い合わせ

icon

エコテックス®認証に関するお問い合わせ、ご依頼はこちらから承ります。

お問い合わせする

技術資料ダウンロード

icon

各種試験・検査に関する技術資料が、こちらからダウンロードいただけます。

ダウンロード一覧へ

よくあるご質問

icon

試験・検査などで、皆さまからよくいただく質問と回答をまとめています。

詳細ページへ進む

お電話からのお問い合わせはこちら

各種試験・関係法令等について

総務・管理部門 icon 03-3861-2341

受付時間 9:00~17:00(土日・祝日除く)

TO TOP