2021/02/24
現地の “今” を伝える / GLOBAL REPORT < 各国繊維・ファッション生産事情 > 2021.02 バングラデシュ編
ニッセンケンメモ
2023/08/02
「 GLOBAL REPORT < 各国繊維・ファッション生産事情 > 」ベトナム編として、日々発展するベトナムの繊維・アパレル産業の動向についてレポートをお届けします。
▶︎ 【2022.07 バングラデシュ編】【2022.06 インド編】はこちらから
(1)概要
正式な国名は「ベトナム社会主義共和国(リンク先:外務省ウェブサイト)」。細長いS字型をしており、国土面積は33万1690㎢と日本の九州を除いた広さで、北に中国、北西にラオス、西南はカンボジアに接している。
南北に長い地形には山脈が走り、川は縦横無尽に流れ、多様な気候と景色に恵まれている。首都のハノイは北部に位置し、当財団の拠点があるホーチミン市から約1100㎞ 離れている。直線距離にすると、東京〜北海道・稚内、東京〜鹿児島県・屋久島ほどで、ジャンボジェット機で約1時間のフライトである。また、日本からベトナムまでの距離は約3600㎞で、飛行機での所要時間は5〜6時間。
ビザは滞在期間が15日以内で旅券の有効期間が6カ月以上あれば免除される。日本との時差はマイナス2時間と、仕事上のコミュニケーションは比較的取りやすい。
(2)人口と宗教
人口は今年4月には予測より早く1億人に達した。世界で15位、アジア全体で8位、東南アジアで3位となっている。人口規模が大きいことは社会経済の発展に利点をもたらすが、一方で貧困や経済格差の拡大等の課題も生じると見られている。
公用語はベトナム語で表記は声調記号の入ったアルファベット。英語使用率は、統計上は日本と同等とされており、学歴が比較的高い人達はよく使っている。
ベトナムは多民族国家で様々な宗教が信仰されている。仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、カオダイ教、ホアハオ教などがある。その中でも仏教とキリスト教が最も多く信仰されており、仏教はベトナムの歴史や文化に深く影響を与えている。キリスト教はフランスの植民地時代に伝えられたもので、イスラム教は中部地方、ヒンドゥー教は中南部地方に、カオダイ教、ホアハオ教はベトナム独自の新興宗教である。
(3)政治
政治体制は社会主義共和国で、国会は1院制である。政権は唯一の合法政党である共産党が握っており、党首はグエン・フー・チョン党書記長。国家主席はヴォー・ヴァン・トゥオン氏、首相はファム・ミン・チン氏である。1986年の党大会で採択された市場経済導入と対外開放化を柱とした「ドイモイ政策」が継続されており、汚職対策、構造改革や国際競争力強化に取り組んでいる。外交は全方位外交を展開し、各種国際機関をはじめ国際的、地域的枠組みにも積極的に参加しており、2国間及び地域的なFTAを他国と結んでいる。
(4)経済
ベトナム統計総局がまとめた2022年の経済指標は、経済成長率8.02%、一人当たりGDP4110ドル、また物価上昇率は3.15%となっている。
経済成長率は2020年に新型コロナウイルス感染症拡大の影響により10年ぶりの低水準の成長となったが、近隣諸国がマイナス成長の中、アセアン内では最も高い成長率を記録した。所得の増加と共に物価も上昇ベースにあり、2022年はコロナ感染症、地域紛争の影響でさらに上昇したものの、付加価値税及び石油製品課税の引下げを迅速に行うと共に、ガソリン価格の上限設定などの有効な政策で、最終的に2022年は目標の4%以内に収めることができた。
(5)労働力と人件費
労働力は15歳以上の生産年齢人口は5080万人で、男女共に人口が多い年代グループは25〜29歳で、失業率は2.3%となっている。
ベトナムの最低賃金額は下記の通り地域によって4区分されており、2022年7月に平均6%引き上げられ、現在の水準になっている。
【地域1】ハノイ市、ホーチミン市の都市部など=468万ドン(約2.7万円)
【地域2】ハノイ市、ホーチミン市の郊外、ダナン市など=416万ドン(約2.4万円)
【地域3】バクザン市、フーリー市などの地方都市部=364万ドン(約2.1万円)
【地域4】その他の地域、農村部など=325万ドン(約1.9万円)
近隣の国・地域と比較すると、ミャンマー約0.9万円、バングラデシュ約1万円、カンボジア約2.7万円、中国・山東省約4.2万円、中国・上海約5.2万円となっており、東〜東南アジアの中で平均的なポジションにいることが分かる。
(1)概要
生産地の大まかな区分けとして、北部はハノイ→ハイフォン港が電子産業及び中国との国境貿易、中部はダナン港が観光サービス業及び製造業、南部はホーチミン港が様々な製造業の拠点となっており、世界的なアパレル企業がベトナムを製造拠点にしている。特に2020年8月のEU-Vietnam FTA発効でEU輸出品の関税がなくなりEU向けの輸出が増加した。
海外企業も積極的に投資しており、FDI企業※1の地域別分布は南部60%、北部37%、中部3%という割合になっている。南部はニット縫製業、北部は布帛縫製業が発達している。
※1=FDI企業:海外直接投資企業/Foreign Direct Investment
(2)繊維産業の地位
2021年のベトナム主要品目輸出額は1位・電話機、2位・電子製品、3位・機械設備、4位・縫製品、5位・履物と続く。電話機・電子製品は韓国サムソンが工場を展開していることなどから、高い数字になっている。
言うまでもなく世界有数の繊維衣類生産及び輸出国の一つであり、繊維・アパレル産業はベトナム総輸出の10%近くを占める主力産業である。輸出規模としては、2010年には112億米ドルに過ぎなかったが、2019年には390億米ドルに成長(GDPの15%)した。
なお2021年は7月から10月にかけてコロナ感染症拡大防止のため強力なロックダウンが行われたにも関わらず、縫製品輸出額は前年比約10%増の327憶ドルとなった。
(3)繊維・アパレル産業の展望
現在、ベトナムの繊維・アパレル産業は、欧米の物価上昇をはじめ様々な課題に直面している。
2023年は、輸出成長率6%の目標(約3877億米ドル)を掲げているが、これを達成するには、残り3四半期で3084 億米ドルを稼ぐ必要がある。主要な海外市場からの需要が減少傾向かつ、回復の兆しが見られない状況で、この数字の達成は困難との推測が大勢を占めているが、ベトナム繊維産業の潜在力に期待したいところである。
主要国での物価上昇率は依然として高く、金融政策は引締め基調となっているが、欧米での銀行破綻は主要市場である同地域の購買支出に一定の影響を与え、ベトナム製品の輸入減少を引き起こしている。また、中国での「ゼロコロナ政策」によるロックダウンは日本でも大きなニュースとなっていたが、現在では経済活動も通常に戻っており、ベトナムの同種の輸出品に対する競争圧力を生み出している。
輸出全体では日本は第5位だが、繊維製品に限っては米国に次ぐ第2位と主要な輸出先となっている。カンボジアやミャンマーは布帛製品の生産比率が極めて高く、一方ベトナムはニット製品と布帛品の生産背景が均等に発展してきたことが特徴と言える。ただし、布帛生地の輸入依存度はまだ高いようだ。
なおベトナムに対しては「米国向けのカットソー生産地」というイメージが一般的には強いが、実態は必ずしもそうではない。
(4)日本までの物流
ベトナムから日本への輸送は原則として直行便である。一方、周辺のミャンマー、バングラデシュからは一般的にシンガポールで一度積替えをし、日本へ輸送している。また隣国カンボジアはメコン川を使って内陸移動の後、ホーチミン市で積替えをして日本へ輸送する。
ベトナム周辺の輸出国は一般的に積替えの必要があり、様々なリスク要因も考えられるが、ベトナムは早くて近い物流環境にある。参考までに日本までのコンテナ輸送の費用と時間について物流会社にヒアリングした結果を下表にて紹介する。なお、詳細な条件によって多少金額が前後する可能性もあるのでその点はお含みいただきたい。
ホーチミンから東京、名古屋は20フィートが450ドル、40フィートが800ドルで、船足としては8日から10日。カンボジア、ミャンマー発の荷物は一般的に積替えが必要なので、時間と費用面でベトナム生産には相対的なメリットがある。とりわけ積替え作業を原因とする遅延やトラブルを回避できることは大きなメリットである。
(1)ベトナム生産でのメリット
①豊富で若い労働人口
2023年4月には人口が1億人を超えたとされており、東南アジアではインドネシア、フィリピンに次いで3番目の人口を抱える。平均年齢は31歳と低く、国民性として手先の器用さ、勤勉さが見られる。縫製スキルは長年欧米向けの布帛の生産を行ってきたことから、丁寧さはタイ・カンボジア等と比べてもスキルが高いと言われている。
②政治的・社会的リスクが低い
近隣諸国に比べ、政治的に安定していることが大きなアドバンテージである。例えば、カンボジアは政治的な賃金の高騰が過去にも見られ、ミャンマーは政治的な不安定さが懸念される。
また祝祭日が少なく産業全体として生産計画が立てやすい。
③TPP※2やRCEP※3、EVFTA※4の各種貿易協定に参加
ベトナムは世界各国と積極的に各種協定を結んでおり、ベトナムで活動する日系企業もその恩恵を受けられる。繊維・アパレル産業が活発な他のASEAN諸国、南西アジア地域と比較しても優位に立っている。
④国家によるバックアップ
安定した経済成長の中、貸出金利や税制優遇措置などビジネスの生産性を高めることを国家が後押ししている。また積極的にFDI企業の誘致政策を行っている。
※2=TPP:環太平洋パートナーシップ協定/Trans-Pacific Partnership Agreement
※3=RCEP:地域的な包括的経済連携協定
/Regional Comprehensive Economic Partnership Agreement
※4=EVFTA:EUベトナム自由貿易協定/EU-Vietnam Free Trade Agreement
(2)ベトナム生産でのデメリット
①生地や糸の原料の輸入依存
中国での生産は原料の品質に加え、小ロットでの対応や在庫が豊富などのメリットが多いと感じる方は多いのではないだろうか。
ベトナムでも原料は生産しているものの、作業服や年間計画で作られているアイテム等、一度の発注が大きい方が適している。レディースやカジュアルのように回転が速く少量生産の商品への対応が難しいため、RCEPや生地商社を上手く使う必要がある。
②生産の担い手が流動的で離職率が高い
経済成長と職業の幅が広がったことで、縫製業の人手不足が懸念されている。ベトナムは生産国から消費国に変わりつつあると言える。
③人材育成が課題
長年ベトナムは下請け業が主体だったために、クリエイティブなデザイナー、パタンナー、原料を調達できる人材が不足している。その育成が必要である。
(1)概要
1989年から2019年にかけての直接投資動向(ベトナム繊維衣類協会調べ)によると、1位は韓国で登録企業464社・総登録資本48億米ドル(全体の25%)、2位は台湾で登録企業132社・総登録資本30億米ドル(同16%)、3位は香港で登録企業147社・総登録資本24億米ドル(同12%)、そして4位が中国で登録企業21社・総登録資本21億米ドル(同11%)となっている。FDI企業は様々な形でビジネスを行っており、1000社以上が繊維・アパレル産業の輸出を支えている。
平均従業員数はローカル企業74人に対してFDI企業は752人となっており、ベトナムのローカル企業は零細企業が多い。
(2)FDI企業の紹介
従業員7100人/136ラインの規模を誇るドンナイ省のA社(下写真)を紹介する。
ホーチミン市のタンソンニャット国際空港から車で約3時間の距離にある韓国系一貫生産工場である。糸を買付け、綿100%生地・綿混用生地・合成繊維生地を編立てて生産している。
生産規模は染色120t /日、ラバー・顔料・染み込み・インクジェット・昇華・ホイルプリントは8万Yd /日、ピグメント・タイダイ・浸染・反応染・特殊ウオッシュ・一般ウオッシュ・レーザー加工の製品加工8万点/日を生産している。
また、環境への影響を最小限に抑えるため、環境にやさしい原料、リサイクル原料の認証を取得した原材料・副材料を積極的に使用している。A社工場のメリットを以下に紹介する。
①安定的な商品供給とカントリーリスクへの対応
韓国系のOEM&ODM輸出企業の中でも売上規模が3番目で、信用度が高い優良企業である。安定的な取引が可能で規格化された定番商品を品質維持システムで管理している。
②原料の大量購入と一貫生産による合理的なコスト提案
月産量3600万枚分の原料を一括購入するとともに、編立・染色・二次加工・縫製の設備を完備した一貫生産によりコストダウンを図っている。
③豊富に保有するグローバルファッション情報とその提案
欧米向けはもちろん、日本向けオーダーも受注していることで、グローバルなマーケットトレンドに基づいた研究開発が可能で、グローバルファッションの流れに即した豊かな情報を元に提案を行っている。レーザー加工・製品染め・製品ウオッシュなど、欧米の大手アパレルが開発した最新の製品加工技術を提案できる。
④サステナブルな商品の生産拠点
リサイクル商品やオーガニックコットン商品など、環境にやさしい安全・安心な商品を提案できる。温室効果ガスの削減、再生可能エネルギー使用の拡大等、持続可能な活動に取り組んでいるA社との取引により、自企業のイメージを高めることができる。
⑤レピュテーションリスク(Reputation Risk)予防
徹底してCSR※5を管理しており、取引企業の評判及び信頼性の低下による損失を予防できる。
※5=CSR(Corporate Social Responsibility):企業の社会的責任
ニッセンケンは2017年にホーチミン試験センターを開設し、現地で生産される日本向け製品を中心に品質管理のサポートを行ってきた。以下の3点がわれわれの主な強みである。
①ISO17025認証を取得した信頼できるラボ
ISO17025認証を取得し、試験結果が正確かつ信頼できることが第三者機関から認められた。さらに信頼できる試験サービスを提供できるよう技術研鑽に努めている。
②日本と同様のサービスを提供
一般的な試験はもちろん、アゾ試験、雑貨試験などにも対応。トータルでもの作りに関する試験サービス・品質アドバイスを提供している。
③培ってきた知見を活用し各種提案を実施
2017年の試験ラボ開設以来培ってきた知見を活かし、相談内容に即した情報提供、工場の紹介、ベトナム国内販売認証案内などサポートを行っている。
例えば、相談をいただいた企業へのヒアリングに基づき、独自に培ってきた情報を駆使して適した生産背景を検討し、生産可能な工場を複数選定して情報を提供している。生産担当者へのコンタクトから、打合せのセッティング、また生産決定後も品質管理のアドバイスや支援等によりベトナムでの生産をしっかりサポートしている。さらにベトナム国内に展開している検品会社の紹介も行っている。
ホーチミン試験センターは、今後もベトナム内販や、ベトナム国内でのサーキュラーエコノミーコミュニティ等に関する最新情報を発信していく予定である。ニッセンケンのコーポレートサイトや毎月発行しているメールマガジン【Nissenken アンテナ】で情報をお届けするので、ぜひご注目いただきたい。
最後に本レポートが皆様の有益な情報となり、ベトナム生産・ビジネスでお役に立てれば幸いである。
(本レポートは、一般社団法人日本染色協会 会報【染協ニュース2023.7-8月号 vol.343】に寄稿した原稿を元に再構成しました)
【一般財団法人ニッセンケン品質評価センター ベトナム事業担当窓口】
■ベトナム ▸▸▸ ホーチミン試験センター 中津 晃(Nakatsu Akira)
TEL:+84–363996947 E–mail:aki-nakatsu@nissenken.or.jp
■日本 ▸▸▸ 事業推進室 李 潤澈(Lee Yun Cheol)※日本語対応
TEL:03–6802–8631 E–mail:y-lee@nissenken.or.jp
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