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アパレル散歩道 第80回 : 「衣料品の品質トラブルの原因絞り込み⑧」

2025/09/01

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1. 前回の事例レビュー はじめに、前回の第79回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、 表1に現象と原因をまとめています。

2025.9.1

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  1. 前回の事例レビュー
     はじめに、前回の第79回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめました。

    表1.「第79回アパレル散歩道」品質事故事例レビュー
    事例服種現象考えられる原因原因分類
    26セーター
    (A100%)
    ※A:アクリル繊維の略号
    自重伸び
    (外観変化)
    • ゲージの粗いニット製品であった
    • 取扱い表示で「吊り干し」表示がされ、その結果丈方向に伸びた
    素材特性
    表示ミス
    27ボーダー柄シャツ
    (C100%)
    強度低下
    (破損)
    • 染色再加工による強度低下
    • 硫化染料使用による強度低下
    生産管理
    生産管理
    28ブルゾン
    (合成皮革)
    ドライクリーニング による硬化
    (風合い変化)
    • ポリ塩化ビニル樹脂加工の合成皮革で、ドライクリーニングで可塑剤が溶失し、硬化した
    • ドライクリーニング(石油系)可と表示されていた
    素材特性

    表示ミス
    29青色ジャケット
    (N100%)
    ガス退色
    (変退色)
    • 石油ストーブから排出される窒素酸化物(NOx)による長時間暴露
    • 窒素酸化物堅ろう度が良好でなかった
    素材/染料特性

    生産管理


  2. 今回の品質事故事例紹介
    事例30ジャンル服種状態
    紳士服スラックス1シーズン着用で尻部や膝部がつるつるになった
    紺色の紳士スラックスを1シーズン履いていたら、尻部や膝部がつるつるになり、光沢が出てきた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。スラックスは織物製で毛100%であった。
    図1. 紳士スラックスのイメージ

    図1. 紳士スラックスのイメージ


    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「尻部や膝部」と「光沢化」と「毛織物」となります。
    • 毛織物製品では、繰り返しの着用で擦れなどにより繊維表面が平滑化し、入射光が鏡面反射して、光沢が生じることが考えられます。
    • 今回のスラックスは紺色の毛織物製であり、毛繊維の特性を踏まえると、摩擦による「てかり」発生と推定してよいと考えます。
      衣服の着用中、身体の擦れやすい部位(ひじ部、ひざ部、大腿部、ポケット周辺部など)が、摩擦により平板化し、部分的に光沢が生じる現象。特に毛織物では、糸表面のスケールの脱落により平板化が進行しやすい。

    表2. 《事例30》「てかり」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 光沢化の程度を確認するため、他の部分と光沢性を比較する。
    • 着用状況と光沢化の関係を確認するため、発生部位を特定する。
    • 光沢化の原因を確認するため、拡大鏡やルーペで表面を観察する。
    • 素材特性を確認するため、スラックスの組成表示を確認する。
    消費者への聞き取り
    • 消費者要因を確認するため、着用状況や洗濯状況の詳細を聞き取る。
    • 消費者要因を確認するため、着用時のサイズ感を聞き取る。
    • 尻部の光沢化について、日常生活で自転車を運転していたかなどを聞き取る。
    商品に関する調査
    • 生地の要因を確認するため、スラックス生地の糸種、組織、密度、加工方法などを聞き取る。
    原因の推定
    • ウール素材はたんぱく質の天然繊維であり、もともと引張強さや摩耗強さは合繊などに比べると低い。
    • 尻部や膝部が着用中の摩擦によってウール素材の表面が平板化し、その部位が光沢化したと推定される。
    • 今回のような毛織物では、糸表面のスケールの脱落により平板化が進行しやすい。
    対策
    • 毛100%から、合繊混用の素材への変更を検討する。
    • 消費者に対して、ウール素材の特性(長所と弱点)を丁寧に情報発信する。
    • 余裕のあるシルエットデザインのスラックスを企画する。

    図2. ウール繊維の外観(側面と断面)側面にはスケール(鱗片)がある
    図2. ウール繊維の外観(側面と断面)
    側面にはスケール(鱗片)がある


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    事例31ジャンル服種状態
    紳士服ブルゾン家庭洗濯で裏地が縮み、裾が内側にカーリングした
    裏地(胴裏)の付いた秋冬物ブルゾンを着用し、初めて家庭洗濯したところ、裏地が大きく縮み、裾が内側にカーリングしていた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。ブルゾンの表地は、ナイロン100%タフタ、裏地は綿ニットパイルであった。取扱い表示は、水洗い30℃可、タンブル乾燥不可、吊り蔭干しであった。

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「内側にカーリング」と「裏地は綿ニット」となります。
    • 今回は、表地と裏地で異素材を組み合わせている商品です。表地・裏地、それぞれ個別では品質に問題がない素材でも、組み合わせるとトラブルが顕在化することがあります。
    • 今回のケースは、表地がナイロンタフタ、裏地が綿ニットパイルであり、素材の特性上、もともと洗濯寸法変化率に大きな差があったと推定できます。
    • 特に裾が内側にカーリングしていることから、裏地が丈方向に大きく縮んでいると推定できます。
    • 個々の材料の品質管理だけでなく、組み合わせに問題がないか、事前に製品で洗濯試験が必要な事例です。
    図3. ブルゾンのイメージ(裏地付)

    図3. ブルゾンのイメージ
    (裏地付)


    表3. 《事例31》「表地と裏地の収縮差」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • ブルゾンが形態変化した原因確認のため、裾部のカーリング状況を調査する。
    商品に関する調査
    • 表地と裏地の組み合わせに問題がないか、それぞれ洗濯寸法変化率のデータを調査する。
    消費者への聞き取り
    • 家庭洗濯状況やタンブル乾燥の使用有無を聞き取る。
    原因の推定
    • 表地と裏地の洗濯による寸法変化率、特に縦方向に大きな差があったために、裏地が丈方向に大きく縮み、裾が内側にカーリングした。
    • 消費者が誤ってタンブル乾燥したため、収縮差がより顕在化した。
    確認試験など
    • JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」の中の寸法変化率試験D法やG法で測定する。
    • また、G法を準用し、製品の洗濯外観変化を確認する。
    対策
    • 異素材を組み合わせる場合、その組み合わせに問題がないか、事前に製品見本で確認試験を実施する。
    • 個々の生地の寸法変化率を事前に確認し、過度に寸法差の大きい素材の組み合わせの場合には、必ず製品で試験すること。


      洗濯収縮の種類
      洗濯収縮には、緩和収縮、膨潤収縮、フェルト収縮の3つのパターンがあります。いずれも天然繊維素材に大きく関係しています。
    1. 緩和収縮…主にニット生地加工時に生じた糸や生地の内部に潜在していた応力歪みが、洗濯で緩和され発生する
    2. 膨潤収縮…吸水による糸の膨潤に起因して発生する。主に綿や麻などのセルロース織物で発生する
    3. フェルト収縮…毛繊維表面にあるスケールの摩擦や揉みによって発生する

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    事例32ジャンル服種状態
    カジュアルパンツ着用間もない尻部パンク
    パンツを着用して間もなく、尻部がパンクしているのに気づいた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。組成表示は、綿93%ポリウレタン7%の織物で、シルエットはスリムなデザインであった。
    図4. パンツの製品イメージ

    図4. パンツの製品イメージ


    ■原因絞り込みの考え方
    • 一般に、縫い目のパンクの原因は、①縫い糸切れ、②生地滑脱(スリップ)の2つの現象があります。
    • 原因絞り込みのキーワードは、「尻部」と「ポリウレタン混用」となります。今回のパンツは、ポリウレタン混用であることから、生地がストレッチ織物であることが推察できます。また尻部は非常に負荷がかかる部位であり、常にそのような認識を持っていることが大事です。
    • 一般にステッチ形式には、本縫いと環縫いが知られていますが、そのステッチの特徴と生地との相性により、縫い糸切れが生じることがあります。
    • もし生地糸の滑脱(スリップ)によるパンクの場合は、織密度、縫い代幅、運針数、生地加工内容、サイズ感、着用内容などが原因の要素となることが考えられます。

    表4. 《事例32》「縫い目糸切れ」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 原因を確認するため、破損状況は縫い糸切れか、生地滑脱かを目視で調査する。
    • 生地要因を確認するため、生地はストレッチ素材かを調査する。
    • 縫製要因を確認するため、縫い糸切れなら、ステッチ形式(本縫い/環縫い)を調査する。
    • 着用要因を確認するため、他に破損部はないか、破損部はよく伸びる部位かなどを調査する。 (第42回アパレル散歩道「1.3 縫い目の種類と特性」参照)
    縫製工場への聞き取り
    • 縫製要因を確認するため、縫い糸の種類、運針数などを調査する。
    • 検査結果で縫い糸切れが発生していないか聞き取る。
    原因の推定
    • ポリウレタン混用のストレッチ織物であるが、本縫いで縫製されたために、着用中の生地の伸びにステッチが追従できず、縫い糸切れが発生した。
    確認試験など
    • JIS L 1093「繊維製品の縫目強さ試験方法」で、縫い目に平行に引張り、伸びと縫い糸切れの関係を確認する。
    • JIS L 2511「ポリエステル縫糸」を参考に、縫い糸の引張強さを確認する。
    対策
      図5. 伸び止めテープ使用例 (Tシャツ肩部)

      図5. 伸び止めテープ使用例
      (Tシャツ肩部)

    • 生地のストレッチ性を確認の上、縫製仕様を決定する。
    • 特にストレッチ性の大きい部位は、伸び止めテープを併用する(図5参照) 。
    • 本縫いの場合、ステッチに伸びを持たせるように、差動送りミシンで生地を伸ばして縫ったり、運針数を細かくする。
    • 環縫いのステッチ形式も検討する。
    • 縫い糸は、引張強さの大きい糸を使用する。
    • 事前の承認サンプルで、縫い目を手で強く引張っても、縫い糸切れが生じないことを確認する。
    • 出荷前の全数検査でも、手での引張りによる縫い糸切れが生じないことを確認する。
    • 商品企画では、過度なスリムフィットデザインは避ける。

     過去長年にわたり、アパレル業界の慣習として、縫製仕様は、織物製品は本縫い、ニット製品は環縫いと決められていました。しかし近年では、織物のストレッチ化、また逆にニットの布帛化の傾向もあり、縫製仕様決定においては、あくまでも現物素材による縫製チェックを実施した上で、縫製仕様を決定することが望ましいと考えます。表5では、本縫いと環縫い(単環縫い)のステッチの特徴を紹介しています。

    表5. 本縫いと環縫いの特徴
    ステッチ形式ステッチの特徴
    本縫い
    本縫い
    上糸が下糸を収めたボビンの周囲を回って、上糸と下糸の絡み合いを構成する
    • 表/裏とも縫い目は直線状
    • 縫い目に伸びがなく、主に布帛(織物)を縫う場合に使用される
    • ニットには適さない
    環縫い
    環縫い
    生地の表面から縫い糸を差し込み、連鎖的にループの絡み合いを構成する
    • 表面は直線状だが、裏面はループ状のため、縫い目に伸びがあり、ニットの縫製に適している

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    事例33ジャンル服種状態
    カジュアルウールシャツリュックの影響による
    毛羽立ちと縮み
    チェック柄のシャツを着て、リュックを背負いハイキングした。後日、シャツの背中部表面をよく見たら、毛羽立ちと部分的な縮みがみられた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。なお、シャツは織物製で、毛100%であった。
    図6. チェックシャツとリュックの着用のイメージ

    図6. チェックシャツとリュックの着用のイメージ


    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「毛素材」と「ハイキング」と「リュックを担ぐ」となります。
    • ウール素材に水分と熱を与えて機械的な摩擦を繰り返すと、図2のウール繊維外観のスケールの特徴もあり、ウール繊維同士が絡まりあって、より緻密な構造に変化することが知られています。この現象をフェルト化といい、長さ方向と幅方向ともにフェルト収縮が発生します。

    図7. 毛繊維の側面(スケール)
    図7. 毛繊維の側面(スケール)

    図8. フェルト収縮のメカニズム
    図8. フェルト収縮のメカニズム


    表7. 《事例33》「フェルト収縮」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察など
    • 背中部は比較的発汗しやすい部位であるが、今回の縮みが、背中部以外にも発生しているか目視で調査する。
    消費者への聞き取り
    • 消費者要因を確認するため、ハイキングした時間、発汗状況、リュックの重さなどを聞き取る。
    • 消費者要因を確認するため、ウールシャツに直接リュックを背負っていたかを聞き取る。
    素材メーカーへの聞き取り
    • 素材要因を確認するため、該当素材の糸種、密度、加工方法などについて聞き取る。
    原因の推定
    • ウール織物シャツが、①汗による湿潤と、②リュック背面との摩擦の複合作用によってフェルト収縮した。
    確認試験など
    • JIS L 1076「試験織物及び編物のピリング試験方法」を準用し、湿潤サンプルを用いて、毛羽立ちやフェルト収縮の再現試験をおこなう。
    対策
    • 事前に上記試験を実施し、通常の着用に問題ないことを確認して商品化する。
    • 毛製品に「湿潤状態で揉まれると、毛羽立ちやフェルト収縮が生じることがある」などと消費者に情報提供する。

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(第81回 アパレル散歩道の予告 – 2025年10月1日公開予定)

 次回は、『品質トラブル原因を絞り込もう』の9回目として、以下の事例34~37を取りあげます。どうぞご期待ください。
  • 事例34. 「漂白剤による変色」
  • 事例35. 「金属による変色」
  • 事例36. 「あたり」
  • 事例37. 「バギング」

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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