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アパレル散歩道 第78回 : 「衣料品の品質トラブルの原因絞り込み⑥」

2025/07/01

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1. 前回の事例レビュー はじめに、前回の第77回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめました。

2025.7.1

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  1. 前回の事例レビュー
     はじめに、前回の第77回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめました。

    表1.「第77回アパレル散歩道」品質事故事例レビュー
    事例服種現象考えられる原因原因分類
    18シャツ(E100%)在庫中の色移り
    (汚染)
    • 昇華堅ろう度不良
    • 輸送中の温度環境など
    • たたみ方、薄紙の有無
    生産管理
    技術限界
    商品企画
    19綿パンツ
    (C100%)
    蛍光増白剤による
    白化(変色)
    • 洗濯時の蛍光増白剤の影響
    • 蛍光増白剤に関する取り扱い情報の不足
    消費者
    商品企画
    20スウェットシャツ
    (C100%)
    家庭洗濯による
    縮み(外観)
    • 洗濯寸法変化率の不良(緩和収縮)
    • ダンブル乾燥処理
    生産管理
    消費者
    21シャツ
    (*L70% C30%)
    * L:麻(Linen)の略号
    フィブリル化による白化(変色)
    • 麻素材はフィブリル化しやすい
    • 着用による擦れ
    • 摩擦による白化に関する情報の不足
    素材特性
    消費者
    商品企画


  2. 今回の品質事故事例紹介
    事例22ジャンル服種状態
    婦人服ブラウス背部で破れが生じた
    ブラウスを着用していたら、背中で破れが発生した。購入したばかりで、まだ洗濯はしていない。生地はポリエステルジョーゼットであった。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。
    図1. ブラウスの例

    図1. ブラウスの例


    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「ポリエステル」、「ジョーゼット」、「未洗濯」です。
    • ブラウスは、以前は絹(シルク)やレーヨン素材のものが多かったのですが、近年ではポリエステル製が増加しています。着用で肌に直接接触するため、素材にはソフト感、柔らかさが求められます。
    • ジョーゼット生地は、経糸、緯糸に強撚糸を2本ずつ交互に使用し、「しぼ」を表現した比較的密度の粗い薄地平織物です。(第72回アパレル散歩道「表4. 主な絹織物の種類と特徴」参照)
    • 今回は未洗濯であるため、洗剤や漂白剤などの影響は考えにくい。もし着用しただけで破れたのであれば、新品にも関わらず生地強度が極端に低かったことが、まず推定される。
    • ポリエステル織物製ブラウスの破れの原因としては、まず減量加工を思い浮かべてほしい。
    • ポリエステルの減量加工とは、ポリエステル織物などでアルカリ剤を用いてソフトに仕上げる加工である。

    表2. 《事例22》「ポリエステルブラウスの破れ」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 背中以外でも発生しているかなど、破れの発生状況を観察調査する。
    • 着用の要因を確認するため、発生部位は、着脱時に力がかかる部位か観察する。
    • 新品があれば、ハンドで引っ張って事故品と比較する。
    消費者への聞き取り
    • サイズ要因を確認するため、サイズ適合性を聞き取る。
    商品に関する調査
    • 生地の規格(密度や糸使い)、加工内容(減量加工や柔軟加工の有無など)を聞き取る。
    • 生地要因を確認するため、生地の引っ張り強さ、滑脱抵抗力のデータを調査する。
    原因の推定
    • ポリエステルジョーゼットブラウスなど、ポリエステル織物で風合いを柔らかくするために、減量加工が多用されている。
    • 減量加工では、アルカリ剤の加水分解作用を利用してポリエステル繊維表面を5~20%程度溶解し、繊維を細くして、生地風合いをソフトにしている。水酸化ナトリウムの熱水溶液で処理されるが、過度に減量加工されると、糸は細くなり生地強度が低下したり、滑脱抵抗力が低下してスリップが生じやすくなる。(図2参照)
    • また、シルエットがタイトな商品であったことや、サイズが適合していなかったことが考えられる。
    確認試験など
    • JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」の滑脱抵抗力・縫目滑脱法B法で確認する。
    • JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」の引張強さA法(ストリップ法)で確認する。
    対策
    • 適正な減量率の素材を採用する。
    • 企画時に、滑脱抵抗力などの基準に適合している素材を採用する。
    • ブラウスのシルエットは過度にタイトにならないよう配慮する。

    減量前
    減量前
    減量後
    減量後

    図2. 減量加工前後の糸の変化(イメージ)


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△

    事例23ジャンル服種状態
    カジュアルニットシャツ袖・前身頃を中心に毛玉が発生した
    冬物のニットシャツを1シーズン着用したら、袖や前身頃を中心に、毛玉が多く発生した。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。
    混用率は、綿70%・アクリル30%で、組織はスムースであった。

    ■原因絞り込みの考え方
    図3. ピリング現象の例

    図3. ピリング現象の例

    毛玉発生は、一般にピリングと呼ばれています。
    • フィラメント(長繊維)糸使い生地ではピリングは発生しにくいですが、スパン(短繊維)糸使いの生地は毛羽立ちやすく、毛玉はより発生しやすい傾向があります。
    • 糸の撚りが甘いと、糸は柔らかいが毛羽立ちやすい傾向があります。
    • キーワードは、「毛玉」、「発生場所」、「混用率(今回は綿・アクリル混)」です。
    • ピリング発生のメカニズム、糸使い、素材混用率、使用状況を調査し原因を絞り込んでください。
    • 関連情報として、併せて第19回アパレル散歩道「ピリングとスナッグ」をご覧ください。

    表3. 《事例23》「毛玉発生」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 着用による擦れなどの要因を確認するため、発生部位が擦れやすい部位かを目視で調査する。
    商品に関する調査
    • シャツに使用された糸規格(混用率、太さ、撚りなど)、編規格(組織、編密度)を聞き取る。
    • 素材要因を確認するため、当該シャツ素材のピリング試験結果を入手する。
    消費者への聞き取り
    • 消費者の取り扱い要因を確認するため、洗濯状況(洗濯方法や乾燥方法)を聞き取る。特に、洗濯時の柔軟剤使用の有無も聞き取る。
    • 着用状況(着用期間や頻度、着用シーンなど)を聞き取る。また、サイズの適合性なども併せて聞き取る。
    原因の推定
    • 着用時に擦れやすい前身頃や袖に、特にピリングが生じていることから、着用時の擦れなどで生地表面が毛羽立ち、ピリング生成のもとになった。
    • ピリングは、撚りが甘い短繊維使い生地で発生しやすい。また、合繊混の生地で、よりピリングが生じやすい。該当生地はアクリル混用であったことから、毛玉からアクリル繊維が生地に根をおろした状態になり、毛玉が脱落しにくかったと推定できる。
    • 洗濯時の柔軟剤併用も、毛羽発生を促進する傾向がある。
    • 今回のニット生地は、平滑なスムースであったため、よりピリングが目立ちやすかった。
    • 結果的に、ピリング試験結果が良くなかった場合、実用時にピリングは発生しやすい。
    確認試験など
    対策
    • ピリング発生は技術限界的な要素があるが、品質基準は、可能な限り前述のJIS L 1076・A法(ICI形法)の試験結果「3級以上」として運用する。
    • 生地の染色仕上げ工程で、過度な柔軟加工をすると、毛羽立ちやすくなるので、これを避ける。
    • 製品に以下のような注意表示を行って消費者に情報提供し、事故を未然に防止する。
       ☆「着用や洗濯の繰り返しで毛玉が発生することがある」
       ☆「洗濯時は過度に柔軟剤を使用しない」
       ☆「毛玉が発生したら毛玉取り機などをすすめる」

    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△

    事例24ジャンル服種状態
    カジュアルジャンパージャンパーの色がシャツに移った
    買ったばかりのデニムジャンパーを着ていたら、中に着ていた白いシャツの首の回りにブルー色が薄く移っていた。素材はブルーデニムであった。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。
    図4. デニム製品のイメージ

    図4. デニム製品の
    イメージ


    ■原因絞り込みの考え方
    • ジーンズ用などのデニムは、インディゴ染料で染色した経糸と未晒しの緯糸を用いた織物です。その染色上の特性により、摩擦堅ろう度などが低いことが知られています。
    • 特に縫製後に製品洗いを加えない「ブルーデニム」製品でその傾向が強いといえます。
    • 今回の事例分析のキーワードは「ブルーデニム」、「未洗濯」です。デニムの品質特性を十分理解しておくことが大切となります。

    表4. 《事例24》「デニムジャンパーからの色移り」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 着用の要因を調査するため、中に着ていたシャツの汚染発生場所を目視で観察し、ジャンパーとの組み合わせによる影響かを調査する
    メーカーへの聞き取り
    • 該当生地の品質の要因を確認するため、当該デニム素材の染色方法、摩擦堅ろう度(乾・湿 両方)を聞き取る。
    原因の推定
    • 一般的にデニムは、インディゴ染料で染色される。綿繊維の表面には染着するが、他の染料と比べると結合力が弱いため、染色堅ろう度(摩擦堅ろう度を含む)も低いことが知られている。
    • 特に、縫製後に製品洗いを加えない「ブルーデニム」製品で、その傾向は強いといえる。
    • 今回は、着用時の発汗による影響も推定される。一般に、綿素材の湿摩擦堅ろう度は乾摩擦堅ろう度より低くなる。
    確認試験など
    • JIS L 0849「摩擦に対する染色堅ろう度試験方法」を行う。
    • 新品製品、同一生地があれば、共生地を用いた実用試験をおこなう。
    対策
    • 染色加工で、可能な限り染色堅ろう度を向上させる。
    • 消費者に、デニム素材の特性を理解してもらうために、以下のような表示で情報発信する。
       ☆「摩擦により色移りすることがある」
       ☆「汗や雨で濡れた時は、色移りに注意する」
       ☆「他の色物と一緒に洗濯しない」  など

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    事例25ジャンル服種状態
    カジュアルセーター洗濯せずにしまったら黄ばんだ
    ウール100%セーター(スーパーホワイト色)を購入後着用し、汚れていなかったので洗濯はせず保管していて、次シーズンに取り出したら黄ばんでいた

    ■原因絞り込みの考え方
    • 黄変の原因として、繊維特性、繊維加工、着用や保管環境、洗濯条件、梱包資材など多くの発生メカニズムが考えられます。これらを理解した上で、今回の事例の要因を絞り込んでください。

    • ウールなどの動物性天然繊維、またナイロンやポリウレタンなどの合成繊維は、各繊維の化学構造上の要因で、黄変しやすいと言われています。特に白色や淡色衣料で、その事故リスクが高いと言えます。
    • 今回の事例分析のキーワードは「ウール」、「白色」です。

    表5. 《事例25》「ウール素材黄ばみ」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察など
    • 原因を特定するため、黄変発生の部位(全体か特定場所か)、黄変の色相(薄い黄色か鮮やかな黄色かなど)を目視で調査する。
    消費者への聞き取り
    • 保管環境(温湿度、排気ガスなどのNOXガス、日光などの影響の有無)を聞き取る。
    • ポリ袋に収納していたかを聞き取る。(ポリ袋の材質なども含め)
    • 防虫剤の使用有無、防虫剤のタイプなどを聞き取る。
    糸メーカーへの聞き取り
    • 染色加工要因を確認するため、当該製品の毛糸に使用された染色条件(漂白剤や蛍光増白剤の有無など)を聞き取る。
    原因の推定
    • 毛はタンパク質繊維であるため、素材の特性上、経時的に紫外線、窒素酸化物、高温などの影響で黄変が進行した。
    • 毛素材を純白(スーパーホワイト)に仕上げるため、糸染め工程で多くの蛍光増白剤が使用され、保管中に紫外線、窒素酸化物、高温などで蛍光増白剤が酸化され、白度が低下した。
    • 毛素材では、事前に不純物を除去するために還元剤(ハイドロサルファイト)で漂白されるが、洗浄不足などにより還元剤が残留し黄変に至った。
    • ポリ袋に含まれる酸化防止剤(BHT/ブチルヒドロキシトルエン)が空気中の窒素酸化物と反応して、黄変物質(レモン色)が生成した可能性もある。(BHT-NOX黄変)
    確認試験など
    • 耐光堅ろう度試験を実施し、黄ばみが再現されるか確認する。
    • ブラックライト(紫外線)を照射し、蛍光増白剤の有無を確認する。
    • BHT-NOX黄変の可能性を考え、イエローイング試験を実施する。(ISO 105-X18)
    対策
    • 羊毛や絹の動物性天然繊維は、素材特性により黄変リスクが高いため、商品企画では、純白色(スーパーホワイト)は企画しない。
    • 黄変を避ける保管方法について、消費者に適切な情報を提供する。
    • 染色工程では、染色後のソーピングを充分に行うこと。


      一般に、黄変のキーワードには、「繊維特性」・「蛍光増白剤」・「ガスなどの環境」・「梱包資材」などがあります。


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    ~大阪・関西万博 2025 訪問記 その2!~

    前回の本コラムで、万博訪問記を掲載させていただいたところ、大変多くの皆さんにご覧いただけたようですので、気を良くして早速第2弾を紹介します !(^^)!

    前回は初めての万博訪問で、職業柄もあり、繊維・アパレル関係の展示/パビリオンを中心に見学しましたが、後日、さらに2回目の訪問を果たし、いろいろなパビリオンにチャレンジしてみました。
    今号では、その2回目訪問の際に興味深かった展示をご紹介します。

    高校1年生の”1970大阪万博”から55年。筆者のワクワク感は、とどまるところを知りません。


    PS などと書いているのですが、じつは本稿執筆後、3回目、4回目の訪問をしてしまいました (^^)/

    大阪・関西万博 2025
    訪問記 その2 !
    こちらから

(第79回 アパレル散歩道の予告 – 2025年8月1日公開予定)

 次回は、『品質トラブル原因を絞り込もう』の7回目として、以下の事例26~29を取りあげます。どうぞご期待ください。
  • 事例26. 「自重で伸びる」
  • 事例27. 「ボーダー柄シャツの強度低下」
  • 事例28. 「合成皮革の硬化」
  • 事例29. 「ガス退色」

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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