アパレル散歩道

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第27回 : アパレル製品のマーケティング その2

2021/10/01

アパレル散歩道 魅力ある商品を開発するためにアパレル散歩道 魅力ある商品を開発するために

2021.10.1

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 前回の第24回アパレル散歩道から、副題を「なぜ品質事故はなくならないのか」から「魅力ある商品を開発するために」に改め、品質を維持しつつ、より魅力ある商品を開発するために、私たちが知っておくべきことなどを引き続き勉強していきましょう。今回も、前回の続きとして、アパレル製品のマーケティングその2として、以下の内容を取り上げます。

    1. マーケティング政策に影響を与える要素
       商品企画を進めるにあたり、①流通の変化、②我が国の人口減少、③環境負荷低減、④新素材情報、ファッション動向の調査、⑤海外の展示会情報収集、⑥国内産地からの情報収集、⑦新素材情報の収集などの要素を考慮していただきたいと思います。
      ① 流通の変化
       アパレル製品は、アパレルメーカーから出荷後、いくつかの流通経路を経て消費者に提供されます。その経路には、(1)直販、(2)専門店流通、(3)百貨店流通、(4)量販流通、(5)通信販売流通、(6)EC取引(ネット流通)などがあります。アパレル製品の流通で、最近では、百貨店流通が漸減し、セレクトショップなどの専門店流通やEC取引が大きく拡大しています。EC取引は、受発注がコンピュータネットワーク上で行われる取引であり、B to Cビジネスでは各ビジネス分野でも、図1のように毎年大きく進展しています。特に、昨年からのコロナ感染もあり、衣料品売り場に出向くよりも、スマートフォンで気軽に購買する形態が増加し、商品を提供する事業者は、従来の店頭重視のマーケティングから、スマートフォンを意識したモバイルマーケティングを重視するようになっています。
       アパレル業界においても、国内売り上げの減少や伸び悩みが大きな課題の今日、国境を跨(また)いだビジネスが無店舗で構築できるEC取引の活用も今後とも必要であり、そのためにモバイルマーケティングの構築や商品供給体制の再整備が求められています。

      図1.EC取引の進展
      BtoC-EC市場規模の経年推移(単位:億円)
      図1. EC取引の進展
      出典:経済産業省ウェブサイト



      ② 我が国の人口減少
       数年前、「わが国の総人口が減少し始めた」というニュース報道は、衝撃的なものでした。それは、図2のように、今後我が国の人口は、世界でも比類なきスピードで減少していくというものです。出生数について、戦後の1次ベビーブームには約270万人、第2次ベビーブームには約210万人でしたが、1975(昭和50)年に200万人を割り込み、1984(昭和59)年には150万人を切り、2017(平成29)年の出生数は、なんと97万人と初めて100万人を割りました。今年度は、昨年のコロナの影響もあり、90万人を切るのではないかともいわれています。
       また、65歳以上の高齢者が増加している反面、労働人口の目安になる20-64歳人口割合も大きく減少しており、また将来の日本を担う19歳以下の若年人口も確実に減少しています。過去最大3600万人あった19歳以下の人口(1960年)が、2020年には2000万人、2040年には1500万人、2050年には1/3の1300万人なるといわれています。総人口ならびに若年人口の減少は、アパレル業界でも市場購買力の低下や労働力の減少に大きく影響を与えます。人口減少を踏まえた対策が必要になるものと思います。

      図2.日本の総人口の推移
      図2.日本の総人口の推移1)



      ③ 環境負荷低減
       最近の地球温暖化は、皆さんも懸念されている事項でしょう。SDGs(Sustainable Development Goals)は、国連が定めた持続可能な開発目標です。2030年までに各国は、独自の目標を設定し、これを実現するために努力するものです。日本政府も、2030年に向けた温室効果ガスの削減目標について、2013年度に比べて46%削減することを目指すと表明し「さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と発表しています。


      図3. SDGsの17種の目標



       さて、図3の17種の目標の中で、12番が『つくる責任・つかう責任』です。各メーカーも環境負荷低減に貢献する商品開発と業務の仕組みを構築しなければなりません。アパレル関係者は、まずアパレル業界のSDGsの取り組みにあたり、生産から廃棄・リサイクルまでに及ぶことを理解して、
      繊維~糸~織編~染色~縫製~販売~使用~洗濯~廃棄~リサイクルまでの長いライフサイクルの中で、効果的な打ち手をとることが求められます。また、製品や材料の不良在庫などは、倉庫管理の手間や製品焼却で環境負荷を高めることは間違いなく、発注量の適正化なども求められます。SDGsは、その運用と実現には手間はかかりますが、企業としてブランド価値を高めるきっかけとなるでしょう。

      ④ 新素材情報、ファッション動向の調査
       商品コンセプト立案のための商品政策は必須であり、そのため、最新の感性や機能性に優れた新素材を探し開発することは大切なことです。具体的な商品企画がはじまると、その企画コンセプトが、図4のように、 a.素材で実現できるかb.パターンや組み合わせなどで実現できるかc.縫製仕様や二次加工で実現できるか、などが検討されます。例えば、その方針が「材料で企画コンセプトを実現する」であれば、もちろんこの企画コンセプトに適合した素材の開発・選定が必要になります。
      商品コンセプト
      の立案
      企画コンセプト
      の実現手段は?
      a.材料で実現(風合い、品位、機能等)
      b.パターンや組み合わせなどで実現
      c.縫製仕様、二次加工で実現

      図4. 商品コンセプトの実現手段



       図4のa.「材料で実現」について、もう少し具体的に述べます。 アパレルメーカーでは、
        1) 材料メーカーの定番生地で対応できるのか(新規加工も含む)
        2) 材料メーカーの定番糸を使った新規生機(きばた)が必要か
        3) 原糸から根本的に糸開発が必要か
        4) 副資材や付属品も同様である
      などについて、開発期間や生産量、コストなども踏まえて、総合的な判断がマーチャンダイザーに求められます。そのためには、マーチャンダイザーは、最新の感性や機能性に優れた新素材や製品・ファッションの各種情報を国内外から収集しなければなりません。表1で、衣料用材料の要求事項を紹介しています。

      表1.衣料用材料の要求性能例
      要求事項具体的な項目
      風合い(合繊):練絹調、絹紡調、羊毛調、綿調、麻調、皮革調など
      (羊毛):交撚、ふくらみ、極細
      (綿):断面改良、肌触り、ナノレベル改質、CNF(カーボンナノファイバー)
      (仕上げ加工):起毛、コーティング、ラミネートなど
      染色性・
      審美性
      易染性、発色性、染色方法(捺染におけるインクジェット方式や昇華方式)、極濃色(羊毛)など
      運動機能ストレッチ性、軽量性
      生理的機能吸水速乾、はっ水、防水、透湿防水、制電、導電、無塵、W&W性、 太陽光遮蔽、紫外線カット、遮熱、クーリング、保温、防風、消臭、 抗菌防臭、制菌、花粉対策、スキンケア、整体 など
      耐久性高強力、抗ピル、抗スナッグ、ウォッシャブル(羊毛)など
      安全防炎、再帰反射、皮膚刺激(物理的、化学的)、制電、子供服ひも仕様など
      環境SDGs、リサイクル、脱石油、生分解、カーボンオフセット、オーガニック、エシカル、エコ、フェアトレードなど


      ⑤ 海外の展示会情報収集
      我が国のアパレルメーカーは、これまで海外のファッション情報を大いに参考にして、新素材、新商品に関する情報を海外に求めてきました。代表的な海外の新素材、新商品に関する展示会などを紹介します。

      図5. プルミエールビジョン
      図5. プルミエールビジョン
      (プルミエールビジョンHPより引用)

      1) プルミエールビジョン (パリ)
       プルミエールビジョンは、パリで毎年2回開かれる世界でも最高峰の国際的なテキスタイルの見本である。ファブリックを中心に糸、プリント柄、服飾資材、皮革素材、縫製業者の6つの見本市で構成され、プルミエールビジョンで提案されるカラーや素材といったトレンドがファッション業界の動向に大きな影響を与えるほどの重要なイベントである。(High Brands comより引用)

      2) イデアコモ (イタリア)
       イタリアのミラノの北に位置する世界的に有名なリゾート地コモ湖畔で年2回開催される素材の展示会。イデアとはイタリア語で「理想、観念」の意味で、70年代より主にイタリアンシルクやプリントの振興を目的にした展示会で、プルミエールビジョンやインターストッフと並ぶ国際的素材展示会として影響力を持つ。コモはシルク、プリント産地として名高い。

      3) インターストッフ (フランクフルト)
       ドイツのフランクフルトで年2回開催されるテキスタイル見本市。プルミエールビジョンやイデアコモと並ぶ世界3大テキスタイル見本市の一つで、服地を中心に糸、染織図案、服飾雑貨、情報など出展は多岐にわたる。(ファッション用語辞典より引用)

      4) ジャパンクリエーション (東京)
       一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構が、日本の繊維・ファッション産業の国際競争力の強化発展を図ることを目的に、繊維・ファッション製造業者、ファッションデザイナー、流通業者が連携して2005年に設立された。海外に日本の優れた繊維・ファッション商品、サービス等の情報を発信し、「東京」を「世界でオンリーワンの繊維・ファッション基地」の一つとして確立するとともに、アジアの中心的なファッション発信拠点としてゆくことを目指している。(JFW推進機構URLより抜粋引用)

      5) 国際ファッション・ウィーク(ミラノ、パリ、ニューヨーク、ロンドン)
      次のシーズン向けの新デザインを発表する場として、アニエスベー、セリーヌ、シャネル、コム・デ・ギャルソン、ケンゾーなど世界の有名プレタポルテブランドが参加して、年2回開催されている。

      6) 国際スポーツ用品展示会ISPO(ドイツミュンヘン)
       世界最大のスポーツ用品の展示会。世界各国からスポーツブランドが出展される。アウトドア、スキー、スポーツファッション、スポーツ用テキスタイル素材、ヘルス、フィットネスなどを取り扱う。

      図6. 国際スポーツ用品展示会(ミュンヘン)
      図6. 国際スポーツ用品展示会(ミュンヘン)2)



      ⑥ 国内産地からの情報収集
       国内の繊維地場産業は、絹織物、綿織物、毛織物など、江戸時代や明治時代からの長い歴史の中で、地域経済の担い手として重要な役割を果たしてきました。現在も、各地域の特色を生かした新商品開発に積極的に取り組んでおられます。これまで、産地では商社からの賃加工が中心で、アパレルメーカーとの距離が遠く、アパレルメーカーのニーズを直接入手しづらい、ニーズが解らないような傾向にあったようです。しかし、近年では、地場メーカーでは、直接販売の機会を増やし、アパレルメーカーに直接プレゼンテーションを実施している企業も出てきました。以下に主な産地を紹介します。

      表2.我が国の主な繊維産地
      地域主な産地
      石川県織物産地、撚糸産地、染色産地
      静岡県遠州織物産地、天龍社織物産地(別珍、コール天)、
      愛知県三河織物産地、知多織物産地、三州織物産地、尾西毛織物産地
      大阪府泉州織物産地、大阪南部産地(タオル等)、近畿毛布産地
      兵庫県播州織物産地(先染め織物)
      岡山県岡山織物産地(ジーンズ、厚手綿織物)
      山形県米沢織物産地、鶴岡シルク産地
      群馬県桐生織物産地、伊勢崎織物産地
      新潟県新潟織物産地、栃尾織物産地、十日町織物産地、五泉織物産地
      富山県城端織物産地
      福井県絹織物産地、染色産地
      京都府西陣織物、丹後ちりめん産地


      ⑦ 新素材情報の収集
       「2021テクノロジー期待度番付」(日経BP総合研究所)を見ると、上位に「AI(人口知能)」「5G」「IoT」が上がっています。最近の世の中の技術革新の流れからすると、当然という気持ちになりますね。 アパレル製品においても、従来のテキスタイル開発、製品開発から抜け出して、最新技術、異業種交流による技術を活用し、これまでにない機能コンセプトを導入し、新たな商品開発をすることが望まれます。いくつか最近の開発事例を紹介します。

      1)スマートテキスタイル、スマートウエア
       スマートテキスタイルは、「衣料型ウェアラブル端末」と理解されています。これまでウェアラブル端末では、「時計型」などがありますが、人間の身体全体の動きや生理作用を把握するには、やはり「衣料型」のウェアラブル端末が適しています。衣料型スマートテキスタイル(スマートウエアとも呼ばれる)では、心電、心拍数や歩数、カロリー消費量などが計測収集でき、利用者は、生活習慣の改善など健康管理やトレーニングに活用できると期待されています。これにはウエラブル端末の開発とともに、そこから得られるデータを活用した健康ソフトやトレーニングソフトなどのソフト開発も必須になるでしょう。

      2)抗菌素材
       村田製作所と帝人フロンティアは、抗菌素材PIECLEX®(ピエクレックス®)を開発し、2020年6月に、合弁会社である株式会社ピエクレックスの設立を発表しました。同素材で作られた衣料を着用した人が生活シーンで動くと、繊維の伸び縮みによって、繊維内部に電圧が発生し、この電圧で生じた電場が細菌を失活させるものです。コロナ後も、このような抗菌を目標とした繊維素材やアパレル製品開発が注目されることになるでしょう。

      図7.ピエクレックス®
      図7.ピエクレックス®
      (画像は、株式会社ピエクレックス様ご提供)



      3)新保温素材、新保温ウエア
       保温性の高いウエアは、これまで人体からの放熱をいかに防ぐかという商品開発がなされてきました。このため、断熱性の高い空気をより多く保持できる繊維素材、詰め材として羽毛や合繊中わたの開発などが中心に行われてきました。近年、積極的な保温システムとして、外部エネルギーを衣服内に取り込む仕組みが開発されています。
      最近の開発例を紹介します。
      表3. 新しい保温素材、商品の分類
      保温のメカニズム実施例
      熱伝導性が低い空気層を多く保持する羽毛、中空繊維、中わた
      遠赤外線を反射または放射する特殊セラミックを合繊に練り込みなど
      太陽光を熱変換するする可視光を熱変換できる炭化ジルコニウムを合繊に練り込みなど
      衣服内へ発熱体を設置触媒燃焼システムやヒーターを装着小型バッテリーを内蔵
      人体からの不感蒸泄を利用する
      吸湿発熱繊維
      ブレスサーモ®、ヒートテック®、エクス®、モイスケア®など
      相変換材料の融解・凝固に伴う熱の授受を利用するアウトラスト®中わたなど
      不感蒸泄(ふかんじょうせつ)とは、日常生活で、特に運動などしなくても自然に発汗する水分のことをいう。一日に700~1000gといわれている。


      4)クーリングウエア
       近年、わが国では気候の温暖化が大きな話題になっています。特に夏期の酷暑は、気温が地域により40℃に達する地域もあり、エアコンの使用はもちろん、より涼しいウエアの開発が求められています。クーリングのメカニズムは、保温とは逆のメカニズムで、いかに身体からの放熱を促進させるかに尽きるでしょう。そして、身体からの放熱は、その約1/4が血管からの熱放散、また約3/4が汗の気化熱放散になります。気化熱放散では、1gの汗が気化熱放散することで、約540cal が消費されます。より涼しいウエアを開発するためには、表4のような手法が、適時組み合わせて使用されています。

      表4.クーリング衣料の開発手法
      クーリングの手法メカニズム
      1吸水速乾素材を採用する気化熱放散
      2赤外線遮蔽素材を採用する熱線遮蔽
      3通気性の大きい生地を工夫する通気による気化熱放散の推進
      4衣服内に強制的な気流を起こし、気化熱放散を促進する
      5開口部のゆとりをとる


      (参考資料)
      1) 総務省「国勢調査報告」「人口推移年報」、国土庁「日本列島における人口分布の長期時系列分布(1974年)」などより引用
      2) KOBE PUBLISHING HPより引用


(次回のコラムについて)

次回は、アパレル製品の機能性について勉強していきましょう。

コラム : アパレル散歩道28
~魅力ある商品を開発するために~
テーマ : アパレル製品の機能性 その1


発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。


Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。 社外経歴 (一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長 日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維) 文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員 日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部代表幹事

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