2018/11/30
No. 125 「キログラムの定義が変わったと言われても…」
思いつきラボ
2016/02/15
繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。
※2016年2月15日時点の内容です。
前号で JIS T 8127 高視認性安全服の特徴的な規格で“蛍光素材”を取りあげた流れで、もうひとつの素材“再帰性反射材”について説明しておきたいと思います。
高視認性安全服は“再帰性反射材”を主体にした規格になっています。
いきなり話が逸(そ)れますが、JIS Z 8127 用語定義に
3.4 蛍光材料(fluorescent material)
吸収された波長より長い波長の可視域の電磁波を発する材料。
3.5 蛍光生地(background material)
蛍光性能をもつ生地。
とあります。
蛍光生地が( background material)になっているのですが、けっして誤りではないのです。
ISO 20471 の原文が background material になっているからなのですが、これは再帰性反射材(retroreflective material)を主体に書かれているので、再帰性反射材を取り付けている後ろの素材ということで、background material になっているのです。
ISO 20471 高視認性衣服 が発行されて和訳作業が始まったのですが、“背景布”“基布”やそのまま“バックグラウンド生地”とかいろいろ提案もあったのですが、意味合いとして“蛍光生地”のことを指していることから、background material ⇒ 蛍光生地として訳して、日本規格協会の了承を得たという経緯があります。
学生さんたちの目に触れて、蛍光生地のことを background material というふうに覚えられたら困りますので、あくまでこの規格書内の邦訳と認識してください。
JIS C 5600 電子技術基本用語 の中の記載にも蛍光の対応英語“fluorescence”になっています。理解しやすいようにという判断で蛍光生地と訳したので、誤植ではありません。そのうちこのいきさつも忘れられてしまうので、このコラムに書き残させてもらっておきます。
ということで、高視認性安全服の主役の再帰性反射材について説明していきます。
まず光の反射にはいくつかの種類がありまして、基本的には義務教育で習った 入射角と反射角は等しいという正反射(鏡面反射)と反射層に凹凸があるものに対して、不規則な反射をする乱反射(拡散反射)と入射した光の方向へ反射する再帰反射があります。再帰反射は光の屈折を利用して光が再び元の方向に戻ることで、再帰反射と呼ばれています。再帰反射する材料を再帰性反射材と呼びます。
ここでちょっと注意が必要なのですが、物理用語としては“再帰反射”“再帰反射係数”となっているのですが、材料の時だけ“再帰性反射材”“再帰性反射素材”と“再帰性”と表記されます。
一般的にはさほど気にしなくても構いませんが、JIS規格関連では用語の使い方もきめられていますので、カタログ等の印刷物には注意していただきたいと思います。
“再帰性反射材”にもいくつかの種類がありまして、球体のガラスビーズを使用した「ガラスビーズタイプ」と多面体(主に三角錐の正四面体)を利用する「プリズムタイプ」があります。
ガラスビーズ | プリズムタイプ |
オープンタイプ 反射膜の上にガラスビーズを装着したもの | 軟質プリズムタイプ 反射膜にアルミフィルムシートなどを用いた多面体のもの |
封入レンズタイプ ガラスビーズの保護のために透明樹脂コーティングしたもの | 硬質プリズムタイプ 反射膜に樹脂板などを用いた多面体のもの |
カプセルレンズタイプ トップ層とガラスビーズの間に空気層を持たせたもの | 金属蒸着プリズムタイプ 反射膜に直接金属蒸着させたものを用いた多面体のもの |
それぞれの特徴に合わせて使用用途が決まりますが、日常生活でよく見かける道路標識や交通標識などにはガラスビーズのオープンタイプは被膜がないので、汚れやすいことから使われることはほとんどなく、ガラスビーズタイプでも封入レンズタイプやカプセルレンズタイプが採用されています。
また今回の高視認安全服などは輝度性能が高いので、ガラスビーズのオープンタイプやプリズムタイプを使っている商品が多いです。
JIS規格には JIS Z 9117 再帰性反射材 という反射材そのものの規格があります。主に標識を意識した規格になっていて、性能基準もガラスビーズタイプの封入レンズタイプとカプセルレンズタイプしか記載がありません。
その基準値は光の入射角が 5°観測角が 0.2°の時に 250 cd/lx・㎡となっています。 JIS T 8127 高視認性安全服 は反射材の指定はなく、入射角 5°観測角 0.2°で 330 cd/lx・㎡となっています。
反射材の種類の指定があるからなのですが、標識に求められる反射性能よりも安全服に要求される数値の方が高くなっています。これは生命にかかわる可能性もあるので、安全性の高い数字の設定になっていると考えられます。cd/lx・㎡(カンデラ パー ルクス 平方メートル)は 1ルクスの灯りで 1 平方メートルあたりどれくらいの光の強さがあるかという単位になっています。
カンデラという単位はロウソクのキャンドルがもとになった単位なので、1カンデラはほぼ 1本のロウソクの灯りと考えてください。
250 cd/lx・㎡であれば 250本のロウソクを 330 cd/lx・㎡であれば 330本のロウソクをイメージしてもらえばいいのですが・・・それでも想像しにくいかも・・・。
ともあれ、JIS T 8127 高視認性安全服 の規格が発行されたことで、再帰性反射素材や蛍光素材などの安全素材が見直されています。世の中の安全性が増せば社会貢献にも繋がりますので、高視認性安全服とともに安全素材も商品企画に取り入れることを是非検討願います。
再帰性反射材も注目度の高いアイテムになっています・・・今が旬の素材です。
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防災・安全評価グループ グループ長
竹中 直(チョク)
E-mail: bosai_anzen@nissenken.or.jp
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