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アパレル散歩道 第85回 : 「衣料品の品質トラブルの原因絞り込み⑬」

2026/02/01

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1. 前回の事例レビュー はじめに、前回第84回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。3件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめています。

2026.2.1

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  1. 前回の事例レビュー
     はじめに、前回第84回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。3件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめています。

    表1.「第84回アパレル散歩道」品質事故事例レビュー
    事例服種現象考えられる原因原因分類
    46ブルゾン
    (ポリエステル100%)
    顔料プリントはく離
    • インク配合と管理
    • 熱処理条件
    • 生地との相性
    • 洗濯方法
    生産管理
    生産管理
    商品企画
    消費者
    47ワンピース
    (アセテート100%)
    穴あき(除光液による)
    • 除光液付着による溶融
    • 除光液付着
    素材特性
    消費者の着用
    48ニットシャツ
    (ポリエステル100%)
    接着縫製部はく離
    • 接着条件不良
    • 消費者取扱いやサイズ
    生産管理
    消費者


  2. 今回の品質事故事例紹介
    事例49ジャンル服種状態
    紳士服スラックスアイロン掛けでたて方向に縮み、波打ちが発生した
    スラックスにアイロンを掛けたら、たて方向に縮んで、波打ちも発生していた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。なお、素材組成は、ナイロン70%、綿30%で、たてストレッチ織物であった。取扱い表示は、「タンブル乾燥不可」と図1のアイロン表示がされていた。
    図1. JIS L 0001による取扱い表示記号520番。意味は「底面温度160℃を限度としてアイロン仕上げができる」
    図1.
    JIS L 0001による取扱い表示記号520番。意味は「底面温度160℃を限度としてアイロン仕上げができる」

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「アイロン使用」、「ナイロン高混率素材」、「ストレッチ織物」です。
    • 今回のケースでは、アイロン使用によって収縮が顕在化したため、熱の影響が推察されます。
    • 主素材は、合成繊維のナイロンです。合成繊維は基本的に熱の影響を受けやすく、特にナイロンはポリエステルよりも熱の影響を受けやすいことを理解してください。
    • 今回の素材は、たてストレッチ織物であり、たて糸にナイロン加工糸が使用されていると推定されます。加工糸は一定以上の熱で、なま糸より熱収縮しやすい特性があります。

    表2. 《事例49》「熱による収縮」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 申し出通りに、たて方向に収縮しているかを確認するため、よこ糸の打ち込み密度(本/インチ)を拡大ルーペで測定し、新品があればその密度と比較する。
    • しわやパッカリングの発生状況を観察する。
    商品に関する調査
    • 素材の熱収縮に関するデータがあれば、メーカーから取り寄せる。
    消費者への聞き取り
    • 消費者要因を確認するため、使用したアイロンの性能や設定条件を聞き取る。
    原因の推定
    • アイロン温度が高すぎたため、熱収縮が生じた。アイロン取扱い表示は、ナイロン素材であることを考慮し、図1の520番記号ではなく、図2の510番記号にすべきであった。
      図2. JIS L 0001による取扱い表示記号510番。意味は「底面温度120℃を限度としてアイロン仕上げができる」
      図2.
      JIS L 0001による取扱い表示記号510番。意味は「底面温度120℃を限度としてアイロン仕上げができる」
    • 素材がもともと、ナイロン加工糸使いで、熱収縮しやすい設計の素材であった。
    • 生地の加工段階で、熱セット不良などが発生し、熱収縮しやすいものが混入した。
    確認試験など
    • 事故品と新品で、よこ糸密度を測定し、収縮率を推定する。
    • JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」のH法(プレス法)による測定を行う。今回は乾熱加圧法 (H-1法)で素材の熱収縮特性を把握する。
    • JIS L 1057「織物及び編物のアイロン寸法変化率試験方法」で、素材の熱収縮特性を把握する。
    対策
    • 事前にアイロン試験などを実施し、適正な表示をする。
    • 消費者に対して、ナイロンが熱に弱いなど、アイロン取扱いについての情報を提供する。
    • 染色加工場に対して、適正な熱セットを行うよう要請する。

    第82回アパレル散歩道「事例40 プリーツの消失」でも紹介しましたが、合成繊維を加熱し始めると、ガラス転移点→軟化点→融点を通過することになります。合成繊維は軟化点を超えると軟化し収縮し始めます。特に加工糸ではその傾向は大きく、アイロンやプレス処理はガラス転移点と軟化点の間の温度が望ましいと言えます。
    表3. 主な合成繊維の熱的性質 単位:℃
    ガラス転移点軟化点融点
    ポリエステル70-90238-240255-260
    ナイロン50180215-220
    アクリル79190-240明確でない

    ≪合成繊維の耐熱性≫
    • 合成繊維は、熱で溶融する性質を利用して製糸(溶融紡糸)されるため、製品後、一定以上の熱に触れると、収縮や穴あきが発生しやすくなります。
    • 綿、麻などの天然繊維やレーヨンなどの再生繊維は、基本的に耐熱性があります。
    • アイロン仕上げ、プレス処理、プリーツ加工などは、ガラス転移点と軟化点の間の温度で処理されるのが望ましいです。

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    事例50ジャンル服種状態
    レディーススカートポリエステル/綿混スカートの「まつわりつき」
    季節は冬、ポリエステル/綿混のスカートを購入し、ナイロンパンストとともに着用していたら、スカートの裏地が体にまつわりつき、歩きにくく不快であった
    消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。なお、商品の組成表示は、表地ポリエステル50%、綿50%、裏地ポリエステル100%であった。

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「裏地ポリエステル」、「季節は冬」です。
    • 一般に繊維は電気絶縁性が大きく、他の物体との摩擦によって帯電し、静電気が発生することがあります。
    • 一般に冬期は湿度が低く、「まつわりつき」が発生しやすい環境になります。湿気や水分は導電性があり、これらが多いと放電しやすくなりますが、逆に少ないと帯電しやすいと言われています。
    • 加えて合成繊維は、繊維中の水分率が天然繊維より低いため帯電しやすい傾向にあります。公定水分率は、綿8%、ナイロン4%、ポリエステル0.4%となります。
    • 詳しくは、第68回アパレル散歩道「テキスタイルと静電気に関する性質」を参照してください。

    図3. スカートのイメージ
    図3. スカートの
    イメージ


    表4. 《事例50》「静電気によるまつわりつき」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 表地、裏地の組成表示を確認する。
    消費者への聞き取り
    • 着用時、まつわりつきは裏地だけか、表地もまつわりついたかを確認する。
    • 着用していたパンストの組成表示を聞き取る。
    原因の推定
    • ポリエステル裏地とナイロンパンストとの着用中の摩擦によって帯電し、まつわりつきが生じた。ナイロン素材ポリエステル素材の組み合わせは、静電気が発生しやすい。
    確認試験など
    対策
    • 裏地素材を親水性繊維の綿、レーヨンなどとの混紡、混繊、交織素材に変更する。
    • ポリエステル、ナイロン、アクリルなど、疎水性合成繊維の内部に親水性ポリマーを練り込んだ特殊裏地の採用を検討する。
    • 界面活性剤を使用して、裏地を親水化する。成分は主に、第4級アンモニウム塩(カチオン性帯電防止剤など)である。
    • 市販の静電気防止スプレーなどを消費者に紹介する。(成分はエタノール、界面活性剤、香料など)
    • 静電気が発生しにくい、着こなしや組み合わせを消費者に提案する。(例:ポリエステルとナイロンの組み合わせは、静電気が発生しやすい)

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    事例51ジャンル服種状態
    カジュアルニットシャツ家庭洗濯での脇目曲がり発生
    綿ニットシャツを購入し、着用後初めて家庭洗濯したら、脇部縫い目が大きく曲がっていた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。 なお、素材は、綿100%(天竺)ニットであった。取り扱い表示は、水洗い30℃限度、タンブルドライ不可、アイロン中温、ドライクリーニング石油系であった。

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「綿ニット」、「天竺組織」です。天竺組織は平編みとも言われ、ニットシャツやパンストなどに使用されている代表的な編み組織です。
    • 綿素材は、熱セット性が低く、洗濯後にしわ、縮みや伸び切り、変形が生じやすいことで知られています。
    • 単糸は、撚り合わせた1本の紡績糸で構成されているため、特に撚り戻りする可能性があります。

    図4. シャツの脇目曲がり
    図4. シャツの脇目曲がり

    • 天竺編み組織は、ループの構成が「-表目-表目-表目-表目-」のため、編地が変形しやすい傾向にあります。
    • 染色仕上工程で、自然に曲がった縦目(ウェール)を強制的に修正すると、裁断縫製後の商品が洗濯後、斜行することがあります。したがって、生地の仕上げは、いわゆる「なりゆき仕上げ」が望ましいと言えます。

    表5. 《事例51》「ニットシャツの脇目曲がり」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 当該品を平面に置き、形状を整えた後、脇部BC(図4)の長さを計測する。目安として目曲がり率は5%が基本となる。目曲がり率(%)はBC/AB×100で示される。
    • 併せて、商品の寸法変化率を縫製仕様書から算出する。
    • 生地設計要因を確認するため、生地の糸使い、編み組織を調査する。
    消費者への聞き取り
    • 取扱い要因を想定して、消費者から洗濯と乾燥方法(吊り干しかタンブル乾燥か)などを聞き取る。
    素材メーカーへの聞き取り
    • 生地の染色加工工程で、縦目(ウェール)を強制的に修正したかを聞き取る。
    • 複数の染色加工ロットがある場合は、そのばらつきも聞き取る。
    原因の推定
    • 染色仕上げ工程で、自然に曲がった縦目(ウェール)を強制的に修正して仕上げしたために、潜在的な歪みが生地に残留した。
    • 当該生地は、綿100%単糸使いの天竺組織ニットであったため、その特性も目曲がりに影響した。
    • 縫製工程での裁断が不正確であった。
    確認試験など
    • 新品商品や筒状試料を用いて、家庭洗濯試験を実施し、目曲がり率(%)を測定する。(図4参照)
    対策
    • 糸使いを綿/ポリエステル混用にする。
    • 可能であれば、天竺組織から他の組織などに変更する。
    • 染色仕上げ工程で、無理に縦目(ウェール)を修正しない。「なりゆき仕上げ」とする。
    • 裁断精度を向上させる。

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    事例52ジャンル服種状態
    雨具レインコート長時間雨にあたっていたら内部が濡れてきた
    レインコート(裏地なし)を購入し、半年程度雨の日に着用していた。
    ある日、長時間雨に当たっていたら、コート下のシャツが肩部や背中部から濡れてきた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。なお、レインコートの素材は、ポリエステルツイル(織物)で、これまでははっ水性に問題はなかった。また、主な縫い目は裏面からシーリング加工されていた。
    洗濯は家庭で数回おこなっていた。取扱い表示は、水洗い30℃限度、タンブルドライ不可、アイロン中温(当て布)、ドライクリーニング石油系 であった。
    図5. レインコートの
イメージ
    図5. レインコートの
    イメージ

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「レインコート」、「はっ水」、「シーリング加工」です。
    • 今回の内部への雨の浸入が、生地目からか、縫い目からか、製品の開口部からかなどを意識した調査が必要です。
    • コートのはっ水性は、着用による擦れや汚れ付着で低下しやすい傾向があります。
    • 洗濯時の洗剤の残留で、一時的にはっ水性が低下することがあります。この時は水だけで再洗濯するとはっ水性が回復することがあります。
    • 縫い目のシーリング加工では、接着条件が不良であれば、縫い目に雨が浸入することがあります。

    表6. 《事例52》「レインコートの水漏れ」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 指摘されている肩部や背中部に、生地破れなどがないか確認する。
    • 水滴を落としてはっ水の程度を観察する。
    • 縫い目裏面のシーリング加工で、部分はく離している部位はないか確認する。
    消費者への聞き取り
    • 雨天時の着用状況を聞き取る。
    • 過去の洗濯方法を聞き取る。(すすぎ不足の可能性など)
    素材メーカーへの聞き取り
    • 当該生地の加工内容を聞き取る。具体的には、はっ水加工、コーティング加工、ラミネート加工などが対象。
    • 当該素材の耐水性(耐水圧)を聞き取る。
    縫製工場への聞き取り
    • シーリング加工の接着条件やロット管理について聞き取る。
    原因の推定
    • 生地の耐水性がもともと低かった。
    • 縫い目のシーリング加工の一部に不良があり、そこから水が浸入した。
    • はっ水性の耐久性が低い加工スペックであった。
    • リュックサックなどとの摩擦で、はっ水剤が脱落したり、洗濯ですすぎ不足により洗剤が残留して、一時的にはっ水が低下し、シーリング加工の不良も重なった。
    確認試験など
    • 当該製品全体に水を滴下し、水浸入の状況を推定する。
    • 申し出者の許可がとれれば、製品で耐水性試験やはっ水試験を実施する。
    対策
    • 一定の耐水性のある生地を採用する。
    • 縫い目のシーリング加工の品質管理を徹底する。
    • はっ水は、耐久性のあるはっ水加工を実施する。
    • 消費者に対して、リュックなどとの摩擦ではっ水剤が脱落したり、洗濯ですすぎ不足により洗剤が残留して、一時的にはっ水することも、情報提供する。
    • 消費者に、フードを被らない場合は、首回りや襟元などの開口部からも、雨水が浸入することがあることも情報発信する。
    耐水性
     耐水性は外部から衣服内へ雨滴などの浸入を防ぐ性質のこと。防水衣料などで主に樹脂コーティングやラミネートされた素材などに求められる機能性である。JIS L 1092「繊維製品の防水性試験方法」には、A法(低水圧法)、B法(高水圧法)があるが、両者は試験法が異なる。A法による試験結果の単位はmm、またB法による試験結果の単位はkPaで示される。一般的にA法では、ブルゾンなどの軽衣料が500mm~600mm、レインコートやスキーウエアなどの重衣料が2000mm以上などの基準値で運用されている。

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(第86回 アパレル散歩道の予告 – 2026年3月1日公開予定)

 次回は、『品質トラブル原因を絞り込もう』の最終回(14回目)として、以下の事例53~56を取りあげます。どうぞご期待ください。
  • 事例53. 「ウォータースポットによる変色」
  • 事例54. 「色違い」
  • 事例55. 「日光による色褪せ」
  • 事例56. 「コーティング膜のはく離」

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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