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アパレル散歩道 第77回 : 「衣料品の品質トラブルの原因絞り込み⑤」

2025/06/01

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1. 前回の事例レビュー はじめに、前回の第76回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめました。

2025.6.1

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  1. 前回の事例レビュー
     はじめに、前回の第76回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめました。

    表1.「第76回アパレル散歩道」品質事故事例レビュー
    事例服種現象考えられる原因原因分類
    14コーデュロイ
    パンツ(C100%)
    パイル抜け
    (損傷)
    • パイル組織の特性(ルーズパイル)
    • 着用による生地裏面の摩擦
    生地特性
    消費者
    15ダウンジャケット
    (N100%)
    羽毛の吹き出し(外観)
    • ダウンプルーフ加工不良
    • 生地の密度が粗く、ダウン用途に不適
    • 縫い針が太い
    • パーツ裁ち端がかがり縫い(オーバーロック)仕様などでない
    生産管理
    企画ミス
    縫製条件
    設計
    16紳士スーツ
    (W100%)
    接着芯地のはく離 (外観)
    • 芯地のドライクリーニング耐久性が低い
    • 芯地の接着条件の不適正
    • 素材のハイグラルエキスパンションの影響
    設計
    生産管理
    素材特性
    17パジャマ
    (C100%)
    毛羽燃焼
    (安全)
    • 綿ニットの表起毛素材であった
    素材特性


  2. 今回の品質事故事例紹介
    事例18ジャンル服種状態
    カジュアルポリエステルシャツ濃色が淡色部に汚染した
    濃淡配色のポリエステルシャツ購入し、家でポリ袋から出したら、濃色が淡色部に汚染していた。カンボジア製で、製品のたたみ段階で薄紙は使用されていなかった。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。
    図1. シャツの色移り

    図1. シャツの色移り


    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「ポリエステル」、「濃淡製品」、「在庫中」、「薄紙」です。
    • ポリエステル(レギュラー)は分散染料で染色されます。分散染料は昇華しやすいことが知られています。
    • 商品は未使用であり、在庫中の事故であった。
    • 最近のアパレル製品のほとんどは海外縫製で、今回の商品もカンボジア製です。

    表2. 《事例18》「在庫中の色移り」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 在庫中の要因を確認するため、色移り(汚染)の状況が、畳みの状況と濃淡配色に関連がないか、観察調査する。(当該事故品では、上袖の濃色が身頃に色移り/汚染している)
    商品に関する調査
    • 船舶による商品輸送の要因を確認するため、わかる範囲でよいので、輸送時のコンテナ内部の温度や輸送期間を調査する。
    • 素材要因を確認するため、ポリエステル素材(濃色部)の染色堅ろう度、特に昇華堅ろう度を調査する。
    • 製品畳み時に、薄紙を使用していたかどうか調査する。
    原因の推定
    • ポリエステルの濃淡配色品は、分散染料の昇華による汚染の懸念がある。
    • 海外生産品のコンテナ輸送では、コンテナ内部が60℃以上になることがあり、特にアセアン地区からの海上輸送は、赤道通過時の温度上昇で、昇華汚染のリスクが高くなる。(図2参照)
    • 吸汗速乾素材など機能加工を施している素材では、分散染料と機能剤との相性により汚染が促進されるリスクがある。
    図2. コンテナ海上輸送のイメージ
    図2. コンテナ海上輸送のイメージ
    確認試験など
    • 試験方法として、JIS L 0854「昇華に対する染色堅ろう度試験方法」がある。試験条件は120℃×80分であるが、独自試験として70℃×48時間、130℃×90分などの条件を採用するメーカーもある。
    • 再現試験を目的に、共生地を添付布としてもよい。
    対策
    • 適正な昇華堅ろう度の基準を設定し、少なくとも基準を下回るものは改善すること。
    • 昇華堅ろう度不良には、還元洗浄(RC)不足や染料濃度が高すぎることが考えられる。
    • 分散染料の昇華現象は、程度の差はあれ技術限界ともいえる。基準に合格した素材でも、配色、コンテナ温度、輸送期間により、色移りするリスクはある。事故低減のため、ポリエステルの濃淡製品については薄紙の併用を勧める。
    • 特に海外メーカーに対しては、使用する薄紙の大きさや枚数を縫製仕様書で指示することが望ましい。

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    事例19ジャンル服種状態
    カジュアル綿パンツベージュ色の生地が部分的に白化した
    ベージュ色の綿パンツを着用後、初めて家庭で洗濯したら、部分的に白くなった。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。取扱い表示は「水洗い可」、「漂白剤不可」、「ダンブル乾燥不可」であった。

    ■原因絞り込みの考え方
    • キーワードは、「綿素材」、「淡色(ベージュ)」、「家庭洗濯」、「部分白化」です。
    • 家庭用合成洗剤には、白物をより白く仕上げるために蛍光増白剤が添加されているものがあります。
    • ベージュ色などのパステル調の綿製品では、蛍光増白剤の付着によって白く見えることがあります。
      特に綿や麻など、セルロース繊維製品でその傾向は大きいと言えます。

    表3. 《事例19》「蛍光増白剤による色あせ」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察白化発生状況を推定するため、白化が部分的か全体的か、また表面と裏面に差があるかなどを目視で調査する。
    商品に関する調査
    • 洗剤の影響を確認するため、事故品にブラックライトを照射し、蛍光増白剤付着の有無を確認する。(ブラックライトとは紫外線を発するライトのこと)
    • 新品が入手できれば、事故品と同様にブラックライトを当てて、両者を比較する。
    消費者への聞き取り
    • 洗剤の影響を確認するため、使用した洗剤に蛍光増白剤が含まれていたかを聞き取る。(図4参照)
    • 漂白剤の影響を確認するため、漂白剤を併用したかを聞き取る。
    • 洗剤の影響を確認するため、洗濯機への水、衣類、洗剤の投入順序を聞き取る。
    原因の推定原因としては、蛍光増白剤の影響が考えられる。
    • 部分的に白化していることから、洗濯時、衣類に直接蛍光増白剤を含む洗剤を振りかけたために、その部分だけが蛍光増白剤の作用で、より白くなった。
    • 取扱い表示で漂白剤不可となっていることから、漂白剤の影響は低いと推定される。
    確認試験など
    • ブラックライトによる確認試験を実施する。
    • 蛍光物質は図3のように、紫外線を吸収して青白い蛍光を発する性質があり、ブラックライトで紫外線を照射すると、通常は目で確認できないものが、明瞭に明るく見えるようになる。
    対策
    • 綿などセルロース系の製品は、蛍光増白剤を含まない洗剤を使用するよう、注意表示などで情報提供する。

    図3. 蛍光増白剤のメカニズム
    図3. 蛍光増白剤のメカニズム


    合成洗剤表示例 (蛍光増白剤あり)
    合成洗剤表示例 (蛍光増白剤あり)

    中性洗剤表示例 (蛍光増白剤なし)
    中性洗剤表示例 (蛍光増白剤なし)

    図4. 家庭用洗剤の表示


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    事例20ジャンル服種状態
    カジュアルニットスウェットシャツ家庭洗濯で身丈が縮んだ
    先日購入した綿100%のニットスウェットシャツ(裏パイル)を初めて着用し家庭洗濯したら、身丈が大きく縮んでしまった。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。取扱い表示は「水洗い可」、「ダンブル乾燥不可」であった。

    ■原因絞り込みの考え方
    縮んじゃった…
     綿や麻などのセルロース商品は、吸水性が大きく、熱セット性が小さいため、家庭洗濯などで一定の縮みが生じることがあります。その程度は、生地構造や糸種、洗濯乾燥条件、アイロンやプレス条件などによって異なります。
     一方、合成繊維製品は、吸水性が低く、熱セット性が大きいため、一般的に縮みにくいと言えます。
    • 今回の事例分析のキーワードは、「初めての洗濯」、「綿100%ニット」です。
    • ニットは織物に比べると生地組織がルーズであるため、寸法安定性は低く、特に綿ニット製品などでは、思わぬ大きな縮みを生じることがあります。
    • 綿ニット生地の染色工程で、生地の長さ方向に無理に引っ張られて仕上げされると、生地内部に歪みが残留し、縫製後の洗濯で歪みが緩和され、品質基準以上の縮みが生じることも考えられます。ちなみに、この現象は緩和収縮と定義されています。
    • タンブルドライは、吊り干しと比較すると、乾燥ドラム中のもみ効果により大きな縮みが生じることがあります。
     今回の縮み事故の検証では、素材特性、生地加工情報、消費者の取り扱い情報(洗濯や乾燥など)を総合的に調査し、原因を絞り込むことが大切です。(第63回アパレル散歩道参照)

    表4. 《事例20》「家庭洗濯による縮み」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 新品や仕上がり寸法表と比較して、どの程度縮んでいるかメジャーで測り、調査する。
    メーカーへの聞き取り
    • 生地要因を確認するため、生地規格(糸使い、編み組織、規格密度、目付、染色加工内容など)を聞き取る。
    消費者への聞き取り
    • 消費者要因を確認するため、洗濯方法、乾燥方法(吊り干しか、タンブル乾燥か)を聞き取る。
    原因の推定
    • 取扱い表示がタンブル乾燥不可であるにもかかわらず、消費者がタンブル乾燥機を使用した。
    • 生地染色加工工程で、生地の長さ方向に過度に引っ張られて仕上げされ、品質基準以上の丈方向縮みが生じた(緩和収縮)
    確認試験など
    • JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」に規定される寸法変化率試験の中のパルセーター形家庭用電気洗濯機(G法)などを実施する。
    • 同一新品があれば、それを用いて寸法変化率試験を準用実施し、縮み現象を再現する。
    対策
    • 事前試験を行い、洗濯寸法変化率基準に合格した生地を採用する。
    • 染色加工段階で、加工のばらつきが生じないように、素材メーカー、加工場に要請する。
    • 縫製工程では、放反を充分実施し、延反にも配慮する。
    • 製品に、「タンブル乾燥で大きく縮むことがある」と表示し、消費者に注意してもらう。  など

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    事例21ジャンル服種状態
    婦人服麻ニットシャツ手洗い洗濯で両脇付近が白化した
    今年購入した紺色の婦人ニットシャツ(麻100%)を数回着用したのち、家庭で手洗い洗濯した。その後、よく見ると、両脇付近が毛羽立って白っぽくなっていた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。

    ■原因絞り込みの考え方
     綿や麻や絹などの天然繊維、またリヨセル・レーヨンなどの再生繊維で、着用中の擦れによってフィブリル化(毛羽立ち)が生じ、白化することがあります。特に濃色製品で同様の事故が多いようです。
    • 今回の事例分析のキーワードは、「麻素材」、「手洗い」です。麻素材の特性が大きく関連する事例です。
    • 繊維のフィブリル化とは、繊維束のフィブリルが、摩擦作用で表面に現れて毛羽立ち、ささくれる現象です。綿やレーヨンの布地では、着用中の摩擦や洗濯を繰り返すことにより、フィブリル化を起こして、濃色生地ではその部分だけ光の乱反射で白く見えたり、風合いが変化することがあります。


    表5. 《事例21》「フィブリル化による白化」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察など
    • 白化の要因が、着用か取扱いかを確認するために、脇以外に発生しているか目視で調査する。
    • 白化の状況を確認するため、白化した部分をルーペなどで観察調査する。
    消費者への聞き取り
    • 取扱いの要因を確認するため、手洗いで、強く揉んだり、擦ったりしなかったかを聞き取る。
    • 着用の要因を確認するため、脇部が強く擦れる動作がなかったか聞き取る。
    原因の推定
    • 綿や麻は短繊維であるため、着用や洗濯時の摩擦によって毛羽立って、その部分が乱反射して白く見えることがある。
    • 麻素材は、フィブリル化によって毛羽立ち白化しやすい弱点がある。今回の事例では、両脇部分に白化が見られることから、洗濯要因は、洗濯要因よりも着用要因と推定される。
    確認試験など摩擦堅ろう度試験機やマーチンデール摩耗試験機を用いて、摩擦面の外観変化(毛羽立ちや白化など)を観察する。
    対策
    • 消費者へ麻素材の特性を情報提供し、丁寧な取扱いをお願いする。
    • 厳しい用途や繰り返しの洗濯が想定される用途では、合繊混用素材も検討すること。
    • 過度に染料濃度の高い濃色生地の企画は避けること。


      ≪手洗い洗濯とは?≫
      • ひと口に「手洗い」と言っても色々な方法があります。ここでは“丸洗い”と“部分洗い”について説明します。
      • 丸洗いには、服種や汚れの程度によって、押し洗い、漬け置き洗い、振り洗いなどがあります。
      • 部分洗いとは、基本的には汚れた部分のみを洗うもので、素材、服種、シミ発生リスクなどにより、もみ洗い、たたき洗い(スポンジやブラシなど)、つかみ洗いなどがあります。
      いずれにしても、フィブリル化が生じやすい麻やレーヨン、シルク製品などでは、その取り扱いで強く擦れることのない丁寧な取り扱いが必要です。


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    大阪・関西万博2025訪問記こちらから

(第78回 アパレル散歩道の予告 – 2025年7月1日公開予定)

 次回は、『品質トラブル原因を絞り込もう』の6回目として、「衣料品の品質トラブルの原因絞り込み⑥」をお送りします。以下の事例22~25を取りあげます。
  • 事例22. 「減量加工による破れ」
  • 事例23. 「毛玉発生」
  • 事例24. 「ジーンズ摩擦による色移り」
  • 事例25. 「ウール素材の黄ばみ」

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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