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アパレル散歩道 第75回 : 「衣料品の品質トラブルの原因絞り込み③」

2025/04/01

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1. 前回の事例レビュー はじめに、前回の第74回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめました。

2025.4.1

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  1. 前回の事例レビュー
     はじめに、前回の第74回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめました。

    表1.「第74回アパレル散歩道」品質事故事例レビュー
    事例服種現象考えられる原因原因分類
    6ブルゾン
    (C/E混紡)
    シームパッカリング
    (外観変化)
    • ミシンの送り機構の不適正による波打ち
    • 縫い糸張力不良による波打ち
    • オペレーターの技量が低い
    • 素材特性(生地の伸縮性、薄さ、滑性)   など
    生産管理
    生産管理
    生産管理
    素材特性
    7スウェットシャツ
    (C100)
    皮膚刺激
    (安全)
    • 合成繊維製のブランド織ネームとの擦れ
    • ネームの溶断端が熱溶融で硬化していた
    商品企画
    複合要因
    8スカート裏地
    (E100%)
    縫い目滑脱
    (破損)
    • 裏地が滑脱しやすかった。(滑脱抵抗力が低い)
    • 洗濯時の過度な柔軟剤使用で縫い目がスリップした
    • 伸びる表地で、着用時の運動負荷によって伸びのない裏地の縫い目に負荷がかかった
    • 裏地のパターン設計が小さい
    • 消費者の体型と衣料サイズが合致していない
    品質不良
    取扱い
    企画設計

    設計
    消費者
    9ウインドブレーカー
    (N100%)
    黄変
    (変色)
    • ポリ袋に含まれる酸化防止剤(BHT)がナイロン生地に昇華し、窒素酸化物ガスと反応して黄変物質が生成した
    • 室内のファンヒーターから発生する窒素酸化物ガスによって、白のナイロン繊維が黄変した
    複合


    技術限界


  2. 今回の品質事故事例紹介
    事例10ジャンル服種状態
    婦人服ワンピースプリント柄の周囲に色泣きが生じた
    白地にプリント柄のワンピース(綿100%)を着用後、初めて洗濯したら、プリント柄の周囲に色泣きが見られた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。プリントは捺染であった。

    図1.
    捺染衣料のイメージ

    ■原因絞り込みの考え方
    図2. 色泣き現象の例

    図2. 色泣き現象の例1)

    • 色泣きとは、洗濯や雨でウエアが濡れると、濃色部分から周囲の白場に染料が動いて、濃色がにじんだように見える現象のことで、色泣きは汚染現象のひとつに含まれています。
    • キーワードは、綿素材」、「捺染生地」、「初めての洗濯となります。
    • 色泣きの原因には、下記①~③のような商品品質と消費者取扱いが複雑に関係しています。
      1. 商品の品質:染色堅ろう度はどうか(今回の事例は、初めての家庭洗濯で発生した)。
      2. 消費者の取り扱い:着用中に雨などで濡れたか、洗濯処理はどのようにしたか(漂白剤の影響など)。
      3. その他:上記①と②の複合原因は可能性があるかなどが考えられます。そして、商品の品質情報、消費者からの取扱情報をさらに収集し、原因を絞り込むことが大切です。

    表2. 《事例10》「捺染プリントの色泣き」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 汚染(色泣き)がプリント柄部からにじんでいるか、他の商品からの移染ではないかを確認するために、汚染発生の状況を目視で観察する
    • 洗濯や取扱い表示が適正であったかを確認するため、商品の表示内容を調査する
    商品に関する調査
    • プリント柄部からの汚染要因を確認するため、濃色柄部のJIS染色堅ろう度(特に、洗濯、汗、水、色泣きなどの湿潤堅ろう度試験)データを確認する
    • 本生産の品質のばらつきの可能性を確認するため、同様の事故が他に発生していないか、調査する
    消費者への聞き取り
    • 汗の影響を確認するために、汗をかいたまま長時間放置したなど、着用状況を聞き取る
    • 洗濯方法の影響を確認するため、洗剤の種類、漂白剤併用の有無、浴比、浸漬時間、乾燥方法などを聞き取る
    • 反応染料の加水分解による経時劣化の可能性を確認するため、購入した時期を聞き取る
    原因の推定
    • 捺染時のソーピング、フィックス処理、熱処理が不十分で、未固着の染料が生地表面に残留し、濃色部の染色堅ろう度が低下していた
    • 染色時の染色堅ろう度は問題なかったが、漬け置き洗いや洗濯後すぐに干さずに長時間濡れたまま放置していた
    • 洗濯時に漂白剤などが併用され、染色堅ろう度が低下し、色泣き(汚染)が発生した
    • 購入時期が古く、保管中の水分などの影響で、反応性染料が加水分解による経時劣化を起こしていた。綿の染色で使用される反応染料は、経時劣化する可能性がある
    確認試験など
    対策
    • 捺染濃色部は、高染色堅ろう度が求められるため、品質基準を適正に設定し運用する
    • 本生産生地の染色堅ろう度が品質基準通りに仕上がっているか、事前に試験で確認する
    • 生地や製品を長期間在庫する場合は、染料の加水分解による劣化を防ぐために、水分(湿気)の少ない場所で保管する
    • 「汗をかいたら、すぐ洗濯をして吊り干しする」、「漂白剤は使用しない」、「濡れたまま放置しない」など、注意表示による情報提供をする

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    事例11ジャンル服種状態
    スポーツウエアジャージバレーボールの練習をしていたらひざ部などに小さい穴状の破損が生じた
    ニットのトレーニングジャージ上下(ポリエステル100%)を着用して体育館でバレーボールの練習をしていた。終了後、ジャージのひざ部などに小さい穴状の破損がみられた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。

    ■原因絞り込みの考え方
    図3.体育館での使用(イメージ)
    図3.
    体育館での使用(イメージ)
    • この現象は、ウエアの使用状況から摩擦溶融による穴あきと判断してよいと考えます。
    • 事例分析キーワードは、ポリエステル素材」、「体育館」、「バレーボール練習」、「ひざ部の穴状破損です。
    • 合成繊維であるポリエステル素材は、合成繊維の中では耐熱性に優れていますが、一定以上の温度が加わると繊維が溶融します。(表3.参照)
    • 体育館の床は、シューズの滑り止め加工がされている場合があり、バレーボールのレシーブなどで転倒すると、ひざ部や腰部などが強く衝撃的に摩擦され、摩擦熱が発生することがある。
    • 熱による破損の場合、穴あき部の周囲はポリエステルが溶融して、硬化している可能性がある。(図4.参照)

    表3. 各種繊維の融点
    繊維融点
    天然繊維綿 麻 毛 絹溶融しない
    合成繊維ポリエステル238~240℃
    ナイロン215~220℃
    アクリル210~230℃

    図4. 摩擦溶融による穴あき例
    図4. 摩擦溶融による穴あき例


    表4. 《事例11》「体育館で穴あき」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 穴あきは、どの部位に発生したかを目視で調査する。(ひざ部やひじ部や骨盤部などか)
    • 合成繊維の熱による影響を確認するため、破損した穴の周囲は硬化しているかをルーペや触って調査する
    消費者への聞き取り
    • 体育館床との衝撃の影響を確認するため、体育館でどのような運動をしたか
    • 体育館床との衝撃の影響を確認するため、回転レシーブなどで床との接触は無かったか
    原因の推定
    • 合成繊維であるポリエステルの耐熱性は、表3のように概ね240℃付近であるが、瞬間的な衝撃と摩擦によって溶融温度以上の高熱が発生し、ポリエステル生地が溶融した
    • 発生しやすい部位は、ひざ部、ひじ部、骨盤部が多いと言われ、破損部周囲は溶融して硬くなるのが特徴である
    • この合成繊維が瞬間的に溶融した際、まれに肌に触れた時にやけどすることもある
    確認試験などJIS L 1056:2006 織物及び編物の摩擦溶融試験方法を実施する
     A法(衝撃形摩擦溶融試験機法)
     B法(ロータ形摩擦溶融試験機法)
     C法(円板形摩擦溶融試験機法)  などがある
    対策
    • ひざ部やひじ部にサポーターの使用を勧める
    • 生地のダブルニット裏面組織に、耐熱性のある綿糸や綿混糸を交編する
    • シリコン系などの摩擦溶融防止加工を施した素材を使用する

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    事例12ジャンル服種状態
    カジュアルTシャツ粉状の物質が生じ、伸び切った
    黒色のストレッチTシャツを購入後、ほぼ1年着用を繰り返していた。着用と洗濯を繰り返すうち、脇部や背中など部分的に粉状の物質が生じ、弾性が低下して伸び切っていることに気がついた。消費者は、この現象に不満を感じ、アパレルメーカーに苦情を申し出た。組成表示は、ポリエステル92% ポリウレタン8%であった。

    ■原因絞り込みの考え方
     この事例分析のキーワードは、脇部や背中の伸び切り」、「粉状の物質」、「ポリウレタン特性です。
     着用と洗濯の繰り返しで、ポリウレタン糸が脆化して粉状に脱落し、その結果弾性が低下して伸び切ったことが推定されます。また、ポリウレタン糸が脆化する要因には、日光や紫外線、皮脂、汗、塩素、カビ、窒素酸化物などがあります。(第34回アパレル散歩道4.4参照)

    表5. 《事例12》「伸縮素材の伸び切り」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 粉状の物質を確認するために、その部分や粉の形状をルーペなどで観察する
    • 日光、汗などの影響を確認するために、粉状の物質が発生した部分が、脇部や背中以外にも発生していないか観察する
    • 新品があれば、生地の弾性を比較し、事故品の伸び切りを調査する
    素材メーカーへの聞き取り
    • 染色加工時の熱の影響を確認するために、生地規格と加工条件(加工工程や温度、時間設定など)の詳細を調査する
    • 製品自体の物性を確認するために、ロット別の加工生地の物性データ(破裂強さなど)を調査する
    消費者への聞き取り
    • 取扱いによる影響を確認するために、消費者から着用環境や保管環境を聞き取る
    • 同様に、漂白剤の使用有無など、洗濯条件を聞き取る
    原因の推定
    • 着用時の汗や日光の作用によりポリウレタン糸の脆化が進行し、さらに着用時の繰り返し伸縮、家庭洗濯時の物理的な揉みなどの複合作用により、ポリウレタン糸が切断し、粉状に脱落した
    • 生地加工工程での熱セット(プレセットや仕上げセット)の温度設定が高く、ポリウレタン糸の熱による脆化が促進し、着用と洗濯を繰り返す中で、物理的な負荷が加わり、その後ポリウレタン糸の脆化が顕在化した
    • 分散染料による染色時、染色堅ろう度対策として過剰な還元洗浄処理を行ったため、ポリウレタン糸が劣化し、さらに着用と洗濯を繰り返す中で、物理的な負荷が加わり、ポリウレタンの脆化が顕在化した
    確認試験など
    • 新品を用いて、繰り返し伸縮疲労試験(デマッチャ法)を実施し、処理後の生地外観を観察し、ポリウレタン糸の切断や脱落を確認する
    • ジャングル試験(脆化促進試験:70℃、95%RHなど)後、洗濯処理によってポリウレタン糸の経時劣化や脱落を確認する
    • 新品があれば、繰り返し家庭洗濯処理(JIS L 1096 織物及び編物の生地試験G法準用)を実施し、外観変化でポリウレタン糸の切断や脱落を確認する
    対策
    • 脆化しにくいタイプのポリウレタンを選定したり、太繊度のポリウレタン糸を選定する
    • 企画上問題のない範囲で、ベア(裸)使いでなく、コアスパンやカバードヤーンにすることにより、脆化しにくい糸にする
    • 企画上問題のない範囲で、ポリエステル加工糸、またPTT糸、PBT糸などを使用したストレッチ素材を検討する
    • 染色加工での過度な高温セットや湿熱処理、染め直し時の注意などの品質確認を徹底し、ポリウレタン糸の脆化を抑えて不良品の発生を防止する
    • ポリウレタン糸の特性を踏まえて、「皮脂や汗などが付着したまま放置しない」、「短時間洗い」、「日陰干しする」、「高温多湿な場所に保管しない」などの注意点を表示し、消費者へ情報提供する

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    事例13ジャンル服種状態
    カジュアルダウン
    ジャケット
    引っ掛かって胸部生地が裂けた
    ダウンジャケットを着用中、かんぼくとの引っ掛かりがきっかけで、胸部の生地が裂けた。消費者は、この現象に不満を感じ、アパレルメーカーに苦情を申し出た。表地素材の組成はナイロン100%であった。

    ■原因絞り込みの考え方
    • この事例分析のキーワードは、ダウンジャケット」、「枝との引っ掛かり」、「裂け(かぎ裂き)」、「合繊素材です。
    • 一般にダウンジャケットに使用される生地は合繊織物が多く、羽毛の吹き出しを防ぐために、ダウンプルーフ加工(熱と圧力による目つぶし加工)が施され、生地の通気性を抑えている。このため、生地がペーパーライクになり、引裂強さが低下する可能性があります。(第32回アパレル散歩道:羽毛製品~ダウンジャケット参照)
    • したがって、着用中の粗硬物体との引っ掛かりなどによる過度なせん断応力により、生地がたて方向やよこ方向に引裂けることもあります。


    表6. 《事例13》「引裂き破れ」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察など
    • 破損が引き裂き(かぎ裂き)であるかを確認するため、破れが織物の構成糸に沿って破れているか、ナイフで切ったようにランダム方向に破れているかをルーペで観察する
    素材メーカーへの聞き取り
    • 織物生地要因を確認するため、表地の引裂強さを調査する
    • 表地のダウンプルーフ加工の条件を確認する(加工温度、加工圧力、加工時間など)
    消費者への聞き取り
    • 引き裂きの原因を確認するため、着用中の破れが生じた状況を消費者から聞き取る
      (枝など突起物との引っ掛かり状況など)
    原因の推定
    • 表生地の引裂強さ自体が、もともとが低かった
    • 着用中、枝との引っ掛かりによる過度な力により、生地が引裂けた
    確認試験など
    • 引裂強さは、JIS L 1096 織物及び編物の生地試験方法のD法(ペンジュラム法)で規定されている。この試験法は、生地のせん断破れのしやすさを評価するもので、引張り強さとともに、衣料用織物の強度基準の必須管理項目となっている
    • 試験結果は、たて方向、よこ方向ともに、N(ニュートン:荷重の単位)で表記される
    • 試験結果の「たて」とは、たて糸を切断した時の応力で、「よこ」は、よこ糸を切断した時の応力と定義される
    対策
    • 品質管理基準は、一般に10Nで運用するが、用途により薄地織物では8N程度とするケースもある
    • 羽毛の特性を生かすため、柔らかい極細糸使いの織物を使用する場合はあるが、時として引裂き強さが8N以下であるケースもあり、その場合は引裂き事故のリスクを考慮して使用可否を検討すること
    • ダウンプルーフ加工を施した生地特性を踏まえ、消費者に丁寧な取扱いや着用をお願いする


    図5. 引き裂きのメカニズム
    図5. 引き裂きのメカニズム


    図6. ダウンジャケットの引裂き事故例(粘着テープで補修済み)
    図6. ダウンジャケットの引裂き事故例
    (粘着テープで補修済み)



(参考資料)
1)「繊維製品の苦情処理ガイド(色に関する苦情)」:一般社団法人日本衣料管理協会、P.9引用

(第76回 アパレル散歩道の予告 – 2025年5月1日公開予定)

 次回は、『品質トラブル原因を絞り込もう』の4回目として、「衣料品の品質トラブルの原因絞り込み④」をお送りします。以下の事例14~17を取りあげます。
  • 事例14. 「パイル抜け」
  • 事例15. 「吹き出し 羽毛」
  • 事例16. 「接着芯地のはく離」
  • 事例17. 「表面毛羽燃焼」


著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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