アパレル散歩道

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第69回 : 「テキスタイルと風合い」

2024/10/01

テキスタイルの特性を学ぼうアパレル散歩道 テキスタイルの特性を学ぼう
私たちは、日常的にテキスタイルや衣料品を手で触って、「うすい」、「柔らかい」、「なめらか」、「こしがある」、「ぬめり感がある」、「ドレープ性が少ない」、「ふくらみ感が少ない」、「少し重たい」、「しゃり感がある」などと感覚的に評価することがあります。

2024.10.1

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  1. はじめに
     私たちは、日常的にテキスタイルや衣料品を手で触って、「うすい」、「柔らかい」、「なめらか」、「こしがある」、「ぬめり感がある」、「ドレープ性が少ない」、「ふくらみ感が少ない」、「少し重たい」、「しゃり感がある」などと感覚的に評価することがあります。また時には、「ウールライク」や「シルクライク」などとコメントすることもあります。
     これらの感覚は、「風合い」という言葉で総称されることが多いのですが、この「風合い」がテキスタイルの物理的特性とどのように関連しているか、また、糸・編織・染色加工などの工程とどのように関連しているかを理解することは、テキスタイルや衣料の商品開発・品質管理に大いに役立ちます。

     また、消費者からの「こんなテキスタイルがあればいい」、「こんな衣料が欲しい」などのニーズは比較的、感覚的なケースが多いことから、これを物理特性にうまく表現変換できれば、効果的なテキスタイル・商品開発につながる可能性があります。
     本項では、あらためてこの風合いの意味を考えて、物つくりとの関連を勉強します。なお、アパレル散歩道 第50回では、アパレル製品の風合い変化による品質事故も取りあげていますのでぜひご覧ください。

  2. 風合いの定義
     「風合い」については、いろいろな文献で定義されていますので、一例を紹介します。
     ■「繊維製品の基礎知識(第一部)」(一般社団法人日本衣料管理協会 P86)によれば、
    布の風合いは、広義には触感覚、聴感覚(絹鳴り、衣擦れなど)に関する節質も含まれるが、狭義には、布に触れた時の感覚(接触感)、すなわち手触りや肌触りの感じを言葉により表現したものである。
     ■また、「JIS L 0220 繊維用語 ― 検査部門」によれば、
    風合いとは、硬軟性、弾性、粘性、目の粗さなどの組み合わされた性質の視覚または触覚などによる官能的な品質評価のこと。
    これらの定義を総合すると、風合いとは、生地の触感や手触り感を官能的、感覚的に表現したものとなります。


  3. アパレル製品の風合いについて
     アパレル製品の物つくりを考える時、まず繊維から糸が作られ、糸から生機(織編)が作られ、生機は染色仕上げされ、最後に裁断と縫製によりアパレル製品が完成します。このことにより、アパレル製品は「繊維の集合体」である、と言えます。アパレル製品の風合いは、まず「各繊維に起因する風合い」があり、これに「糸種に起因する風合い」「織編に起因する風合い」「染色に起因する風合い」「縫製に起因する風合いなどが加わって、最終的にアパレル製品の風合いが完成されるものと考えます。
    製品洗いや製品染め、特殊な全面プリント、他の材料との大幅な複合、特殊縫製(キルトやシャーリング、無縫製など)がある場合、縫製工程が最終製品の風合いに影響を与えることがあります。


    風合いの構成イメージ
    図1 風合いの構成イメージ

    テキスタイルやアパレル製品の風合いは、製造過程の繊維、糸、織編、染色仕上げ、縫製などに影響されます。


    表1 テキスタイル生産工程と風合い
    工程風合いとの関係
    繊維天然繊維、合成繊維、再生繊維などがあり、それぞれ独自の繊維物性・風合いを有する。
    製糸・紡績繊維を製糸や紡績で集合させたも、紡績方法、繊度(太さ)や撚りなどによって、多くの種類があり、もともとの繊維特有の風合いに、製糸・紡績特有の風合いが付加される。
    織編糸の風合いに加えて、編織組織、密度、目付など織編特有の風合いが付加され、生機の物性が確定する。
    染色仕上アパレルや商社からの要望により、柔軟仕上げ、硬仕上げ、もみ仕上げ、コーティング樹脂仕上げなど、生地風合いを左右する加工が施される。
    縫 製製品洗いや製品染め、特殊な全面プリント、特殊な材料との複合、特殊縫製(キルトやシャーリング、無縫製など)がある場合、縫製工程が、最終製品の風合いに影響を与えることがある。
    テキスタイルの風合いは、もともと各種の繊維が持つ風合いに、製糸や紡績による風合い変化、織編による風合い変化、染色仕上げによる風合い変化などが加わり、その総和されたものが最終テキスタイルの風合いになる。(図1参照)


    1. 繊維と風合い
       図2は、アパレル散歩道 第34回でも紹介しましたが、各種繊維の変形のしにくさを比較したグラフです。応力-ひずみ曲線(S-Sカーブ)ともいわれ、各種繊維の伸びや風合いに関係する基本物性を示しています。グラフでは、横軸が伸び率(変形の大きさ)、縦軸は変形のしにくさ(荷重)を示しています。
       例えば、ポリエステルとナイロンを比較すると、どちらの繊維も単位太さ当たりの荷重は大きく、強度にはすぐれていますが、初期の立ち上がりカーブは、ポリエステルがナイロンより急であることが分かります。その結果、ナイロンのカーブはポリエステルより、やや寝ているような曲線を示します。
       この初期の傾きのことをヤング率(初期引張り抵抗度)と呼び、数値が大きいほど、変形しにくい、伸びにくい、つまり織物などになると「ハリやコシ」があるとされます。同様に綿や麻繊維もヤング率は比較的大きく、麻布や綿布はしっかりした風合いであることがいえます。


      図2 各種繊維の変形のしにくさ1)

      1. ヤング率について
         ヤング率とは、繊維やプラスチックなどの物質を引っ張ったときの伸びと力の関係から求められる定数で、「曲げ剛性」や「たわみ剛性」とも呼ばれ、繊維製品の風合いに大きく関係します。俗にヤング率は「変形のしにくさ」の目安と理解されています。表2に各種繊維のヤング率を示しています。ヤング率が大きくなると伸びが少なく剛直になり、ヤング率が小さいとよく伸びて柔軟で変形しやすくなります。
         繊維別の特性を見ると、麻やポリエステルなどはヤング率が大きく、その織物は基本コシやハリがあるとされます。一方、羊毛(ウール)繊維、絹繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維は比較的ヤング率は低く、繊維自身には柔軟な性質があります。

        表2 各種繊維のヤング率2) (初期引張り抵抗度)
        繊維の種類ヤング率 (cN/dtex) 0 50 100  200  300 (cN/dtex)
        綿60-82   ■■綿
        羊毛10-22 ■羊毛
        麻 (亜麻)132-234       ■■■■麻
        レーヨン (フィラメント)57-75   ■■レーヨン
        アセテート26-40 ■■アセテート
        ナイロン (フィラメント)18-40 ■■ナイロン
        ポリエステル (フィラメント)79-141    ■■■■ポリエステル
        アクリル (フィラメント)34-75 ■■■アクリル


    2. 糸と風合い
       糸独自の風合いを決定する要素には、スパン糸とフィラメント糸の違い、撚りの程度、カード糸とコーマ糸の違い、梳毛糸と紡毛糸の違い、糸の太さ(番手など)や撚り、紡績方法などがあります。アパレル散歩道 第36回 1.2で「糸」についても紹介していますので、併せてご覧ください。

      1. スパン糸とフィラメント糸
         テキスタイルの前段階である「糸」の風合いを考える時、 スパン糸とフィラメントの違いを思い浮かべます。
         糸には、スパン糸(紡績糸)とフィラメント糸があります。まずスパン糸とフィラメント糸を紹介します。表3は各種繊維と糸種の関係です。また、表4はスパン糸とフィラメント糸の特徴を示しています。

        表3 各種繊維と糸外観
        繊維の種類糸使い
        綿・麻すべてスパン糸
        毛(ウール)すべてスパン糸
        基本フィラメント糸で、まれにスパン使いあり
        合成繊維
        (ポリエステル、ナイロン、アクリルなど)
        スパン糸、フィラメント糸の両方がある
        再生繊維(レーヨンなど)基本フィラメント糸で、混紡などで一部スパン糸がある


        表4 スパン糸とフィラメント糸の特徴
        種類特徴外観(写真)の例
        スパン糸
        (紡績糸)
        • 繊維長の短い原綿やポリエステル短繊維などに撚りをかけて作る。
        • 撚りをかけると、繊維間の摩擦が強くなり、糸としての強さが高まる。
        • 撚りの程度で、特徴や性能が変わる。撚り数が多いほど、一般に糸風合いは硬くなる。
        • 原料は天然繊維の綿、麻、毛、合繊短繊維などがある。
        • 繊維長が短いので、毛羽立ちがあり、柔らかい風合いとなる。
        スパン糸(紡績糸)の外観の例
        フィラメント糸
        • 繊維長の長い繊維(長繊維)を束ね、撚り合わせて作る。
        • スパン糸とは異なり、長繊維のため、強度は強く、表面は毛羽がなく平滑で光沢感がある。原料はポリエステル、ナイロン、アクリルなどの合成繊維、レーヨンなどの再生繊維、天然繊維では唯一絹がある。
        スパン糸(紡績糸)の外観の例


      2. カード糸とコーマ糸
         綿糸については、グレードによりカード糸とコーマ糸があり、風合いを含めた性能が異なります。もちろんコストも異なります。

        表5 カード糸とコーマ糸について
        糸の種類特徴ステープルダイアグラムによる除去部分の違い
        カード糸
        • 最も標準的な綿糸で、紡績のカーディング工程で、短い繊維が5%程度取り除かれる。
        • 光沢は少なく、毛羽は比較的多い。コーマ糸に比べてコストが低いため、Tシャツなど安価なニット製品に使用されている。
        • サラッとしたやや硬めの風合いが特徴となる。
        カード糸のステープルダイアグラム
        コーマ糸
        • 紡績のコーミング工程(針で繊維を櫛けずる)で、約20%の短い不要な綿繊維が除かれる。
        • カード糸と比べると工程数も多く、短い繊維を比較的多く除去しているため上質の糸となり、毛羽が少ない、艶のある柔らかい糸となる。
        スパン糸(紡績糸)の外観の例


      3. もう糸と紡毛糸の違い
         毛糸についても、前記3.2.2の綿素材の考え方と同様に、用途により梳毛糸と紡毛糸があり、独自の風合いや外観を有しています。

        表6 梳毛糸と紡毛糸
        糸の種類特徴
        梳毛糸梳毛の「梳」は「くしけずる」の意味。短い羊毛繊維を除去した糸で、細くて毛羽が少なくさらっとして、表面がなめらかで、素肌にも心地よい肌触りとなる。フォーマル紳士服や婦人服などに使用される。
        紡毛糸ボリューム感のある毛羽立った太い糸。原料に比較的繊維長の短い羊毛を使用しているため、毛羽立った、ウールらしい、ざっくりした暖かみのある風合いになる。セーターなどに使用される。


      4. 糸の太さ(番手)
         繊維に限らず、棒状の金属やプラスチックでも、細ければ柔軟性を示しますが、太くなればなるほど剛直になるのはご理解いただけると思います。糸も同様に、その太さが風合いに大きく影響を与えます。
         糸番手が大きくなるほど糸の太さは細くなり、数値が高いものは、俗に「高級番手」とも呼ばれます。細くなるほど糸は柔らかくなり、これら「高級番手」の糸で織られた生地は、肌触りの良いしなやかな風合いになります。
         「番手」については、アパレル散歩道 第36回 1.3で紹介しています。改めてご覧ください。

        表7 綿糸と毛糸の番手の基準
        糸の種類呼称基本質量基本長さ
        綿糸など綿番手454g(1ポンド)768.1m(840ヤード)
        毛糸など毛番手(メートル番手)1kg (1000g)1km (1000m)


        図3 綿番手のイメージと用途概要
        図3 綿番手のイメージと用途概要



      5. 紡績方法の違い(綿糸)
         綿紡績では、短繊維をほぼ平行に配列し、引き延ばして撚りを加えることにより糸が作られます。その工程は、原綿 ⇒ カーディング ⇒ (コーミング) ⇒ れんじょう(スライバー) ⇒ 粗紡 ⇒ 精紡(リング精紡の場合) となります。図4にその紡績工程のイメージを示しています。不規則な原綿繊維が、紡績工程で方向性が整えられ、撚りが加わり糸になるのが分かります。

        原綿
        カーディング/コーミング
        カーディング/コーミング
        スライバー
        糸(粗紡/精紡)
        原綿
        カーディング/コーミング
        スライバー
        糸(粗紡/精紡)

        図4 紡績工程のイメージ3)



         現在、綿糸の紡績方法の種類には、「リング精紡」だけでなく、「オープンエンド精紡」、「ボルテックス精紡」があり、紡績方法によっても、微妙な糸の風合いの違いがあります。
         前述の工程のように、リング精紡は「粗紡」と「精紡」の2段階で実施されますが、「オープンエンド精紡」と「ボルテックス精紡」では、生産効率を考慮して粗紡工程が省略され、一気に精紡されます。表8にリング精紡の紡績工程の概要、また表9では3種の紡績方法の比較を紹介しています。

        表8 綿紡績の工程(リング精紡の場合)
        工程概要
        ①混打綿原綿を開繊し、シート状のラップを作る
        ②カーディング短繊維を除去し、繊維を平行にして、太いひも状のスライバーを作る
        ③コーミングスライバーから、さらに短繊維を除去し、繊維配列を高める
        ④練条スライバーを合わせて、引き伸ばす(ドラフト)ことを繰り返す
        ⑤粗紡スライバーを引き伸ばす(ドラフト)して、軽く撚りをかけて粗糸を作る
        ⑥精紡さらにドラフトして、撚りをかけて所定の太さの糸を作る
        ③コーミング工程を経由した糸はコーマ糸、経由しない糸はカード糸となる。(3.2.2.参照のこと)

        表9 紡績方法の種類と概要
        種類特徴解説図など
        ①リング精紡糸
        • リング紡績機で作られる一般的な糸である。
        • 粗紡糸と呼ばれる太い糸が高速回転するリングとトラベラ(金属製などの輪)によって撚りがかかり糸になる製法によって作られる。
        • 生産性は、オープンエンドやボルテックス精紡に比べると低い。糸質も良く汎用性がある。
        • リングに沿ってトラベラが回転することにより、撚りが成形される。
        • 糸の表面は滑らかで強度のある綿糸が特徴。
        トラベラの例 リング精紡機
        トラベラの例 リング精紡機4)
        ②オープンエンド糸
         (OE糸)
        • 空紡糸とも呼ばれる。空気の力で精紡を行う。
        • ①のリング精紡とは異なり、粗紡を省略し、投入されたスライバ(繊維束)は空気の渦の力によって撚られ、一気に一本の糸となる。
        • オープンエンド糸は、高速回転するロータの中央部から外部の巻き取りローラへ巻き取るときにロータの回転により撚りがかかり、空気の流れで撚りを加えて糸にするため、糸そのものに適度な空気を含みガザ感・シャリ感がある、毛羽が多いのが特徴で、生産効率が大きく、太番手の糸に適している。
        ロータ式オープンエンド精紡機
        ロータ式オープンエンド精紡機5)
        ③ボルテックス
         精紡糸(MVS)

        (MVS:村田ボルテックススピナーの意味)
        ボルテックス(VORTEX)精紡糸は、村田機械(株)が開発した精紡機「VORTEX®精紡機」で作られる。 ①リング精紡、②オープンエンドとは異なり、空気のを使った方法で紡糸される。繊維がノズル部を通過し、スピンドルの中空穴に繊維先端部が入り、繊維後端部がフロントローラの把持から外れると、ノズル内の空気旋回流で反転し、スピンドル表面にらせん状に繊維が配列され、この状態で繊維はスピンドル内に高速で引き込まれ糸が形成する。リング精紡の20倍以上の生産性と言われる。毛羽の少ない糸が特徴で、革新紡績の一つと言われている。MVS精紡機
        MVS精紡機6)


          ≪3種の紡績形式の量的比較≫
          2021年度の世界の出荷錘数比率でみると、リング精紡54.2%、オープンエンド精紡29.1%、ボルテックス精紡16.8%と、約半分がリング精紡です。
          (技術の系統化調査報告Vol33,(独)国立科学博物館,P145図3.22より引用)


          ≪紡績とは?≫
          綿紡績の工程は、①繊維方向が不規則な原綿を引き延ばしながら、②同一方向に繊維を配向させ、③撚りをかけて一定の太さの糸を作る 工程となります。


      6. フィラメントカウントと風合い
         フィラメント糸には、複数の細いフィラメント繊維を撚り合わせ「マルチフィラメント糸」と、1本のフィラメント繊維だけで作られた「モノフィラメント糸」があります。
         マルチフィラメント糸では、何本のフィラメント繊維で構成されているかを明示するため「フィラメントカウント」という単位を用います。カウント数が多ければ多いほど、たくさんの繊維を束ねていることを表します。同じ太さ(デニールもしくはデシテックス)であれば、フィラメントカウントが多いほど、より細い繊維を束ねているため、作られたテキスタイルの風合いが柔らかくしなやかになります。詳しくは、アパレル散歩道 第36回 1.4.1を参照してください。

        図5 モノフィラメント(左)とマルチフィラメント(右)のイメージ
        図5 モノフィラメント(左)とマルチフィラメント(右)のイメージ


         太さが同じで、フィラメントカウントの異なるポリエステルフィラメント糸を比較すると、表10のようになります。ご参考にしてください。

        表10 フィラメントカウントの違いと風合い
        糸種組成繊度(太さ)フィラメントカウント繊維一本当たりの太さ風合い
        E100 83dtex/72ポリエステル
        100%
        83 dtex7283÷72≒1.2dtex柔らかい、しなやか
        E100 83dtex/363683÷36≒2.4dtexやや硬い


    3. テキスタイル(織物・ニット)と風合い
       織物やニットの風合いは、使用した糸の風合いを引き継ぎますが、さらに、織りや編みの密度、目付(重量)、カバーファクター、そして織組織や編組織も大きく影響を与えます。
       カバーファクター = アパレル散歩道 第67回 4.1参考のこと

      織物の密度の違い
      密度、目付、カバーファクターの増加
      風合いは硬く、
      ハリ・コシあり

      図6 織物の密度の違いと風合い(イメージ)



    4. 染色仕上げ加工と風合い
       染色仕上げ加工では、アパレルからの要望によって、色々な仕上げ加工が施されます。その中には、生地の風合いを劇的に変化させるものがあります。

      加工の種類説明
      柔軟加工糸や織編物の柔軟化する加工。各種の界面活性剤やシリコン系柔軟剤などで、繊維間および繊維表面の摩擦係数を低下させる方法が一般的である。過度に使用すると、縫い目滑脱、ピリングやスナッグのリスクが生じる。
      樹脂加工
      (硬仕上げ)
      生地に水溶性合成樹脂を含侵させ、適度なハリなど、生地の風合いを硬めに仕上げる加工である。
      しわ加工生地に積極的にしわを与え、独自の感性を発現する加工である。合繊では、板締め、袋詰め、箱詰め状態で、熱水、スチーム、乾熱処理でしわがセットされる。綿素材では、アルカリ浴中で自然なしわ感が固定されるが、耐久性を与えるため、樹脂加工が併用されることがある。製品洗いで、独自なウォッシュアウト感を表現する。
      オーガンジー加工綿、綿混の生地を硫酸で処理し、綿繊維を溶解し、透明感のある硬い風合いを付与する加工のこと。婦人用ドレス、ウェディングドレス、ブラウス、シャツなどに使用される。
      起毛加工針や研磨布などを用いて生地表面を起毛し毛羽立たせ、保温性や柔軟性を持たせる加工である。
      減量加工ポリエステル織物で風合いを柔らかくする加工のこと。アルカリ剤による加水分解作用を利用しているので、アルカリ減量加工ともいう。ポリエステル繊維表面を5~20%程度溶解し、繊維を細くして、生地風合いをソフトにする。過度な減量加工は、生地スリップが生じやすく、滑脱抵抗力の低下は注意を要する。
      カレンダー加工カレンダーローラーで生地を高熱加圧し、平滑にして光沢を付与する加工のこと。素材、ローラー材質、温度、圧力によって、生地はへん平し、ペーパーライク化する。光沢や外観も異なる。引裂き強さは低下傾向となる。
      コーティング加工生地の表面や裏面に、防水や透湿防水など機能性のある樹脂を塗布する加工。ゴム系、ポリウレタン系、アクリル系などの合成樹脂が多い。樹脂加工により、生地の風合いは硬くなり、ペーパーライク化する。引裂き強さは低下傾向となる。
      ラミネート加工生地の表面や裏面に、ポリウレタン樹脂膜を貼る加工。コーティング加工よりは風合いは柔らかい
      ボンディング加工二種類の生地を貼り合わせる加工。ボンディングにより、新たな性能や風合いの生地が作られる。また、接着剤の種類、量により、風合いも異なる。
      プリーツ加工布に耐久性のある折目やひだをつける加工。合成繊維では繊維の熱可塑性を利用して熱によって折り目を固定している。ウール素材では、薬剤によるシロセット加工で実施される。


    5. 風合いの評価
       風合い計測では、剛軟度、ドレープ性、KES風合い計測などがあります。以下に概要を紹介します。

      表12 風合いの評価7)
      項目試験方法概要
      剛軟度JIS L 1096 剛軟度A法
      (45°カンチレバー法)
      JIS L 1096  剛軟度A法
      図のような台形の装置の上部に試験片を置き、斜面A方向にスライドさせたとき、試験片の先端が斜面Aに接した時の移動距離(スケール)をmmで評価する。
      • 柔らかい素材ほど、移動距離は小さくなる。
      ドレープ性JIS L 1096 剛軟度G法(ドレープテスタ法)
      JIS L 1096  剛軟度G法
      下図のようなドレープテスタを用いる。試験片を試験台に載せた時、試験片が資料台から自重で垂れる程度をドレープ係数として評価する。
        ドレープ係数=(Ad-S1)/S2-S1
      • Ad:試料の垂直投影面積(ドレープ形状面積)
        (mm²)

      • S1:試料台の面積 (mm²)
      • S2:試料の面積 (mm²)

      • 柔らかい素材ほど、垂れ下がりやすく、ドレープ係数は小さくなる。
      KES風合い計測
      ブロック記号特性値
      1.引張りEMT
      LT
      WT
      RT
      500gf/cm荷重下の伸び率
      引張り特性の非直線性
      引張り仕事量
      引張りレジリエンス
      2.曲げB
      2HB
      曲げ剛性
      ヒステリシス幅
      3.せん断G
      2HG
      2HG5
      せん断剛性
      ∅=0.5° におけるヒステリシス幅
      ∅=5°  におけるヒステリシス幅
      4.圧縮LC
      WC
      RC
      圧縮特性の非直線性
      圧縮仕事量
      圧縮レジリエンス
      5.表面MIU
      MMD
      SMD
      平均摩擦係数
      摩擦係数の平均偏差
      表面粗さの平均偏差
      6.厚さ・質量T
      W
      圧力0.5gf/cm²における厚さ
      単位面積当たりの質量
      KES風合いシステムの測定項目例
      風合い特性に関連する物理特性を測定し、官能特性である風合いと物性を対応させたKES計測システムが実用化されている。KESとは、京都大学の川端教授が開発した「KAWABATA EVALUATION SYSTEM」の略である。

      詳細は、カトーテック(株)のニュースリリースを参照のこと。
      https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000077829.html


    6. 風合い変化の事故例
       繊維製品・皮革製品の風合い変化では、家庭洗濯やドライクリーニング、アイロンやプレスなど熱処理、また経時劣化などによって硬化することがあります。表13の事故例の詳細は、アパレル散歩道 第50回「風合い変化」をご参照ください。

      表13 繊維製品・皮革製品の風合い事故例
      品質事故例
      1合成皮革製ジャンパーのドライクリーニングによる硬化
      2天然皮革製ジャケットの水洗いによる硬化
      3厳冬期の着用によるジャケットの硬化


(参考資料)
1)「繊維製品の基礎知識(第1部)」:一般社団法人日本衣料管理協会 P18 引用
2)「第3版 繊維便覧」:丸善出版株式会社、一般社団法人繊維学会編
3)「文化ファッション講座 アパレルの素材と製品」:文化出版局、文化服装学院編 P37図3-1 引用
4) 5)「新改訂版 繊維製品の基礎知識(第1部)」:一般社団法人日本衣料管理協会 P40
6)「業界マイスターに学ぶせんいの基礎講座」:繊維社企画出版、
  一般社団法人日本繊維技術士センター編 P116 図2.27
7)「新改訂版 繊維製品の基礎知識(第1部)」:一般社団法人日本衣料管理協会 P142

(第70回 アパレル散歩道の予告 – 2024年11月1日公開予定)

 次回は、『テキスタイルの特性を学ぼう』の10回目として、「テキスタイルとしての織物とニット(編物)の比較」を取り上げます。アパレル業界に携わる立場から、テキスタイル素材の特性を勉強しましょう。

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
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