アパレル散歩道

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第53回 : ケーススタディ⑨色の変化~汚染・色泣き~

2023/06/01

品質事故を分析して原因と対策を考えようアパレル散歩道 品質事故を分析して原因と対策を考えよう

2023.6.1

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 今回のアパレル散歩道では、繊維製品の色の変化に関する事故のうち「汚染・色泣き」を取り上げます。



表1 色の変化と汚染
大分類中分類
色の変化変退色
汚染・色泣き
白化
黄変


  1. 色の変化に関する品質事故「変退色」
     前々回の第51回アパレル散歩道では、色の変化に関する事故のうち、次の①から③を取り上げました。
    1. 染色堅ろう度とは、染色された生地の色の変わりにくさや色落ちしにくさのこと。
    2. 染色堅ろう度には、変退色(change in color)と汚染(stain)がある。
    3. 変退色は、生地自身が変色や退色する現象のこと。
    4. 汚染・色泣きは、他の生地部分に色移りする現象のこと。
     今回は、④の汚染・色泣きについて勉強しましょう。


  2. 汚染と色泣き
     汚染と色泣きの違いを明確に説明するのは難しいのですが、表2のように、汚染は生地から脱落した染料が他の淡色部に付着することで、色泣きは生地から脱落した染料が付近の淡色部に移行し、その部分を汚染することと理解すれば分かり易いでしょう。なお、色泣きはブリードとも呼ばれます。
     色泣きは汚染に含まれますが、特に濃淡切り返し品や捺染プリント品の濃淡色や柄の境目で染料がにじんだように汚染する現象が多いようです(図1参照)。
     また、汚染や色泣きは、変退色と比較すると事故が目立ちやすく、消費者から見ても非常に気になる現象であると言えます。
    表2 汚染と色泣き
    説明
    汚染生地から脱落した染料が、他の淡色部に付着すること
    色泣き生地から脱落した染料が、付近の淡色部に移行しその部分を汚染すること。ブリードとも呼ばれる

    図1 色泣き現象のイメージ
    図1 色泣き現象1)のイメージ



  3. 汚染事故例について
     衣料品の汚染事故を調査すると、従来は綿や毛製品など天然素材の比率が高かったのですが、最近ではポリエステルやナイロンなどの汚染事故も発生していることに注目したいと思います。後述の3.3と3.4で詳しく触れます。

    表3 汚染・色泣きの品質事故例
    発生の事例原因となる因子
    1
    • 綿100% ニットシャツ
      捺染プリントの花柄が、初めての家庭洗濯で色泣きした
    • 染色堅ろう度(洗濯堅ろう度)
    • 洗濯方法
    2
    • 綿100% 総柄捺染柄ブラウス
      着用によって、脇下部のプリント柄が色泣きした
    • 染色堅ろう度(汗堅ろう度など)
    • 汗の影響
    3
    • 綿100% 総柄捺染柄ブラウス
      洗濯時に酸素系漂白剤を併用したら、プリント柄が色泣きした
    • 染色堅ろう度(酸素系漂白剤)
    • 取扱い表示内容
    • 洗濯方法
    4
    • ポリエステル100% ニットシャツ
      無地濃淡切り替え商品で、店頭で袋から取り出したら、濃色部から淡色部に色が汚染していた
    • 染色堅ろう度(昇華堅ろう度)
    • 在庫や保管環境(特に温度)
    • 薄紙(昇華防止紙)使用の有無
    5
    • ナイロン100% ブレーカー
      洗濯後、白色ブレーカーにラインとして縫い付けていた黒色のナイロン製テープから付近に汚染が発生した
    • 副資材テープの染色堅ろう度(洗濯・水堅ろう度など)
    • 洗濯方法(長時間漬けこみなど)


     筆者はスポーツウエアメーカー現役当時から、衣料品の汚染事故を多く経験してきましたが、衣料品の汚染事故には次の「道しるべ」に示した傾向があります。

      • 無地品の汚染事故は目立ちにくく、濃淡切り替え品や捺染品で目立ちやすい。
        濃淡切り替え品には、表地と裏地の色切り替えも含まれる。
      • 染色堅ろう度が低いと汚染事故は発生しやすい。
      • 染色堅ろう度が良くても、家庭洗濯などの取扱いや経時劣化で汚染事故は発生する。
        長時間の漬け置き洗いや漂白剤併用の影響が考えられる。
      • 天然繊維素材は、特に湿潤堅ろう度(洗濯・汗・水)が大切である。
      • ナイロン素材も、湿潤堅ろう度(洗濯・汗・水)は要注意である。
      • ポリエステル素材は、湿潤堅ろう度は良好だが、昇華堅ろう度が弱点である。


    1. 染色堅ろう度の考え方
       第39回アパレル散歩道でも染色のメカニズムを取り上げています。改めてご覧ください。
       一般に、染色工程では、衣料品を洗っても汚染や色泣きが生じない品質が求められます。このため、使用する染料は繊維としっかり化学結合(※)して脱落しにくくならなければいけません。また、未反応で繊維と固着していない染料をソーピングなどで除去することにより、染色堅ろう度が向上します(※ただし、ポリエステルの場合は染料が繊維内部で分散しています)。

      染色
      染色機を利用して、一定の時間と温度で染料と繊維が結合する
      ソーピング
      染色後、染め上がりの生地を洗浄し、未反応の染料を除去する
      フィックス(FIX)剤処理
      綿素材などでは、固着した染料がさらに脱落しないように、FIX剤と呼ばれる固着剤を併用することがある

      図2 染色工程における染色堅ろう度向上の対策例

    2. 綿素材の汚染事故
       綿などのセルロース系素材では、近年、反応染料を使用して染色されることが多くなっています。反応染料は、染料分子中に反応基を有し、繊維中の反応基と共有結合と呼ばれる強固な結合をする染料のことです。しっかり繊維と結合するため、湿潤堅ろう度(洗濯、汗、水の各堅ろう度)も比較的良好な染料といわれています。
       しかし、反応染料も万能ではなく、長期間の保管による空気中の水分などの影響で反応染料が加水分解し、色泣きが発生することが報告されています。これらの対策の一つとして、図2のフィックス剤処理があります。なお、フィックスとは「固着する」という意味です。

      ~染料濃度と汚染事故~
       第51回アパレル散歩道で、色の三属の中の「明度」を紹介しました。実際の染色では、赤色の染色でも「淡い赤」と「濃い赤」では明度が異なり、「濃い赤」を染めるには、「淡い赤」より高い染料濃度が必要です。もちろん濃色品は汚染事故のリスクが大きくなります。
       通常、水溶液などの濃度は一定の水に含まれる物質の重さ(g/L)で示されますが、染色現場では、染料濃度は染色布重量に対する染料重量で計算され、OWF (on the weight of fiber) と呼ばれる数値(百分率)で示されます。
    3. ナイロン素材の汚染事故
      (1)ナイロン繊維と染料について
       家庭用品品質表示法によると、ナイロンは「繰り返しているアミド結合(-CONH-)の85%以上が脂肪族または環状脂肪族単位と接合している直鎖状合成高分子からなる繊維」と定義されています。つまり、ナイロン高分子はアミド結合の鎖がつながって構成されています。一方、動物繊維の毛(ウール)や絹(シルク)なども同様のアミド結合を有しているため、ナイロン繊維の染色にも、毛や絹の染色に用いられる酸性染料が使用されます。“酸性”と名前が付いているのは、染料の構造中に、負の電荷を帯びたスルホン酸基(-SO3H)が存在するからです。

      (2)ナイロン繊維の極細化と汚染事故
      普通糸の断面図
      普通糸
      極細糸の断面図
      極細糸

      図3 普通糸と極細糸の断面イメージ

       近年、ナイロンやポリエステルなどの合成繊維では、原糸(フィラメント)の極細化が進んでいます。原糸の極細化により糸の極細化(ファインデニール化)が可能になり、その結果、生地の薄層化、ソフト化が進んでこれまでなかった多様な素材が実用化されています。しかし、原糸の極細化は染色性に大きな影響を与えることがあります。図3は同じ太さの普通糸と極細糸の断面をイメージしたものです。糸の太さは同じであっても構成糸全体の表面積を比較すると、この図の場合は極細糸の表面積は約6割も増える計算になります。3.2の「ティータイム」で染料濃度のOWFを紹介しましたが、この極細糸を同じ色目に染色仕上げする場合は表面積が増加した分、染料の使用量が増えることになります。また、未反応の染料を除去するために、極細糸使い生地ではソーピング(洗浄)をさらに強化して染色堅ろう度を向上させることになります。


    4. ポリエステル素材の汚染事故
      (1)ポリエステル素材と分散染料
       分散染料で染色するポリエステル素材の汚染事故は、第6回アパレル散歩道でも取り上げていますので、改めてご覧ください。まず、分散染料の特性を表4に示します。

      表4 分散染料の特性

      • 水に不溶の疎水性染料で、水に助剤(分散剤)で分散させて使用する。
      • 分散染料は、化学的にポリエステル繊維分子(ポリエチレンテレフタレート)と結合せず、繊維中に分散している。
      • アイロンやプレスなど、熱処理によって分子運動が活発化し移動しやすくなる。
      • 高温で昇華しやすいため、昇華汚染のリスクがある。
      • 染色加工時には、ファイナルセット温度の設定など注意を要する。


      (2)ポリエステル素材の汚染事故例
       合成繊維素材の変退色や汚染の事故は、天然繊維と比較すると発生数が少ないと言われています。しかし、本項で紹介するポリエステル素材の「昇華汚染事故」「マイグレーション(染料移行)事故」だけは、最近でも店頭や倉庫などを中心に増加しています。これは、ポリエステル(レギュラー)を染める分散染料の特性に起因するものです。店頭で一度発生すると、事故は複数発生していることも多く、商品回収・リカバリーなど事態収拾に多くのコストと時間を費やすことになります。もちろん、ポリエステル素材の使用比率が絶対的に大きいことにも関係はしているでしょう。
       表5に、昇華汚染・マイグレーションの説明と品質事故例を紹介しています。

      表5 昇華汚染・マイグレーション(染料移行)について
      分類説明品質事故例
      昇華汚染
      • 昇華とは、物体が固体から液体にならずに直接気体に変化する現象である
      • ポリエステル製品においては、分散染料が気化して付近の淡色部に色移りすることを言う
      無地濃淡切り替えポリエステルシャツで、店頭でポリ袋から取り出したら、濃色部から淡色部に色が汚染していた(図4参照)
      図4 昇華汚染事故例
      図4 昇華汚染事故例
      マイグレーション
      (染料移行)
      • 分散染料は繊維と結合していないため、染料が繊維上で移動する現象
      • 淡色の顔料プリントに色移りしたり、乾摩擦堅ろう度が低下する
      濃色のポリエステルシャツに捺染された白色顔料プリントが在庫中にピンク色に変色した

      図5 白色顔料プリントのマイグレーション事故のイメージ
      図5 白色顔料プリントの
      マイグレーション事故のイメージ



      (3)ポリエステル素材の汚染事故発生のメカニズム
       昇華汚染事故やマイグレーション事故の発生は、分散染料の特性に起因しています。図6は、昇華汚染のメカニズムを示しています。生地表面から昇華(気化)した分散染料が付近の淡色生地に図のように移染しています。図7は、マイグレーション(染料移行)のメカニズムを示しています。ポリエステル繊維内の分散染料が高温などで生地表面に移行し、表面に加工されていた白色顔料プリントにまで染料移行したものです。

      図6 分散染料の昇華汚染のメカニズム
      図6 分散染料の昇華汚染のメカニズム

      図7 分散染料のマイグレーションのメカニズム
      図7 分散染料のマイグレーションのメカニズム



      (4)高温と汚染事故リスク
       通常のポリエステル素材を染める分散染料は、昇華しやすいことが特徴です。特に高温でアイロンやプレス処理をしたり、長期間にわたる高温環境での保管や在庫によって、濃色部から淡色部に分散染料が昇華し汚染が発生します(図4参照)。近年、海外生産によるコンテナ移送の際、コンテナ内は60℃以上になることが報告されています。特に、アセアン地区からの海上輸送は赤道を通過することもあり、昇華汚染などのリスクが高くなっています。昇華堅ろう度が低いものはもちろん、品質基準に合格している生地や製品でも、デザインや素材や輸送期間によっては昇華汚染することがあります。

      (5)昇華汚染事故の対策
       ポリエステルの濃淡配色品には、特に分散染料の昇華による汚染の懸念があることを説明しました。汚染事故対策例を以下に紹介します。対策には、①適正な試験法、②適正な品質基準、③薄紙の併用などが考えられます。

      表6 昇華汚染事故の対策
      分野対策例
      ①試験方法JIS L 0854の昇華堅ろう度試験がある。試験条件は120℃×80分であるが、企業によっては70℃×48時間、130℃×90分などの条件も採用している。場合により、実際の組み合わせを想定した共生地を添付布としてもよい
      ②品質基準ポリエステル製品の濃淡配色品の濃色生地は、昇華堅ろう度をできるだけ向上させる。適正な昇華堅ろう度の基準を設定し、少なくとも基準を下回るものは、還元洗浄(RC)などで改善すること
      ③薄紙使用自衛策として、包装時に薄紙(昇華防止紙)の使用が有効である。縫製現場ではこの薄紙の指示漏れが考えられるため、縫製仕様書に明確に記載しておくことが望ましい
      ④その他合成皮革(表Pu樹脂)は分散染料と親和性が高く、汚染リスクが高い。また、アイロンやプレス機の使用も注意を要する
      吸汗速乾など機能加工を施している素材との接触も、分散染料と機能性樹脂との相性により、汚染が促進されるリスクが高いので要注意である
      白色ポリエステル生地に濃色テープなどを縫い付ける場合は、テープの材質はポリエステルを避け、ナイロン製を使用する
      図5のようなポリエステル濃色生地に白色顔料をプリントする場合は、プリントの第一層目に移行昇華防止層をまず捺染すること。第6回アパレル散歩道(1.1)を参照のこと


      1. ポリエステル濃淡配色品は、分散染料の昇華汚染、マイグレーション事故リスクが高い。
      2. 昇華堅ろう度を向上させつつ染料移行を防ぐため、縫製後のたたみ・袋詰めでは薄紙を併用することが事故低減に寄与する。
      3. 薄紙使用は縫製仕様書に記載することが望ましい。


      ~昇華プリントについて~
      分散染料の弱点である昇華性を逆に応用した加工が昇華プリントです。詳細は、第39回アパレル散歩道(4.2.3(2)の④ 昇華捺染機)を参照のこと。


(参考資料)
1)「繊維製品の苦情処理技術ガイド(色に関する苦情)」: 一般社団法人日本衣料管理協会

(次回のアパレル散歩道 / 7月1日発行)

次回は、「ケーススタディ ⑩色の変化~白化~」を取り上げます。

コラム : アパレル散歩道54
~品質事故を分析して原因と対策を考えよう~
テーマ : ケーススタディ ⑩色の変化~白化~


発行元:
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail:
pr-contact@nissenken.or.jp     URL:
https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。



社外経歴
(一社)日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
(一社)日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部幹事
大学非常勤講師
(一社)日本繊維製品消費科学会 元副会長

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