アパレル散歩道

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第50回 : ケーススタディ⑥風合い変化

2023/03/01

品質事故を分析して原因と対策を考えようアパレル散歩道 品質事故を分析して原因と対策を考えよう

2023.3.1

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 「アパレル散歩道」は、今回で掲載50回を迎えることになりました。今後とも、皆様のお役に立てる分かりやすい情報発信に努めてまいります。ご期待ください。
 さて、今回の「アパレル散歩道」では、アパレル製品の品質事故として、⑥風合い変化を取り上げます(表1参照)。



表1 品質事故の分類
大分類中分類
1損傷① 生地の損傷
② 縫い目の損傷
③ 副資材の損傷
2外観変化④ 外観変化
3形態変化⑤ 形態変化
4風合い変化⑥ 風合い変化
5色の変化⑦ 変退色
⑧ 汚染・色泣き
⑨ 白化
⑩ 黄変
6機能低下⑪ 機能性低下
7安全性不適切⑫ 安全性不適切
8表示不適正⑬ 表示不適正

《はじめに》
 「風合い」とは、アパレル製品ではどのように定義されるのでしょうか。また、表1の外観変化や形態変化とはどのように異なるのでしょうか。
 繊維総合辞典(繊研新聞社)によれば、「風合いとは、布の触感、手触りなど官能的な評価のこと。生地を手で触ったり握ったりしたときの剛軟性(弾性、粘性、せん断性)、凹凸面の粗さなどの性質が総合されたもの。一般的には、コシ、張り、ぬめり、曲げ、滑らかさ、膨らみ、シャリ感などで表現される」とあります。
 また、繊維製品の品質問題究明ガイド(一般社団法人日本衣料管理協会)では、「布の風合いは、視覚や触覚、聴覚を通して、繊維製品から受ける感じを指す」と、視覚的変化も含むとあります。
 以上のことから、今回のアパレル散歩道では、風合い変化の中に光沢変化なども含めて話を進めます。



表2 アパレル製品の外観変化、形態変化、風合い変化の特徴
変化の種類
(表1参照)
変化の内容具体的な事例
④外観変化生地の表面外観の変化しわ発生、プリーツ消失、ピリング、スナッグ、バブリング、目寄れなど
⑤形態変化衣料品全体や部分的形状の変化収縮、伸び切り、型くずれ、斜行、カーリングなど
⑥風合い変化布の触覚、視覚、聴覚など官能的な変化合成皮革の硬化、生地の硬化、光沢の変化など


  1. 風合いの硬化
     衣料品の硬化は、家庭洗濯やドライクリーニング、アイロンやプレスなど熱処理によって発生することがあります。また、時として、気温の変化によっても生じることがあります。硬化の品質事故例を表3に紹介します。

    表3 アパレル製品の硬化による品質事故例
    品質事故例
    1合成皮革製ジャンパーをドライクリーニングしたら、生地が硬くなった。生地はポリエステル100%で、表面が樹脂コーティングされていた。
    2天然皮革製ジャケット(ムートン製)を汚れたので軽く水洗いし乾燥したら、風合いが硬くなった。
    3厳冬期に屋外でジャケットを着用したら、風合いがバリバリになっていた。
    4コーデュロイパンツを着用洗濯したら、毛乱れして、光沢感が変化した。


    1. 合成皮革製品の硬化
       一般に、合成皮革とは基布(織物・ニット・不織布)表面に、樹脂をコーティングした素材です。ポリウレタン樹脂を表コーティングしているため、つるっとした光沢感が特徴です。また、衣料用素材に使用される樹脂は、わが国ではポリウレタン樹脂が主流ですが、海外ではポリ塩化ビニル樹脂も一部使用されています。この樹脂タイプの違いが、衣料品の性能に大きく影響を与えることをご承知ください。

      (1)ポリ塩化ビニル樹脂について
       ポリ塩化ビニル樹脂は現在も水道管などに使われているように、もともと材質的には硬い樹脂です。この樹脂に可塑(かそ)剤()を加えて、柔らかいポリ塩化ビニル樹脂が作られますが、ドライ溶剤によって可塑剤が溶出し、樹脂が本来の硬い風合いに戻る弱点があります。また、ポリ塩化ビニル樹脂は、可塑剤の存在によって、冬期など低温で硬化する弱点もあります。表4では、ポリウレタン樹脂とポリ塩化ビニル樹脂の風合い変化に関連する性能をまとめています。
       ※可塑剤: 材料に柔軟性を付与し、加工をしやすくするために添加する物質のこと

      表4 樹脂の性能
      樹脂の種類耐ドライクリーニング
      溶剤性
      耐低温性
      ポリウレタン
      樹脂
      ポリ塩化ビニル
      樹脂
      ×硬化あり×硬化あり


      (2)合成皮革製品の品質表示・取扱い表示
       家庭用品品質表示法の繊維製品品質表示規定では、織物やニットに表示する繊維名を規定していますが、樹脂の種類までは表示義務がありません。しかし、表4のように樹脂性能に大きな違いがある場合は、任意ですが樹脂名を併記することが望ましいでしょう。また、クリーニング店でも、生地を見ただけでコーティング樹脂を特定するのは難しく、ポリ塩化ビニル樹脂の場合は取扱い表示で「ドライクリーニング不可」とすることが必須であることは言うまでもありません。図1は、合成皮革製品の樹脂名記載有無の表示例を紹介しています。

      樹脂名記載 なし
      ポリエステル 100%
      樹脂名記載 あり
      ポリエステル 100%
      (ポリウレタン樹脂加工)
      ポリエステル 100%
      (ポリ塩化ビニル樹脂加工)

      図1 合成皮革製品の組成表示例



       わが国では、衣料用途素材に塩ビコーティングを使用することは(まれ)ですが、海外からの輸入品には塩ビ加工品が一定数あるようです。また、国産材料であっても、もともとインテリア用途の素材を衣料品に転用されることもありますので、この点は仕入れ先にご確認ください。
       アパレルメーカーや輸入商社は、輸入する合成皮革製品の樹脂タイプがポリ塩化ビニル樹脂か、ポリウレタン樹脂かをしっかり把握して、適切な表示を心がけてください。

      1. 取り扱い表示設定では、「商品性能」と「表示内容」は必ず一致させること。一致しない表示内容は、取扱いトラブルの一因になる。


    2. 天然皮革
      (1)天然皮革とは
       天然皮革は、動物の皮を用いた皮革ですが、動物の種類別には、牛革、豚革、羊革、山羊革、馬革などがあります。また、衣料用以外のカバン用などには、ダチョウ革(オーストリッチ)やワニ革などもあります。

      (2)皮と革の違いについて
       動物から採取した(なま)(かわ)は、そのままでは腐敗や乾燥による縮みなどが進行します。このため、特殊な薬剤によって腐敗を防ぐ「なめし工程」が必要です。なめし工程を経た皮は、「革」に変化します。また、この工程では、革に柔軟性を付与するために、油脂分を加えることがあります。

      1. 「皮」は、なめし工程をへて「革」に変化する。
      2. 「なめし」とは、皮の成分であるコラーゲンを、化学的に架橋結合させて皮の分子構造を安定化させ、強度を高めている。
      3. 天然皮革は、タンパク質が主成分のため、高温で縮むことがある。
      4. (かわ) ⇒(なめし工程)⇒ (かわ)

        skinまたはhide    leather



      ~なめし工程~
      なめし工程は、薬剤の種類により、タンニンなめし、クロムなめしなどがあります。漢字では、「鞣(なめし)」と書きますが、まさに「革へんに柔らかい」と書き、理解しやすい漢字です。


      (3)天然皮革製品の硬化
       天然皮革製品の硬化事故の原因には、次のことが考えられます。
      1. ドライクリーニングによって、なめし工程で付与されていた加脂剤が溶出し、皮革風合いが硬化した。 これは、1.1で紹介したポリ塩化ビニル樹脂の可塑剤溶出のメカニズムと同じイメージです。
      2. 着用や洗濯時に過度な高温が加わり、熱収縮が発生した。例えば、濡れた天然皮革製スキーグローブをストーブのすぐ近くで乾燥させると、縮みとともに風合いの硬化が生じることがあります。


      (4)天然皮革製品のメンテナンス
       これまでの説明の通り、天然皮革は、①ドライクリーニングで硬化したり、②高温で収縮し硬化する性質があります。また、主成分がタンパク質のコラーゲンは、高温の染色が難しいことから、染色堅ろう度(特に洗濯堅ろう度や摩擦堅ろう度など)を繊維製品のように維持するのが難しい状況です。したがって、基本的には天然皮革製品のメンテナンスは、水洗いもドライクリーニングも難しく、専門業者による特殊な処理をお願いするのが一般的です。
       ちなみに皮革製品は、「家庭用品品質表示法」の「雑貨工業品品質表示規程」によるルールにしたがって表示されています。天然皮革や合成皮革の商品企画・生産を担当される方々は、是非この「雑貨工業品品質表示規程」をご確認ください。


  2. 光沢変化
     光沢変化とは、生地表面の状態の変化により、光の反射角が変化して生じる現象です。特に毛(ウール)織物素材は、繰り返しの摩擦によりスケール(鱗片)が脱落し、生地表面が変化することにより光沢変化が発生しやすいと言われています。具体的に品質事故事例を表5に紹介します。

    表5 光沢変化による品質事故例
    品質事故例現象
    1ウール100% 濃色スラックス(織物製)
    長期間の着用で、尻部やポケット口などに光沢が発生した。
    てかり
    2ウール100% 濃色スラックス(織物製)
    クリーニング後、縫い目部分に光沢が発生していた。
    あたり
    ※※
    てかり・・・着用時の摩擦などで、厚さの現象、表面の平板化などにより、光沢が変化する現象
    ※※あたり・・アイロンやプレス掛けなどにより、特に縫い目部分の光沢が変化する現象

    1. ウール製品の光沢変化
       前回第49回アパレル散歩道1.3フェルト収縮で紹介した通り、ウール繊維はスケール(鱗片)で覆われていますが、そのスケールが着用による摩擦やアイロン・プレスによる摩擦や圧迫によって脱落し、その部分の光沢感が変化することがあります。これらの対策を表6に紹介します。

      表6 ウール製品 光沢変化の対策
      対策例
      1消費者に対して、ウール素材の長所や短所などの特性について情報発信する
      2消費者に対して、着用後こまめにブラッシングやスチームアイロン処理をするように情報発信する
      3ウール100%ではなくウール混(合繊混用)素材への変更を企画時に検討し、商品化する
      4脱スケール加工した毛繊素材を使用した生地を採用する
      ただし、生地の風合いは変化する可能性がある


    2. 立毛素材製品の光沢変化
       綿のコーデュロイやベルベットなどの立毛素材製品は、着用中の摩擦や保管中の圧迫で毛乱れが生じて、生地の光沢感が変化することがあります。消費者に対しては、「使用後はブラッシングして毛並みを整える」などの情報提供が必要です。

      図2 コーデュロイ生地外観の例
      図2 コーデュロイ生地外観の例

      図3 組織例
      図3 組織例1)



  3. (参考資料)
    1)竹松茂:実用織編物の基礎知識P24,(株)色染社

(次回のアパレル散歩道 / 4月1日発行)

次回は、「ケーススタディ ⑦変退色 (その1)」を取り上げます。

コラム : アパレル散歩道51
~品質事故を分析して原因と対策を考えよう~
テーマ : ケーススタディ⑦ ~変退色(その1)~


発行元:一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp     URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。



社外経歴
(一社)日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
(一社)日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部幹事
大学非常勤講師
(一社)日本繊維製品消費科学会 元副会長

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