アパレル散歩道

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第14回 :人材教育について

2021/03/01

アパレル散歩道 繊維製品の品質事故はなぜなくならないのか

2021.3.1

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 今回は、品質管理、品質保証体制などアパレル企業活動を支える人材教育の話をしたいと思います。会社に入って最初から、繊維やアパレルについて多くの知識を持っている人などは、途中入社でない限りまず皆無でしょう。企業活動で最も大切な要素のひとつは、やはり「人」です。効率よく関連した商品知識を吸収し、関連部署や仕入れ先と情報交換して、本人はじめスタッフがスパイラルアップできることが望まれます。

                   
1.アパレルメーカーの人材と職種
 アパレルメーカーには、消費者ニーズにかなった商品を、多くの消費者に販売する目的で、多くの職種の方が働いています。表1には、主にものつくりに関わる職種を中心にピックアップしています。個々の会社によっては、部門や職種の名称などは異なることもありますが、概ねこのような職種があることをご理解ください。また、いずれの職種も単独の業務でなく、関連部署との適切な連携が必要なことはいうまでもありません。

表1.ものつくりに関わるアパレルメーカーの職種

                      
1.1品質管理、品質保証担当者に求められる資質
 品質保証業務とは、前回の第13回コラムでも申し上げましたが、消費者に対して、製品の品質や機能を保証(請け合う)することです。少なくとも、担当者は、商品の品質や機能性などをひと通り熟知していることが求められます。業務シーンを挙げると、商品企画部門に企画変更を要請する仕入先や商社と品質基準に基づく材料打ち合わせをする品質表示や機能性表示をチェックするお客様相談窓口に商品クレームでアドバイスをするなど多くのシーンで、この品質管理の知識や知見がないと、どうにもこうにも話が進まない事態が生じることがあります。やはり、まずは人材でしょう。

                

1.2 繊維製品、衣料品の品質管理の難しさ
 繊維製品品の品質管理は、他の金属製品やプラスチック素材に比べて、とても難しいところが多いと長年感じています。例えば、衣料品は水にぬれると縮む熱で融けたり縮んだりする水や溶剤で色落ちしやすいニット製品は伸びやすいなど、金属やプラスチックでは、まず考えにくい変化や劣化が存在します。しかも、ひとくちに水に濡れると縮むといっても、天然繊維と合成繊維や混紡品では縮みの程度も違うだろうし、天然繊維といっても綿とウールも縮みの程度は異なっているわけです。繊維製品は伸びたり縮んだり、融けたり、変色したり、例を挙げると枚挙にいとまがありません。
 このため、我が国の本格的なアパレル産業が勃興した1960年代から、品質管理の先輩たちは、これらの繊維製品の特性を理解して、品質管理項目に多くの染色堅ろう度項目や物性項目を導入して品質管理を具体的に容易になるように工夫して現在に至っています。さて、2020年代に生きる皆さんは、「なぜこのような試験方法が決められたのか」などの背景をよく理解し、次の世代に繋げるためには、多種多様の繊維素材や衣料品の特性を十分に理解していただきたいと思います。また、以前はなかった機能性、安全性、環境対策などの知識もこれからの品質管理担当には不可欠な内容であり、これらの知識も併せて身につけて、品質管理・品質保証業務に取り組んで欲しいと思います。

  1. 社内、対外折衝業務に、材料・製品知識はあればあるほど役に立つ。
  2. 机上の知識だけでなく、現場の知識・経験もあればなおよい。

         

1.3 効果的な商品知識向上策について
 効果的かつ短期間に個人や会社組織の商品知識レベルを高める方策や参考図書を紹介します。あくまでも、私のこれまでの経験に基づいていますので、過不足もあると思いますが、ご了承ください。

                 

1.3.1 繊維製品品質管理士(TES)資格制度の活用

 (1)繊維製品品質管理士とは?

 繊維製品品質管理士(Textiles Evaluation Specialist=TES、主催:一般社団法人日本衣料管理協会)は、昭和56年度に生まれたもので、消費者に供給される繊維製品の品質・性能の向上を図り、繊維製品の品質について消費者から品質事故が出ないように、それらの製品の製造や販売を行う企業のなかで活躍するスペシャリストのことです。その目的は企業活動の合理化、消費者利益の保護、企業と消費者の信頼関係の改善にあるとされています。
 この試験制度がはじまって40年近く経過し、これまで約8200人の合格者がでて、現在も多くの資格者が繊維・アパレル業界で活躍しています。多くの資格者が名刺に「繊維製品品質管理士」と書かれていますね。

                       
 (2)試験制度の内容
 毎年7月に、全国(東京、大阪、名古屋、福井、岡山)で試験が開催されます。試験科目は5科目で、合格した科目は4年間有効となり、5科目に合格すると同資格が与えられます。


(参考URL http://www.tes-shikaku.jp/work-tes/work-tes.html)

 個人でも、会社でも、「商品知識を高める勉強を至急しなさい」と言われてもなかなか難しい現実があります。そのような時、この資格取得制度を活用し、個人も会社も、人材のレベルアップを図るには有効な対策です。会社も、品質事故リスクを低減するための経費として、社員に投資する価値は十分あるものと考えます。

                   

表2.TES資格者の多いアパレルメーカー
表3.TES資格者の多い繊維商社
表4.TES資格試験の5科目

1.3.2 繊維、アパレル関係の業界新聞

 繊維・アパレル業界新聞として、「繊維ニュース」・「繊研新聞」などを紹介します。いずれも日刊紙で、日々変化する業界情報が入手できます。会社で購読していれば積極的に読む習慣をつけてください。また、個人でも購読契約すれば自宅に配達されます。

                   

1.3.3 繊維学会、日本繊維機械学会、日本繊維製品消費科学会
 わが国には、繊維・アパレル関係で、(一社)繊維学会、(一社)日本繊維機械学会、(一社)日本繊維製品消費科学会の3学会があります。それぞれの学会では、イベントや講演会が開催されており、非会員であっても参加できるセミナーもあります。一度、学会ホームページをのぞいてください。

表5. 業界の学会について

1.3.4 各種業界団体
 繊維・アパレル業界で、繊維や商品知識、また品質管理を研修できる業界団体を以下に紹介します。必要に応じて、ホームページで情報収集していただきたいと思います。

表6. 業界団体について

1.3.5 参考図書の紹介
 個人や会社で勉強される時の参考図書を以下に紹介します。なお、⑤⑥は、1.3.1の繊維製品品質管理士(TES)資格試験の参考図書です。

表7. 参考図書について

 

1.4 人材の重要性

 品質管理業務、品質保証業務を推進するには、①人材、②基準やマニュアルなどのツール、③運用ルールがいずれも大切です。しっかりした会社組織を作り、基準やマニュアルも制定し運用ルールを作っても、これを使いこなす人材がいないと、「仏像を作って魂入れず」や「画竜点睛を欠く」ことになります。
ぜひとも、このようなことのないようにしたいものです。

                      

<次回のコラムについて> 

 次回は、アパレル製品の安全のリスクマネジメントと対策について話をしたいと思います。コロナ感染後も、アパレル製品の安全安心は引き続き求められます。引き続き、勉強しましょう。

コラム : アパレル散歩道⑮
~繊維製品の品質苦情はなぜなくならないのか~
テーマ : アパレル製品の安全安心について

               

発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター マーケティンググループ 企画広報課

E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

                  

Profile:清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)  

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。

社外経歴
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長
日本繊維技術士センター執行役員 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会常任委員 TES会西日本支部代表幹事

               

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