2015/08/15
No. 46 「注染の工房で手拭染体験をしてきました…」
思いつきラボ
2016/05/15
繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。
※2016年5月15日時点の内容です。
5月5日は端午の節句で、こどもの日の祝日となっています。端午の節句の慣習として鯉のぼりを飾るのですが、先日何気にパンプレットを見ていたら“ジャカード織の鯉のぼり”の文字が目にとまりました。なんと手描き染や捺染プリントではなく、糸染めの鯉のぼりがあったとは・・・とよくよく説明を読むと、確かにジャカード織物ではあるものの、無地柄(むじがら)の上に通常の鯉のプリントが施(ほどこ)されているものでした。
「それがどうした」という声が聞こえてきそうですが 先染めの鯉のぼりがあったらちょっと面白いかなと・・・そんなお話しです。
現在、世の中に出回っている一般的な鯉のぼりは、素材がポリエステルかナイロンで織組織はタフタ(平織)かサテン(朱子織)で、鯉の図柄は手描き染か捺染プリントが主流です。残念ながら先染めのものは見当たりません。(別に残念ではないですが・・・)。
そもそもジャカード織機が開発されたのが 1801年で、日本に入ってきたのが明治維新(1868年)以降になります。江戸時代に武家社会で広まった頃は空になびかせる吹流し(ふきながし)タイプのものはなく、幟旗(のぼりばた)に鯉の滝登りの図柄が描かれていたのが始まりとされています。
武家社会ですので素材は“絹”で、この頃はまだ複雑な捺染は主流ではなかったので“手書き染め”と推測されます。庶民に広まったときは庶民が“絹”を使うことは贅沢とされていたので、“綿”や“麻”に置き換わっていったと考えられますが、いずれにせよ現代に至るまで鯉のぼりを先染めで造ることなど発想すらなかった・・・というか必要性がなかったということになります。
幟旗から 4 ~ 5 メートルの吹流しに変わってしまうとさらに造るのが難しくなります。特殊なジャカード織機であれば 5m くらいの柄も織ることは可能ですが、やはりプリントで造ったほうがメリットが多いということのようです。
せっかくなので鯉のぼりに求められる条件を考えてみましょう。
・吹流しにするには軽くて柔らかな素材が好ましい
・白地の部分は裏糸が色糸でないほうがきれいに見える
・図柄にぼかしやグラデーションを入れたほうがリアル感がある
・長いもので 7m くらいの大きさのものもある など
となれば、まず軽いものにするためには、細番手で風で膨らむようにするのにはある程度の密度の詰まったものがのぞましくなります。泳いでいるように見えるように、柔らかい糸のほうが風になびく姿もしなやかになります。次に白地の部分に色糸出さないのであれば、それはプリントの方がいいことになります。
薄い生地であれば裏糸の色が写ってしまいますので、プリントの特徴が生かせます。図柄にぼかしやグラデーションとなると、これもプリントの方が簡単にできます。7mほどの大きさとなると、プリントでも特殊なものになりますが、横方向にプリントできる設備であれば可能です。手書き染めならどれだけ長くても設備があれば問題ありませんが、絵描き職人さんの技と生産効率を考えるとかなり割高なものになってしまいます。
結局のところ、鯉のぼりはプリント手法を用いたもののほうが実用性があるということなのです。あらためて言うことでもなかったようですが、ときどきこのような「それがどうした」原稿で当たり前に思っていることを見直してみましょう。まれに新たな発見をすることがあるものなのです。
話は変わりますが、いまではイベント用として“ジンベイザメのぼり”や“カツオのぼり”“マグロのぼり”など変わりのぼりも多く造られているというニュースが流れていました。都心では幟竿(のぼりざお)を立てられるような広い庭付きの家も少ないので、吹流しの鯉のぼりを見る機会も減りましたが、川や谷にロープを張って 100匹以上の鯉のぼりを飾るところも増えているようです。男の子の健やかな成長を願う風習ですが、季節感のある行事なのでこれからも続くことを願いたいものです。
また話が変わりますが、この時期に毎年保険会社のアンケートで“子供の将来の夢”が発表されますが、小学生では男の子はサッカーや野球選手が相変わらず上位を占め、続いて警察官や乗り物の運転手、建築家となっていて、女の子はというと食べ物屋さんが 1位で、幼稚園の先生や看護師やお医者さんが上位を占める結果になっていました。
例年と同じ様な結果ではあるのですが、宇宙士やゲームプログラマーなどと時代を反映する職業を答える子供たちもいるそうです。
また園児を対象にしたものでは、男の子はなんとかレンジャーの戦隊ヒーローがトップで、女の子もテレビアニメの妖精戦士やディズニーのエルサやアリエルが憧れになっているようです。 いつの時代もテレビのヒーローやアニメのお姫様願望は同じようなので、ある意味安心します。
ディズニーもシンデレラや白雪姫からエルサやアリエルとお姫様の名前が変わってはいますが、王子様が迎えに来てくれるというストーリーに夢見る子供心は文明の進化とはあまり関係ないようです。
こどもの日には“ウォルト・ディズニー”にも感謝したい気になります。筆者もディズニーアニメには夢中になったものです。もちろん憧れたのはプリンセスを迎えに行く白馬に乗った王子様の白馬に・・・。
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