2016/03/15
No. 60 「東日本大震災から 5年の月日が経過しました…」
思いつきラボ
2018/03/15
繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。
※2018年3月15日時点の内容です。
3月 11日を迎えたことで、東日本大震災から7年の時間が経過しました。テレビや新聞の特集も多く組まれていましたが、地震・津波の災害に対しては復興・復旧のスピードはともかくとしても、少しずつ進められているという報道になっている感じで受け止められました。ただ、原発被害による復興はまだほとんど手つかずという印象になっています。福島原子炉・廃炉・解体作業もまだ試行錯誤の段階で、廃炉計画も立てられない状況になっています。計画が出たとしても 30~ 40年の時間を要するとのことなので不安が解消されることは難しいようです。
放射性物質の説明もされているのですが、東日本大震災で放射性物質として報道されている元素がセシウム(Cs)・ストロンチウム(Sr)・ヨウ素(I)なのですが、通常のセシウム・ストロンチウム・ヨウ素が放射性物質ということではありません。元素には本来安定した状態でいられる元素とバランスのくずれた状態の元素が同じ元素の中に存在します。安定同位体と放射性同位体と呼ばれるものです。
元素について整理しておきますと
・元素は原子核と軌道電子によって構成されていて軌道電子の数と元素番号は同じである。
・原子核は陽子と中性子によって構成されていてこの中性子の数が異なるものがある。言い換えると同じ元素でも中性子の数が異なるものが存在するということである。
・元素の中で陽子と中性子の合計数が異なるものを同位体として区分している。
・同位体には陽子と中性子のバランスがとれている安定同位体とバランスのくずれた放射性同位体とがある。
ということになります。
この放射性同位体が放射性物質と呼ばれるものなのです。今回問題となっている放射性物質として報道されているセシウム134・セシウム137・ストロンチウム90・ヨウ素131 は放射性同位体に区分されるものなので、放射性物質ということになります。通常のセシウムはセシウム133で安定同位体で、ストロンチウムはストロンチウム88で安定同位体、ヨウ素は ヨウ素127で安定同位体となっています。
ということで、セシウム・ストロンチウム・ヨウ素が放射性物質ということはありません。
整理したもののまだややこしいかもしれませんが、身近なヨウ素を例に挙げますと、ヨウ素のアルコール溶液が消毒液として使われている“ヨードチンキ” なので、放射性物質でないことが理解できると思います。蓄光材や花火に使われているストロンチウムも放射性物質であれば使うこともできません。
「ストロンチウムは放射性元素ですか?」という質問に対しては、
「違います」という答えになります。
「ストロンチウム 90 は放射性物質ですか?」という質問に対しての答えは、
「そうです」ということになります。
安全素材に使用される蓄光原料に“ストロンチウム”が含まれているので安全なのか、という問い合わせがあるのですが、安定同位体のストロンチウムを使っているので問題はありません。
では“放射性元素”と呼ばれるものはどういう区分になっているかと言いますと、“安定同位体を持たない元素”のことを放射性元素と呼びます。ウラン(U) やラジウム(Ra) などが一般的にいわれる放射性元素になります。安定同位体を持っているほとんどの元素は、通常では放射性同位体にはなりません。理解しにくいテーマになっていますが、同じ元素でも放射性物質のものとそうでないものがあるということと、通常の元素名だけで使われるときは、安定同位体のことで放射性物質でないと認識してください。
もうひとつ「もともと核燃料にストロンチウムが使われているのか?」という質問がありましたが、答えは「使われていません」となるのですが、ウランが核分裂したときの生成物でストロンチウムとキセノン(Xe)になることがあります。
ここで生成されたストロンチウムは放射性同位体となりますので、このストロンチウムは放射性物質ということになります。理解しにくいとは思いますが、福島原発事故で発生したセシウム・ストロンチウム・ヨウ素は放射性同位体で放射性物質ですが、通常のセシウム・ストロンチウム・ヨウ素は放射性物質ではありません。
最後に放射能関連の報道でよく指摘されているものを紹介しておきますと、東日本大震災の直後の報道で
「放射能に汚染された稲わら・・・」
「放射能を浴びた牛・・・」
という表現が大手新聞社やテレビニュースで頻繁に使われていました。「放射能」という単語は本来 放射線を出す性質や能力のことなので
「放射線を出す性質に汚染された稲わら・・・」
「放射線を出す能力を浴びた牛・・・」
という意味になってしまいます。
「放射性物質に汚染された稲わら・・・」
「放射線を浴びた牛・・・」
のほうが正しいのですが、聞いてる方も違和感を感じにくいのか当時はよく指摘をうけてお詫びの記事や訂正がよくされていました。
今回のテーマは理解しにくい原稿になったかもしれませんが 3月11日のできごとを忘れないように取り上げさせてもらいました。
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