2022/07/01
化粧品の基礎知識 / 第2回:小売りのメリット・デメリット
おさえておきたい基礎知識
2026/06/25
梅雨が本格化し、じめじめとした季節がやってきました。この時期、アパレル・繊維業界では、製品の「におい」に関する問い合わせが増える傾向があります。
繊維製品における製造・保管時のにおいは、出荷後の大きな品質トラブルにつながることも少なくありません。しかし、においは目に見えず、感じ方にも個人差があるため、「不良品かどうか」の判断が難しい品質課題のひとつです。

図1:トラブルを引き起こす「におい」問題
そこで近年注目されているのが、あいまいな「におい」を化学成分として捉え、客観的に評価する「におい分析」です。今回の「化学物質のいろは」では、においに関するトラブルやクレーム対応に役立つ視点から、「におい分析」の基本と活用方法をわかりやすく解説します。
一口に「におい」といっても、その感じ方はさまざまです。一般に、不快に感じるにおいを「臭気」、心地よいにおいを「香気」と呼びます。
特に繊維製品では、不快な臭気がクレームにつながるケースも少なくありません。梅雨から夏場にかけては、温度や湿度の上昇によってにおいを感じやすくなり、カビなどによる異臭も発生しやすくなるため、問い合わせが増加する傾向があります。
臭気の発生源を特定することは容易ではありません。例えば、寝具やバッグには複数の部材が使用され、それぞれ異なるメーカーが製造しているケースも多くあります。そのため、どの部材が原因なのかを突き止めることが難しくなります。
また、臭気は原料由来だけでなく、加工工程で使用する薬剤、熱処理、包装材、輸送・保管環境など、さまざまな要因によって発生します。
製造から流通まで、あらゆる工程で発生する可能性があるからこそ、においを客観的に評価することが重要です。
においを評価する方法は、大きく「官能試験」と「成分分析」の2つに分けられます。
官能試験は、人が実際ににおいを嗅いで評価する方法です。一方、成分分析は、においの原因となる化学物質を分析装置で定性・定量する方法です。
パネラーが実際ににおいを嗅ぎ、強度を5段階で評価します。カビ臭、ガソリン臭、魚臭、溶剤臭、香料臭など、においの種類にも着目して判定を行います。
カーペットやマットレスなどの大型製品については、スイス規格「SNR 195 651」に基づく評価を実施します。
におい分析で重要なのは、実際の使用環境を再現して、適切な条件でにおい成分を抽出することです。サンプルの使用状況や保管環境、特に温湿度条件を確認し、実際ににおいを感じる状況をできるだけ再現します。例えば、サンプルをテドラーバッグ※1やチャンバー※2に入れ、一定の温湿度条件下で保持した後、発生した揮発性ガスを捕集します。
※1 テドラーバッグ:気体(ガス)採取・分析用のサンプリングバッグです。
※2 チャンバー:温湿度や圧力などの環境条件を精密に制御・再現できる密閉された空間や容器のことです。外乱要因を排除し、特定の環境下で製品、部材などから発生する揮発性ガスを捕集するために用いられます。
代表的な分析装置として、加熱脱着分析装置TD-GC/MS(図2)があります。サンプルから発生した揮発性ガスを吸着剤入りの捕集管に導入し、加熱脱着によって成分を放出・濃縮した後、GC-MSで測定します。得られたデータを専用ソフトで解析し、におい成分データベースと照合することで、異臭に関連する化合物を推定します。

図2:加熱脱着分析装置TD-GC/MS
例えば、カビ臭の原因物質として知られるジェオスミン(CAS:19700-21-1)などが代表的な臭気成分です。このような臭気成分は、クロマトグラム※3上にピークとして現れます(図3)。

図3:におい成分クロマトグラム解析イメージ
※3 クロマトグラム:混合物を成分ごとに分離する分析手法(クロマトグラフィー)を行った際に、検出された成分の量や割合を時間的な変化として記録したグラフやチャートのことです。
また、におい分析は異臭トラブルだけでなく、「香気」の評価にも活用できます。測定結果を香気成分データベースと照合することで、「柑橘系」「甘い香り」といった香りの特徴を可視化することも可能です。(表1)
表1:香りの印象の可視化イメージ
| 一致率 | 化合物名 | Charactor |
| 81 | Acetal | クリーミー |
| 91 | Myrcene | balsamic |
| 93 | octanal | almond |
| 78 | p-Cymene | carrot top |
| 97 | (+)-limonene | 柑橘 |
| 95 | Cineole | balsamic |
| 86 | 3-carene | citrus fruit |
| 70 | Cymenene | camphor-like |
| 98 | Linalool | althea |
ニッセンケンのにおい成分データベースには、代表的な臭気・香気成分をはじめ、多様なにおいに関する情報が収載されており、幅広いにおい成分の特定や評価に活用されています。(表2)
表2:代表的なにおいと関連成分・発生要因の例
| 感じるにおい | 成分例 | 要因例 |
| 古い油臭 | ノネナール | 油脂酸化、長期保管 |
| 酸っぱい臭い、汗臭 | イソ吉草酸 | 汗や微生物由来 |
| カビ臭、土臭 | ジェオスミン | 湿潤環境、微生物由来 |
| 魚臭、アミン臭 | トリメチルアミン | 加工剤、保管環境等 |
| 柑橘臭 | リモネン | 香料、洗剤・柔軟剤等 |
| バニラ様の甘い香り | バニリン | 香料、紙・段ボール由来成分 (リグニン由来) |
さらに、分析で検出された成分は、におい以外の品質トラブル解決にも役立ちます。例えば、「バニリン(CAS:121-33-5)」は段ボールなどに含まれるリグニンの分解によって発生する成分で、長期保管中の製品に黄変を引き起こす原因となる場合があります。
「分析では成分が検出されたのに、においを感じない」「においは感じるのに、分析では原因物質が見つからない」こうしたケースは珍しくありません。主な理由として、次の3つが挙げられます。
①物質によって、人が感知できる最低濃度(嗅覚閾値)は大きく異なります。例えば、イソ吉草酸(CAS:503-74-2)は嗅覚閾値が低く、微量の検出であっても強い臭気として認識されることがあります。
②実際のにおいは、複数の成分が混在する「複合臭」であることが多く、成分同士の相乗効果や相殺効果により、個々の成分が持つにおいの特徴とは異なる印象を与えることがあります。例えば、官能試験では柑橘臭のみが認識された一方で、成分分析では柑橘臭関連成分に加え、複数の臭気成分が検出された事例もあります。
③人間の感覚は、刺激の強さの対数に比例する「ウェーバー・フェヒナーの法則※4」に従うため、成分濃度と知覚されるにおいの強さは比例関係にありません。例えば、成分濃度が10倍に増加しても、知覚されるにおいの強さは2倍程度にしか感じられないことがあります。
このように、官能試験と成分分析はそれぞれ異なる特性を持っています。人が実際に不快と感じるかどうかを評価するには官能試験が、原因物質の特定や対策立案には成分分析が有効です。目的に応じて両者を組み合わせることで、より精度の高い評価が可能になります。
※4 ウェーバー・フェヒナーの法則:人間の感覚(明るさ、音の大きさ、重さなど)の大きさが、受ける刺激の強さの「対数」に比例するという法則です。感覚は刺激の絶対量ではなく「変化の割合(比率)」で判断されるため、大きな刺激に対しては鈍感になるのが特徴です。
①原因特定:部材ごとに分析し、においの発生源を特定する
②効果確認:対策前後の変化を比較し、改善効果を検証する
③品質基準の策定:客観的データに基づき、出荷基準を設定する
④付加価値向上:香りの持続性や経時変化を評価し、製品価値を高める
これからの季節、増加する「におい」に関する問い合わせ。ニッセンケンでは、官能試験によるにおいの強度評価から、におい成分データベースを活用した臭気・香気成分分析まで、一貫した評価サービスを提供しています。においは感覚的な問題と思われがちですが、官能評価と成分分析を組み合わせることで、原因究明や対策検討に役立つ客観的な情報を得ることができます。異臭トラブルの原因調査や香りの評価でお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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ライフ アンド ヘルス事業本部 化学試験事業部
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