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おさえておきたい基礎知識
2025/12/25

年の瀬も迫り、街のきらめくイルミネーションが心を温めてくれる季節となりました。
さて、近年世界的に大きな関心を集め、繊維業界でも耳にしない日はない化学物質「PFAS」。日本では水道水からの検出が大きな話題となりました。撥水加工の衣類やフッ素加工の調理器具、化粧品など、私たちの身近な製品にも広く使用されてきましたが、環境汚染や健康への影響が懸念され、世界各国で規制が急速に進んでいます。特に欧州の中でも環境規制において先進的な立場にあるフランスでは、2025年2月に、繊維業界へ大きな影響を及ぼす法律が発表されました。これを受け、エコテックス®各認証の基準においても、2026年からPFASに関する規制値が大幅に厳格化される予定です。
今回の「化学物質のいろは」では、2026年の規制強化を見据え、PFASの基礎知識から世界とフランスの最新規制動向までを、わかりやすく解説します。
PFASとは、炭素とフッ素の結合を含む有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物を総称した呼称で、一万種類以上の物質が存在するといわれています。なかでも、代表的な物質として知られるPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)およびPFOA(ペルフルオロオクタン酸)は、長年にわたり幅広い分野で使用されてきました。
表 1 代表的なPFASの構造式

PFASがこれほどまでに重宝されてきた背景は、次のような特性があります。
①撥水性・撥油性に優れる
②耐熱性が高い
③化学的に非常に安定で分解されにくい
これらはいずれも、他の化合物では代替が難しい特性とされています。
そのため、繊維製品分野ではアウトドアウェアやレインコート、スポーツウェアなどの撥水加工をはじめ、カーペットや家具の防汚加工などに広く使用されてきました。また化粧品分野においても、一部のウォータープルーフマスカラやファンデーションなどに使用され、汗や皮脂による化粧崩れを防ぐ役割を果たしてきました。
PFASは、その高い安定性ゆえに多くの製品で活用されてきました。しかし、メリットとされてきた“分解されにくさ”こそが、環境や人体に大きな影響を与えるとされています。
2000年頃、アメリカの大手化学メーカーであるデュポン社の工場周辺でPFAS汚染が発覚し、訴訟を通じて社会問題へと発展しました。その後、3M社がPFOSおよびPFOAの自主的な製造中止を発表したことに加え、デュポン社の訴訟を題材とした映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』の公開も相まって、PFASは世界的に注目されるようになりました。
加えてPFASが環境汚染の観点から問題視されている理由は、難分解性・高蓄積性・長距離移動性という特性を併せ持つためです。自然界でほとんど分解されないことから、「永遠の化学物質(Forever Chemical)」とも呼ばれ、環境中や野生生物、さらには人体への蓄積が懸念されています。さらに、水溶性であることに加え、一部の物質は揮発性も有するため、地下水や河川、水道水、大気などを通じて広範囲に拡散します。実際に、工場のない地域や北極・南極といった遠隔地での検出例も報告されています。
人体への影響については、現在も世界各国で研究が進められており、国際的に確立された評価には至っていません。ただし、PFOSおよびPFOAについては、動物実験において出生時体重の低下などが報告されています。発がん性に関しても、国際がん研究機関(IARC)が分類を公表していますが、ヒトにおける影響については依然として明確ではありません(詳細は食品安全委員会のQ&Aをご参照ください)。このほか、コレステロール値の上昇や免疫系への影響など、複数の影響が報告されています。
こうした有害性への懸念を背景に、PFASに対する規制は世界的に急速に拡大しています。これまで、PFOSやPFOAといった炭素鎖の長いPFASが特に問題視され、その代替として、短鎖のPFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)やPFHxA(ペルフルオロヘキサン酸)などが使用されてきました。しかし近年では、炭素数の長短にかかわらず、代替物質を含む幅広いPFASが規制対象とされる動きが強まっています。
▶残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)
PFOS、PFOA、PFHxSおよびそれらの塩・関連物質は、すでにPOPs条約の規制対象となっています。さらに2025年5月には、炭素数C9~21のLC-PFCAs(長鎖ペルフルオロカルボン酸)およびその塩・関連物質を、附属書A(廃絶)に追加することが決定されました。
▶日本(化学物質審査規制法:化審法)
POPs条約で規制対象とされているPFASは、日本の化審法においても第一種特定化学物質に指定されています。また、LC-PFCAsについても第一種特定化学物質への指定が進められており、政令の公布および施行は2026年以降となる見込みです。
▶欧州
欧州におけるPFAS規制は、単一の法律によるものではなく、REACH規則を中心に、EU POPs規則、用途別の個別規制(食品包装材、泡消火剤など)、水質基準、さらに加盟国独自の規制など、複数の仕組みを組み合わせて進められています。
これまで欧州では、個別のPFASごとに規制が進められてきました。しかし、代替物質を含めた管理が困難であることから、特定物質単位ではなく、PFAS全体を包括的に規制する方向が強まっています。現在、特に注目されているPFAS(いずれも塩・関連物質を含む)は以下のとおりです。
・LC- PFCA:C9-14 PFCAが2023年よりREACH規則附属書XVIIによる制限開始
・PFHxA: 2026年よりREACH規則附属書XVIIによる制限開始予定
・HFPO-DA(Gen-X)(ヘキサフルオロプロピレンオキシドダイマー酸): 2019年 SVHC追加
・PFBS(ペルフルオロブタンスルホン酸): 2020年 SVHC追加
・PFHpA(ペルフルオロヘプタン酸):2023年 SVHC追加
・FTPA(ペルフルオロトリプロピルアミン):2025年1月 SVHC追加
表 2 おもなPFASの規制動向
| おもなPFAS ※その塩・関連物質含む | 炭素数 | POPs条約 | 日本化審法 | 欧州 POPs規則・REACH規則 |
| PFOS ペルフルオロオクタンスルホン酸 | C8 | 規制済 (附属書B) | 規制済 (第一種特定化学物質) | EU POPs 規制済 |
| PFOA ペルフルオロオクタン酸 | C8 | 規制済 (附属書A) | 規制済 (第一種特定化学物質) | EU POPs 規制済 |
| PFHxS ペルフルオロヘキサンスルホン酸 | C6 | 規制済 (附属書A) | 規制済 (第一種特定化学物質) | EU POPs 規制済 |
| LC-PFCAs 長鎖ペルフルオロカルボン酸類 | C9-21 | 2025年 規制化決定 (附属書A) | 2026年以降 規制開始予定 (第一種特定化学物質) | REACH C9-14:規制済 |
| PFHxA ペルフルオロヘキサン酸 | C6 | – | – | REACH 2026年 規制開始予定 |
さらに、2023年にEU加盟5カ国から提出された「ユニバーサルPFAS制限提案」では、広範なPFASを包括的に規制する方針が示されています。本提案が採択された場合、約1万種類のPFASが段階的に市場から排除される可能性があります。現在、科学的および社会的影響の評価が進められており、最終決定は2026年以降になる見込みです。
2025年2月、フランスでは、PFASに関連するリスクから国民を保護することを目的とした独自の法律が発表されました。本法により、2026年1月から、PFASを含有する特定製品の製造、輸入、輸出および市場への投入が禁止されます。
規制の対象となる製品は、化粧品、スキー用ワックス、衣料用繊維製品および履物、ならびにそれらの防水剤です。さらに、2030年以降には、原則としてすべての繊維製品へと規制対象が拡大される予定です(※一部例外あり)。
こうした動きは、今後のEU全体の制度設計や、世界各国におけるPFAS規制の方向性に大きな影響を及ぼす可能性があります。
今年もニュースで大きく取り上げられたPFAS問題。フランスの新規制をはじめ、繊維・アパレル業界にとっても見逃せない動きが続きました。次回の「化学物質のいろは」では、こうした規制動向を踏まえ、実務に役立つポイントやエコテックス®における最新の規制動向について、より詳しくご紹介します。
また、2025年9月にスタートした公式Instagramでは、実際に海外通販サイトで購入した製品からPFASが検出された事例など、思わず気になる話題も発信しています。よろしければ、ぜひチェックしてみてください。
【有害化学物質に関するお問い合わせ先】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
ライフ アンド ヘルス事業本部 化学試験事業部
E-mail : oeko-tex@nissenken.or.jp
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