アパレル散歩道

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第67回 : 「テキスタイルと空気に関する性質」

2024/08/01

テキスタイルの特性を学ぼうアパレル散歩道 テキスタイルの特性を学ぼう
私たちが住む地球には、空気が存在します。この空気の存在は、地球の進化、そして動植物、人類の進化の過程で、大きな役割を果たしました。今回は、空気の存在が私たちの生活、とりわけ繊維、テキスタイル、衣料品などに及ぼす影響や効果を考えましょう。

2024.8.1

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  1. はじめに
     私たちが住む地球には、空気が存在します。この空気の存在は、地球の進化、そして動植物、人類の進化の過程で、大きな役割を果たしました。今回は、空気の存在が私たちの生活、とりわけ繊維、テキスタイル、衣料品などに及ぼす影響や効果を考えましょう。

  2. 空気とは

    1. 空気の成分
       空気は、表1のように窒素、酸素、二酸化炭素、アルゴンガスなどから構成されている混合気体です。窒素が空気全体の4/5、酸素が1/5を占めて、他には微量の二酸化炭素やアルゴンガスなどが存在しています。
       ちなみに、空気を構成する窒素や酸素も無色無臭のガスで、窒素は不活性なガスであるのに対して、酸素は酸化力()が強いガスです。仮に酸素100%の環境で紙などを燃やすと爆発的な燃焼現象が生じますが、幸い空気の4/5は不活性な窒素ガスであるため、燃焼は穏やかなものになっています。
       釘が錆びたり、繊維製品が劣化したり、お酒(アルコール)が酢になるのも、原因にはこの酸素の酸化力が関与しています。
      酸化(oxidation)は、物質と酸素が化学反応し化合する現象、あるいは物質が水素を奪われる化学反応のこと。

      表1 空気の構成
      気体の種類構成率(%)
      窒素78
      酸素21
      二酸化炭素
      アルゴンガス など
      1

      図1 空気のイメージ
      図1 空気のイメージ



    2. 空気と人間
       私たちは、酸素を体内に取り入れ、食物を酸化燃焼させエネルギーを産出し、その結果二酸化炭素を放出しています。一方、植物などは、二酸化炭素を取り入れて葉緑素で光合成を行い、逆に酸素を放出しています。動物と植物の共存的な生存システムは、サステナビリティの点でも大いに感心させられます。また、成分中の二酸化炭素は、構成比は極めて低いものの、近年急速な二酸化炭素の増大により地球温暖化が進んでいることは、周知のとおりです。

      酸素
      二酸化炭素
      人間と植物のガス交換のイメージ
      酸素
      二酸化炭素

      図2 人間と植物のガス交換のイメージ



    3. 空気の重量
       普段は感じませんが、空気にも重さがあります。空気1リットル(ℓ)の重さは、摂氏0度、1気圧で1.293 gとされています。このため、垂直方向に数十kmも空気が積み重なった地表表面では、地表の私たちにも大きな重さ(気圧)がかかっています。1気圧は1.033 kgf/cm²なので、地表では1 cm²あたり、約1 kgの物体が乗っているような力が加わっています。
       水が高い所から低い所へ流れるように、空気も気圧の高いところから低い所へ移動します。空気の移動速度(風速)が大きいほど、また人間が高速で移動しても大きな風圧が生じます。この風力を利用した例を挙げると、風力発電、航空機、鳥、こいのぼり、ヨットやウィンドサーフィン、風鈴などがあります。しかし、時として暴風などで木々や看板が破壊されることもあります。まさに「空気、恐るべし」というところです。

        ≪衣料と空気≫
        • 空気は気体で、質量があります。これを衣料品で考えると、婦人ドレスのしなやかなドレープ、夏期衣料の通気によるクーリング、またスキージャンプスーツの揚力など、衣料と空気との関連は枚挙にいとまがありません。
        • 空気は流体として移動すると、力(風力)が発生します。風力は質量と加速度の積で示されます。
        風力(F)=M(質量)×a(加速度)


  3. 空気の熱伝導率
     空気は熱を伝えにくい物質です。表2のように、金属はもちろん、水や各種繊維と比較しても、空気の熱伝導率は、けた違いに小さく水の約1/24となります。これまでアパレル散歩道 第7回 1.3第30回 3.6 (5)でも紹介したように、この空気の特性を生かして、多くの空気を含む羽毛製品、中わた製品、フリース衣料などの防寒衣料が企画開発されてきました。

    表2 空気の熱伝導率
    主な物質熱伝導率 (W/m・K)
    銅(金属)371
    コンクリート0.81
    ガラス0.76
    0.62
    ポリエステル0.157
    綿0.24
    0.15
    空気0.026


  4. テキスタイルと通気性
     アパレル製品は、その用途や目的によって、いろいろな通気性の大小の素材を採用しています。例えば夏物衣料では、テキスタイルの通気性はできるだけ大きく、また防寒衣料ではできるだけ通気性が少ないものを採用しています。
    (夏物衣料)
    • 温湿度の低い外気を衣服内に取り込む
    • 外気を取り込み汗の気化熱放散を促進する
    (冬物衣料)
    • 衣服内の暖かい空気を熱放散させない
    • 冷たい外気を衣服内に入れない

    図3 衣料で通気に関して期待されること


    1. カバーファクター(被覆度)について
       織物はたて糸とよこ糸で構成されています。また織物の規格は、糸種、糸繊度(糸の太さ)、打ち込み密度などで決められます。
       図4では、たて糸、よこ糸ともに同じ糸使い(糸種、太さ)で、打ち込み密度の異なる織物Aと織物Bを示しています。織物Bは密度()が緻密で、織物Aよりも生地全体が糸で被覆されています。緻密な織物は、堅ろうなしっかりした外観、目ずれ(スリップ)が生じにくい、透けにくい、通気性が小さいなどの特徴があります。このように、織物素材が、構成する糸によって占められている面積の割合をカバーファクターと呼び、被覆度とも呼ばれています。また、カバーファクターは、織物密度と糸繊度(太さ)の積で示されます。
      密度は、たて糸〇本/インチ、よこ糸〇本/インチで表現される。

      図4 織物の密度の違う素材 (イメージ)
      図4 織物の密度の違う素材 (イメージ)



    2. 通気性試験
       アパレル製品にとって通気性の大小は、企画する商品の用途や設計内容で決まります。同じアウトドア用の外衣であっても、春夏用と秋冬用では、表生地の通気性の大小の違いはあってしかるべきと考えます。
       さて、通気性の評価では、JIS L 1096のA法(フラジール形法)による試験機(図5~6)が広く使用されています。試験方法の概要は以下の通りです。
      1. 試験機のクランプに試験生地を取り付ける。(図5の赤い部分)
      2. 下部のモーターで傾斜形気圧計が125Paの圧力になるように空気を吸引し、その時の空気流量を垂直形気圧計で測定する。(図5の青色矢印が空気の流れ)
      3. 通気度の単位は cm³/cm²・secを求める。つまり、通気度とは、一定の差圧下で生地1cm²に1秒間に通過する空気量(cm³)のことである。

      図5 通気度試験機(フラジール形)の構造
      図5 通気度試験機(フラジール形)の構造

      「繊維製品の基礎知識 第2部 家庭用繊維製品の製造と品質」:
      一般社団法人日本衣料管理協会 P132 図5-11 引用と加筆

      図6 通気度試験機(フラジール形)
      図6 通気度試験機(フラジール形)

        ≪通気性測定の原理≫
        私たちは、普段、「この生地にはどの程度の通気性があるか」を簡易的に調べるために、生地を口に当てて軽く息を吹き、その時の通気の程度を調べています。
        フラジール形試験機も同様で、まず測定する生地の表裏に125Paの差圧を作り、その状態で得られる通気量を測定しています。
      ~カバーファクターの違いによる生地の特徴~
      1. カバーファクターの大きい織物…堅ろうでしっかりした外観 目ずれが生じにくい 透けにくい 通気性が小さい 保温性が高い など
      2. カバーファクターの小さい織物…組織が甘く柔らかい 目ずれが生じやすい 通気性が大きい 透けやすい など
      ニット素材でも、基本的には同様の傾向があります。


    3. 通気度とアパレル製品

      (1) 羽毛衣料のダウンプルーフ性
       ダウンプルーフ性とは、羽毛製品の生地表面から、羽毛の吹き出しを防ぐ性能のことです。羽毛は、アパレル散歩道 第32回 3.4で紹介の通り、ダウン、フェザー、ファイバーで構成されています。このうち、ダウンからちぎれたファイバーやスモールフェザーの羽軸が、生地裏面から突き出し、表面に飛び出すことがあります。
       このため、特に2層タイプのダウンジャケットでは、羽毛が抜け出さないように、ダウンプルーフ加工と呼ばれる特殊な目詰め加工が生地に施されています。この加工は、生地表面の目をつぶすことにより、生地の通気度を抑えて、羽毛の吹き出しを防止する効果があります。
       ちなみに家庭用品品質表示法における羽毛の表示は、ダウンとフェザー及び、「その他の羽毛」です。同表示法では、ファイバーはフェザーまたは「その他の羽毛」に含まれます。(図7参照)

      図7 羽毛の構成
      図7 羽毛の構成


      (2) ダウンプルーフ加工
       実際のダウンプルーフ加工では、織物の染色仕上げ後に、高温高圧カレンダー機で、表面を目つぶしして、生地の通気性を抑えています。ダウンジャケット用合繊織物の通気性の基準は1.0 cm³以下/cm²・secが目安となります。また、この時ダウンプルーフ加工により生地がペーパーライク化して、生機によっては、引き裂き強さが大きく低下することもありますのでご注意ください。

      (3) 合繊わたの吹き出し
       羽毛衣料以外に、合繊中わた製品でも、合繊ファイバー吹き出しのリスク対策のため、通気度による管理は実施されています。また、その別法として、バイリーン法とよばれる実用試験も行われています。これは、実際使用する合繊わたと生地を組み合わせて物理的にダメージを加え、どの程度の吹き出しが生じるか評価するものです。
       羽毛や合繊わたの吹き出しの程度は、生地と詰め物の組み合わせ(相性)で決まります。この点を踏まえて、着用試験、バイリーン法試験、通気度試験も含めて総合評価するのがよいと思います。
       試験方法(バイリーン法等)の詳細は、ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。
        ≪羽毛衣料の通気性管理≫
        密度の粗い生地で、カレンダー加工で、生地目をつぶして通気性を抑えている素材では、洗濯や着用で通気性が徐々に大きくなり、吹き出し事故につながることがあります。このため、洗濯後の通気性の管理も大切です。筆者も現職時代に同様のケースがあり1 cm³以下の通気度が、数回の着用洗濯で5cm³程度に増加してしまい、商品回収したことがあります。ぜひ、適切な密度の素材を使用して、品質基準に洗濯後の基準も設定することをお勧めします。
      ~合繊製の樹脂わた~
      わた入り衣料に使用されているポリエステルなどの「合繊わた」は、一般には樹脂で固められています。その樹脂量はさまざまで、樹脂量が多いと「わた切れ」や「吹き出し」などのリスクは低減しますが、「風合い」が硬くなります。また、特殊な合繊わたでは、樹脂を使用していないものもあります。


  5. 風力と空気抵抗
     冒頭、空気に重さがあり、空気の移動、あるいは物体などの移動によって風力が生じることを述べました。
     これらは、アパレル衣料にも影響を与えています。ここでは、スポーツ競技のスキージャンプとスキーダウンヒル競技のスーツでの風力や空気抵抗の対策例を紹介します。

    1. ジャンプスーツ

      (1) ジャンプ競技とは
       スキージャンプ競技は、ジャンプ台のスタート地点から助走し、踏切台を利用して飛び出し、着地するまでの飛行距離と飛形着地の美しさを競う競技です。図8のジャンプ台の形状が示すように、踏切で空中に飛び出したジャンパーは、上空に飛び出すのではなく、図8の矢印のような軌跡で、落ちながら斜面に着地しているのがわかります。つまりジャンプ競技とは、より遠くに落ちることにほかなりません。

      図8 ジャンプ台の断面形状とジャンパーの軌跡
      図8 ジャンプ台の断面形状とジャンパーの軌跡



      (2) ジャンプスーツに求められる要件
       図9はジャンパーの飛行姿勢のイメージですが、できるだけ遠くに落ちて着地するように、揚力ようりょくが求められます。ジャンプの板や着用しているジャンプスーツが風力を受けて、これが揚力につながります。したがって、スキー板の幅や長さが大きいほど、またジャンプスーツの投影面積が大きいほど揚力が大きくなります。
       しかし、現状では国際スキー連盟(以下、FIS)のルールで一定の規制があり、許容された範囲内での商品開発が行われています。一般にジャンプスーツは、3層ニットボンディング素材で作られて、表面生地は風力を受けやすい外観で、風力を揚力に変換しています。

      図9 スキージャンプの空気抵抗
      図9 スキージャンプの空気抵抗



    2. スキーダウンヒルスーツ
       冬期オリンピックにもあるダウンヒル競技は、山頂からほぼ直滑降で数㎞のコースを一気に滑り下りてタイムを競う競技です。選手は1/100秒でもより速くゴールすることが求められ、ダウンヒルスーツの空気抵抗や滑降時の姿勢がポイントになります。ジャンプ競技とは逆で、できるだけ風力の影響を少なくする考え方となり、特殊素材と立体裁断・カッティングで空気抵抗を軽減できるダウンヒルスーツが求められます。空気抵抗は、図10の式で求められます。

      空気抵抗 R=1/2×ρCSV²
      ρ : 空気の密度
      C : 抵抗係数(人体の姿勢・形状で決まる)
      S : 正面から見た選手の投影面積
      V : 滑走速度

      図10 空気抵抗を求める数式

      図11 スキーダウンヒルスーツの
風洞抵抗実験(クラウチング姿勢)
      図11
      スキーダウンヒルスーツの
      風洞抵抗実験(クラウチング姿勢)

       上式のように、空気抵抗は速度の二乗正面投影面積に比例することから、わずかの空気抵抗の増加が競技者の記録に影響を及ぼすことが予想され、一般に次のような対策が取られています。
      1. ダウンヒルスーツは、薄地でパワーのあるニット素材が使用されるが、選手の正面投影面積を少なくするため、サイズが小さめのものを着用することが多い。また立体裁断により姿勢を低く維持できるように設計されている。(玉子型のクラウチング姿勢)
      2. 選手は、滑走時も可能な限り正面投影面積を少なくするクラウチング姿勢が長時間とれるように、筋肉トレーニングなどをしている。
      3. 表生地については、表面素材の空気抵抗がミニマイズできる編み規格などを検討する。なお、表面のコーティングやラミネート加工は通気性低減に効果はあるが、転倒時の安全を考慮してFISのルールで禁止され、基本的にスーツ各部位の生地通気度で管理されている。


  6. おわりに
     私たちは、これまで、空気の持つ風力を効率よく最大に利用する技術、また風力の影響を軽減化する技術などを開発してきました。今後も、サステナブルな社会が求められる環境下で、引き続きそれらのさらなる技術開発がIT技術を活用して進展することを期待しています。


(第68回 アパレル散歩道の予告 – 2024年9月1日公開予定)

 次回は、『テキスタイルの特性を学ぼう』の8回目として、「静電気」を取り上げます。アパレル業界に携わる立場から、テキスタイル素材の特性を勉強しましょう。

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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