2020/08/15
第1回 : 自己紹介とこれからのコラム概要
アパレル散歩道
2021/06/01
2021.6.1
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今回のコラムは、アパレル製品の外観変化の代表である「ピリング」と「スナッグ」に焦点をあて、発生のメカニズムや対策を考えていきます。衣料品を購入し着用を続けていると、ふとポケット口や脇の下、尻部などに、毛玉や糸の飛び出しが目について、気が滅入る経験をされたこともあるでしょう。
今回、発生メカニズムと発生しやすい素材が判れば、それらに対する対策も可能と思われます。
- ピリングとスナッグとは
ピリングは、生地の表面が着用中に摩擦され、毛羽立って絡み合い、小さな球状の毛玉を生じる現象です。
図1.Ⓒのように短繊維からなる紡績糸はもともと毛羽立っており、この毛羽が擦れなど外的要因により絡まって毛玉が成長するものです。ということは、ピリングは短繊維のみに発生するのかといえばそうではなく、図1.Ⓑのように、もともと毛羽のない長繊維(フィラメント)で構成された生地が、着用中の擦れでフィラメント切れをおこして毛羽立ち、この毛羽が成長して毛玉になることもあります。
一方、スナッグは、主に長繊維(フィラメント糸)使いの生地に発生し、フィラメント切れによる毛羽立ちや、図1.Ⓐのように外部との接触による組織糸の飛び出しやループの突出、ひきつれ現象の総称となります。
図1.ピリングとスナッグの発生メカニズム
Ⓐ図2.スナッグの例
(ポリエステルフィラメント製シャツ)
Ⓑ図3.ピリングの例
(綿/ポリエステル紡績糸製ニットパンツ)
Ⓒ図4.スナッグによるフィラメント切れによる毛羽立ちから発生するピリングの例
(ポリエステルフィラメント製ニットジャージ)
- ピリング
ピリングの発生は、繊維の種類、糸種、生地の染色時の加工内容、そして消費者の着用状況によって、左右されます。
- 繊維の種類とピリング
ピリング発生のメカニズムが、先の図1のⒸのように、擦れなどで発生した毛羽が絡まって毛玉になることから、毛羽立ちしやすい生地でピリングが発生しやすいと言えますが、着用とともに毛玉がどんどん成長する素材や、ウール100%素材のように、ある程度成長したら脱落するものもあり、一般的には、①紡績糸、②特に撚りが甘い紡績糸、③紡績糸でも合繊混などの素材が、毛玉が生じやすいといえます。
図5.は各種繊維のピリング生成曲線です。ポリエステルなどの合成繊維は、繊維の強度が大きく、発生した毛玉からポリエステル繊維が生地に根をおろした状態になり、発生した毛羽は脱落しません。綿や羊毛は天然繊維であり、繊維の強度も合繊に比べて弱いので、発生した毛玉が徐々に脱落します。しかし、綿/ポリエステルなどの混紡糸では、合繊のポリエステル繊維が根をおろすために、毛玉は脱落せずどんどん成長することになります。
図5.各種繊維のピリング生成曲線
(「繊維の基礎知識 第1部」日本衣料管理協会 P.79より引用)
- 紡績糸の撚りとピリング
綿やウールなどの紡績糸は、紡績工程では、原料をそのまま揃えただけの糸(粗糸)では、すぽっと抜けて切れやすいため、糸に撚りをかけて強度をもたせています。これを撚糸といいます。撚糸は、糸の仕上がりを考慮して撚り回数が調整されます。ちょうどタオルをねじって絞る程硬くなるイメージでしょうか。
紡績糸では、表1のように通常1インチ(2.54cm)間に18~21回ほどの撚りを入れますが、特に18回以下を「甘撚り(あまより)」、21回以上を「強撚(きょうねん)」と呼んで区別しています。強撚になればなるほど糸の風合いは硬くなります。また、撚り回数の少ない甘撚り糸の特徴は、柔らかくタオルや下着など、肌にあたる繊維製品に使用されています。デメリットは、撚りが甘いことにより強度が弱くなり切れやすくなります。
表1. 紡績糸と撚り回数の関係
紡績糸のタイプ 撚り回数(回/インチ) 特徴
甘撚り(あまより) 18回以下 風合い柔らかく、タオルや肌着などにも使用される。
毛羽立ちやすい(毛玉できやすい)
通常の撚り(並み撚り) 18回~21回 汎用に使用される
強撚(きょうねん) 21回以上 糸の風合いは硬く、コシやシャリ感(清涼感)があり、強度も大きい。毛羽立ちしにくいが、撚り戻りのため、斜行しやすい。
- ピリングは、紡績糸(短繊維)使いの生地(特にニット)で発生しやすい。
- 特に、合繊混の紡績糸で発生しやすい。合繊は強度が大きいため、毛玉が脱落しにくい。毛100%生地などでは、毛玉は脱落しやすい。
- 長繊維もフィラメント切れから毛玉が発生することがある。
- 着用中、よく擦れるポケット口、脇の下、尻部、内股などに発生しやすい。
- 染色時の加工内容とピリング
染色仕上げ工程では、生地をソフトに仕上げるため、シリコン系樹脂などを使用した柔軟加工が施されることがあります。人間の髪の毛でいうと、シャンプー後のリンスでしょうか。柔軟加工によって繊維同士の摩擦係数を低下させ、繊維や糸は滑りやすくなり生地はソフトになりますが、デメリットとして毛羽立ちも発生しやすくなります。染色加工では、過度な柔軟剤の使用をやめるとともに、われわれ消費者も、洗濯時に過度な柔軟剤の使用は控えることが賢明であると思います。
- 試験方法
図6.ピリング試験機
大栄科学精器製作所HPより引用
ピリング試験は、JIS L 1076「織物及び編物のピリング試験方法」でA法からD法まで規定されていますが、A法(ICI法)が一般に使用されています。この試験では、試験片を規定のゴム管に巻いたものを4個1組として、コルク板を内張りした回転箱に入れ、毎分60±2回転の回転速度で、回転箱を編物は5時間、織物は10時間回転させた後、4個の試験片の毛玉発生の程度を級数判定するものです。詳細は、ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。一般的な汎用素材では基準は3級とされています。
- スナッグ
スナッグは、
冒頭の1.で、スナッグは、「外部との接触による組織糸の飛び出し、ループの突出、ひきつれ現象の総称」と申し上げました。スナッグ発生のイメージは、図7の通りで、スナッグ発生には、①突起物や粗硬物が接触する、②生地が引っ掛かりやすいやすい、③引き出されやすい、以上の3要素があります。このため、スナッグの発生には、糸種、生地の組織、染色仕上げ加工、そして消費者の取扱いが関係しています。
図7.スナッグ発生のメカニズム
①突起物の接触がある
②引っ掛かりやすい
③引き出されやすい
図8.スナッグの三要素
- 糸種とスナッグ
糸には、大別すると紡績糸とフィラメント糸があります。伸縮性に優れた合繊加工糸を使用した生地では、加工糸の捲縮によって、ある程度引っ掛かりやすいと言えます。また、合繊フィラメント糸は、強度も大きく摩擦係数も低いことから、引っかかると切れずに引き出されることになります。
糸のタイプ 糸種など 外観写真 特徴
紡績糸 ・綿糸 毛糸など
・綿/ポリエステル混紡糸など
・毛羽立っている
・摩擦係数は大きい
フィラメント糸 ポリエステル、
ナイロン、アクリルフィラメント糸
なま糸 ・加工糸に比べると伸びも少なく、引っ掛かりにくい
・摩擦係数は低い
加工糸 ・糸の捲縮によってストレッチ性に優れる
・突起物など引っ掛かりやすい
・摩擦係数は低い
図9. 紡績糸とフィラメント糸の特徴
- 生地組織とスナッグ
図10.はニット(左)と織物(織物)の代表的な写真です。これを見てもニット生地が比較的引っ掛かりやすいことが推定されます。また、生地の密度もスナッグ発生に大きく関係します。図11.は、生地の密度と外観のイメージを示していますが、密度が粗いほうが、引っかかりやすいことが推定されますね。また、図14では織物の三現組織を紹介していますが、スナッグの引っ掛かりやすさは、糸の浮きの程度から、朱子織>綾織>平織の順になります。
図10.ニットと織物の外観例
図11.生地の密度と外観のイメージ
図12.織物のスナッグ事例
図13.ニットのスナッグと引きつれ
図14.織物の三原組織とスナッグ
- 染色時の加工内容とスナッグ
染色仕上げ工程によるスナッグの影響は、生地をソフトに仕上げるため、2.3で説明した内容と同様、シリコン系樹脂などを使用した柔軟加工で組織糸が引きずり出されやすい傾向があります。
また、捺染生地では、表面だけ染色されていることが多く、濃色部分でも引きずり出された糸が白くて、結果的にスナッグ現象が目立ちやすいことなどがありますのでご注意ください。逆に言うと、細かい総柄のプリントはスナッグが目立ちにくいともいえます。
- 試験方法
図15.スナッグ試験機(メース法)
スナッグ試験は、JIS L 1058「織物及び編物のスナッグ試験方法」で、A法(メース法)、D法などが規定されています。メース法は、図15のように、針のついた金属ボールを生地に接触させる方法ですが、同法はフィラメント切れが再現できません。過酷な条件で着用されるトレーニングウエアなどのフィラメント切れによるスナッグとピルが混在する現象の再現には、D法(金のこ法、研磨布法)などが用いられています。詳細は、ニッセンケン品質評価センターにお問い合わせください。一般的な汎用素材では基準は3級とされています。
- スナッグは、合繊ニット素材で発生しやすい。特に合繊加工糸使い素材で発生しやすい。
- 編み密度、針密度(ゲージ)が粗かったり、柔軟加工されていると発生しやすい。
- 捺染品は裏面が染まっていないため、スナッグが比較的目立ちやすい。
- ピリングとスナッグの対策
これまで説明してきましたように、ピリングやスナッグ現象は、糸や生地の要因もありますが、程度の差はあれ、基本的には避けられない現象です。近年、アパレル素材開発の傾向は、ソフト化、ストレッチ化、軽量化、低コスト化の4つであり、このいずれもピリングやスナッグの発生の視点からみても、難しいものばかりです。対応できる対策には次のことが考えられます。
- ピリングの対策
ピリングの対策として、以下が考えられます。
①ピリング品質基準3級以上を可能な限り運用する。
②染色仕上げ工程で、過度な柔軟加工をしない。
③製品に以下のような注意表示をおこない、事故を未然に防止する。
・「着用や洗濯の繰り返しで毛玉が発生する」
・「洗濯時は過度に柔軟剤を使用しない」
・「毛玉が発生したら毛玉取り機などをすすめる」
- スナッグの対策
スナッグの対策として、以下が考えられます。
①スナッグ品質基準3級以上を可能な限り運用する。
②染色仕上げ工程で、過度な柔軟加工をしない。
③製品に以下の注意表示をする。事故を未然に防止する。
・「着用中、粗硬な物体との接触で引きつれが発生する」
・「洗濯時にファスナーや付属品の粗硬部分と接触して引きつれが生じることがある」
・「ショルダーバッグやウエストバッグとの長時間の擦れで毛羽立つことがある」
・「水着などはプールサイドの粗硬面との接触で毛羽立ちすることがある」
~水着の毛羽立ち~
水着は、ナイロンまたはポリエステル糸とポリウレタン糸を交編した素材が多いようです。プールサイドは、濡れてスリップによる転倒防止のため、ザラザラしている施設が多いようです。ここに座ってバタ足などの練習をしていると、お尻部の生地がフィラメント切れして毛羽立ちすることがあります。できれば、バスタオルなどを敷いて座っていただきたいものです。
~遊泳水着の砂粒の混入~
今回のピリングやスナッグと少し異なる話題をひとつ紹介します。
浜辺の砂浜で水着を着て遊んでいると、尻部の生地に黒っぽい砂粒が入って取れないことがあります。一般に水着はニット製で、トリコット組織の素材が多いのですが、着用中に生地が伸びて編み目が開き、そこに編み目ループとほぼ同じ大きさの砂粒が浸入すると、砂粒が取れなくなることがあります。特に白色や黄色など淡色水着で生じることが多いようです。
除去には、水着を引張りながら、指でポンポンと弾くと、生地組織に入り込んだ砂粒が飛び出しますので、これを繰り返してください。
次回は、メーカーや加工場などとの打ち合わせ時に役立つ「繊維・アパレル製品の用語」について紹介します。
コラム : アパレル散歩道20
~繊維製品の品質苦情はなぜなくならないのか~
テーマ : 繊維・アパレル製品の用語
発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。
社外経歴
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長
日本繊維技術士センター執行役員 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会常任委員 TES会西日本支部代表幹事
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