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アパレル散歩道 第79回 : 「衣料品の品質トラブルの原因絞り込み⑦」

2025/08/01

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1. 前回の事例レビュー はじめに、前回の第78回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と考えられる原因をまとめました。

2025.8.1

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  1. 前回の事例レビュー
     はじめに、前回の第78回アパレル散歩道で紹介した事例のレビューです。4件の品質事故事例について、表1に現象と原因をまとめました。

    表1.「第78回アパレル散歩道」品質事故事例レビュー
    事例服種現象考えられる原因原因分類
    22ブラウス
    (E100%)
    着用時の破れ
    (破損)
    • 過度な減量加工がされていた
    • 商品のデザインがタイトシルエットであった
    • サイズが適合していなかった
    生産管理
    企画設計
    消費者
    23ニットシャツ
    (C70% A30%)
    ピリング
    (外観変化)
    • 着用時に過度な擦れが生じた
    • 撚りが甘い短繊維使いの生地であった
    • 生地がアクリル混用であったことから、毛玉からアクリル繊維が根をおろした状態になり、毛玉が脱落しにくかった
    • 洗濯時の柔軟剤併用で、毛羽発生が促進された
    消費者
    商品企画
    技術限界


    消費者
    24デニム
    (C100%)
    着用時の
    色移り
    • デニム素材の染色堅ろう度(摩擦堅ろう度を含む)が低かった
    • 縫製後に製品洗いを行わない「ブルーデニム」製品であった
    • 発汗も加わり、より摩擦堅ろう性が低下した
    生産管理/技術限界

    品質管理/技術限界

    技術限界
    25セーター
    (W100%)
    黄ばみ
    • 素材の特性上、紫外線、窒素酸化物、高温などの影響で黄変が進行した
    • スーパーホワイトに仕上げるため、糸染めで、過度の蛍光増白剤が使用され、保管中に、紫外線、窒素酸化物、高温などで蛍光増白剤が酸化分解し、白度が低下した
    • 毛素材は、事前に不純物を除去するために還元剤で漂白されるが、洗浄不足などにより還元剤が残留し黄変した
    • ポリ袋に含まれる酸化防止剤(BHT)が空気中の窒素酸化物と反応して、黄変物質(レモン色)が生成した(BHT-NOX黄変)
    素材特性

    生産/技術限界



    生 産


    技術限界


  2. 今回の品質事故事例紹介
    事例26ジャンル服種状態
    婦人服セーターハンガー干しで着丈や袖丈が伸びた(自重)
    婦人用のセーターを手洗い後、ハンガー干ししていたら、着丈や袖丈も大きく伸び切っていた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。なお、セーターの組成はアクリル100%、取扱い表示は「手洗い・吊り干し」が指定されていた。

    ■原因絞り込みの考え方
    • セーターは、一般にゲージが粗く、洗濯などで水分を含むと重くなり、丈方向に延びることがある。
    • 取扱い表示は、吊り干しが指定されていたが、この可否がポイントとなる。(第49回アパレル散歩道「2.1 自重による伸び切り」参照)
      編機の針床(ベット)上の編針密度のこと
    図1. セーターの伸び切り(イメージ)

    図1. セーターの伸び切り(イメージ)


    表2. 《事例26》「自重で伸びる」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • どの程度伸びたかを確認するため、同一の新品や縫製仕様書の仕上がり寸法と比較する。
    • 丈方向に伸びた分、幅方向が縮んでいることが推定される。
    消費者への聞き取り
    • 取扱いの要因を確認するため、手洗い方法、干し方の詳細を聞き取る。
    商品に関する調査
    • 編地の要因を確認するため、使用されたニットの糸種、組織、密度などの正量を聞き取る。
    原因の推定
    • 吊り干しの際、水分を含み、その自重で製品の丈方向に伸び、そのまま乾燥した。
    • 特にゲージの粗いニット素材で吊り干しするとその傾向は強くなる。
    • 今回、取扱い表示は吊り干しが指定されていたが、セーターであることを考えると、平干しが望ましい。表示ミスと言える。
    対策
    • ゲージの粗い商品は、洗濯時の吊り干しだけでなく、ハンガー保管だけでも丈方向に伸びるリスクがあるため、「洗濯後は十分脱水し、形を整えて平干しすること」、「保管時はハンガーで吊らない」などの注意表示を実施する。
    • 取扱い表示は、洗濯寸法変化率を踏まえ、場合により「平干し」表示とする。
    • 納品の際には、ハンガー配送は避ける。

     併せて編地の伸び切りの例を表3に示します。例3は、ポリウレタン糸混用のケースですが、長期使用によるポリウレタン糸の脆化により弾性が低下し、編地が伸び切ったケースです。

    表3. 編地の伸び切りの例
    発生の事例原因
    1ざっくりしたウール100%セーターをハンガーにかけて保管していたら、首回りや丈が伸び切っていた自重による伸び
    2綿100%スウェットシャツの襟(リブ編み)が繰り返しの着用で伸びきったニット組織の伸び切り
    3綿95%ポリウレタン5%のニット肌着(天竺)で着用を繰り返していたら、全体に巾・丈とも伸びきった弾性の低下

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    事例27ジャンル服種状態
    カジュアルTシャツ黒色部に破れが生じた
    白地に黒色のボーダー柄のシャツ(天竺編)を2シーズンほど着用していたところ、黒色のボーダー部だけが強度低下し、黒色部に破れが発生した。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。
    組成表示は、綿100%であった。
    図2. ボーダーシャツのイメージ

    図2. ボーダーシャツのイメージ


    ■原因絞り込みの考え方
    • 本品は先染めボーダーの綿ニット製品で、白色部と黒色部は同じ繊維素材である。このことから、消費者の取り扱い要因よりも、黒色の糸染め工程で強度低下を引き起こす何らかの要因があった可能性がある。
    • 破損部が黒色部のみであることから、そこに使用された硫化染料により、黒色糸が脆化した可能性がある。

    表4. 《事例27》「ストライプ柄シャツの強度低下」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 着用状況が関連しているか確認するために、破れ発生部分はどの部位に生じているか、全体的か、局部的かを目視で調べる。
    商品に関する調査
    • 生地強度を確認するため、新品商品、当該事故品両方の摩耗強さのデータを入手し比較する。
    • 染色工程要因を確認するため、素材メーカー、染工場に、当該素材の糸染工程で、再加工された記録の有無を調査する。
    消費者への聞き取り
    • 取扱い要因を確認するため、着用状況、洗濯状況(漂白剤の有無など)を聞き取る。
    原因の推定
    • 黒色糸の染色に反応染料が使用された場合、色目修正などの要因で再加工が実施され、過度な熱や薬剤の影響で、黒色糸が加工段階で強度低下していた。(再加工)
    • 黒色糸の染色に硫化染料が使用された場合、染料構造に含まれる硫黄成分が、空気中の水分や酸素の影響を受け分解して硫酸を生成し、綿素材を脆化させた。(硫化染料使用)
    確認試験など
    • JIS L 1096「織物及び編物の生地試験方法」の破裂強さ試験を実施し、生地の強度を調べる。
    • ペーハー試験紙でpHを調べ、値が3~4の酸性であれば、硫化染料使用による硫酸残留の可能性がある。
    対策
    • 染色工程で再加工処理する場合は、染色後に物性などの品質に問題がないかを確認の上、実施すること。(再加工)
    • 黒色糸の染色では、可能な限り硫化染料を使用しないことが望まれる。硫化染料を使用する場合には、硫酸を中和する加工剤を併用しソーピングを充分に実施するなどの対策が必要となる。(硫化染料使用)


      硫化染料について
       硫化染料は、分子構造内に多くの硫黄結合をもつ水不溶性染料で、染浴中で還元剤(通常は硫化ソーダ)を用いて還元し、水溶性のロイコ化合物の形で繊維に吸着させた後、酸化作用により水不溶性の染料として染色される染料です。
       主に綿、レーヨンなどセルロース系繊維の染色に使用され、バット染料とも呼ばれています。これまで、比較的低コストであったため、学生服や作業服などの濃色生地の染色に使用されてきましたが、近年では排水の環境負荷の影響もあり、反応染料タイプに変更されつつあります。なお硫化染料には、鮮明色はありません。

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    事例28ジャンル服種状態
    カジュアル合成皮革ブルゾンドライクリーニングに出したら硬化した
    合成皮革100%のブルゾンをドライクリーニングに出したら、生地の風合いがカチカチに硬化してしまった。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。なお、取扱い表示は、水洗い不可、タンブル乾燥不可、アイロン不可、ドライクリーニング石油系指定、ウェットクリーニング不可で、原産国表示はイタリアであった。

    ■原因絞り込みの考え方
    • 合成皮革とは、基布(織物・ニット・不織布)表面に、樹脂をコーティングした素材である。一般に、樹脂を表コーティングしているタイプが多く、つるっとした光沢感や触感が特徴となっている。また、エンボス加工と呼ばれる凹凸加工で天然皮革の銀面外観を模倣している合成皮革もある。
    • 衣料用に使用される樹脂は、わが国ではポリウレタン樹脂が主流であるが、海外ではポリ塩化ビニル樹脂も一部使用されている。この樹脂タイプの性能差が、衣料品の品質に大きく影響を与えることを知っておくことが大切である。 (第50回アパレル散歩道「ケーススタディ⑥風合い変化」参照)
    図3. 
合皮ブルゾンのイメージ

    図3.
    合皮ブルゾンのイメージ

    表5. 樹脂の性能
    樹脂の種類耐ドライクリーニング溶剤性耐低温性
    ポリウレタン樹脂
    ポリ塩化ビニル樹脂×硬化あり×硬化あり

    表6. 《事例28》「合成皮革の硬化」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察
    • 風合い変化している生地を特定するため、風合いの硬化は、合成皮革素材だけか、裏地なども硬化していないか調査する。
    • 海外生産要因を確認するため、原産国表示を調査する。
    素材メーカーへの聞き取り
    • 樹脂要因を確認するため、基布にコーティング加工している樹脂は、ポリウレタン樹脂かポリ塩化ビニル樹脂かを聞き取る。
    クリーニング店への聞き取り
    • クリーニングの要因を確認するため、クリーニング方法を聞き取る。ドライクリーニング溶剤は石油系かパークロロエチレンか調査する。
    原因の推定
    • 本商品は、海外製であり、海外で調達した合成皮革がポリ塩化ビニル樹脂加工品であったため、ドライクリーニング溶剤(石油系)で樹脂に含まれていた可塑剤が溶出し、樹脂が硬化した。
    確認試験など
    • JIS L 0860「ドライクリーニングに対する染色堅ろう度試験方法」を準用し、合成皮革の硬化の程度を確認する。
    対策
    • 取扱い表示で、ドライクリーニング(石油系)ができる合成皮革商品を企画する場合は、ポリウレタン樹脂タイプの合成皮革を採用する。
    • 海外メーカーに対しても、ポリ塩化ビニル樹脂タイプを使用しないよう指示する。
    • 組成表示には、樹脂名を併記することが望ましい。
      (左表示例参照)
      合成皮革
      (ポリウレタン樹脂加工)


      ポリ塩化ビニル樹脂について
       ポリ塩化ビニル樹脂は、現在も建築資材や水道管などに多用されていますが、もともと材質的には硬い樹脂です。この樹脂をコーティング用に使用する際、可塑(かそ)剤※を加えて、柔らかいポリ塩化ビニル樹脂が作られますが、弱点のひとつに、ドライクリーニング溶剤によって可塑剤が溶出し、樹脂が本来の硬い材質に戻ってしまうことがあります。
       また、ポリ塩化ビニル樹脂は、可塑剤の存在によって、冬期など低温で硬化する弱点もあります。
      可塑剤:
      材料に柔軟性を付与し、加工をしやすくするために添加する物質のこと。塩ビの可塑剤には、フタル酸系(テレフタル酸ジブチルエステルなど)の薬剤が使用されています。

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    事例29ジャンル服種状態
    紳士服ジャケット石油ストーブで乾かしたら
    赤っぽく変色した
    青色のジャケットが雨に濡れたので、石油ストーブのそばで長時間乾かしていた。乾いてからよく見ると、部分的に赤っぽく変色していた。消費者はこれを不満に思い、アパレルメーカーに持ち込んだ。なお、ジャケットはナイロン100%であった。
    図4. 石油ストーブ側での乾燥のイメージ

    図4. 石油ストーブそばでの
    乾燥のイメージ


    ■原因絞り込みの考え方
    • 消費者への聞き取りにより、取り扱いで「石油ストーブで長時間乾燥した」という事実が確認できれば、原因究明では、この点を優先してもよい。
    • 石油ストーブの燃焼ガスには、水蒸気、二酸化炭素だけでなく、窒素酸化物(NOx)などが含まれている。それらの中の窒素酸化物が、繊維製品を色あせさせることがある。
    • 当該生地の酸化窒素ガス堅ろう度試験の結果もポイントになる。
      (第52回アパレル散歩道「2 燃焼ガスによる変退色」参照)

    図5. ガス退色の一例
    図5. ガス退色の一例


    表7. 《事例29》「ガスによる退色」の原因分析とフィードバックのポイント
    項目説明
    商品観察など変退色の原因を確認するため、以下の点を目視で調査する。
    • 変退色は全体かつ均一に発生しているか、部分的か。
    • 変退色は製品の左右対称に発生しているか、ランダムに発生しているか。
    消費者への聞き取り
    • 変退色の原因を確認するため、石油ストーブのタイプ(ファンヒーター式か)、乾燥時間、ストーブとの距離などを聞き取る。
    原因の推定
    • 石油ストーブから排出される窒素酸化物(NOx)が製品に長時間暴露し、色あせがし発生した。
    • 当該生地の窒素酸化物堅ろう度が良好でなかった。
    確認試験など
    • JIS L 0855「窒素酸化物に対する染色堅ろう度試験方法」を実施する。
    対策<材料の事前評価>
    • 用途により、品質管理項目に「ガス退色」を適時設定する。
    • 事前に、ガス退色のリスクが高い素材や色は、窒素酸化物堅ろう度試験を事前に実施し、適時レサイプ(染料配合)変更により退色性を向上させる。
    • 染色加工段階で、ガス退色防止剤を併用する。
    <消費者への情報発信>
    • 保管は湿気を避け、換気は十分におこなうこと。
    • 暖房機、特に石油ファンヒーターなどの間近での乾燥などは避けてもらう。
    • 交通量の多い道路環境の付近での吊り干しや保管は、変退色のリスクが高いことを理解してもらう。

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    ~大阪・関西万博 2025 訪問記 その3!~
    「大阪・関西万博2025」訪問記(その3)を今回も掲載します。開催3か月を経過し、万博の来場者が増加しています。

    第1回 大阪・関西万博2025訪問記~地元大阪で開催中の万博に行ってまいりました!!~
    第2回 大阪・関西万博2025訪問記 その2!~いろいろな展示とパビリオンの紹介~


    第3回
     大阪・関西万博2025訪問記 その3! ~大雨にも負けず、熱波にも負けず、初夏~

(第80回 アパレル散歩道の予告 – 2025年9月1日公開予定)

 次回は、『品質トラブル原因を絞り込もう』の8回目として、以下の事例30~33を取りあげます。どうぞご期待ください。
  • 事例30. 「てかり」
  • 事例31. 「表地と裏地の収縮差」
  • 事例32. 「縫い目糸切れ」
  • 事例33. 「フェルト縮み」

著者Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
S51年京都工芸繊維大学卒業。43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウエアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。
清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
社外経歴
一般社団法人日本繊維技術士センター
理事 技術士(繊維)
一般社団法人日本衣料管理協会
理事 TES会西日本支部顧問
大学非常勤講師
一般社団法人日本繊維製品消費科学会
元副会長
【発行】
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター
事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp
URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

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