アパレル散歩道

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第51回 : ケーススタディ⑦色の変化~変退色その1~

2023/04/01

品質事故を分析して原因と対策を考えようアパレル散歩道 品質事故を分析して原因と対策を考えよう

2023.4.1

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今回のアパレル散歩道は、繊維製品の色の変化に関する事故のうち、「変退色」を取り上げます(表1参照)。変退色の原因は、表2のように多岐にわたるため、今回と次回の2回に分けて説明します。



表1 色の変化
大分類中分類
色の変化① 変退色
② 汚染・色泣き
③ 白化
④ 黄変
表2 変退色の原因
変退色の原因散歩道
1日光による変退色第51回
2汗と日光の複合作用による変退色
3塩素処理水による変退色
4燃焼ガスによる変退色第52回
5金属作用による変退色
6漂白剤による変退色
7蛍光増白剤による変色

《はじめに》
 一般に「堅ろう」とは丈夫さ(抵抗性)のことで、「染色堅ろう度」とは、染色された生地の「色の変わりにくさ」や「色落ちのしにくさ」のことです。染色堅ろう度には、「変退色(change in color)」と「汚染(stain)」があります。変退色は生地自身が変色や退色する現象で、汚染は他の生地部分に色移りする現象です。また、変色とは色相が変化することで、退色とは色相は変化せず全体的に色あせすることです(表3参照)。
 繊維総合辞典(繊研新聞社発行)によると、「変退色とは繊維に染まっている染料などが光照射、熱処理、湿潤処理、ガスなどの外的作用によって化学的に分解したり、物理的に脱落することによって変色あるいは退色すること」とあります。染料で染められた生地は、日光や汗など色々な外的要因で変退色することが知られており、私たちはこれらをよく理解して、商品企画、品質管理、消費者対応を進めなければなりません。



表3 変退色の種類
意味具体的な事例
変退色変色色相が変化する紺色が赤っぽく変色した
退色色相は変化せず全体的に色あせする青色が薄い青色に変色した


  1. 染料について
    1. 染料と顔料について
       染色とは洗浄しても脱色しないレベルで原綿や糸、布などを着色させることです。染色には主に染料が用いられています。染料とは、色を持つ色素のうち繊維に対して染着力を有する物質のことです。同様の目的を持つものとして顔料がありますが、顔料は自身に染着力がなく、樹脂などを併用して顔料捺染などで活用されています(表4参照)。

      表4 染料と顔料の違い
      意味備考
      染料繊維に対して染着力を有する色素繊維の種類に応じて使用される染料タイプは異なる
      顔料繊維に対して染着力を有しない色素染着力は樹脂の併用で補完される


    2. 染料の種類
       染色に使用される染料は、繊維の種類によって染着する座席の構造がほぼ決まっています。このため、繊維と染料タイプのマッチングが求められることになります。代表的な染料の種類を表5に紹介します。

      表5 染料タイプと特徴
      染料種類染色される繊維染着座席備考
      反応染料綿、麻などのセルロース繊維水酸基(-OH)繊維と共有結合で先着する染料で、染色堅ろう度は比較的良好。セルロース繊維用として用途は増加している
      直接染料水に溶解した染料が、直接繊維の非結晶領域の隙間に入り染着する。比較的安価だが、鮮明色は難しく染色堅ろう度は低い。近年使用量は減少している
      硫化染料染料に硫黄を含む。水不溶染料を還元して水溶性にして、繊維に吸着後、空気酸化し繊維上で不溶性して染色する。排水による環境負荷問題で使用は減少している。黒色の再現性は良好で、ジーンズなどの染色にも使用される
      酸性染料ウール(毛)、絹などの動物繊維、ナイロンなどアミド基 (-CONH-)ナイロンは、ウールなどタンパク質繊維と化学構造が似ている
      分散染料ポリエステル、アセテートなど疎水性繊維反応の座席がない疎水性の染料のため、水中分散浴で染色される。
      レギュラーポリエステルで多用される。マイグレーション(染料移行)、昇華性がある
      カチオン染料アクリル繊維、カチオン可染(CD)ポリエステル繊維などアクリル・・・
      ニトリル基(-CHCN)
      CDポリエステル・・・
      カルボン酸基(-COOH)
      アクリル繊維では高い染色堅ろう性を示す。
      ポリエステルでは、カチオン可染(CD)ポリエステル繊維に使用される。カチオンとは陽(+)イオンのこと


    3. 染料の生産・供給状況
       約30年前までは、わが国は世界でも有数の染料生産国でした。しかし、図1のように、生産量、輸出量は徐々に減少し現在に至っています。世界的にみると、現在は合成繊維(特にポリエステル)や合成染料ともに、中国が生産量のトップを占めています。
       このことは染料や繊維に限らず「中国は世界の工場」であることを示していますが、逆に現地で何かトラブルが発生すれば、わが国でも大幅な納期遅れなどが発生する可能性もあり、リスク分散など国際的な視野で世界経済を意識する習慣をつけることが大切です。また、国内でも染料の海外調達化によって、染料タイプや品番の集約、コストアップが進み、今後も商品企画上・品質管理上もこれまでにない展開が予想されます。
      図1 日本の染料生産、輸出入状況

      図1 日本の染料生産、輸出入状況1)

      1. 変退色の品質事故は、綿や麻、レーヨンなどセルロース系繊維が多く、合成繊維の事故は少ない。
      2. その中でも、青系(青、紺、黒など)の配合色の繊維製品で発生しやすい。
      3. 変退色の原因は、日光、塩素、ガス、汗など多くの影響が考えられる。


  2. 色の話
    1. 色の表し方
       この項は、第39回アパレル散歩道でも紹介しましたが、改めて付記します(図2参照)。
       色には、「色相」「明度」「彩度」の三属があります。「色相」とは、赤、黄、緑、青といった色味のことで、色相の配列は、七色の虹のように、赤→橙→黄→緑→青→紫と連続的に変化します。「明度」は色の明るさを示し、「彩度」は色の鮮やかさを示しています。

      図2 色の三属 (色相・明度・彩度)

      色相  明度  彩度
      図2 色の三属 (色相・明度・彩度)

      図3 色の三原色

      図3 色の三原色

       色には青・赤・黄の三原色があり、絵具を混ぜるように染料レサイプ決定時の発色も、基本的にこの原理を利用しています。ここで、「染色」を「料理」に言い換えて話を進めます。例えばカレーライスを作る時、肉や野菜やカレー粉やごはんが必要であり、辛口に仕上げるなら香辛料を増やしたりしますね。また、カレーを2人前作るのか10人前作るかによっても、準備する材料の量や鍋の大きさも異なります。染色工程でも、試染め(ビーカー染)によって確定した染料配合データは「レサイプ」「レシピ」とも呼ばれ、染色工程の基本的な情報として活用され保存されています。

       さて、染料レサイプで、青色と黄色の染料を混ぜると緑色の染料になります。また、青色と黄色と赤色を混ぜると黒色の染料になります。このように、一定の色を表現するために、複数の色の染料を配合することが、後述する「変色」に関連します。また、染色工場での色目管理では、色の三属を数値化したCCM(コンピューターカラーマッチング)管理が行われています。

      1. 染料レサイプと変色には関係がある。
      2. 染料の黒色には、青色黄色赤色の3成分が混合されている。
      3. 青色は、赤色黄色に比べると、各種要因で退色しやすい傾向がある。
        このため、着用や洗濯を繰り返すと、3成分のバランスが崩れて、黒色緑色気味や紫色気味に変色することがある。
      4. 黒色商品が緑色か紫色か、どちらの方向に変色するかは、レサイプの内容で決まる。


    2. 染色のメカニズム
       衣料用素材の染色では、製品を繰り返し洗っても脱色(変退色や汚染)しにくい品質が求められます。天然繊維や合成繊維では、高分子は繊維長方向に束状に配向しています。しかし、その配列は、規則正しく緻密に配向した結晶領域と、乱れた配向の非結晶領域が混在しています。天然繊維は、合成繊維より結晶領域が少なく、非結晶領域が多いとされています。染料はこの非結晶部分に浸透して染着します。
       図4は、繊維内部の結晶領域と非結晶領域に染料(青色)が浸透するイメージです。染料は結晶化の低い非結晶領域に染着しますが、電車に例えると、結晶性の高い密な満員電車では新たに入り込む余地はなく、ある程度空いている非結晶領域の車両に染料が入り込むイメージです。そして、多くの染料は、繊維と化学的な共有結合や水素結合によって結合し脱落しにくくなります。ただし、ポリエステル繊維は、結晶性が他の繊維に比べてとても大きく緻密なため染料が入りにくく、また結合に関与する座席がないため、130~135℃の高温高圧で分散染料を押し込んで染色しています。

      図4 繊維の染色のイメージ
      図4 繊維の染色のイメージ



      ~分散染料の「分散」とは?~
       ポリエステル繊維には化学反応の「座席」や「手」もないため、疎水性の分散染料が使用されています。その結果、繊維内部では染料は化学反応せず、分散している状態であり、これが「分散染料」と呼ばれる所以です。このため、分散染料には、「マイグレーション(染料移行)」や「昇華性」の性質があり、これが分散染料で染色したポリエステル製品の弱点にもなっています。
       また、これらのポリエステルの弱点を改善した繊維が、結合の座席を持ったカチオン可染(CD)ポリエステルで、分散染料ではなくカチオン染料を使用します。


  3. 色の変化に関する品質事故「変退色」
     ここまで、染料や色に関する基本的な説明をしました。ここからは、変退色の具体的な事故事例(前半)を紹介します。

    1. 日光による変退色
      (1)変退色の事故事例
       日光による変退色は、日光に含まれる紫外線によって引き起こされる現象です。私たちが夏の日差しで日焼けするように、屋外で使用された衣料品が強い紫外線で変退色する現象です。表6にその事故事例を示しています。

      表6 日光(紫外線)による変退色の事故例
      発生の事例原因となる因子
      1綿100% 薄いグリーン色のブラウス
      着用によって、肩部などが色あせした
      耐光堅ろう度
      着用頻度
      2ポリエステル100% 淡い青色スキージャケット
      着用によって、全体的に色あせした
      耐光堅ろう度
      高地の紫外線強さ
      3シルク100% パステルカラー ブラウス
      店頭展示で一部が色あせした
      耐光堅ろう度
      蛍光灯の紫外線


       また、日光による変退色が発生したからと言って、直ちに消費者クレームが生じるとは限りません。以下の要素を踏まえて、ユーザーのCS(顧客満足度)が下回った時に、苦情として顕在化することになります。
      • 着用期間、回数はどの程度であったか (数回の着用か、1年程度の着用か、など)
      • 商品はどのアイテムであったか (一般カジュアルウエアか、スポーツウエアか、室内着か、など)
      • 商品の耐光堅ろう度は、どの水準に設定されていたか
      • 商品の取扱いについて、消費者に適正な情報が伝えられていたか


      (2)試験方法
       日光による変退色の再現試験では、屋外で日光を一定時間照射して変退色の程度を確認することもありますが、天気や季節により日光の強さが異なるなど、太陽光では条件を一定に保つことが困難です。そのため、通常の品質管理では、人工光源を使用した試験を行います。

      a.耐光試験の概要
       耐光堅ろう度試験には、表7のとおり主に紫外線を照射する紫外線カーボンアーク灯光による試験(JIS L 0842)と、太陽光に近い光を照射するキセノンアーク灯光による試験(JIS L 0843)の2種類があります。わが国では、前者の紫外線カーボンアーク灯光が主流ですが、海外は後者のキセノンアーク灯光が主流です。最近では、国内用でも、後者を設定しているアパレルメーカーもあります。

      表7 耐光堅ろう度試験について
      試験法JIS規格備考
      カーボンアーク灯光試験JIS L 0842日本で主流
      キセノンアーク灯光試験JIS L 0843海外で主流


      図5 カーボンアーク灯光試験機
      図5 カーボンアーク灯光試験機

      図6 キセノンアーク灯光試験機
      図6 キセノンアーク灯光試験機

      図7 ブルースケール(3級~6級)
      図7 ブルースケール(3級~6級)



       これらの試験では、第3露光法と呼ばれる露光条件が最も採用されています。耐光性の異なる1級から8級まで染め分けた青色生地を張り付けたブルースケール(図7参照)を使用し、このブルースケールが標準退色(※)するまで、試料とともに紫外線暴露を行い、試料の退色を評価する試験です。おおむね、一般衣料品では3級照射、特に屋外で長期間紫外線暴露される用途の衣料品は、4級照射のブルースケールが使用されます。
      ※標準退色・・・
      試験片が標準退色(露光部分と未露光部分との色の差が変退色用グレースケール4号と同程度の色の差に退色することをいう(JIS L 0842より引用)。


      b.耐光試験の評価
       耐光試験の評価は、表8にしたがって実施されます。筆者の現職時代は、屋外で使用されることの多いスポーツウエアを扱っていたこともあり、基本4級照射で4級を品質管理の目安にしていました。インナーやカジュアルウエアでは、用途を考慮して3級照射で管理されることが多いようです。運用基準は、その衣料品のアイテムや用途により決定される要件です。

      表8 JIS L 0842カーボンアーク灯光試験(第3露光法)の評価
      試験結果3級照射の場合4級照射の場合
      ブルースケール退色より
      試料の退色が悪い
      3級未満4級未満
      ブルースケール退色と試料退色が同程度3級4級
      ブルースケール退色より
      試料の退色が良い
      3級以上4級以上
      衣料品の一般的な用途カジュアルウエア
      インナー、室内着 など
      スポーツウエア
      ワーキング(屋外用) など


      (3)耐光堅ろう度向上の対策
       生地試作段階で、自社が設定した品質基準に対して耐光堅ろう度が低かった場合、素材メーカーや仕入れ先に改善を要望する必要があります。ただし、耐光堅ろう度の改善は、染色加工時の洗浄(ソーピング)強化では改善しません。あくまでも染料レサイプの変更が必要であり、以下の点に注意して、本生産前に改善完了を確認してください。

      1. 色目にもよるが、鮮明色は耐光堅ろう度が低い傾向があり、レサイプ変更により色がくすむ可能性があるので、その場合はデザイナー、MDらと検討する。
      2. 半級程度の改善であれば、レサイプの変更はせず、紫外線吸収剤の併用で改善できることもある。
      3. 色目を優先して商品化する場合は、消費者に対してその旨、情報発信する。
      4. 企画する衣料品の用途を考慮し、過剰ではない適正な耐光堅ろう度基準を設定する。


      ~ニットシャツの片袖だけ変色した!~
       まれに、衣料品の一部、例えば片袖だけがきれいに変色するケースがあります。考えられる原因としては、
      1. 染色時に、本来残留しない加工薬剤がソーピング不良などで残留し、生地の耐光堅ろう度が低下した
      2. 縫製工程の裁断時にロット管理がなされず、この片袖に別ロットの堅ろう度の劣る生地が使用された
      以上の複合要因が考えられます。


    2. 汗と日光の複合作用による変退色
       この現象は、反応染料で染色された綿などのセルロース繊維製品が、汗と日光(紫外線)の複合作用で変退色する現象で、特によく汗をかく綿や綿混のスポーツウエア(ゴルフウエアなど)、洗濯頻度の少ない綿コートなどで発生します。消費者にとって、汗をかくことや日光に当たることは日常の行動であり、これによりウエアが部分的であれ変退色することは、なかなか理解しにくいところかも知れません。このため、汗と日光の複合作用による変退色の事故は、現在でも比較的多く報告されています。第6回アパレル散歩道の事例3.「ゴルフ綿シャツの汗日光堅ろう度」でも、このテーマを取り上げていますので、併せて参照ください。

      (1)汗と日光の複合作用による変退色の事故事例
       この変退色の事故事例を表9に紹介します。表9にも示していますが、この変退色は①比較的汗が付着しやすい部位に発生する、②裏面は日光が当たらないので変色がみられない特徴があります。

      表9 日光(紫外線)による変退色の事故例
      発生の事例原因となる因子
      1綿100% 紺色ポロシャツ
      ゴルフプレー後、襟などが赤っぽく変色しているのに気づいた。襟裏は変色していなかった
      • 汗の付着と残留
      • 日光(紫外線)照射
      • 汗日光堅ろう度
      • 使用後のメンテナンス
      2綿100% 紺色 織物スラックス
      ポケット口、膝上などが赤っぽく変色していた。裏面は変色していなかった。掌部の汗が付着した可能性あり

      図8 綿ポロシャツ襟の赤変
      図8 綿ポロシャツ襟の赤変



      ~汗日光染色堅ろう度と乳酸~
       人間は日々の運動で、乳酸などの疲労物質が汗にでてきます。このため、個人差はありますが、人間の汗には一定の乳酸が含まれており、この乳酸が綿製品の汗と日光による変退色を促進します。汗堅ろう度、耐光堅ろう度が単独では良好でも、複合要因により低下することがあります。

        綿100%素材などで
      1. 表面のみ変退色し、裏面が変退色していないケースは、まず、日光が関連していることを疑ってください。


      (2)試験方法
       JIS L 0888「光及び汗に対する染色堅ろう度試験」は、人工汗液を用いて紫外線暴露を実施する方式です。試験法には、A法、B法、C法がありますが、ここではA法、B法について表10で紹介します。
       A法とB法の違いは、専用の光・汗試験容器の使用の有無です。また、汗液には、JIS L 0848に規定された人工汗液とATTS人工汗液の2種類があります。前者の人工汗液は、先に紹介しました乳酸を含んでいませんが、後者のATTS人工汗液は乳酸を含んでいるため、比較的変退色の再現性が良いとされています。このため、多くのアパレルメーカーがB法のATTS人工汗液法を採用しています。

      表10 JIS L 0888「光及び汗に対する染色堅ろう度試験 (A法、B法について)
      試験に用いる人工汗液光・汗試験容器
      使用の有無
      A法JIS L 0848に規定する人工汗液 (酸性・アルカリ性)使用する
      (専用の試料ホルダを使用)
      JIS L 0888に規定する人工汗液(ATTS酸性・アルカリ性)
      B法JIS L 0848に規定する人工汗液 (酸性・アルカリ性)使用しない
      (試料を人工汗液に浸漬する)
      JIS L 0888に規定する人工汗液(ATTS酸性・アルカリ性)


      ~ATTSとは?~
       繊維製品技術研究会(略称「ATTS」:Association for Textile Technical Study)は、繊維製品等の品質問題を中心に、技術的見地より調査・研究及び情報交換を行い、繊維製品等の品質改善、取扱い方、又は消費の適正化を図ることを目的として活動している研究会です。(ATTSホームページより引用)
       筆者も現職時代、かなり昔ですが、同研究会として、より再現性の高い人工汗液を探るために、会員メンバーと試験片とブルースケールを背中に貼ってテニスをしたり、サウナで汗を採取し、天然汗液と人工汗液の比較をしたことを記憶しています。ATTSは現在も活発に活動されており、ご興味があれば是非ホームページを閲覧ください。

      ATTS-Web : https://www.atts.ne.jp/



      (3)汗日光堅ろう度向上の対策
      汗日光堅ろう度対策には、次のことが考えられます。
      1. 企画商品の使用用途を考慮し、品質管理項目に「汗日光堅ろう度」が必要か不要かを検討し、必要であれば素材仕入先にその旨はっきりと依頼した上で試染め(ビーカー染め)すること。
      2. 汗日光堅ろう度は、綿やレーヨンなどのセルロース繊維が対象となるため、合成繊維は対象としなくてもよい。
      3. 色目では、黄色や赤色は比較的問題は少ないが、青系、紺系、黒系、緑系などの配合色にリスクがある。
      4. 試験では、JIS L 0888「光及び汗に対する染色堅ろう度試験法」(ATTS人工汗液法)を実施し、基本変退色3級以上の生地を採用することが望ましい。
      5. 汗日光堅ろう度対策は染料レサイプの検討から始まるが、若干の改善なら、紫外線吸収剤の併用で改善できることもある。
      6. 商品に付記表示で「汗がついたら、すぐに洗濯すること」と記載する。汗の付着残留はできるだけ避けたい。


    3. 塩素処理水による変色
       この現象は、綿などのセルロース繊維製品が、繰り返しの家庭洗濯などによって変退色するものです。わが国の水道法では、水道水は衛生確保のために蛇口で0.1ppm以上の塩素が残留していることが求められますが、上限は決められていません。このため、各地の水道局では、塩素臭の課題もあり、残留塩素濃度を0.1~0.4ppm程度で管理しているところが多いようですが、地域や水質の低下する夏場によっては、1.0ppm近くになるケースもあるといわれています。このように残留塩素は、衛生対策に効果はあるのですが、別の問題として衣料のセルロース繊維を染色している反応染料などと徐々に反応し、変退色する問題があります。
       長期間の着用や洗濯による変退色が直ちに問題になるとは考えませんが、消費者の期待に反して短期間で変退色が生じることは、品質管理上避けなければなりません。

      ~わが国と海外の水道事情~
       わが国の水道水は、基本飲めることが前提になっていることから衛生確保のための塩素が含まれています。海外の多くの国では飲めない水道水もあり、その地域の水道水には塩素が含まれていません。


      (1)変退色の事故事例
       塩素による変退色の事故例を表11に紹介します。

      表11 塩素による変退色の事故例
      発生の事例原因の可能性
      1綿100% 紺色Tシャツ
      長期間の着用と洗濯で全体が赤っぽく色あせした
      生地の耐塩素性
      使用限界
      2綿100% 青色ニットシャツ
      蛇口から水道水の直撃を続けていたら、その部分のみ変退色していた
      生地の耐塩素性
      消費者の洗濯方法
      3ナイロン100% 青色水着
      着用を数回繰り返したら色あせが生じた
      生地の耐塩素性
      プールの塩素濃度
      消費者のメンテナンス
      4綿100% 紺色スラックス
      家庭洗濯時に漂白剤を併用していたら、全体的に変退色した。取扱い表示は漂白剤不可であった
      消費者誤使用
      取扱い表示の内容


      (2)試験方法
       塩素による変退色は、JIS L 0884「塩素処理水に対する染色堅ろう度試験」で試験されます。試験用の小型洗濯試験機を用いて、試料を一定濃度の塩素処理水で処理した後の試料の変退色の程度を判定します。試験方法には、表12のように有効塩素濃度が異なる4つの試験方法があります。水素イオン濃度(pH)が併記されているのは、塩素活性は水素イオン濃度(pH)に依存するからです。
       一般の衣料品ではA法が用いられます。洗濯頻度の非常に多い衣料、遊泳水着、競泳水着などでは、B法、C法、D法がありますが、どの方法を採用するかは、アパレルメーカーが独自に決定すべき事項となります。

      表12 塩素による変退色試験(JIS L 0884)
      試験方法A法B法C法D法
      有効塩素量(mg/L)102050100
      pH7.0±0.27.5±0.05
      温度(℃)25±227±2
      浴比200100
      時間(分)3060
      衣料品の用途(※)一般衣料品洗濯頻度の非常に多い衣料
      遊泳水着・競泳水着

      ※衣料品の用途は筆者加筆



      (3)プール水の塩素消毒処理
       ここでは、一般プール施設のプール水の管理基準について説明します。プールには結膜炎など各種病気になる病原菌の大量発生を抑えるため、殺菌用消毒剤(主成分は次亜塩素酸ナトリウム)が一定量投入され、残留塩素としてプール中に存在しています。国が定めたプールの衛生基準(表13)によると、残留塩素濃度は0.4~1.0mg/Lとなっています。このことから、多くのスイミングクラブでも残留塩素濃度はこの範囲で管理していますが、中には塩素濃度を高めに設定しているところもあり、これらが水着の耐久性(変退色やポリウレタン脆化)にも影響を及ぼすことがあります。もちろん、使用後洗剤できちんと水洗いし、水着に残留している塩素成分を除去しているかのメンテナンスも耐久性に影響します。

      表13 プール水の衛生基準2)
      項目基準値
      ①水素イオン濃度pH5.8以上8.6以下であること
      ②濁度2度以下であること
      ③過マンガン酸カリウム消費量12mg/L以下であること
      ④遊離残留塩素濃度0.4mg/L以上、1.0mg/L以下であることが望ましい
      ⑤大腸菌検出されないこと
      ⑥総トリハロメタン暫定目標値 0.2mg/L以下が望ましい


      (4)塩素による変退色の対策
       塩素による変退色の対策には、次のことが考えられます。
      1. 企画商品の使用用途や使用繊維を考慮して、品質管理項目に「塩素処理水堅ろう度」が必要か不要かを検討し、必要であれば、素材仕入先にその旨明確に依頼すること。
      2. 塩素処理水堅ろう度は、綿などのセルロース繊維が対象となるが、合成繊維のナイロンも対象とすることを勧める。
      3. 色目では、汗日光変退色と同様、青系、紺系、黒系、緑系などの配合色の変退色リスクが大きい。
      4. 試験では、JIS L 0884「塩素処理水堅ろう度試験法」を実施する。一般には、A法で変退色3級以上の生地を採用することが望ましい。
      5. 塩素処理水対策は、染料レサイプの変更から始まる。若干の改善なら、塩素堅ろう度変退色向上剤の併用による改善が可能である。
      6. 商品に付記表示として、必要に応じて「繰り返しの洗濯で色あせする」、「長時間の漬け置き洗いは避ける」、「水道水の直撃は避ける」などと表示すること。


(参考資料)
1)日本の合成染料工業の現況(2016.4) : 化成品工業協会HPより引用
2)厚生労働省健康局長通達 : H19.5.28 より引用

(次回のアパレル散歩道 / 5月1日発行)

次回は、「ケーススタディ ⑧色の変化~変退色 その2~」を取り上げます。

コラム : アパレル散歩道52
~品質事故を分析して原因と対策を考えよう~
テーマ : ケーススタディ ⑧色の変化~変退色 その2~


発行元:一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp     URL:https://nissenken.or.jp

※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)

43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。



社外経歴
(一社)日本繊維技術士センター理事 技術士(繊維)
(一社)日本衣料管理協会理事 TES会西日本支部幹事
大学非常勤講師
(一社)日本繊維製品消費科学会 元副会長

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