2022/12/02
各企業のサステナブルなモノづくりをサポート~ニッセンケンの【廃棄抑制コンサルティング】
ニッセンケンメモ
2023/02/07
ニッセンケン品質評価センターは、2022年4月より「リサイクルPET繊維判別試験」の受注を開始しました。この試験は東京農工大学 高柳正夫教授のご指導のもと研究を行い、事業化の成果を得ました。本コラムでは、リサイクルPET繊維判別試験が求められるようになった背景と技術確立までの道のり、また繊維・ファッション産業に与えるインパクト等についてご紹介します。
ニッセンケンでは以前より、【 麻のリネンとラミーを判別する方法 】や、【 羽毛のグースとダックを判別する方法 】など、ケモメトリックス※を応用した種々の材料の判別手法開発に力を入れてきました。これらのノウハウを生かして開発したのが【 リサイクルPET繊維判別試験 】です。
例えばリネンとラミーを判別する場合、試験担当者が外観で見分けられるものの、判別技術の習得が難しく、熟練するまでに時間を要することが課題でした。これらのばらつきが生じやすい材料の判別について、ケモメトリックスでフォローするというアイデアのもとにこれまで判別法開発を行ってきました。そしてこの間にケモメトリックスを応用した繊維判別技術の特許も取得しています。
一方、新たな研究テーマを模索していた2018年当時、日本でも衣料品に対する環境配慮型材料への関心が急速に広がっていました。そうした状況を踏まえ、今後繊維製品にもリサイクル品に対するトレーサビリティがこれまで以上に求められ、バージン品とリサイクル品の判別が必要になるだろうと予想しいました。しかしながら、これまで我々が取り組んできた判別手法開発は、前述のとおり「同じ“麻”の中での種類」や「同じ“羽毛”の中での種類」を分けるものであって、同じ種類の材料について「リサイクル」か「バージン」かを判別するのは更にハードルの高い課題でした。
この困難な課題に対し、まずはリサイクルPET繊維のなかでも流通量の多い、PETボトルを原料としたマテリアルリサイクルPET繊維の判別手法開発に取り組みました。研究を重ねるうち、赤外分光法においてリサイクルPET繊維とバージンPET繊維のスペクトルに特定の前処理を施すことにより、わずかな違いを観測できる波数領域を発見しました。そして、その領域の赤外吸収スペクトルを用いて解析を行い、迅速で簡単な判別手法を確立しました。
本技術について、もう少し詳しい説明を以下にお示しします。
赤外分光法では分子振動に基づいた多くの帰属の知られているスペクトル(横軸に吸光度、縦軸に吸光度をとった波形)が得られます。PET繊維の場合、バージン品でもリサイクル品でも化学構造は同じなので、赤外吸収スペクトルを測定すると当然同じ吸収が観測されます(図1(a))。しかし、人間がスペクトルの形からリサイクル品であるかを判断することはできません。そこで、測定したスペクトルを数値データとして取り扱うことにします。
この数値データは統計手法を用いることにより、リサイクル品とバージン品の違いを効果的に捉えるように変換することができます。すると波形として捉えていた赤外吸収スペクトルは、2次元上の1点として表すことが可能です(図1(b))。こうして図1(a)では目視で判断できなかったリサイクルとバージンの違いを、数値や図1(b)のようなプロットから、誰でも明確に判断できるようになります。本方法では、1つ1つの材料ごとに分析できるので、海外から輸入したリサイクル繊維と思われる材料の確認や、実際に販売されている製品の抜き取り検査にも有効です。
リサイクル品であることを証明する手段として、第三者機関による認証があります。これは原料証明書、取引証明書などの書類審査や現地審査によるもので、現在リサイクル繊維製品の有力な証明方法の1つです。しかし認証取得にはサプライチェーンの確認や申請書の作成、申請費用など多くの時間と費用がかかります。また、実際の生産工程において、サプライチェーンが確認できない生地を使用する場合も多く、全ての企業の全ての製品に認証を求めるのは困難と言えます。
手軽に迅速に科学的根拠に基づいた判別結果を得られることが本判別法の1番の利点です。また1つ1つの材料ごとに分析できるので、海外から輸入したリサイクル繊維と思われる材料の確認や、実際に販売されている製品の抜き取り検査にも有効です。サプライチェーンの確認と科学分析による判別を必要に応じて使い分けたり、組み合わせたりして、適切にリサイクル材料の証明ができることが重要であると考えています。本判別法のようなケモメトリックスによる手法は、他業種の品質管理ではすでによく利用されており、薬の成分分析や果物の糖度予測などに使われています。今回紹介したリサイクルPET繊維判別のように、繊維業界でも品質管理手法として応用が進めば、人手不足と技術継承のフォローや、新たな価値創出への貢献ができると考えています。
最後までお読みいただきありがとうございます。ニッセンケンでは本技術を応用し、さらにより多くの繊維を簡易に鑑別できるよう研究を進めてまいります。どうぞご期待ください
※「ケモメトリックス」とは…スペクトルなどの化学データについて統計的手法を適用し、データから得られる情報の最大化を目的とする分野。
(東京事業所 舟橋みゆき 記)
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