2020/09/15
第3回 : アパレル製品の品質事故 要因 1 ~ 「繊維」・「糸」
アパレル散歩道
2021/05/01
2021.5.1
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公正競争規約とは、適正な景品類の提供や表示が行われるよう、業種ごとにメーカーや販売業者が、消費者庁長官及び公正取引委員会の認定を受けて設定する業界のルールです。
スポーツ用品業界においても、昭和62年に、スポーツ公正競争規約(運営:スポーツ用品公正取引協議会)が作られ、ウエアも含めたスポーツ用品の適正な表示について規定しています。繊維関係では、「帯締め羽織ひも」と「スポーツ用品」だけが規約を作成していますので、ある意味画期的なルールといえます。これは筆者の想像ですが、スポーツ用品には当時から多くの種目やルールがあり、それぞれの種目に適合したボールや防具やラケットなど多くの用品が商品化されていましたが、消費者が誤って購入するケースが多々あり、業界としてこのような規約を作成されたものと推察します。スポーツ業界OBとして、この公正競争規約に基づく表示ルールを簡単に紹介したいと思います。なお、本コラム資料作成にあたり、消費者庁編「よくわかる景品表示法と公正競争規約/スポーツ用品編」を引用させていただきました。
- 規約のポイント
規約の内容について、以下の3つのポイントが挙げられます。
- 必要表示事項
消費者が商品選択時にあたり「積極的に知りたい」ことを、カタログ、商品本体、取扱説明書、店頭ポスターやPOP、ちらしなど表示媒体に表示するべき項目を定めています。
- 表示基準
販売価格に関し、希望小売価格の表示基準を定めたり、比較対照価格として表示できない価格を明記するなどして二重価格表示の基準を定めています。また、あいまいな表現や消費者に過度の期待を抱かせるような表示をしないよう、特定の用語について使用する場合の基準を定めています。(本コラムではこの②項の説明は省略しています。)
- 不当表示の禁止事項
商品の材質等について実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるおそれがある表示、原産国について一般消費者に誤認されるおそれがある表示、おとり広告等の禁止についてもルールを定めています。
- アパレルメーカーでも、バッグなど用品を扱う機会が増加しています。ぜひ、これらの規約を参考にしてほしいと思います
- 規約におけるスポーツ用品の範囲
同規約では、8種目37品種を指定しています。
表1 スポーツ用品の範囲1)
スポーツの種類 品名
野球・ソフトボール グローブ
バット
スパイクシューズ
ユニフォーム
ボール
テニス・バドミントン ラケット
シューズ
ウェア(シャツ、ショーツ、スコート、ワンピース及びスラックスを言う)
卓球 ラケット
シューズ
ユニフォーム
ボール
卓球台
ラバー
ゴルフ クラブ
キャディバッグ
ゴルフグローブ
シューズ
ボール
陸上競技
(ジョギングを含む。) シューズ
ウェア(ランニングシャツ・パンツ及びトレーニングシャツ・パンツをいう。)
スポーツの種類 品名
球技(バレーボール、バスケットボール、サッカー、ハンドボール、ラグビー及びドッヂボールをいう。) シューズ
ウェア(シャツ及びパンツをいう。)
ボール
スキー スキー板
ビンディング
ボール
スキー靴
スノーブーツ
ウェア(ジャケット、ワンピース、及びスキーパンツをいう。)
登山・キャンプ テント
シュラフ
ザック(フレームザック、アタックザック及びキスリングをいう。)
シューズ
コンロ(照明用を含む。)
ランプ(電池式を除く。)
ウェア(登山用長袖シャツ及びニッカボッカをいう。)
- 必要表示事項
規定では、製造・輸入業者および小売店が、表示をおこなうべき媒体と表示を示しています。
表示の媒体には、カタログ、本体(容器または包装含む)、取扱説明書、店頭、ビラ(チラシ)などがあります。
表示事項には、以下の14項が媒体に応じて設定されています。
表2 スポーツ用品の必要な表示項目2)
- 製造業者又は商標名
- 品名及び品番(セット商品はその旨及びセットの内容)
- 材質
- 寸法又は規格
- 「国産品」、「原産国名」などの表示
- 付属品に関する事項(付属品がある場合のみ)
- 取扱上の注意(必要な時のみ)
- 事業者の住所、氏名又は名称
- 発行時期
- アフターサービス及び消費者からの問い合わせ窓口
- 販売価格
- 加工料(必要な場合のみ)
- 販売数量、販売期間に限定がある場合
- その他、施行規則で定める事項
- 用途別の表示方法
表3では、野球・ソフトボール、登山・キャンプ、ゴルフの3アイテムについて、用途の表示方法を紹介しています。例えば、野球・ソフトボールのアイテムでは、グローブ、バット、スパイクシューズ、ユニフォーム、ボールについての表示項目が掲載されています。同じベースボールでも、硬式野球、準硬式野球、軟式野球、ソフトボールがあり、使用する用具やボールが異なりますので、消費者が購入時に種目を間違わないように、用途を表示しています。
表3 スポーツ用品の用途の表示方法(抜粋)3)
スポーツ用品 表示方法
(野球・ソフトボール)
グローブ
- 野球用又はソフトボール用の別を表示する。
- 野球用にあっては、硬式用又は軟式用の別を表示する。
- ジュニア用及び各ポジション用は、その旨を表示することができる。
バット
- 野球用又はソフトボール用の別を表示する。
- 野球用にあっては、硬式用又は軟式用の別を表示する。
- ノックバット及びトレーニングバットにあっては、その旨を表示する。
- ジュニア用は、その旨を表示することができる。
スパイクシューズ 野球用又はソフトボール用は、その旨を表示する。
ユニフォーム
- ソフトボール用にあっては、その旨を表示する。
- ジュニア用は、その旨を表示することができる。
ボール
- 野球用又はソフトボール用の別を表示する。
- 野球用にあっては、硬式用、準硬式用又は軟式用の別を表示する。
- 硬式用の練習用にあっては、その旨を表示する。
(登山・キャンプ)
テント 登山用又はキャンプ用の別を表示する。
シュラフ 登山用又はキャンプ用の別を表示する。
ザック フレームザック、アタックザック又はキスリングの別を表示する。
シューズ 重登山用、軽登山用、ウォーキング用又はフリークライミング用の別を表示する。
ウエア 男性用又は女性用の別を表示する。ただし、特に性別に関係なく使用されるものにあっては、省略することができる。
(ゴルフ)
クラブ
- ウッド、アイアン又はパターの別を表示する。ただし、写真、イラスト等により、明りょうに識別できる場合は、省略することができる。
- 単品販売の場合にあっては当該クラブの番号を、セット販売の場合にあっては、セットに含まれるクラブの本数及び当該セットに合まれるクラブの番号を表示する。
- 女性用、ジュニア用等は、その旨を表示することができる。
キャディバッグ ジュニア用は、その旨を表示することができる。
ゴルフグローブ
- 両手用にあっては、その旨を表示する。
- 女性用等は、その旨を表示することができる。
シューズ 女性用等は、その旨を表示することができる。
ボール ロストボールにあっては、その旨を表示する。
- 材質の表示方法
スポーツ用品の材質は、消費者の商品選択に大きな影響を与えています。ウエアなど繊維製品は、家庭用品品質表示法で組成表示のルールが定められていますが、他のスポーツ用品では、本規約で表示ルールを定めています。表4に、野球・ソフトボール、登山・キャンプ、と陸上競技における材質の表示方法を紹介します。
表4 スポーツ用品の材質の表示方法(抜粋)4)
スポーツ用品 表示部位 表示方法
(野球・ソフトボール)
グローブ 表皮 天然皮革製、人工皮革製又は合成皮革製の別を表示する。
バット 本体 木製又は金属製にあってはその旨を、その他のものにあっては、主な素材を表示する。
スパイクシューズ ①甲及び底 各々、天然皮革製、人工皮革製、合成皮革製、ゴム製、合成樹脂製、合成繊維製又は天然繊維製の別を表示する。
②スパイク 金属製、合成樹脂製又はゴム製にあってはその旨を、その他のものにあっては、主な素材を表示する。
ユニフォーム 組成繊維 家庭用品品質表示法の規定により表示する。ただし、カタログ及び
店頭等における表示にあっては、主要部分以外については省略することができる。
(登山・キャンプ)
テント ①本体、グランドシート及びフライシート※ 各々、合成繊維の種類を表示する。
②フレーム アルミ合金製又はスチール製にあってはその旨を、その他のものに
あっては、主な素材を表示する。
シュラフ 表地、裏地及び中綿 各々、主要繊維の種類を表示する。なお、中綿に羽毛を使用している場合は、その使用割合を表示する。
ザック ①本体 主要繊維の種類を表示する。
②フレーム アルミ合金製又はステンレス製にあってはその旨を、その他のものにあっては、主な素材を表示する。(フレームザックに限る。)
シューズ 甲及び底 各々、天然皮革製、人工皮革製、合成皮革製、ゴム製、合成樹脂製、合成繊維製又は天然繊維製の別を表示する。
ウエア 組成繊維 家庭用品品質表示法の規定により表示する。ただし、カタログ及び店頭等における表示にあっては、主要部分以外については省略することができる。
(陸上競技)
シューズ ①甲及び底 各々、天然皮革製、人工皮革製、合成皮革製、ゴム製、合成樹脂製、合成繊維製又は天然繊維製の別を表示する。
②スパイク 金属製、合成樹脂製又はゴム製にあってはその旨を、その他のものにあっては、主な素材を表示する。(スパイクシューズに限る。)
ウェア 組成繊維 家庭用品品質表示法により表示する。ただし、カタログ及び店頭等における表示にあっては、主要部分以外については省略することができる。
~※テントのフライシートとは?~
右の写真のように、テント本体は通気性もあり耐水性がありません。テント本体の上部に張る耐水シートをフライシート、テント内部に敷く耐水シートをグランドシートと呼んでいます。テント本体に通気性があるのは、テント内部の食事でコンロなどを使用したときなどの酸欠や結露を防止しています。
- 寸法または規格の表示方法
ウエアやシューズは、日本産業規格(JIS)でサイズ表示のルールが定められていますが、他のスポーツ用品については、この規格で寸法または規格の表示が定められています。最近では、インターネットの普及により、ネット購入の機会が増加しています。バッグなどの寸法表示は、非常に重要な情報であり、競技用ボールについても、各連盟が規格を指定しているものもあり、これらの表示も重要な要素になっています。ここでは、野球・ソフトボール用バットとボール、登山・キャンプ用テント、シュラフ、バッグ、そしてテニス・バドミントンのラケットの表示方法を紹介します。
表5 スポーツ用品の寸法または規格の表示方法(抜粋)5)
スポーツ用品 表示対象 表示方法
(野球・ソフトボール)
バット 長さ ①野球用にあっては、cmにより表示する。
②ソフトボール用にあっては、ソフトボール協会規格の号数により表示する。
ボール サイズ(野球用硬式及び準硬式ボールを除く。) ①野球用軟式ボールにあっては、軟式野球連盟規格の号数により表示する。
②ソフトボール用にあっては、ソフトボール協会規格の号数により表示する。
(登山・キャンプ)
テント ①収容人員 人数により表示する。
②本体の間口、奥行及び高さ cm により表示する。
③収納時の縦、横の長さ及び高さ cm により表示する。
④フレームの肉厚及び太さ cm又はmmにより表示する。
シュラフ ①本体の縦及び横の長さ cm により表示する。
②収納時の円周及び高さ cm により表示する。
ザック ①使用時の本体の縦、横の長さ及び高さ cm により表示する。
②容量 ℓ により表示する。
③フレームの幅及び高さ( フレームザックに限る。) cm により表示する。
(テニス・バドミントン)
ラケット ①グリップ部の外周 国際規格等により表示する。
②フレームの面積 レギュラーサイズとの対比を%により表示する。
(テニス用であってレギュラーサイズよりも小さなものについては表示を省略することができる。)
- 原産国の表示方法
景品表示法の原産国においては、その商品の製造において実質的な変更があった国が原産国と規定されています。本規格では、表6のように、用品別に「実質的変更」を定義しています。いくつかの事例を紹介します。
表6 スポーツ用品の実質的変更をもたらす行為(抜粋)6)
スポーツ用品 表示方法
(野球・ソフトボール)
グローブ 表皮と裏皮との結合
バット 成型
スパイクシューズ 甲(アッパー)と底(ソール)との結合
ユニフォーム 縫製
ボール ①硬式ボールにあっては表皮の縫製
②準硬式ボール、軟式ボール及びソフトボールにあっては成型
(登山・キャンプ)
テント 縫製
シュラフ 縫製
ザック 縫製
シューズ 甲と底との結合
コンロ 燃焼部分の製造
ランプ 燃焼部分の製造
(ゴルフ)
クラブ 組立
キャディバッグ 組立
ゴルフグローブ 縫製
シューズ 甲と底との結合
ボール 成形
- その他施行規則で定める事項
これまでの表示以外に、各アイテムで個々に必要と思われる表示事項も追加して表示しています。
表7 その他施工規則で定める事項(抜粋)7)
スポーツ用品 表示対象 表示方法
スパイクシューズ スパイクの取り換えの可否 取替式にあたってはその旨を表示する。
スキービンディング ①適合体重 kgにより表示する。
②スキーブレーキの有無 ないものはその旨表示する。
登山用シュラフ ①使用シーズン 例えば夏用、春秋用、冬用と表示する。
②重量 g または kg で表示する。
登山ザック 防水加工の有無 防水加工をおこなったものはその旨表示する。
登山シューズ 防水加工の有無 防水加工をおこなったものはその旨表示する。
硬式テニスラケット ストリングスの適正張力 kgにより表示する。
- 特定用語の使用基準
このスポーツ公正競争規約では、スポーツ用品の品質、性能、取引条件について表示するにあたり、用語について以下のようなルールを決めています。景品表示法の優良誤認を踏まえたルールになっています。
- 完全を意味する用語
「完ぺき」、「完全」、「パーフェクト」、「絶対」、「100 パーセント」、「万全」 など、全く欠けることのない意味の用語は使用してはならない。
- 安全を意味する用語
「安全」、「安心」など安全性を強調する用語は、断定的に使用してはならない。
- 最上級を意味する用語
「最高」、「最大」、「最小」、「最高級」、「超」など、最上級を意味する用語は、客観的事実に基づく具体的根拠がある場合以外は使用することができない。
- 第一位を意味する用語
「世界一」、「日本一」、「第一位」、「当社だけ」、「ナンバーワン」、「一番」、「トップをゆく」、「他に追随を許さない」など、一位を意味する用語は、客観的事実に基づく具体的根拠ある場合以外は使用することができない。
- 優位性を意味する用語
「抜群」、「画期的」、「革命的」、「理想的」など、優位性を意味する用語は、断定的に使用してはならない。
- 斬新性を意味する用語
「新製品」、「新発売」、「ニュー」など、斬新性を意味する用語は、客観的事実に基づく具体的根拠ある場合以外は使用することができない。
- 特定用語の使用基準
これまで説明してきましたように、スポーツ用品公正競争規約は、消費者基本法の主旨である「事業者の責務として求められている適切な情報発信」を実践するとても効果的なルールです。
スポーツ用品には、繊維製品、プラスチック・ゴム製品、金属製品、木製品など多くの製品があります。また、多くの競技団体のルールもあり、消費者が迷わない商品選択ができ る環境作りが引き続き望まれます。
今後とも、同規格がより充実することを期待しています。コラムをご覧の皆さんも、これからはこの規約の視点を踏まえて、スポーツ用品の表示を見ていただいたらと思います。
(参考文献) 1)~7):日本スポーツ用品工業協会ホームページ(URL : https://jaspo.org/ )より抜粋引用
コラム : アパレル散歩道18
~繊維製品の品質苦情はなぜなくならないのか~
テーマ : これからの品質管理部門の課題
発行元
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 事業推進室 マーケティンググループ
E-mail: pr-contact@nissenken.or.jp URL:https://nissenken.or.jp
※当コラムの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
Profile : 清嶋 展弘 (きよしま のぶひろ)
43年間株式会社デサントに勤務し、各種スポーツウェアの企画開発、機能性評価、品質基準作成、品質管理などを担当。退職後は、技術士(繊維)事務所を開業。趣味は27年間続けているマラソンで、これまで296回の大会に参加。
社外経歴
(一財)日本繊維製品消費科学会 元副会長
日本繊維技術士センター執行役員 技術士(繊維)
文部科学省大学間連携共同教育事業評価委員
日本衣料管理協会常任委員 TES会西日本支部代表幹事
アパレル散歩道
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