2015/06/30
No. 43 「繊維の指定用語の問題にチャレンジ しましょう …」
思いつきラボ
2018/08/30
繊維業界は歴史が長く、また、川上から川下までサプライチェーンが長いため、立場が異なるだけで言葉づかいや慣習が異なります。 「思いつきラボ」では、繊維に関するちょっとした疑問や面白話などをご紹介します 。
※2018年8月30日時点の内容です。
8月の終わりに、薬剤を使わずに細菌を死滅させる効果のある材料で実証実験に成功した、というニュースがテレビから流れてきました。「なにそれ・・・」ってな感じで、熱湯殺菌や紫外線照射殺菌のようなものかと報道を見ていると、なんとクマゼミの羽の構造をまねて細菌を殺傷するほどの材料を造り出すことに成功したというものでした。いまの時期、木の周りには蝉(せみ)がにぎやかしくいるのに・・・この羽が抗菌材とは・・・。
研究を行ったのは関西大学システム理工学部の伊藤健(いとうたけし)教授チームで、クマゼミの羽の表面には約 200ナノメートル(1ナノ=1/10億)の突起が 1マイクロメートル(1マイクロ=1/100万)あたり 30~40個ほど規則正しく並んでいるとのことで、この構造をシリコーンの板を直径約200ナノメートルの無数の量の樹脂製ビーズでコーティングして、その上に金を薄く載せて特殊な溶液に浸すと金が接した部分だけ削られて、クマゼミの羽とほぼ同じ 200ナノメートルの円柱形の突起を造り出したとのことです。
それ以前に、セミの羽やトンボの羽にそれほどの抗菌作用があることを知りませんでしたが、2012年にオーストラリアの科学者たちが発見したとのことでした。
折角なのでちょっと遡(さかのぼ)って調べてみると、オーストラリアのスウィンバーン工科大学(Swinburne University of Technology)のエレーナ・イワノワ(Elena Ivanova)氏の研究チームが 、2012年11月26日に研究論文を発表したとのことです。
トンボの羽から着想した研究で、先の鋭くとがった突起が林立する構造に細菌が触れると、細菌の細胞膜が破れることを研究チームが発見したというものです。トンボの羽は撥水性がありながら、その表面に殺菌作用を持つ物理的性質も兼ね備えていることは驚きの発見になりました。
セミやトンボの羽に抗菌作用があることは知られていたのですが、それがなにかの成分による化学的性質ではなく、極微細突起構造による物理的性質だったということなのです。
実験で採用したのは“緑膿菌”“黄色ブドウ球菌”“炭疽菌(たんそきん)の仲間の枯草菌”で、どれもが手ごわい丈夫な菌といわれているものなのですが、そのいずれにも高い殺傷能力を示した結果であったと報告されています。物理的構造によるものであれば、今度は人工的に同じ構造のものを造るという研究が始まったのも頷ける話です。
ともあれ薬剤を使わずに抗菌機能があるのはやはりスゴイ発見です。自然界の昆虫のもつ能力はやはりすごいものがあります。ただ透明な羽だけに見られる構造らしく、アブラゼミやミンミンゼミなどの色のついている羽には見られない構造とのことで、色付きの羽にはまた別の機能が備わっていると思われます。
これからの更なる研究が楽しみですが、現在では抗生物質の効かない薬剤耐性菌が問題になっていたり、金属粒子を使用したものは金属アレルギーの体質の人達には相性が悪く、抗菌剤や効カビ剤の化学溶剤は人体にも影響が出るものも多くありますので、表面の突起構造だけで抗菌機能があるのであれば、しかも突起に触れると細胞膜を壊してしまう、つまり菌を寄せつけないとか追い払うとかではなく破壊してしまうというところが素晴らしいものだと思います。
材料の大型化に必要な製造コストが課題となっているとのことでしたが、興味のある大手企業はいくらでもあると思いますので、これから急速に進む有望な研究テーマだと思います。
今年は間に合わないですが、セミの羽やトンボの羽で抗菌性テストを自由研究で取り上げてみたいと思います。
なんとも素晴らしい発見・発明です。
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竹中 直(チョク)
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